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黄金のファフニール  作者: とっぴんぱらりのぷ〜
第3章 光を追って
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別れと旅立ち

「ヴェルドレットォォォォ!」


 アレックスと老人の会話を遮る怒号が響く。

 声の聞こえた方向を見ると騎士の格好をした男が立っていた。タリルの首筋に剣をあてて……。


「タリル!」


「たすけてぇ!アイラおねぇちゃん!」


 タリルが助けを求めて叫ぶ。アタシは名前を呼ばれても動く事も出来ない。


「オーリス!貴様というヤツは!」


「なんて卑劣な……。それでも騎士ですか!?」


 老騎士と女騎士が剣を構えようとする。


「動くんじゃねぇ!このガキを殺すぞ!」


 叫ぶ男の剣がタリルの首筋を薄く斬り、血が流れる。


「アハハハ。とんだ邪魔が入りましたね。なんて汚いやり口なんでしょう。流石はオーリス卿です。アハハハ」


「なんだ?なんで教皇がここにいる?他の奴らは……、死んじまったのかよ。国王様も大したことねぇな」


 タリルは家にいたはずなのに、どうして……。考えたくない最悪の事態を思い浮かべてしまう。


「ヴェルドレット、武器を捨てろよ。お前をなぶり殺してやる。ロンデリオンのお嬢様は俺とお楽しみが待ってるぜ」


 老騎士と女騎士がそれぞれ手に持っていた剣を捨てる。


「おいおい、なんだその目はよぉ。這いつくばって謝れよ。今まで殺した蛮族みたいに命乞いしろよ」


『人間、邪魔をするな』


「あ?なんだてめぇ。ぶっ殺すぞ!」


 アレックスの身体からさっきより眩しい黄金の光が溢れ出す。


「ヒャヒャ。おもしれぇ。てめぇがファフニールなのかよ。わかるぜ、その人外な魔力……見たことねぇ。じじいを殺るのは後だ。てめぇを先にぶっ殺す。ガキはいらねぇな。死ね」


 男はタリルの首筋にあてた剣を引こうとするがアタシ達と男の間にララが飛び出してくる。


「よくもお父さんとお母さんを!タリルを離せ!」


 ララは手にナイフを持ち、男と対峙する。


 ダメだよ!


 止めようとしても言葉が出てこない。アタシは男の狂気に呑まれてしまっている。


「うるせぇ。てめぇから死ね」


 男が腰に下げていた何かをララに向かって投げつける。アタシは咄嗟にララを庇った。

 なんでだろう。さっきまで動けなかったのに……。何かが背中に刺さる感触を感じるが痛みはなく、重苦しい感覚だけが起こる。アタシはララを抱き締めて無事を確認した。


「ララ……。大丈夫だよ」


「アイラおねぇちゃん!」


 力が抜ける。アタシ死ぬんだ……。せっかくお父さんが助けてくれたのに、アタシは死ぬんだ……。


「なんということを……」


 誰かが倒れたアタシに駆け寄って治癒魔法をかけるのがわかった。でも、アタシにはわかる。アタシは助からない。


『人間!貴様だけは殺す!」


 ファフニールの声が聞こえて轟音と何かが爆ぜる音が聞こえた。


「脚がぁぁぁ!俺の脚がっ!クソ!クソ!化け物がっ!」


 男の絶叫とビチャビチャと地面を打つ水の音が聞こえる。


「あーあ。なんだかシラケちゃったね。もうどうでもいいや。全力で撃ってこいよ。ファフニールぅ」


『五月蝿い。消えろ』


 大きな魔力を感じる。もう目は見えないけど感じることができる。ファフニールのアレックスの魔力だ。


「アハハハハハハ!待っていたよ!さぁ!全ての魔力を注ぎ込め!ボクが全部食べちゃうからね!」


『さぁ、余さず受けろ!キミが欲しがっているボクの力を残さずに』


「アハハハハハハ……。ハハ……。まだ?ちょっと待って……。ハハハ……。なんだよこれは……。溢れる……。もういい、やめろファフニール。弾けてしまう。やめてくれ……。ファフニールぅ!」


 老人の絶叫が聞こえて気配が消える。暗くて寒い。もう身体は動かせないし目も見えない。暗闇の中でみんなの声だけが聞こえる。


「アイラ!あぁぁぁぁ……。アイラすまない。私は守れなかった……。すまない、すまない」


 アレックスが私を抱き締めてくれる。泣かないでアレックス……。あなたと一緒に過ごした三年間はとても楽しかった。アタシは何も後悔なんかしていないよ?だから泣かないで……。


「魔法で傷は治ったのですが、すみません。これ以上の方法は私には……」


「アイラおねぇちゃん!ごめんなさい。あたしがあんなことしたからっ!」


「アイラおねぇちゃん!」


 ララ……。泣かないで……。いいの……。タリルと一緒に幸せに生きて。


『ルグ、いつまで隠れているつもりだい?これがキミの望んだ末路なのかい?』


「ごめんなさい……。私は……、そんなつもりじゃなかったの……。ごめんなさい。私の可愛い子供達……」


 聞いたことのない優しげな女性の声が聞こえる。


『まぁ、今更だよね。アレックス、ボクを彼女の中に入れるんだ。まだ助かるかもしれない』


 暗闇の世界に黄金の光が差し込んでくる。あぁ、温かい……。


『アレックス、これはボクからの礼だよ。キミの大事な娘を救ってあげよう。でも、彼女の意識は身体から離れちゃっているからね。戻すにはどのくらいの時間がかかるかわからない。別のファフニールが誰かを連れて来た時に一緒に戻れるかもしれない。それは何年先か何百年先か……。それとルグ……。お前はこの娘を護れ。目覚めるその時までだ。これはお前の償いだよ』


「わかりました。この娘は私が守ります。ごめんなさいファフニール」


「ファフニール……。アイラを救ってくれてありがとう……」


『アレックス、キミはボクの代わりとしてこの地を守るんだ。アトモスはしつこい。きっとまたやってくる。その時にはこの娘も目覚めることができるけどね。じゃぁ、ボクは行くよ。この娘が迷わないように……』


 暗闇が晴れて黄金の世界が訪れる。なんて綺麗なんだろう……。それに温かい……。温かさの中にアレックスを感じる。


『やぁ、お嬢さん』


 姿が見えないけどファフニールの声が聞こえた。


「ファフニール?」


『そうだよ、ボクはアレックスと一緒にいたファフニールさ。キミが死んじゃったからね。ボクが助けに来たんだよ』


「助ける?アタシ生き返るの?」


『今すぐには無理だよ。一度離れちゃった意識は簡単には戻れないんだ。この先何百年もかかるかもしれない。だからさ、キミを連れて行ってあげるよ」


「どこに?」


『意識だけの世界にはボクの欠片が沢山あるんだ。それを利用して目覚めるその時まで精一杯遊び倒そうじゃないか!さぁ!行こう!』


「うん!」


さよならみんな。さよならアレックス、アタシのもう一人のお父さん……。


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