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黄金のファフニール  作者: とっぴんぱらりのぷ〜
第3章 光を追って
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千年先の邂逅

 迷宮八十六層手前まで転移した俺達はそのまま薄暗く硬い階段で休息をとる。


「ごめんなさい。ミーニャが余計なことしちゃったから」


「確かにそれも原因だとは思うが、俺は遅かれ早かれこうなってたと思う。レインをそのままにしてしまったしな」


 もし、レインが運よく赤いキツネに帯同出来て、地上に戻れていたならあの性格だ。逆恨みで俺達を処分しようとするだろう。


「まぁ、過ぎた事はしょうがないさ。最悪ムルステにでも転移して逃げてしまうっていう手もあるしな。取り敢えずはメトを攻略してユリウスを止めなくては」


 最下層に魔石があると言っていたが……。ファフニールはいないという事なのか。ユリウスの手紙にあったボク達というのも気になる。ユリウスは一人ではない可能性があるな……。そこまで考えて思い出す。


『その者……』


『ほほぅ。死体の宅配便みたいじゃな。この村には黒猫はおらんかったがのぉ』


 そうだ!どこかの谷のバァさんの真似をしたり、黒猫の宅配便なんてものはこの世界にはないはずだ。何故気付かなかった!神殿でザロモンを見かけたときからじゃない。最初からユリウスとザロモンは繋がっていたんだ。俺は、この世界に来たときから奴らに躍らされていたことになる。

 ユリウスは何故だか分からないが、向こうの世界にいた。ザロモンも向こうの世界の情報を知っていた。アイラやファフニールと同じく他の世界を行ったり来たり出来るのかもしれない。

 俺は他の三人を見て考える。みんな口では言わないが疲れが顔に出ている。この事は今はまだみんなには話さない方がいいな。元々は俺の勝手に巻き込んでいるだけだ。


「上の安全な層で休みたいところだが、他の冒険者に見つかるかもしれない。今日はこの階段で我慢してくれ」


 俺達はマリーさんからもらった軽い夕食を摂り、硬い石造りの階段で休む。


 翌日から攻略を再開する。九十層まで来ると広さは体育館程度しかない。迷宮とは言えないほど単純な造りとなっており、申し訳程度に生えている草木をかき分けながら進行すると巨大な白い猿の魔物が現れる。というか最初から見えていた。


「おいおい……。デカすぎだろ……」


 狭いマップと言っても天井は五メートル程もある。その巨大な猿は天井に頭がつきそうなくらいの大きさだ。

 この狭いマップで階段を上る事もできず、ほとんど身動きが取れない状態でこいつは千年前に迷宮ができてから冒険者にも仲間にも誰にも邂逅することなく、一匹で過ごしてきたのか。


「同情するよ……」


 猿に俺の言葉が判るのか知れないが、耳をつんざくような雄叫びをあげる。戦場の雄叫び(ウォークライ)と云われるそれは聞く者を恐怖で竦ませるはずだがレベルの高い俺達にはそれほど効果はない。それが一層悲しげに聞こえてしまう。


「お前にとって最初で最期の戦いだ。全力で付き合うよ」


 俺は背中の大剣を抜き名前も知らない大猿と対峙する。力と力がぶつかり合う。

 大猿の一撃は凄まじく、自由の利かない狭い空間にも拘らず振り下ろす拳は地面を大きく陥没させる。大剣で斬りつけるが恐ろしく硬い毛は思うように斬撃を通さない。


「ミーニャ!花鳥風月を!」


「わかったにゃ!いくにゃ!花鳥風月!」


 ミーニャが初めて使う“にゃ”というフレーズに少し違和感を覚える。まるでネコキャラを使っているネカマのようだ

 ミーニャの放った三本の矢が大猿に向かい飛んでいく。


「斬!」


 矢が刺さったと同時に込めた魔力を開放する。多数用の“散”ではなく、狭い空間でも有効な“斬”を使用する。矢が刺さった腹部に風の斬撃が発生し大猿を傷つける。矢が刺さるところを見ると突耐性は低いようだ。


「クリス!あいつは突攻撃が有効だ!前に出れるか!?」


「はい!やってみます!」


 クリスがレイピアを構え大猿に躍りかかる。クリスの身軽さに大猿は翻弄され彼方此方に傷を増やしていく。アーシェが光の矢(ライトアロー)に似た魔法を線のように細くして足下を狙い撃つ。

 大猿がクリスを振り払おうと必死に暴れるが手を挙げれば天井にぶつかってしまい、魔法を避けようとジャンプをすればそれも天井にぶつかる。


「これで決める!」


 勢いをつけ正面から大猿に突っ込む。大猿はそれを阻止しようと腕を振るが、頭の上を空しく通り過ぎる。

 両手に持った大剣は走った勢いのまま大猿の胸部に刺さる。硬い胸骨を切断し内臓に達した感触が伝わる。見た目は派手な攻撃ではないが、胸部には人間と同じようにいくつも太い血管が走っている。心臓に当たらなくても、中では大出血が起こっているはずだ。


「みんな離れるんだ。倒れるぞ!」


 暫くは腕を振り回すが、すぐに力尽き仰向けに倒れる。倒れた大猿はすでに虫の息だ。


「どうしても先に進まなくちゃならないんだ。お前は強かったよ。きっとこの迷宮で最強なんだろうな。お前の代わりにこの迷宮を造ったやつに文句を言ってやるよ」


 何故だかこの大猿には言葉が通じるような気がしてしまい、ついつい話しかけてしまう。

 俺は大剣を猿の心窩部しんかぶに突き入れる。解剖学の授業で習った通りだとほとんどの哺乳類は心臓の位置が同じはずだ。今までの魔物も一緒だった。

 剣はすんなりと入る。虫の息だった大猿の呼吸が止まり、事切れる。俺は剣を抜いて斬り口から手を入れ魔石を取りだす。

 大猿の魔石は以前倒したケッツァーのゴーレムと一緒で虹色に輝いていた。


「いつか使わせてもらうよ」


 俺達はすぐに訪れる次の層への階段へ向かう。今日はすでに五層進んできたが、半日もかかっていなかったためそのまま九十一層へ降りる。

 九十一層には自分の目を疑うしかない光景があった。


「どういうことだこれは!?」



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