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第3話:おでん

あ~腹減った。


日帰り出張の帰り、電車に揺られている。


時刻は18時43分。


もうすぐ自宅の最寄駅だが、急に腹が減った。

週の半分は自炊をしているし、スーパーでも寄ろうかと思ったが、 電車を出た瞬間に寒気を感じた。


朝晩が随分と冷えるようになり、温かいモノが食べたくなった。


(食べて帰ろっかな?)


頭の中で幾つかの店舗をリストアップする。


居酒屋・中華・串カツ・お好み焼き・ラーメン・うどん


(何か違う。どれも気分じゃない。)


考えている間に駅を出てしまった。

タバコを買おうと思い、駅に隣接するコンビニに入った瞬間、今日の晩飯がきまった。


(おでんだな)


自分でおでんを作るなら、1晩寝かせて味を染み込ませるが、直ぐに食べたい。


(買うか)


この秋で初のおでんとなる。


コンビニのおでんって、最近は種類が豊富で出汁に拘っていると聞く。


期待を込めて鍋の中を覗くと、中はスカスカだった。


よく売れているようだね。大根が無い。


(諦めよう)



…どうしよう。

1度、おでんと決めたのでおでんが食べたい。

だがこの店の大根は売り切れている。こんにゃくも無い。


少し遠回りになるが、違うコンビニに行くか?


う~ん、止めとこう。


(おでん屋に行くか)


実は駅の反対側に少し有名なおでん屋があるのだ。

冬の季節にはローカル番組で取り上げられる事もあり、混んでいたら嫌だから、これまで行く機会を敢えてスルーしていた。


(行ってみるか)


決まったら動き出す。1分で目的の店が入るビルに到着。

エレベーターで3階に向かう。


店に入ると半数以上の席が埋まっていたが、店内は静かで落ち着いている。

普通の居酒屋とは違い、おでんがメインの店だからか、客層も割りと高めで皆が静かに語らっている様だ。


店員さんにカウンターに案内されて席につく。


「生で。」


おでん種が浮かぶ鍋の見える良い席だ。この位置は嬉しい。


熱めのおしぼりで手を拭いてメニューを眺める。


事前情報で幾つかのセットがお得なのを知っていたが、その通りだった。


個人的には2択に絞られたが、この最終選考が難題だ。


純粋におでんを楽しむセットか、おでん+αのセットか。

生ビールを飲み、考える。


+αの内容は良い。この店は1品料理にも力を入れているので、期待が持てる。

現に、単品の焼き物メニューには食指が動く。


(まずはおでんで挑もう)


「すみません、ほっこりセットをお願いします。」

「ありがとうございます、ほっこりセットですね。」



店主がおでんを皿に盛って出す。


「どうぞ、ほっこりセットの定番おでんと黒枝豆です。」


目の前に、温かいおでんが降臨した。

この秋初のおでん。湯気をたてて鎮座する姿に心が癒されるみたいだ。


皿に盛られているのは、大根・玉子・こんにゃく・ちくわ・厚揚げの5種類。


何の変哲もない定番のおでん種がイイ。


(まずは大根を)


パクッ、ハフハフ、


(良い味がしゅんでる)


流石は専門店のおでん汁だ。純粋に美味い。


その汁を大根が含んで美味しくなっている。

柔らかくて、口の中でほぐれる。


大根と言う名の汁を食べている様だ。


大根を半分食べ、次の標的を探す。


(次は…、ちくわだ。その前に)


ゴクッゴクッ、ゴクッ、


「すみません、熱燗ください。」


ビールから日本酒にチェンジだ!


改めて、ちくわにかぶりつく。


は~、淡白な練物が美味い。


練物が好きになったのって、大人になってからだな。

おでんのちくわや板わさ、じゃこ天。どれも酒に合うからな。


「お待たせしました、お酒です。」


キタキタキターー!


おでんに熱燗って鉄板だろう。


トクトク


クイッ


プハーーーー!


ウメェ。


いいね、いいね、いいねぇ。


こんにゃくの食感に染みた感じ。汁をふんだんに吸った厚揚げ、ホクホクの黄身が美味い玉子。


定番のおでん種だから過度な期待はない。その代わりに、確かな安心感を与えてくれる。美味しい。


クンクン


香ばしい匂いがする。魚を焼いているのか。

メニューを確認すると俺も食いたくなった。


(ど・れ・に・し・よ・う・か・な?)


「すみません。ししゃも、貰えますか?」

「はい、少々お待ちください。」


ししゃもが来る前に、残りのおでんをいただこう。


おっと、すっかり枝豆の存在を忘れていた。


パクパク、


流石に黒枝豆だ。味が濃くてうまい。



それにしても、大根ってどうしてこんなに美味いんだ?

以前テレビのランキング企画で、コンビニおでんで1番の人気は大根だった。

その結果に違和感はなく、当然の結果だろう。


きっとこの美味さは、日本国民が認める美味しさなんだろうな。


ちくわも良い、厚揚げも堪らない。こんにゃくって不思議な存在だ、癒される。


皿には半分残った玉子のみ。


(やるか)


黄身を取りだし、白身を食べる。黄身は潰して汁に溶かす。


一気に飲み干した。


(お行儀が悪いがやめられない)


すかさず酒だ。


クイッ


たまらーーん!


酒がもうない。お代わりしよう。


「お待たせしました、ししゃもです。」

「お酒のお代わりを。」

「はい、ありがとうございます。」


ししゃもが来た。熱々だ、ジュウジュウいってるよ。


熱燗が来る前に、おでんの追加を決めなければ、ししゃもはおあずけだ。


変わり種が目にとまる。

ホタテ・春菊とろろ・フルーツトマト・海老しんじょ、か。


迷うな、春菊とろろって興味が湧く。湯葉もある。


「どうぞ、お酒です。」


速っ!来てしまった、こっちはまだ決めかねているのに…。


「おでんの追加いいですか?」

「はい。」


仕方ない。


「じゃが芋、ウインナー、春菊とろろをください。」

「じゃが芋、ウインナー、春菊とろろですね。少々お待ちください。」


大丈夫、後悔はない。これで良いんだ。


さてと、ししゃもだ。


パリッ


香ばしく焼かれていて皮がパリパリ、中のプチプチ卵が良いぞ。


クイッ


日本酒との相性がバッチリ!

日本人に生まれて良かったよ。


は~、ししゃもって美味しいね。


クイッ


「お待たせしました、じゃが芋、ウインナー、春菊とろろです。」


来たか。春菊とろろは別皿だ。


春菊いってみよう。


ふー、ふー、パク


ムフッ、春菊の苦味にとろろの優しさが嬉しいな。


とろろが汁に溶けて、飲んでもアリだ。


酒が進む。お代わりだ。


じゃが芋のしっとりとホクホクが混在してる。この感じ、ナイス!


プリっプリのウインナーをかじる。肉っ気が力強い。




◆◆◆◆◆




「ありがとうございます、3241円です。」


おでんといえど、店で食べると結構するな。




「ありがとうございました!」


身体も心もあったかい。


(シャワー浴びてアイスでも食うか)

肌寒く感じた秋の夜、皆さんは何を食べたくなりますか?

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