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黄金のファフニール  作者: とっぴんぱらりのぷ〜
第3章 光を追って
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対峙

「私はアルステン王国の騎士アシュレイ・ヴェルドレットだ。フォーリアの民よ!私の話を聞いてくれ!我々はこれ以上の争いを望まぬ。我々の目的はただ一つ!邪竜ファフニールを討伐する事だけだ!呼び出す方法があるなら教えてくれ!」


 雪が降りしきる中、集落の中央に集まった人々の前で襲撃者の騎士が叫ぶ。その声は集落全部に届いているのではないかというほどに力強く熱がこもっている。


「散々殺しておいて何を勝手な事を言ってやがる!ファフニールは邪竜なんかじゃないぞ!」


 誰かが叫ぶと集まっている人々も口々に「そうだ!」「出て行け!」「殺せ!」などと叫び出す。


「皆の者、鎮まるが良い」


 村おさが騎士の前に歩み出る。


「ヴェルドレット殿よ。わかったであろう?ワシらにとってファフニールは邪竜などではなく神にも等しい存在なのじゃ。そして、多くの同胞を殺めてきたお主らはワシらにとっては仇じゃ。諦めて国に帰るという選択はないのか?ワシらもこれ以上は我慢の限界なのじゃ。今すぐにでも貴様らを八つ裂きにしてやりたいんじゃ」


「ヴェルドレット卿。もういいでしょう。では、全面的に対立ということで我々はファフニールが出てくるまであなた方を殺し続けます」


「待ってくだされ!勝手な事は……」


 先ほど演説していた騎士の後ろに控えていた浅黒い肌をした男が腰に携えた二本のサーベルを抜き放つ。

 さっきお母さんが言っていた言葉を思い出す。浅黒い肌の男だ。


「武器を持たない相手を殺すのは好きではありません。時間をあげましょう。クワでも斧でも取りに戻りなさい」


「待ってください」


 アレックスが村おさと騎士達の間に割って入る。


「私はアレクシス・クシュナー。私は自身にファフニールを宿しています。ファフニールを討伐するとおっしゃるのであれば私を殺すのが手っ取り早いでしょう。あるいは私があなた方全員を殺してしまうか」


「お前がファフニール?竜ではないのですか?しかも、我々を殺すと?面白いですね。やってみてください」


 男はそう言うと右手に持ったサーベルで斬りあげる。

 アレックスはそれを何も持っていない左手で防ぐ。


「ここは私に任せて皆さんは避難して下さい!」


 周りの住民に向け叫ぶが、遠巻きに見ている住民も多い。アタシもその中の一人だ。


「なんの手品ですか?素手で私の剣を受けるとは、ならばこれならどうです!?」


 男が二本のサーベルを無造作に振り回す。凄まじい剣風が起こる。剣風はアレックスの後ろにいる住民にも及び、彼方此方から悲鳴があがる。


「申し遅れました。私はアステル・ザルフィカール。あなたが本当にファフニールだというのなら、あなたを殺して竜殺しの称号を頂くとしましょう」


 アステルと名乗った男が次々に二本のサーベルを繰り出す。アレックスはその全てを両手で受ける。


「硬いですね……。素直にやられてくれないですか?こうしたら殺される気になりますかね」


 アステルはそう言うと後ろの騎士達に合図を送る。同じく浅黒い肌をした騎士が剣を抜いて、アレックスではなく住民に向かって走り出す。


「くっ!卑怯な!」


「おっと、ファフニールさんの相手は私ですよ」


 アレックスが助けに動こうとしたが、アステルがそれをさせない。

 二人の騎士が住民に迫り手に持った剣を振りかざす。アタシはどうすることもできなくてただ見ている事しかできない。足も震えて動けなくなる。


 ギィィィン!


