第2話:ランチの日替りカレー
同時投稿の2話目です。
月曜日。地獄の始まりを告げる【魔の言葉】。
サラリーマンなら誰もが共感するであろう、その言葉。
そう、今日は月曜日だ。
別に仕事が嫌いではない。寧ろ好きだ。ただ、気分がのらないだけだ。
それに、今日は朝から他部署との会議があり、神経を磨り減らす追い撃ちまで食らったのだから、午後に回す気力が尽きた。
時刻は11時42分。
さっきまで、他部署の連中とタバコと缶コーヒーで情報収集をしていたが、もうすぐ昼休みだ。
「秋フェアが順調なのは良いですが、あの言い方はないですよ。」
隣でグチるのは後輩の【北野】。理由は簡単、会議さ。
秋のフェアで、俺達の部署が動いたから良い結果を出せたのに、あっちの部署の課長が、全て自分の手柄だと公言したのだ。
これにはあっちの部署の連中も引いていた。
「気にするな。あの人ならよくある事だ。」
「なんか悔しいです…。」
本当に気にしなくていい。あの課長は何の権限も無い唯のお飾りだから。ププッ♪
無能で万年課長。歴代の部下が自分よりも出世し、給料も抜かれている。
確か、あと3年で最初の定年か。焦るわな。
信頼出来る筋からの情報では、奥さんが実家に帰ったらしく、離婚も近いそうだ。
御愁傷様。
「それよりも飯だ、飯。カレー食いにいこう。」
「カレーですか?」
「お前好きだろ?今月オープンした店だ。知ってるか?」
「オープンしたのは知ってますが、まだ行ってません。」
「だったらちょうどいい。今日の昼はそこだ。さっさと課長に報告してくる。」
課長の所へ報告に行ったら
「報告なら昼休みの後でいい。少し早いが飯行ってこい。」
って、言ってくれた。ウチの課長は人格者だよ。
どっかの課長に爪の垢でも飲ましてやりたい。(煎じる必要など無い!)
「課長が昼飯に行ってこいって。行くぞ。」
「はい。」
◆◆◆◆◆
会社から3分。目的の店は近かった。
店内に入ると、12時前だから空いていた。あと10分もすれば混み合うのだろう。
テーブル席に座り、店員さんから2種類のメニューを受けとる。
「今日のランチの日替りカレーは、ササミフライカレーです。ご注目がお決まりになりましたら、お呼びください。」
メニューを見ると、グランドメニューはサイドメニューが充実している。カレーのトッピングも豊富だ。1番高いカレーでも800円でお釣りがくる。
ランチメニューは…、安いな。普通のカレーで450円。日替りカレーで550円か。今日はササミフライカレーだな。
ランチはミニサラダと生卵か、ゆで玉子が付くのが嬉しい。大盛りは無料だぞ!プラス100円でドリンク付か。
「北野、決まったか?」
「はい、決まりました。日替りの大盛りにします。」
同じメニューか。
「すみませーーん!」
「はい!お伺いします。」
「日替りカレーの大盛りを2つで。」
「日替りの大盛りがお2つですね。卵は生卵とゆで玉子どちらにされますか?」
「どーする?」
「自分は生卵で。」
「じゃあ、生卵とゆで玉子でお願いします。」
「わかりました。少々お待ちください。」
水はセルフか。2人分のお冷やをいれて北野に渡す。
「ありがとうございます。」
俺は別に気にしないが、こいつも社会人2年目なのだから、もうちょっと気配りを覚えた方が良いと思う。
俺が言わないと駄目かな?人を育てるのは面倒だ。
「お待たせしました。日替りカレーの大盛りです。」
早いな。…………あれ?
想像していたよりもデカイ……。
「ホントに大盛りだな。」
「そーですね。これで550円は凄いですね。」
いったい何グラムの米が盛られているんだろう?
400グラムはあるんじゃないか?ルーも多い。
サラダや卵を運んで来た店員さんに訊いてみる。
「普通盛りで350グラム、大盛りで450グラムですね。小盛りで250グラムですから、普通のカレー屋さんよりも盛ってます!テーブルに福神漬けとラッキョウがありますので、ご自由にどうぞ。」
店員さんが自信満々に答えたが、450グラムか。ミニサラダと卵が付いて550円って奇跡だな。(何処かの壱番屋がボッタクリに思えてしまう )
「北野、気合い入れて食うぞ!シャツ汚すなよ。」
「はい!」
この量は舐めてかかると事故る。
米とルーの分量を間違えれば致命傷となるだろう。
いざ!
パクッ、
フフッ、美味い。程よい辛さが米のうまみを引き立てる。市販のカレーなら辛口寄りの中辛か。後半にかけて野菜の特徴的な甘みがはっきり感じられる。
変にスパイスに凝ってないのが気に入った。
ルー自体が少しユルめで、スルスルと喉を通っていく。
やはりカレーは飲み物なのか?
皿と口を行き来する手が止まらない。
じんわりとやって来る辛さが、手の動きを加速させる。
美味い、辛い、美味い、辛い、
はーーー!
身体が熱い、燃えている!
サクッ、
あぁ、ササミフライがサクサクで嬉しい。
味がしっかりしたチキンカツじゃないのがまた良い。
事前に1度揚げてから、注文が入って2度揚げしてるんだろう。
業務用の冷食だろうがちゃんと美味い。(何処のメーカーだ?)
サク、
衣にルーが染みてる部分、これも美味い。
バリバリ、バリバリ、
カレーにラッキョウって、随分と久し振りだ。
爽やかな酸味と確かな歯応えが、カレーの刺激に翻弄される口を休ませてくれる。
休憩がてら、サラダでも食うか。
卵とミニサラダが付いて550円なら大アタリだろう。
店内もほぼ満席だ。イヤ、満席になった。
オープンして1ヶ月も経ってないのにこの繁盛。
良い店を知ったな。
ゆで玉子をパクつきながら北野を見ると、大汗をかいてカレーを頬張っている。
「安いのに量も多くて美味いな。」
「この店はアタリですね。」
「そうだな。」
後輩が同じ事を思っていて、嬉しくもあり、恥ずかしかった。
カレー好きの後輩も認めたのだ、この店のカレーはやはり美味いのだ。
よーし、食っちまおう!
パク、パク、バリバリ、
パク、パク、パク、
「ごちそうさん。」
ふーー。食った食った。
ゴクゴクゴクッ!
冷たい水が燃える様な身体を鎮めてくれる。
こんなに水を美味しく感じるのも、カレーの辛さと汗をかく程に高まった、身体の熱のおかげだな。
北野は先に食べ終えている。俺よりも若いからな。
「行くか。」
「そうですね。残りの時間はユックリ休みましょうか。」
お勘定を済ませて店を出ると、10人程の列が出来ていた。
(この列に並びたくはないが、また来たいな)
後日、例の課長は現場に飛ばされた♪
月曜日のお昼ご飯、午後に向けて気合を入れるとしたら、皆さんは何を食べますか?