第13話:肉と米
遅くなって申し訳ありません。
流石に混んでるなぁ。
土曜日の11時、場所はアニメ○ト。
月に1度か、2ヶ月に1度の纏め買いに来た。
昨日は合コンパート2だったが、2次会には参加せずに真っ直ぐ家に帰ったので、23時には家に帰れた。
まさか昨日の飲み会の裏で、俺を嵌める計画が立てられていたなんて思ってもみなかった……。
そんな事は忘れて買い物だ。
最近はラノベも出版社やレーベルが色々あって探すのが大変だ。
有名作家の新刊は山積みになっているから分かりやすいが、2ヶ月前に出た新人作家のラノベはなかなか見つからない。
ラノベだけで12冊もある。これを読みきるにはやはり、2ヶ月かかりそうだ。
次は単行本だ。此方は最近買い続けているシリーズが少なくなったので少ない。
学生の頃はラノベよりもマンガの方が買う数としては多かったのだが、ここ数年でチェックしているマンガの数が激減してしまった。
昔のマンガの方が面白かったと思ってしまうのは、俺が歳を取ったからだろうか?
認めたくはないものだな……。
最後の1冊をゲットすれば今日の目的は終了だな。
えーっと……、あった。
主人公がオタクなのに、自転車競技で活躍する内容のマンガ。これは人間模様が熱くて好きだ。
俺が手を伸ばした先にある単行本に、横から手が伸びてきた。
一瞬だが、手が触れそうになり謝る。
「すみません……」
「いえ、こちらこ、そ……」
俺の横に【今井】がいた……。
どうして今井がこんな店にいるんだ⁉ ここは天下のアニメ○トだぞ⁉
よく見れば、凄い量の本を確保してる!
ま、まさか! 今井もオタク系なのか? それとも腐っているのか⁉
「こ、こんな場所で会うなんて奇遇だな?」
「そ、そうね。貴方がこんな店に来るなんて知らなかったわ」
「それはお互い様だろうが」
「確かにね」
お互い冷静に会話をしているつもりだが、俺は心臓がバクバク言っている。今井の口調も何か変な気がする。
「今日の事はお互いに見なかった事にしないか?」
「ええ、それがお互いの為ね」
俺達は目で誓い合った。
ここで見たことは、墓場まで持っていくと!
俺も今井も買い物を済ませ、レジで清算を終えるタイミングも重なった。
「なあ、今井」
「何?」
「飯、食ったか?」
「お昼ならまだよ」
「食いに行くか?」
「合コンでモテモテの藤原クンがご馳走してくれるの?」
「どうしてそれを……」
「女子の情報網を侮らない事ね」
「何を食いたいんだ?」
「何でもいいわ。ご馳走してもらえるのに、此方がリクエストするなんて図々しいもの」
よく言うよ。
この近くで今井が満足出来そうな店を思い出す。
「肉と魚ならどっちだ?」
「お肉」
即答じゃねぇか!
2人で特に会話をすることなく、10分も歩けば目的の店に着く。
「へぇー、こんなお店でご馳走してくれるんだ。モテる男は違うわね」
「その話は止めてくれ、マジで困ってるんだ」
「あら、ホントは嬉しいクセに」
イヤ、マジで困ってるって!
