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黄金のファフニール  作者: とっぴんぱらりのぷ〜
第3章 光を追って
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可哀想なミーニャ

 ミーニャの姿をしたアトモスが笑う。ミーニャを救ってやりたいが、どうすることもできず、ただ見ているしかない。


「アハハ……、さて、ボクの取り敢えずの目的は達成されたわけだ。後はキミ達を消せばそれで終わり」


「ミーニャは関係ないだろ!答えろ!」


「なんだい?時間稼ぎのつもりかい?愚かだなぁ。ホント人間っていうのは小さくて愚かで面白い。最高のオモチャだよね。ボクにとっては時間なんて大した意味はない。きっと全てのファフニールの力を集めるのに後何百年とかかるかもしれない。だからいいよ。少しだけ付き合ってあげよう」


 そう言うとミーニャは昔話でも語るかのように喋り出す。


「むかーしむかし、あるところに獣人の女の子がいました。女の子に父親はおらず、貧しいながらも母親と二人で幸せに暮らしていました。そんなある日のことです。突然、村が魔物に襲われてしまったのです。村は蹂躙され沢山の村人が殺されてしまいました。命からがら逃げおおせた母子は誰も居なくなった村では生活できず、都会で暮らすことを決心しました。なけなしのお金で馬車の切符を買い、やっとの思いでメトへと旅立ちました。全部を失っても女の子は母親と一緒にいるだけで幸せでした。もう少しでメトに着くというところで事件は起こりました。沢山のゴブリンが襲ってきたのです!ゴブリン達はアトモスという神様に操られていました。操られたゴブリン達は見境なく人々を襲い始めました。頼みの綱の護衛の一人もアトモスに操られ一人また一人と人々を殺したのです。ついには女の子の母親まで殺してしまいました。母親まで失ってしまった可哀想な女の子の中に闇が産まれました。『どうして自分だけ不幸になるんだろう』『魔物を殺してやりたい』アトモスはその闇に語りかけました。『一緒に全部を壊そう。強くなろう』と、女の子に産まれた闇は喜んでボクを受け入れてくれました。後は闇が大きくなるのを待って食べるだけです。女の子が一人になる時を待って、ボクはザロモンという愚かな司祭から抜け出して女の子を食べてしまいました。おしまい。アハハハハハハハハハハハハハ。どうだった!?傑作でしょう!?」


「そんなことって……」


 アーシェもクリスも泣いていた。


 ミーニャは今もアイツの中で独りで泣いているんだ!

 俺はミーニャに近づこうと必死にもがく。身体の自由がきかず台座から落ちてしまうが、そんな事はどうだってよかった。


「ミーニャ!聞こえてるんだろ!?」


「アハハハハハハ。情けない姿で何を言うのかと思えば聞こえているのかって?哀れな女の子の身体は完全にボクが支配しているんだ。女の子は何も聞こえない闇の中で泣いているよ。アハハハハハハ」


「じゃぁ、なんで涙を流しているんだ!?聞こえてるんだろ!?」


「アハ?涙?」


 ミーニャが涙を拭く。


「なんだい?これは……。なんでボクが泣かなきゃならないんだ?」


「ミーニャ!そんなやつに負けるな!」


「ミーニャ!」


「ミーニャちゃん!」


 みんながミーニャに呼びかける。


「アハ。何をするのかと思えばとんだ悪あがきですね。こんなものはただの生理現象でしょう?もう終わりにしよう」


 ミーニャは俺達に向け手を突き出す。その手に魔力が集まる。身体が変わったせいか感じることはできなくとも凄まじい量なのが見た目で判る。


「消えてなくなれ!」


 ミーニャの手から物凄い量の魔力が放出される。ただ破壊だけを目的とした暴力の魔法だ。

 この攻撃を防ぐ術は俺達にはない。騙された上にいろんな人を巻き込んで女の子一人も救えないで終わってしまう。

 俺は完全に諦めていたが俺達を庇うようにリヒトが前に出る。

 リヒトが手を突き出すと目の前まで迫った魔力の塊が一瞬にして消滅する。


「まだ終わってはいませんよ!」


「アハ?かなりの量の魔力を込めたんですけどねぇ。どうして無傷なんです?」


「あなたが教えてくれたんじゃないですか?これはどんな魔力も吸収するって」


 リヒトの手にはすでに壊れかけたメイスが握られていた。


「はぁ、キミが生きていたのは大誤算ですよ。憎たらしい三下の分際で!」


 初めてアトモスが怒りを露わにする。


「でも、キミ達はこの可哀想な女の子を傷つけることはできないでしょう」


「いえ。僕には関係がありません。それにあなたの事はよく知っていますよ。あなたはここで滅びねばならない!」


 リヒトが大剣を抜きミーニャに突っ込む。


「なっ!」


 ミーニャの顔が驚愕の表情を見せる。


 リヒトは上段に構えた大剣を振り下ろす。ミーニャはそれを間一髪で横に動き躱す。見ていて判る。斬ろうとしていない。あれはハッタリだ。

 しかし、アトモスにとっては意外だったらしく効果は絶大だった。


「僕の目的は龍の神子を救い出す事です。あなたが誰だろうと関係がない。ここで死んでください」


 リヒトの連続攻撃が始まる。ミーニャは両手に短剣を持つが、大剣と短剣では勝負にならない上にアトモスは戦闘は苦手なのか防戦一方になる。


「や、やめろ!くっ!」


 リヒトの技量は流石で、アトモスが気付かないようミーニャを傷つけないように押し続ける。


「こんなはずじゃ……」


 ミーニャが汗を拭う。


「どうしました?あの時はあなたの正体がわからず実体がないものと戦い負けましたが、今はどうです?僕はあなたなんかには負けませんよ?そろそろ終わりにしましょう」


 リヒトが低い体勢になり勝負を決めにかかる。高速の突きがミーニャを襲う。


「リヒトさん!ダメ!」


 アーシェの叫び声が響くがリヒトは止まらない。大剣はまっすぐ伸びミーニャでは躱すことのできないスピードで捉えたはずだった。


「すみません。皆さんを救うにはこうするしかなかったんです……」


「ミーニャ……。ごめんなさい」


「ミーニャちゃん、ごめんね」


 アーシェとクリスがミーニャに対して泣きながら謝罪を述べる。誰もいなくなった空間に……。


「ミーニャ……。必ず見つけて助けてやるから待っててくれ!」


 転移でどこに逃げたかは知れないが必ず見つけ出すと誓う。そして、ミーニャを弄んだアトモスは絶対に許さない!


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