カミングスーン
ミーニャが消えた空間に女性が現れる。絶世の美女とはこういう人の事を言うんだろうか?しかも腕にはアイラを抱いている。
「貴女が……、ルグですね?」
リヒトには目の前の美女が誰だかわかったようだ。しかし、ルグというと神様という事になるんだが……。
「はい。ずっとあなた方を見ていました。あなた方人間を愛していますから……」
綺麗な透き通った声だが、どこか芝居がかっている話し方だ。
「私の先祖アレクシス・クシュナーの遺した本の通りですね!貴女はそうやって全てが終わるまで隠れていたのでしょう!?」
リヒトが珍しく怒りを露わにする。ルグは両目から涙を流し「ごめんなさい」と何度も口にする。アレクシス・クシュナー……。なんだ?どこかで聞いた事がある名前だ。
「リヒトさん……。そのくらいで……」
見かねたアーシェがリヒトを止めに入る。リヒトはまだ言い足りなそうにしているがアーシェの言葉に渋々と口を紡ぐ。今度は俺が質問する番だ。
「ルグさん。あなたはこれまでの事を全部知っていたんですか?」
ルグは申し訳なさそうにして答える。まるで弱い者イジメのようで気がひけるが……。
「全部ではありませんが、アトモスの事とあの少女の事は知っていました」
「なら、なんで教えてくれなかった!?ミーニャに罪はないだろ!?」
ミーニャの事を想うとつい語気が荒くなってしまった。
「本当にごめんなさい。私は……、私の力ではアトモスに対抗できなかったのです。本来なら貴方がここで目覚めてファフニールの力を手に入れたのを見届けてから、この少女を貴方の元へ連れてくるのが私の使命でした。アトモスが貴方の意識を切り離すとは私にも予測できなかったのです……」
「アイラは戻ってきているのか?」
「はい。結界の素になっていたファフニールの力がなくなってしまったため間もなく目醒めるはずです」
「あんたを責めても仕方ないな。アトモスの手のひらで踊らされた俺にも責任がある。この先どうするか……」
俺は力がなく満足に動ける状態じゃないし、アイラがどの程度動けるのかもわからない。メトに戻ってもお尋ね者になっているし……。
「フォーリアに行きましょう。あそこなら追手も来ないでしょうし、僕達がメトから抜け出しているとも思わないでしょうから」
俺の考えが見透かされたのかリヒトがフォーリアへ行こうと提案してくる。
「この子を……。私は皆さんとは一緒に行けませんので……」
ルグは腕に抱いたアイラをリヒトに預けると蜃気楼のように実体を失い透き通る。
「また逃げるのですね……」
リヒトの嫌味に少しだけ憂いを帯びた表情のまま完全に消えてしまった。
いつアトモスが戻って来るかもわからない状況なのでリヒトの提案通り、俺達は一度フォーリアへ向う事にした。
「ここは……、お前の家なのか?家族とかいないのか?」
転移してきた俺はアーシェとクリスに肩を貸してもらいベッドに寝かせられる。
「はい。両親と暮らしていましたが、三年前に流行り病で二人とも……」
隣のベッドにアイラを寝かせながらリヒトが答える。
「そうか……、わるい……」
「いえ、気にしないでください」
ベッドに寝かせられたアイラが身じろぎする。そろそろ起きるかもしれないなと思って見ていると薄っすらと目を開けて呟く。
「知らない天井……、じゃない……。言ってみたかったのに……」
某アニメの名セリフを口にしようとして残念がる。この世界に来た時に俺も言ったな……。
「というかアタシの家……」
「お前……、起きてただろ?」
アイラは俺の言葉にスミレ色の瞳を大きく見開く。
「なっ!何故それをっ!貴様っ!魔眼使いか!?その眼でこの私を殺すと言うのか!?かくなる上はこの私の……あれ?手が動かない……」
「そういうのいいから……」
「あ、はい」
うわぁ。めんどくせぇ……。あれだ、この人は病気だ。
俺達のやりとりを見てリヒトが困惑している。俺は同じ病気じゃないです……。
「俺もお前もずっと寝たきり状態で身体が不自由になってるんだ」
「えっ?そうなの!?では、お花摘みはどうすればよろしいのかしら?」
アイラとくだらないやり取りをしているところにアーシェとクリスが部屋に入ってくる。
アイラはアーシェとクリスを交互に見てから最後に俺を見て呟く。
「ミツハル君。チーレムなの?」
「なぜそうなる。クリスはあれでも男だし、アーシェはリヒトと、その、あれだしな。大体チートだったら寝たきりになってねぇよ」
「な、何を言っているんですか!?」
「ぼ、僕たちはまだそんなに……」
「ミツハル様ヒドイですよぉ。ボクのの全てを奪っておいて……」
おい、俺が何を奪ったんだよ!