店に入り席に着く。
まだ空いていて良かった。土日の昼はいつも混んでるからなぁ。
「好きなモンを食べてくれ」
「お言葉に甘えるわ」
今井の事だ、遠慮はしないだろう。俺はいつものにしようか。
結局2人共同じメニューを注文していた。
「尾野さんから聞いたけど、合コンでモテて大変そうね」
「どんな風に聞いたかは知らんが、モテてはないが大変な事にはなってるな……」
「そろそろ本気で彼女でも作ったら?」
「そっくりそのまま返す。お前こそモテるんだから彼氏でも作ったらどうだ?」
「余計なお世話よ」
「お互い様だろうが」
今井との付き合いは長いだけに、色んな事をお互いが知っている。
俺が以前の彼女と別れて3年程、特に特定の相手と付き合っていない事、今井が入社後に数人の先輩社員からアプローチをかけられていた事等、その辺の事は親兄弟よりも詳しいかもしれない。
「お待たせしました、牛ハラミとまるでユッケな炙り牛丼の大がお2つです!」
俺が今井と来た店は、肉丼の専門店だ。
今年の2月にオープンしたらしいが、テレビや雑誌の露出が多くて土日は本当に混む。
今日は12時前に来たので、それほど混雑はしていないが、限定5食や10食の名物メニューは売り切れだった。
元々、客寄せの採算度外視メニューだから食べたければ開店前に並ぶしかないらしい。
炙ってレアな薄切りのハラミ肉と、生肉のごとき超レアな火の入れ具合のユッケ風な肉が丼の表面を覆うこのメニュー。
一応、この丼も数量限定となっているが、この時間ならオーダー出来る。
この店にはこれで3度来た事になるが、俺は毎回このメニューを注文している。これで2000円なら絶対に安いと思えるボリュームだ。
「美味しそうね、頂きます」
「お召し上がりくださいませ」
先ずは頂上に鎮座する卵黄を潰し、ユッケ風の肉に絡める。ハラミには特製ソースがかかっているのでそのままで。
パクッ
ユッケ風の肉を口に入れると、まんまユッケの味がする。炙っているらしいが、生にしか思えない程に生生しい。
(ウマイ!)
最初にこの丼を食べた時の衝撃は今でも覚えている。
焼肉屋でユッケが食べられなくなって数年が経ったが、正しくユッケだった。今では生肉なんて馬刺しくらいしかお目にかかれないし、結構な値がする。
この丼を食べる度に、その事を思い出してしまう。
ハラミもいかねば!
アーン、バクッ
適度な脂と肉の旨味のバランスが米を誘う。
バクッ、バクッ!
肉には米だよな。日本人で良かった。
焼肉屋に来たのではない、肉丼の店に来たのだ。
米を美味く食える肉がベストであるべきで、見事にこの肉はそれにあてはまる。
(はぁ~、ウメェ~)
「どっちのお肉も美味しいわね」
「だろ?」
「ええ、こんなにレアなお肉は久しぶりかも」
肉好きの今井もご満悦か?
生に近い肉に完全にレアなハラミ。こんな贅沢はそうそう無いよ。
パクッ、バクバク!
ユッケで温かい白飯も美味いんだよ!
流石にサイズが大なだけあって、食いがいがある。
米も肉も減らない。嬉しい事だ。
パクッ、バクバク!
バクッ、バクバク!
パクッ、バクバク!
バクッ、バクバク!
2種類の肉を交互に食べるから飽きずに食える。
セットでスープが付くが、個人的には味噌汁の方が合う気がするのは俺だけだろうか? メインの丼が美味いからいいや。
それにしても箸が止まらんね。もっと若い時に来たら3分もかけずに掻き込んだだろうな。
落ち着いて味わえるアラサーで良かったと思える。
それにしても旨い。単純にウマイから止まらない!
肉と米はガツンと腹に溜まるから、満足感をダイレクトに感じる事が出来る。
はぁ……、最後の1切れか。
肉も米もあんなにあったのに、丼の中にはハラミが1切れに米が1口分。
肉と米をバランス良く食べた自分を誉めてやりたいが、今は名残惜しさでいっぱいだ。
アーン、バクッ、モグモグ
ああ、悲しい程に美味いよ……。
パク
タレの染みた米もウマイ。
こんなに美味いモノを食べているのに、どうしてこんなにも切ない気持ちになるのかね?
「ごちそうさん」
「ごちそうさまでした」
「満足したか?」
「ええ、お肉が美味しくてご飯が進んだわ。食べ終わると名残惜しくなるわね」
「解る」
流石にあのボリュームなだけに腹は満たされたが、もうちょっと食べたい、また食べたいと思わせる丼だった。また来るよ。
「お昼を食べてお腹も膨れたし、コーヒーでも飲まない?」
「一休みしたいな」
「タバコ?」
「それも、かな」
「ならコーヒーショップじゃなくて、喫茶店に行きましょう」
「コーヒーショップならドト○ルが近くにあるぞ?」
「コーヒーショップは基本的に分煙でしょ?」
「スマン」
「気にしないで。お昼はご馳走してもらったし、コーヒーくらいはね」
有名な老舗喫茶店でも今井はケーキセットを堪能した。
ユッケや生レバー、馬刺しはお好きですか?
最近、生のお肉を食べる機会が減りましたね。
私はユッケが好きです。