 金属同士がぶつかり合う音が響く。


 浅黒い肌の二人の騎士が振り下ろした剣は、さっき演説をした老騎士と若い女性の騎士によって弾かれる。


「罪のない人々を傷つけるのにはもうウンザリです。諦めて砂漠に帰りなさい!」


「私も同感だ。ファフニールが人の姿をして住民を守ろうとしているのに討てるわけがないではないか。処罰は甘んじて受けよう」


 二人の騎士の言葉にアステルが大きな溜息をつく。


「何を言っているのか……。君達の国の教皇の指示でしょぅ。あの野蛮な騎士のほうがよっぽど使いやすかったですねぇ。魔術士は消えてしまうし、どうなってるんですかこの国は」


「ありがとう……」


 アレックスが二人騎士に礼を述べる。


「まぁ、いいです。私がファフニールを殺して、あの二人も殺せばいいだけですからねっ!」


 変幻自在に繰り出される二刀のサーベルは徐々アレックスを押し始める。


「くっ!強い!」


「素手で私と渡り合おうというのが間違いなんです。硬いのは魔法のおかげでしょう?ならば、その魔力が尽きるまで斬り刻んであげます!」


 そういえばアレックスが戦っている姿は初めてみた。優しいアレックスは人と戦ったことはないはずだ。


 アレックスの手から風の魔力が放出される。アステルの足元にあたり地面ごとアステルを吹き飛ばす。

 吹き飛ばされたアステルは空中でクルッと一回転し静かに着地する。


「今、何をしました?詠唱はどうしたのです?」


 アレックスは答えずに火雷風土と次々と魔法を繰り出す。今度はアステルが防戦一方となった。


「くっ……。魔法中心で攻撃されると分が悪いですね。あちらは……、ダメですか」


 二人の騎士は決着がついたようだ。アステルの仲間の騎士は剣を奪われ戦意を喪失している。

 アステルは右手に持っていたサーベルを雪が積もる地面に突き刺す。空いた右手を突き出し詠唱を開始する。


「土よ!大地の魔力マナよ!鋭き槍となり敵を貫け!アースランス!」


 アレックスと向かいあっていたアステルがいきなり横を向く。突き出した手をアタシに向けて……。

 何もなかった空間に石の槍が産まれアタシに向かって飛んでくる。


「アイラ!避けろ!」


 アレックスが叫ぶけどアタシの足に根が生えているみたいに動けない。きっとこれで死んじゃうんだ。瞼を閉じ自分に訪れる死を待つ。


 だけれど、一向に死はやってこない。どうしたものかと恐る恐る重い瞼を開ける。

 目の前にローブ姿の男が立っていた。男は石の槍に胸を貫かれながらも魔法を消滅させようと耐えている。


「っ……!」


「アイラ……。無事で良かった……。早くここから離れなさい……」


 魔法の槍が消えるとフォルカスはその場に崩れ落ちる。胸の穴から沢山の血が溢れてすでに息絶えていた。


「余所見はいけませんねぇ。私を甘く見た代償は高くつきますよ。土よ!大地の怒りは全てを破壊する神の怒り!我が魔力オドを糧としその力を示せ!大地の怒り《アースフューリー》!」


