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黄金のファフニール  作者: とっぴんぱらりのぷ〜
第3章 光を追って
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母親

 アタシは夕食の準備をしていた。この家にも他の集落から避難してきた人達が暮らしている。人数が増えたから食事の準備は大変だけど賑やかで家族が増えたみたいだ。


「アイラおねぇちゃん!何か手伝える事ある?」


 この家には一家四人が避難してきており、両親と十歳のララ、五歳の弟タリルが今は一緒に暮らしている。

 ララは面倒見のいいお姉さんで弟の面倒やアタシの手伝いもよくしてくれていた。


「じゃぁ、外からシュティーアのお肉を取ってきてもらえるかな?今日はお肉いっぱいのシチューにするからね!」


「ホント!?私お肉大好き!」


 ララが外へシュティーアの肉を取りに行く。この集落はアレックスが沢山の食材を取ってきてくれるので、食糧に困る事はない。多少人数が増えても大丈夫だ。


「アイラちゃんごめんねぇ。私達も早く働けるようにするから……」


「ホントに申し訳ない……」


 二人の両親のマーサさんとバスさんが申し訳なさそうに言う。


「いえいえ。これくらい大丈夫です。ララもタリルもいっぱいお手伝いしてくれるし、アタシには父も母もいないので、家族が増えたみたいで嬉しいんです」


 一家はここから七日ほど歩いた先にある集落で暮らしていたが、ある日突然襲撃にあった。集落のほとんどの人達が殺されたらしいけど、襲撃してきた人達の中にいた女の騎士が逃がしてくれたらしい。

 両親は道中少ない水や食べ物を子供達だけに与えて自分達はほとんど飲まず食わずでここまで逃げてきた。怪我は魔法で治せるけど、失った体力までは戻せず二人は体調を崩してしまったのだ。二人の子供をとても大切にしてるんだなぁ。アタシにも両親がいたらこうしてくれただろうか?


 などと考えていると扉を叩く音が聞こえる。


「おねぇちゃん!取ってきたよ!」


 ララが沢山の肉を抱え戻ってくる。両手いっぱいに抱えているため扉を開け閉めできない。


「ありがとう。そっちに置いておいて」


 アタシは開けたままの扉を閉めようとするが、外から話し声が聞こえてきてその場にとどまる。


「今更なにしにきたんだよ!」


「五月蝿い!お前には関係ないだろダン」


「待て!フォルカス!」


 ダンさんとフォルカスという知らない人が言い争ってるみたいだ。暗くて顔もハッキリ見えないが三人の人影がこっちに近づいてくるのがわかる。


「よかった……。アイラ……」


 魔術士が着ているようなローブに身を包んだ男がアタシの名前を呼ぶ。


「あぁ……。こんなに大きくなって……」


 同じ格好でアタシと同じ珍しい空色の髪の女がアタシに触れようとする。アタシはその手を反射的に避けてしまう。

 二人に遅れてダンさんが来る。


「アイラ。そいつらの話は聞くな!」


「黙ってろと言っただろ!闇よ!暗闇に潜む魔力オドは光を奪い夢の世界に誘う。睡眠魔法スリープ!」


 男がダンさんに手をかざすと、黒いモヤがダンさんの顔を包む。ダンさんはすぐにその場に倒れてしまった。魔法を使ったのだ。


「な、何をしたの!?あなた達は誰なの!?」


「少し眠らせただけだ。私達はお前の父親と母親だよ。おばあちゃんを呼んでおいで。ここは危ない。一緒に逃げよう」


 この人達がアタシのお父さんとお母さん?嘘だ……。


「おばあちゃんなんかずっと昔に死んだわ!アタシを置いて十六年も迎えにこなかったのに!アタシはずっと独りぼっちだった!あなた達なんて知らないっ!」


「話は後にしよう。とにかくここから逃げないといけないんだ。無理矢理にでも連れて行くぞ!」


 アタシの腕を掴もうと手を伸ばす。


「あんた達。いきなりやって来て子供に乱暴するなんてそれでも親か!」


 横になって休んでいたバスさんがアタシの手を掴もうとした男の手を払う。


「部外者は黙っていろ!」


 男は激昂してバスさんに手を向ける。魔法を使う気だ。


「雷よ!我が魔力マナを糧とし……」


 そこまで魔法の言葉を唱えて男は崩れ落ちる。

 隣にいた女の魔術士はハッとして後ろを振り返り杖を構えようとするが、女の顔にアレックスの手がかざされていた。


「アレックス!」


「あなた方は誰ですか?この家の者に危害を加えるようなら私が許しません」


 女は杖捨て無抵抗の意を表す。


「私達は娘のアイラを迎えにきたのです。ここは戦場になります。時間がないんです」


「中に入って話を聞きましょうか。ダンさんもこのままにはしておけない」


 イースと名乗る女はこれまでの経緯を話す。自分達がアタシの両親であり、迷宮と魔法に魅入られザルフィカールに情報を売った事も。


「話はわかりました」


「では!娘を連れて行っても」


「いえ。アイラが嫌がる以上あなた方には任せられません。もちろん私も全力で阻止するつもりです。話はそれだけです。旦那さんを連れて仲間のところに戻りなさい」


「そんな……」


「あなた方がアイラを心配する気持ちはわかりました。安心してください。アイラは私が必ず守ります。迷宮に行った事があるならわかるでしょう?私は単身でフォーリアの迷宮を攻略しました。ちょっと腕の立つくらいでは倒されませんよ」


「迷宮を単身で……。でも、アステル様は……いえ、なんでもありません。娘をお願いします。浅黒い肌のザルフィカールの騎士達と斧を持った騎士に気をつけてください。彼らは容赦しません」


「ご忠告ありがとう」


「では、私達は一度さがります。くれぐれも娘をよろしくお願いします。……ごめんね……アイラ……」


 最後にアタシの名前を口にするイースはとても優しい目をしていた。お母さん……。




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