アトモスの野望
中央部には台座があり、金色に輝く魔石が浮かんでいる。その魔石の下に俺にそっくりの人物が寝ていた。
「あれは……、ミツハルですか……?」
アーシェが九十一層の中央部を見て呟く。リヒトに聞いてみようとアーシェからメイスを受け取る。
『リヒト、あれが何か知っているか?』
『いえ……。フォーリアの迷宮にはこんなものはありませんでしたから……。僕に似てますね……。年齢は上のようですが』
「ミツハル様ですよね……。少しだけ歳をとっているような……。あ、すみません。ボクはミツハル様の年齢とか気にしないのでっ!」
クリスの言う通り今のリヒトの姿に似ているが、少し歳を重ねている。というか、この世界に来る前の俺に見える。ジャージを着ているし……。
「どう見ても俺だと思う……。近づいてみるか」
俺達は台座の近くまで歩み寄る。この空間には次の層への階段はない。最下層なのかもしれない。
台座に近づいて寝ている男を確認する。妙な気分だ。寝ているのは間違いなく俺だ。
「これは、この世界に来る前の俺の姿だ。だけど、どうしてこんなところに……」
台座に寝ている自分に触れようとする。アイラの時のような結界などはなく俺の手は元の自分の身体に触れた。
その途端、世界が暗転する。宙に浮いたような感覚で、ぐるぐると吸い込まれているような気持ちの悪さが襲ってくる。手を離そうとしても身体の感覚がない。ダメだ……。
ドサッと何かが倒れる音がする。
「ミツハル!」
「ミツハル様っ!」
アーシェとクリスの叫び声が聞こえ俺は目を醒ます。
「一体、何が起こったんだ?」
目を醒ますと目の前に金色の魔石が浮いていた。俺は起き上がろうとするが、身体中の関節が悲鳴をあげてうまく起き上がれない。
「つぅ……。あちこち痛いな……。なんだよこれ」
「う、動いた!」
クリスが驚く声が聞こえる。
「はぁ?何言ってんだ。死んだとでも思ったのか?」
「ミツハルなのです…か?」
「だから何言ってるんだ?俺は俺だろう?あちこち痛いし気持ち悪い」
話しながら、目の前の魔石を見つめる。目の前の魔石……。
「なんでこっちに寝てるんだ!?」
「それは私が聞きたいくらいなのですが……」
「そっちの俺はどうなってるんだ!?」
思うように身体を動かせないため下を確認できない。
「息はあります。大丈夫です」
俺は自分の身体に戻ったのか?リヒトは無事みたいだけど、どうなってるんだこれは。
まだ自由の利かない身体を動かし目の前に浮かぶ魔石を取ろうとする。ここにあっては起き上がれない。手を伸ばし触れようとした時、何かが高速で目の前を通過すると同時に俺の目の前から金色の魔石は消えてしまう。
「なんだ!?」
ようやく起き上がり周りを見渡すと、金色の魔石を手にしたミーニャが立っていた。
「あぁ、ミーニャか。起き上がるのに邪魔だから取ってくれたのか?」
「アハ……」
「おい。ミーニャ?」
「アハハハハハハ……。アハハハハハハハハハハハハハ」
ミーニャが突然笑い出す。俺達三人は何が起こってるのかわからず呆然とミーニャを見つめている。
「どうしたのです?ミーニャ」
アーシェが心配そうにミーニャに話しかける。
「アーッハハハハハ。だってさ……、アハハ……、もう可笑しくて……」
人が倒れているこの状況で可笑しいとはどういうことだ。
「おい。ミーニャ、いい加減に……」
「アハハ、まだ気付かないの?ボクは皆さんが知っているミーニャちゃんではありませんよ」
ミーニャじゃない?まさか……!
「まさか……、お前!ユリウスなのか!?ミーニャはどうした!?」
「んー。おしい!ボクはユリウスだけど本当の名前は違うよ。ここまでボクを連れてきてくれたお礼に教えてあげるよ。ボクの名前はアトモス!この世界を創った偉い神様だよ」
アトモス!?それがユリウスの本当の名前なのか!?
「それとミーニャちゃんは何処にも行ってないよ?今もボクの中で泣いているよ。アハハハハハハハハハハハハハ」
「どうして!?なんでこんな事をする!?ミーニャは関係ないだろ!?」
「キミ達は本当に何も知らないんだねぇ。少しだけ教えてあげるよ。ボクが神様なのは本当さ!ファフニールとルグに力を奪われた可哀想な神様だよ。何十万年も昔の話だけど、ボクがこの世界を創ったんだ。ルグやファフニール、他の神様だってみんなボクが創ってあげたんだ。でも、創ってばかりだとつまらないでしょ?だから壊すんだ!壊して創る。それの繰り返しさ。すると、壊されるのが嫌だって言うヤツらが出てきて、ボクを騙して力を奪い取ったのさ。力を無くした可哀想なボクはファフニールにもルグにも対抗できない。ルグとファフニールの奪い合いをずっと指を咥えて見てるしかなかった。でも最初のチャンスは四百年前にやってきた。欲に溺れた哀れな教皇がファフニールを殺してルグを持ち上げようと企んだ。実体がないボクだけど中に入ってしまえば簡単さ。ボクはそいつを騙して中から喰って身体を手に入れた。もう少しでファフニールの力を手に入れるところだったんだけどファフニールのヤツが別の世界から自分の器を持ってきててさ、惜しくもボクは手に入れることができなかった。でもファフニールも甘くてさ、アハハ……、ホント可笑しいんだけど、たった一人の少女を救うために少女に力を分け与えてしまったんだよ。ボクもばらけてしまったから、ファフニールと少女にくっ付いていったんだ。ばらけたボクの分身はファフニールを見張り、こちら側ではファフニールが危機を覚えるようなイタズラを仕掛ける。後は簡単だったよ。案の定ファフニールは器を連れて来ようとした。ボクはその器が本来入るはずだった身体に入らせないように邪魔をして別の身体を用意した。彼が手に入れるはずだったこの魔石をボクの物にするためにね。彼っていうのはキミのことだよ。ミツハルくん」
アトモスはベラベラと聞いてもいないことをミーニャの声で話す。
「お前は何をする気だ!」
「何をって?話を聞いてた?世界を壊すんだよ。今は無理だけど、力を集めればボクにはできる。あ、そうだ。魔石がなくなったってすぐにはメトは壊れないよ?よく騙されてくれたねぇ。一人だとここまで来れなかったからさ、騙して連れてきてもらったってわけだよ」
「許さない……」
倒れていたリヒトが立ち上がる。
「アハ……。なんでそっちが動くんだい?キミは消したはずじゃぁ。そうか、その魔石に残っていたのか。失敗しちゃったなぁ」
倒れた衝撃のせいかリヒトのメイスはカモフラージュが壊れ魔石が露出した状態になっていた。俺が抜けたことで自分の身体に戻れたのか。
「おっと。剣を構えてどうする気だい?この身体はミーニャちゃんなんだよ?ミーニャちゃんを殺すのかい?」
「くっ……、卑怯な……」
「それは褒め言葉かな?この身体は気に入ってるんだ。強いしザロモンの身体よりずっといい。そうだ!今のうちにしまっておこう。フォーリアのキミは強いからねぇ。壊されたら大変だ」
そう言うとアトモスは手に持った魔石をミーニャの胸に押し当てると胸の中に吸収されていく。
「アハハハハハハハハハハハハハ。凄い力だ!何万年ぶりに手に入れたボクの力だ!あとは上で寝ているお嬢さんから魔石を抜き取れば二つ目。ワクワクするなぁ」