 アステルを中心に地面が陥没したり突きあがったりする。アレックスは空高く突き上げられる。その後追ってアステルが跳躍する。


「これで終わりです!」


 二刀のサーベルで空中にも関わらず物凄い速さで何度も何度も斬りつける。


「もうやめて!」


 アタシは叫んだ。力一杯叫んだ。


 斬りつけられたアレックスは力なく落下して雪が積もる地面に埋もれる。


「アレックス!」


 動かなかったはずの足が動く。アタシはすぐにアレックスの元に向かう。


『来ちゃだめだよ。アレックスは生きている』


 ファフニールの声が聞こえて足を止める。


「いなくなったと思ったら少女を庇って死ぬとは……。本当に使えない人ですね」


 アステルはアタシをチラっと見てそんな事を口にする。ファフニールの声はアステルに聞こえていないのかゆっくりとアレックスに近づいていく。


「これが神と渡り合っていた竜の力ですか……。なんて呆気ない。トドメをさしてあげましょう」


 アステルがサーベルを振り上げアレックスに振り下ろす。

 サーベルがアレックスに届く寸前、アレックスの身体が金色の光に包まれる。


『いい気になるなよ人間。お前ごときがボクを殺せると思っているのかい?』


「なんですかこれは?一体何がっ……、ぐぅっ!」


 金色の光は更に輝きを増しアステルを吹き飛ばす。アレックスが立ち上がる。


「う、腕がっ!私の右腕がっ!」


 吹き飛ばされたアステルの右腕の肘から先が無くなって勢いよく血が噴き出していた。そんなアステルにアレックスが近づいていく。


『ほら、これでいいだろう?」


 アレックスがアステルの腕に触れると出血が止まる。


『アレックスに感謝するといい。ボクはキミたちを殺す事なんかなんとも思っちゃいないけど、アレックスが殺すなって言うからね』


 そう言うと今度はアステルの頭に触れる。触れられたアステルはまるで支えを失った人形のようにガクリと崩れる。

 残りの仲間二人にも同じ事を行い、助けてくれた騎士を見る。


『さて、キミたち二人はこのままでいいみたいだね。本当にアレックスは優しいよ……。おっと、本命の登場だ』


 アレックスが集落の入り口を向く。さっきまで誰もいなかった場所に神官が着るような青い服を着た老人が何かを手に持ち立っていた。


「ザロモン教皇!なぜここに!?」


 女の騎士にザロモンと呼ばれた老人は手に持っていたそれをアタシ達のほうに投げてよこす。


「ヒッ!」


 投げつけられたそれを見て思わず声をあげる。


 イースの首だった。


「アハハハハハハ。どうだい?気に入ったかな?キミ達の手伝いをしてあげたんだよ」


 老人の声で子供のような話し方をする。アタシはイースの頭部を見て吐いてしまう。両親とは思った事がなくても、知っている人が死ぬのは耐えられなかった。


「アハハハハハハ。お嬢さんには少し衝撃的だったかな?で、ファフニール。ボクにキミの力を寄越しなよ。でないとみんなこの首みたいにしちゃうよ?」


 アレックスは大きな溜息を吐く。


『アトモス、キミは変わらないねぇ。いつまでこんな事を続ける気だい?』


「アハハハ。おもしろい事を言うじゃないか。いつまでだって?そんなのいつまででも続けるに決まってるよ!ボクがキミの欠片を集めて終わったらまた世界を壊して創る。そうしたらまたキミとルグはボクの力を盗むだろう?そうしたらまた欠片を集めるんだ。そして壊す」


『狂ってるねキミは』


「アハハハハハハ。そうかもね!ボクは狂っているのかもしれない。だからキミが欲しいんだよファフニール」


 アレックスの身体が金色に輝く。ザロモンはそれを見て一層興奮する。


「それだよ!あぁ、ボクの力だ。はやくおくれ」


『キミにもルグにもウンザリだ。黙って消えろ』


 アレックスの手から無数の黄金の光が老人に向かって飛び出す。

 光の線が束となって老人に突き刺さったように見えた。


「アハハハハハハハハハハ。ごちそうさま」


 光が当たるとどうなるかはアタシにはよくわからないけど、そこには先程までと同じように老人が立っている。


『なるほど……。そのために人間の魔石を……』


「ご名答。騎士達がなんて言ったかはわからないけど、ボクはこの結晶を造るために人間を殺させたのさ。キミを誘き出すっていう名目でね。力を奪われたボクはとても弱いからね」


 老人が拳程の紅い宝石のようなものを取り出す。


「人間達の魔石で造ったこの石はどんな強い魔力も吸収してくれる。これがあればキミの力はボクの前では無力だよ?さぁ、どうする?」












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