第1話:きつねうどんセット
目が覚めた。
……喉が渇いたな。何時だ?
薄暗い部屋の中、枕元のスマホで時刻を確認する。
朝の7時02分。
昨日はあんなに呑んだのに、いつも通りの時間に目が覚めた。
昨晩は会社の先輩の送別会だった。
帰りに1階のコンビニで買い物をし、日付けが変わる頃に帰って来たんだった。
コンビニに向かう途中、1台の車が凄いスピードで目の前を通り過ぎた時は少しビビった。
LINEが来てる。会社の後輩からだ。
「ダイブ飲んでたみたいですけど、ちゃんとお家に帰れましたか?」だって。
LINEって、便利だが不便だと思う。
メッセージを見たら【既読】がついてしまう。返信しない訳にはいかないだろ。
「今起きた。無事に帰ってたよ。」で送信っと。
女の子に送る内容としては素っ気ないが、こんなモンで良い。変に凝った返事を返せば、要らん誤解を産む。
ベッド近くのテーブルに飲みかけのポ○リを見つけ、一気に飲み干す。
フゥ、
生き返る様だな。タバコでも吸うか。
ハンガーにかけたスーツから、タバコを取りだして1本吸う。窓も開けとこう。
カーテンを開くと、強烈な光りを浴びる。いい天気だ。
外の冷えた空気とタバコの効果で意識が覚醒する様だ。
Tシャツにトランクス姿では締まらないが…。
(これを吸い終わったらシャワーを浴びよう)
ゆっくりと目覚めの一服を楽しんだ。
◆◆◆◆◆
あの後、シャワーを浴びて2度寝を堪能した。(休日の特権だ)
起きたら11時を過ぎていたので、腹の虫が騒ぎだす。
(何か食おう)
冷蔵庫を確認するも、大した物は無い。
(うどんが食いたいな。……食いに行くか!)
俺は呑んだ翌日には、無性にうどんが食いたくなる。
呑んだ〆にラーメンを食べても、翌日はうどんに限る。
母親がうどん県の出身だからだと思う。絶対にそうだ!
家から最寄り駅までは歩いて5分。酔った時は10分弱か。
駅の近くのうどん屋に入る。
この店の平日の昼はとても混むが、週末の昼は落ち着いている。だからこの店が好きだ。
カウンターに座る。
「ご注目が決まりましたら「きつねうどんをセットで。」
お冷やを持って来たオバチャンに被せて注文する。
この店のランチメニューには【セット】という概念が存在する。
うどんやそばを【セット】にすれば、【かやくご飯】が100円増しで付く。
かつ丼や親子丼を【セット】にすれば、【ミニうどんかミニそば】が150円増しで付く。
地元の住民からサラリーマンにまで愛される店だ。
ちなみに、【かやくご飯】とは【炊き込みご飯】の事である。
5分も待たずに、オバチャンが俺の昼飯を運んで来た。
「ごゆっくりどうぞ」
(いただきます)
先ずはつゆから
フー、フー、ズズッ、
クッー!空きっ腹につゆが沁みる。
麺も角がハッキリとしていてキレイだ。
フー、フー、ズルズル、ズルズル、
最近は昔ながらの大阪うどんの店も少なくなった。
大阪うどんの特徴は、つゆが所謂関西風の薄口醤油を使った出汁の味が濃いめで、麺が比較的柔らかいうどんだ。
一昔前の讃岐うどんブームを機に、大阪でもコシの強いうどんが一大勢力として台頭した。
この店もしっかりとコシを感じる麺を出している。
噛む度に、麺の芯に弾力を感じる。美味い。
セットのかやくご飯にいこう。
ハムッ!
フフッ、鶏肉・ゴボウ・ニンジン・こんにゃくが具沢山。
凄く美味しい。たまに食べるからこんなに美味いのか?
考えてみれば、かやくご飯って、あまり食べる機会が無いと思う。鳥○族で〆に釜飯を食べるくらいだろうか。
かやくご飯を口一杯に頬張って、うどんのつゆで喉に流し込む。そして麺を啜る。
ズルズル、ズルズル、
そろそろ【お揚げさん】に突撃だ。
甘く煮たお揚げさんが、しっかりと汁を含んでいる事だろう。
パクッ、ジュワ~。
ほらね、つゆとは違った甘めの汁が口にひろがる。
休日故に、Yシャツを気にせず、カレーうどんを食べる事もあるが、今日の気分はきつねうどんさ。
昔から「きつねうどんを食べればその店がわかる」なんて言われるぐらい、きつねうどんは店の顔でもある。
麺・つゆ・お揚げさんの三位一体のバランスを表現するのが難しいのだ。
ズルズル、ズルズル、ハムッ、ズズッ、
ハムッ、ズルズル、ズルズル、ズズッ、
ゴクッゴクッ、ゴクッ、
はーー!食った食った。
「ごちそうさま。」
「630円です。」
素早くお勘定を済ませて店を出る。
晩飯の買い物でもするか。
目の前のスーパーに入る。土曜日は酒のポイントが2倍だったな。
(冷える様になったし、日本酒でも買って熱燗もいいな)
酔った後や次の日に、無性に食べたくなるモノってありますよね?