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殺人症候群  作者: 無夢
2/7

そして日常から、非日常へ

ニタリと笑った青年がしゃがみこむ。手には血の滴る刃物。慌てて逃げようとした悠だったが、由紀の体が乗っているせいで起き上がることしかできない。その拍子にずるりとずれる由紀の体。

「今度は君が真っ赤だ」

「!!」

青年の言葉に、自分の体を見た悠は、真っ赤な自分のシャツを見た。その赤に染めた液体はほんの少し前まで話していた友だちの由紀の血。

「うぇぇ・・・!」

「えぇー・・吐かないでよ。あとが面倒なんだからさぁ」

吐き気を催した悠に対し、男は心配するそぶりもない。悠はこみ上げる吐き気を抑えながら、代わりとばかりに言葉を吐く。

「何で由紀を殺した!」

「そこ聞く?君殺されかけてたじゃん」

「混乱してただけ!きっと正気にもどって―」

「それはないよ」

悠の希望を断ち切るように言葉を遮って、男はきっぱりと答えた。表情は笑顔のままだ。

あまりに断定したような否定に、一瞬言葉が止まってしまったが、悠はすぐに言葉を返す。

「そんなこと、わからな―」

「だって彼女、正気だったじゃないか」

ニコニコと笑顔のまま、男は表情に合わないような淡々とした声で話した。

「確かに君から見たら、彼女の行為は異常だったかもしれない。でも、それは君の主観だろ?」

「彼女は自分にとって正しい行動を当たり前にしていた。正気だったんだよ」

「だって」

そこで言葉をきった男は、悠の目をまっすぐ見た。

「自然な表情だったじゃないか。笑顔だっただろ?」

その言葉に転がった首を見た悠。その表情は笑顔だった。悠はその表情を何度も見たことがあった。いつもの日常生活で。

(由紀は正気だった)

男の言っていた通り、由紀は当たり前のことを当たり前に行うように、悠を殺そうとしたのだ。そのことがわかり、悠は何も言えなくなってしまった。

黙ってしまった悠をどう思ったのか、いや、なんとも思っていないのか、男は悠の脚に乗っていた由紀の体をどかしてから、立ち上がった。

(うーん、どうしたもんかな。この子)

放心したようにへたり込んだ悠。男はポリポリと頭をかきながらため息を吐いた。

(この子には、恩がある。だから殺したくはないんだけど・・・)

男は殺したほうが楽なことはわかっていた。手段もある。しかし、男は悠を知っていた。だから簡単には殺せなかった。


(爽やかな朝だからって見逃すんじゃなかった・・・)

屋根の上で、のんびりとしていたことを悔やみながら男は、一度大きく息を吸った。

「彼女が、ああなったには理由があるんだ」

突然の男の言葉に悠は顔をあげた。微かな光が目に宿る。男はそれを見て、とりあえず何とかなりそうだと安心した。

「理由を知ったら、巻き込まなくちゃならない。とっても怖いことなんだ」

「だから君には違う選択肢もあげる」

「俺というおかしな殺人鬼が現れて、由紀ちゃんを殺したってことにして、逃げたっていい」

優しく残酷な逃げ道を男は用意する。

「どうする?」

「・・・きく」

悠はその逃げ道を選ばなかった。完全に光の戻った目で、男を見据えていた。男はニンマリと笑った。

「じゃあ、話そうか。でもその前にその格好をどうにかしようね!」

差し伸ばされた手を悠はとり、立ち上がった。

「この学校、制服置いてあったっけ?」

「購買部があったはず・・・」

「とりあえずそこにいこう!説明は歩きながらしていこうか!」

鞄をもって、出口の方に向かう男についていき、教室を出るその時、悠は一度だけ由紀の方を見た。

しかしすぐに前を向いて出ていき、後ろ手にドアを閉めた。

夕日の中、二人は歩いていたが、悠の希望で途中、水道により、顔や手の血を洗い流していた。肌を強くこすっていた。

男は洗うことに集中している悠を気にすることなく、黒いスマホ片手に電話をしていた。

「そっそー、うん、やっぱり発症してた。だから処理したよ。うん?脳?首飛ばしたから損傷ないはずだよ!」

蛇口をひねって水を止め、悠は軽く手を払う。そして鞄に入れていたハンカチで手を拭き、男の話に耳を傾けていた。

「1-B教室、後処理よろしく!・・・・さてと」

電話を切った男が悠の方を向いた。相変わらずニンマリとした表情は変わらない。不気味だ。

「ききたいことはたくさんあるだろうけど、まずは自己紹介!」

「俺の名前は”刹”。名字は無し。君たち一般人から見たら”異常犯罪者”ってやつかな?歳はヒ・ミ・ツ☆性別は男、ちなみに性経験はなしで童貞ってやつ?ボンッ・キュッ・ボンッな女性が好みだから安心してくれていいよ!」

