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殺人症候群  作者: 無夢
3/7

代わりのもので日常を作る

「明日、”篠宮由紀”ちゃんは、登校してくるから安心してね!」

「・・・は?」

告げられた言葉に理解ができない、悠の表情はそう語っていた。刹はニンマリと笑ったまま言葉をつづける。

「もちろん、本物じゃない。だって本物は俺が殺してしまったから」

「・・・・」

「正確には、”篠宮由紀”ちゃんの顔と記憶を持った別人なんだけどね!」

「・・・そんな、SFの世界でもあるまいし・・・」

悠の頭に浮かんだ一つの考え。それはクローンだった。その人そっくりな別人。

しかし、刹の答えはそれよりある意味酷いものだった。

「さらに正確には、整形した人間に、嘘の記憶を上書きして、その人だと思わせた別人だけど」

「は・・・・」

悠の脳裏に今までのことが思い浮かぶ。主に刹がどこかに電話をかけていたときの事だ。

(処理、脳、損傷の無い、そして刹の手慣れた様子・・・)

(そして今の言葉・・・)

普通ならそんなことできるはずがない。よほど大きい組織じゃなきゃそんなことはできない。

「もしかして、クローンとか思ってた?それができたら楽なんだけどね!まだ成功したないんだよ」

「・・・記憶の上書きは成功しているのに・・・?」

「うん」

「それをしているのは、あなたの後ろにいるのは・・・」

「まぁ、ここまで話してれば気づくよね」


「国そのものだよ、正確には政府・・上層部かな?」


殺人症候群なんておかしな病気があれば、世界とまではいわなくても、日本中で知られているはずだ。それを知らないということは、隠されているということ。

「そんな簡単に変えの人なんて見つかるの・・・?」

「日本には、そういう人がいるんだよ。悠ちゃん。借金の保証人になってしまった人、性的犯罪で顔がばれてしまった人、人生をあきらめてしまった人、いっぱいいるんだ」

悠にぐっと顔を近づけた刹は、ニマっと笑い、言葉をつづけた。

「君が知らないだけで、たくさん、ね?」

「!!」

「その中の、女の子で、篠宮由紀ちゃんと似た体形、背の子、声、同じ血液型の子を選択して、整形、上書き、そして送り込む」

「悪いけど、一か月に何回かあることなんだよ、これは」

悠はその言葉を信じられなかった。いや、信じたくなかった。自分が知らないだけで、世の中には、整形されて、上書きされた人間が混じっているかもしれないのだ。もしかしたら、自分の両親もそうなのかもしれない。



足元がぐらつく。そんな感覚を悠は味わう。そして、刹がなぜ簡単に自分を殺そうとするのかも理解した。

(私の代わりはいくらでもいるからだ)

死んだって、誰かを整形して、上書きして、”神崎悠”にしてしまえばいい。今までだって誰にも気づかれていないのだ。気づかれるはずない。

「それで、悠ちゃんにはこういう設定にしてもらいます」

「昨日の事件で怯えている由紀ちゃんと遅くまで話していた。それで暗くなりはじめてから帰った。そういう設定。明日・・・いや、今から”篠宮由紀”の家に帰る”由紀”ちゃんもそういう記憶でいるから」