「ボクっ子エルフ!しかも男の娘!何それ!?どこの異世界!?」
「お前が生まれた世界だろ……」
「あ、そうだった。忘れてました」
アイラを見て全員が感じただろう。変なやつだと……。
「先祖の遺した本に書かれていた人物像と随分違いますね……」
そうだ。俺も気になってたんだ。アレクシス・クシュナーという人物の事や、なぜドイツ語が使われているのか。アイラも気になったのかリヒトに尋ねる。
「それはそうよ!ミツハルの世界に行ってた時にアタシは変わったんだからっ!あ、先祖って?」
「そうなんですか。先祖というのは四百年前あなたと暮らしていたアレクシス・クシュナーのことです」
「アレックス!そうだ!アレックスは!?四百年!?うそ……、アタシおばあちゃんになっちゃった!?」
アイラの悲鳴がこだまする。本当に賑やかなやつだな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「じいさんや……」
「なんだ、ばぁさん……」
いつもと変わらない日常だ。このやり取りはすでに一週間も続いている。
「アタシらも外へ出て雪だるまでもつくりたいのぉ」
窓の外ではクリスがリヒトに剣の稽古をつけてもらっている。
「あれは遊んでるんじゃない。鍛錬しているんだ。それに、もう歩けるようにはなったじゃないか」
「こう寒いと身体の節々が痛くてかなわぬ。布団の温もりを失いたくないのじゃ」
確かにやっと歩けるようにはなったが、身体が重くてすぐに疲れてしまう。全く布団から出ないアイラもどうかと思うが、正直動きたくない気持ちもある。
俺はベッドに腰掛けアイラは布団に包まったままでいるとアーシェがやってきてアイラの布団を剥がす。
「起きてください!ちゃんと身体を動かさないとモーのようになってしまいますよ!」
モーとはこの世界の魔物で家畜にしている豚のことだ。モーなのに豚だ。
「やだよぉー。ミツハル君助けてー。アイラちゃんが意地悪するぅ」
「そんなに嫌だったら少しは抵抗しろよ。リハビリにもなるだろ?
「そうか!よし!ここは必殺の……。うわっ!眩しい!アーシェちゃんから幸せオーラが出ているよぉ。リア充爆発しろ……」
「なっ!何を言っているんですか!?ミツハル!なんとかしてください!」
仕方ないなと、俺は立ち上がりアイラの手を掴み引き摺る。体力が落ちているのでこうするしかない。
「まさかっ!?幼気な美少女妻を引き摺り回したその先には!歪んだ愛と暴力で支配された醜い夫婦生活!おとずれる恐怖と暴力!そして愛……。全米が泣いた感動の大作!ドメスティックバイオレンス!カミングスーン……」
引き摺られるアイラがまるで映画の宣伝のような口調でくだらないことを口走る。
「いつから夫婦になったんだよ!外に出て運動するぞ!」
「いやだぁ。いやだぁ」
玄関まで引き摺ると観念したのか立ち上がる。扉を開けると外の冷気が入り込んでくる。
「帰る……」
「こら……」
アイラが回れ右をするがアーシェが立ちはだかり戻れない。外の冷気が肌に突き刺さる。体力も落ちたが色々な耐性まで落ちてしまった。これはただの日影光晴の身体なのだ。
昨日、こっそりメトのギルドに行って冒険者登録をし直したら俺のレベルは1になっていた。アイラは龍の神子なんて呼ばれていたが、元々はただの少女だったらしく俺と似たような結果になった。
名前:ミツハル・ヒカゲ
種族:人
出身地:ニホン
年齢:24
所属:北
適性:なし
属性:光闇
ランク:1
Lv:1
体力:62/62
魔力:55/55
腕力:58/58
敏捷:60/60
知力:101/101
名前:アイラ
種族:人
出身地:フォーリア
年齢:16
所属:北
適性:なし
属性:光土風水火雷
ランク:2
Lv:8
体力:102/102
魔力:152/152
腕力:87/87
敏捷:80/80
知力:122/122
名前:アシェル・アレクシス・ファルシュ・ロンデリオン
種族:人
出身地:ニール
年齢:16
所属:北
適性:神聖術士・メイサー
属性:光水
ランク:11
Lv:68
体力:620/620
魔力:1277/1277
腕力:588/588
敏捷:421/421
知力:990/990
名前:クリス・ウィンダー
種族:エルフ
出身地:深緑の森
年齢:16
適性:フェンサー
属性:風水土
ランク:10
Lv:60
体力:599/599
魔力:623/623
腕力:600/600
敏捷:645/645
知力:611/611
名前:リヒト・クシュナー
種族:人
出身地:フォーリア
年齢:16
適性:英雄、勇者、剣聖、賢者
属性:光土風水火雷
ランク:15
Lv:89
体力:2053/2053
魔力:2430/2430
腕力:2299/2299
敏捷:2563/2563
知力:1987/1987
俺は普通になっていた。