「・・・”神崎 悠”。女。高一。後半の情報は果てしなくどうでもいい」

「和ませようと思って☆」

テヘッとばかりにふざける男、刹。少し前に人を殺した男には見えなかった。


緩みそうになった緊張を、一度深呼吸して、気合を入れなおす。悠はそうして刹をみた。

意味ありげに悠を見ながら、刹は特に何も考えていなかった。

「とりあえず歩こっか」

歩き出す二人、しかしどちらも話し始めない。

「んー、無言はきついな!!とりあえず悠ちゃんは何が聞きたいの?下手に答えたちゃうと、俺、君を殺さなくちゃいけなくなるからさぁ」

頭の後ろに腕を組みながら、刹はめんどくさそうに言う。

(この男は、言葉通りに私を殺すんだろうな)

(でも、答えられないところは、突っ込まなきゃ答えないはず)

頭の中で何を最優先に聞くべきか整理して、悠は口を開く。

「・・・何故、由紀はあぁなったの?」

「最初のそれくるかぁ!うーん、かなり答えが長くなる質問だね!」

刹はぴたりと止まって近くのドアに手をかける。

「話が長くなるからとりあえず、その血まみれた生臭い服を着替えちゃおう!!」

二人はいつの間にか、販売部の前についていた。刹はそのドアに手をかけていたのだ。

しかし、ガタッと音がしたがドアはあかなかった。刹は、懐から一本ピンを取出し、鍵穴に差し込んでいじり始める。ものの数秒でガチャリと鍵が開く音がした。

(こいつ、手慣れてやがる・・・・!)

「開いたよん、さぁさぁ入って!」

戦慄する悠の背を楽しげに押しながら、刹も続いてはいっていく。

購買部の中にある制服やバッチ、教科書、筆記用具類などを眺めながら、刹は話し始めた。

「さわりだけ話すと、由紀ちゃんがあぁなったのは、病気のせい」

「病気?心の病気とか?」

「んー・・・ある意味正解。サイズこれでいい?」

ぽいっと雑に投げられた透明な袋、中には女子制服が一セット入っていた。

(サイズぴったり・・・)

「ちょっと、なに、その不審者を見る目はー。否定はしないけど、そっち系の犯罪には手なんかだしてないんだからね!!」

胡乱げな視線に少し不満げな表情をした刹が、弁解する。

(否定はしないんだ・・・)

「早く更衣室で着替えてきて、その間に話し進めちゃうから」

出て行けという悠の視線を感じたのかわからないが、刹は気にすることなく背中を押して、カーテンに囲まれた更衣室に悠を入れた。


購買部にごそごそと衣擦れ音が響く中、刹は気にした様子もなく、部屋に置いてあるマネキンを見ていた。

「で、話の続きだけど、病気の名前は一般的に”殺人症候群”、”殺人病”なんて言われてるよ。正式名は長くてめんどくさいから忘れた」

あまりに物騒な病名に、悠は一度着替えの手を止めた。それを刹が感じたかどうかわからないが、話は止まることはなかった。

「簡単に言うと、”人を殺す”ってことが普通だと思うようになって、したくなる病気。殺し方は、かかった人の性癖とか性格によるけど・・・」

(由紀は、少し束縛癖のある子だった。だから絞殺・・・・)

「ここまでわかった?この病気の恐ろしいことはね、”人を殺す”ってことを普通だと思っちゃうことなんだ!」

刹が歌うように声高らかに言葉を続けていく。悠からはその姿は見えない。

「漫画でもドラマでも小説でもゲームでも!殺人にはなにか”理由”がある!」

「借金!恋愛!復讐!でも、人って道徳とか理性がある。だから、犯人は挙動不審になっちゃう。ミスもして証拠残しちゃう。そこで事件発覚!」

「でも、この病気の患者は、そういうのがない。普通だと思ってるんだから!」

話の内容は常軌を逸している。しかし、刹は言葉を止めない。

「そしてこの病気は進化する!人がより良いものを求めるように!まぁ、当たり前の現象だよな!欲にまみれた生き物だ!欲が求めるままにより良いものを!」

「おいしい食事を求めるために手間をかける。よりよい殺人をするためにも手間は惜しまない!また殺人をするために!ばれないように工夫する!そこに罪悪感はない!だって、彼らにとっちゃこれは普通のことなんだから!!」

「より、完璧な殺人を求める!依存していく!人を殺すことに!」

「げに、恐ろしき”殺人症候群”。ちなみに治療法はまだ解析中です」

「・・・・」

着替えた悠が更衣室から出てくる。手に持っている袋の中には汚れた制服がたたまれてはいっていた。

刹は興奮したような表情で、話を続ける。

「いまだそんな病気が世界にばれてないのには理由がある!そこで、悠ちゃんに、朗報だ!」

びしりと悠を指さして、刹はニンマリ笑いを深めた。

「明日、”篠宮由紀”ちゃんは、登校してくるから安心してね!」

「・・・は?」

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