「・・・記憶のねつ造もできるんだ」

「ねつ造は簡単だよ、人って普通にそういうことしたりするもんだろ?」

「脳っていうのは複雑に見えて、繊細で、単純なのさ」

その時の刹の表情は、どこか遠くを眺めているようだった。しかし、悠が気づく前にいつも通りのニンマリ顔に戻る。

「拒否してもいいケド、まぁ、どうなるかわかるよね」

「・・・殺される」

「せーかい!」

「受け入れるしかないってことか・・・」

刹の話を聞くと決めたときから、悠はこの選択肢しかなかった。通常ではありえないことを受け入れ、理解するしか。

「ちなみにこの話、一般人に漏らすと殺さなきゃいけなくなるから気を付けて」

「・・・刹・・・さんは、私に話をしているけどいいの?」

「呼び捨てでいいよ、んー・・・だってもう君一般人じゃないだろ?関係者だ」

”関係者”、その言葉を聞いて確かにそうだと悠は思った。事情も知っているし、現場を見た。それと同時にもう自分が知っている日常に戻ることができないことを悟った。

「それで、関係者になった私はどうすればいい?普通に生きていけばいい?」

「できれば、そうしてほしいとこなんだけどねぇ・・・」

刹が悩んだ表情になり、ため息をついた。しかし、その表情もどこか芝居かかっている作られた表情に見える。

「由紀ちゃんだけじゃないかもしれないんだよ、感染しているの」

「・・・・は?」

思わずといったように悠が呆けた声を出す。やれやれと言わんばかりに刹は肩をすくめた。

「感染源が不安定でね・・・由紀ちゃんは、たまたま目についたから尾行してたんだ。それでビンゴだったわけ」


悠が助かったのは、運がよかったことなのだ。

たまたま、由紀に目を付けた刹が尾行していたおかげで、殺されそうになる瞬間を見られ、助けられた。

「発症しない場合と、する場合があるの?」

「ううーん・・・そういうわけじゃなくて・・・この病気わかってないことが多いからなぁ・・・」

珍しく刹が言葉を選んでいるようであった。それが表す言葉がないからなのか、悠に知られてはいけない情報のためなのかはわからない。

しかし、少しすると、口を開いた。

「さっきも言ったろ?感染源が不安定だったって。安定していると、確実に感染するんだけど、感染源は追い詰められていたというか・・・とにかく不安定な状態だった。だから運よく感染しなかった子もいるかもしれないし、運悪く感染しちゃった子もいる」

「・・・・」

「理解できないって顔だけど、この病気のことはほとんどわかってないんだ。隠さないといけないし、公に調べられないからね」

確かにそうだと悠は思った。難しいところなのだろう。刹は珍しく困った表情をしながら、話を続けていく。

「全員感染してるってわかれば楽なんだ。全員殺せばいい」

「でも、感染してない奴を殺すのはダメなんだよ。何も知らない奴を殺すのは、さすがによくないからね」

刹は「あまり考えることは好きではないのに・・・」とぶつぶつつぶやいている。所々で、「めんどう」、「疲れる」と聞こえることから、困っているのは頭を使うことに関してで、殺すことには全くの躊躇がない。

(恐ろしい人、異常だ)

普通とずれてるというレベルではない。一線超えて、別世界の人間のように悠は感じた。文字通り生きている世界が違うという感じだった。

(あれ)

その感覚に悠はデジャブを感じた。普通とは違う考え方、殺人への感情、それは今さっき感じたものと同じようで。

「でも、まぁ、由紀ちゃんと同じ感染源で感染したかわからないけど、感染者がいるのは確実にわかるよ」

「え」

刹の発言に深く考えにふけっていた悠は、考えを中断して思わず声をあげた。

「だから、この学校には、殺人症候群にかかったやつがいるよ」

「な、なんでわかるの?」

気配でわかるならたまたま目についた由紀を尾行する必要なんてないし、感染者が分からないなんて言わないだろう。

しかし、刹は断言した。それは考えるの苦手な刹でもわかる証拠があることを示している。


刹は悠から目をそらし、ゆっくりとマネキンを見た。紹介用の女子制服を着せられているマネキンを。そのゆっくりとした動きにつられて、悠もマネキンに目を向ける。

どこにでもある、デパートや家庭科室にあるような白いマネキンだ。

何も言わずにそのマネキンを見続ける刹に、悠も見続ける。しかし、少しして違和感を覚えた。

購買部は、夕焼けで少し色づいている。それはマネキンも同じで白いマネキンも少し赤みかかって薄い橙色に見える。

悠はその色に違和感を覚えた。

「され、ここで悠ちゃんに質問です」

刹はマネキンをピッと指差し、にっこりと笑う。悠は、ゆっくりとマネキンに近づく。近づいたことで、マネキンの細部まで見ることができるようになり、伸ばされている指先を見た。

そして爪の形に違和感を覚える。マネキンなら美しく人工的に丸く整えられているだろう爪は、少しガタガタであった。まるで誰かが切ったかのように。

(まさか)

自分の考えが当たってほしくない、そう思いながら悠はそっとマネキンの腕に触れる。

しかし、その感触に即座に手を引っ込め、後ろによろめきながら下がる。

その体は刹に当たる。刹は悠の肩に手を当てて、顔を見た。

「このマネキンどう思う?」

最初と同じような笑みを浮かべて、作品の批評を求めるかのように、刹はきく。

肩に乗せられた手はまるで、逃がさないと言っているようだと悠は感じた。

(実際、そうなんだろうな・・・知ってしまったら逃げれない)

目の前に立つマネキン、それは肌色の肌をしており、爪は綺麗に整えられていない。そして感じた感触。

青ざめ顔を伏せる悠に、刹は手を放し、マネキンに近づく。

「気づいちゃった?」

布を引き裂く音がして、マネキンが裸になる。

女子の体をしたマネキン、まさに作られた美しい体をしている。しかし、明らかにおかしな部分が一つある。


首下から股にかけて一直線にひかれた線、そしてそれを塞ぐようにジグザグに縫われた傷。


「いやー、ぶっ飛んだのがいるみたいだね!!」

「!!」

服を裂いた音で顔をあげてしまった悠はそのおぞましい傷を見た。そして予想が当たってしまったことに、絶望する。

首の上の方は人工的な白さ、しかしそこから下は肌色。それが表すことは。

「皮だけマネキンに被せるとか!ヤバい奴いるみたいだね!!」

頭の部分以外、人の皮が被せられたマネキンがそこにあった。

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