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黄金のファフニール  作者: とっぴんぱらりのぷ〜
第3章 光を追って
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空っぽの集落

「なんだ?ここも、もぬけの殻じゃねぇか。ちっ、逃げやがったな」


 オーリス卿が主のいない家の壁を憎らしげに蹴り破る。集落に誰もいない事に私はホッと胸をなでおろす。


「おい!ヘレンさんよぉ。おめぇこっちに来て一人も殺してねぇだろ。これで空っぽの村が二つ目だぞ?どうしてくれんだよ?あ!?てめぇが村人逃しちまうからじゃねぇのか?おい!なんとか言えってのクソアマ」


「わ、私は……」


 オーリス卿が汚い言葉で私を罵る。何故こんな野蛮な男が騎士に叙勲されたのか甚だ疑問に思う。


「まぁまぁ、オーリス卿。落ち着きなされ。我らの目的はファフニールを誘き出すためであって住民を殺す事ではないはずですぞ?」


 一番年長のヴェルドレット卿がオーリス卿を宥めようとする。


「ジジイはすっこんでろ!」


 早技だった。一瞬のうちにオーリス卿の首筋にヴェルドレット卿の剣先が食い込む。ヴェルドレット卿から凄まじい剣気が発せられオーリス卿は固まる。


「これ以上囀るようなら、その生意気な口を利けなくしてやるぞ。小童」


「て、てめぇ……」


「仲間内での争い事はやめてくれませんかねぇ」


 一人の青年が割って入る。今回参加している残り三人のうちの一人だ。最近クーデターで国王となった隣国ザルフィカール帝国の新国王アステル・ザルフィカールである。残りの二人は新政権の重鎮でダルム・ムステン卿、ウサマ・ザイード卿だったはずだ。


「我々ザルフィカール帝国は迷宮さえ手に入れば手段なんてどうでもいいんですよ。仲間同士の争い事で貴重な時間を浪費するなんて全くもって馬鹿馬鹿しい」


 ザルフィカール帝国にも迷宮はあるが、アルステン王国よりも難易度が高くもたらされる利益は少ない。フォーリアに迷宮があるという情報は案内役の二人の魔術士からザルフィカールにもたらされたが、フォーリアはアルステン王国の領土であるため勝手に侵攻するわけにもいかず、我がアルステン王国に協力を要請してきたのだ。クーデターで国力の衰えたザルフィカールには新たな迷宮は魅力的なのだ。


「ちっ、国王様自らが出てきてよぉ。ご苦労なこったぜ。全く……。それにしてもよぉ、本当に此処にファフニールがいるのかよ。何人殺してもでてこねぇじゃねぇか」


 オーリス卿が苛立たしげに家屋を破壊する。オーリス卿の行為にヴェルドレット卿が顔をしかめる。この野蛮な騎士は道徳というものを持ち合わせていない。


「フォルカス、イース。お前らなんか知ってるんじゃねぇか?こそこそ死体漁ってんだろ。何やってんだ?」


 フォルカスとイースと呼ばれた魔術士二人は普段から何も語ろうとしない。オーリス卿の言葉にも静寂を貫く。


「ちっ、だんまりかよ。まぁ、いいさ。さっさと次に案内しろ」


 その後も誰もいない空っぽの集落を巡ることになった。十を超える集落を周り、フォーリアに来てからは一ヶ月が過ぎていた。この時期のフォーリアは雪に覆われ移動も困難を極める。案内役がいなければとっくに遭難しているだろう。

 すでに住民は何処かに避難しているのだろう。避難先の集落に辿り着かないというのは不幸中の幸いではあるが……。


「そろそろ茶番は終わりにして頂きたいですねぇ」


 ザルフィカール国王が感情のない声で二人の魔術士に話しかける。


「アステル様。何を言っているんです。茶番などとは……」


 男のほうの魔術士フォルカスが心外とばかりに答える。


「あなたがたは何かを隠しています。いいのですか?これがうまくいけばあなたがたは宮廷魔術士長という地位と爵位まで手に入れることができるんですよ?」


「私達は何も隠してなどっ!」


「隠していない……?分かりました。信じましょう」


 フォルカスとイースがホッとしたのを確認してザルフィカール国王が続ける。


「ただし、次の集落に人がいなかった時は……」


 国王の話を遮りフォルカスが叫ぶ。


「そんな!約束ではなかったですか!?私達に爵位をくれるという……」


 国王が人差し指を自分の唇に充てフォルカスを黙らせる。


「人の話は最後まで聞くものですよ。それに爵位云々の話ではないんです」


 皆が注目するのを確認して時間を置いてから話を続ける。


「私の部下に命令に従えない無能はいりません。次の集落が空っぽだったときはあなたがたを殺します」


 フォルカスとイースが目を見開く。おそらく国王は本気だろう。若いながらもクーデターまで成し遂げた男だ。人を惹きつける話術ももっている。この話は私達アルステン側にもワザと聞かせたのだろう。自分がいかに本気かを示すために。


「わ、わかりました……。次の集落では必ず……」


「アイラ……ごめんなさい」


 イースの小さな声が聞こえた。やはり何かを隠していたのだろう。


 翌日、私達は今までと反対の方向に案内された。日中歩き続け暗くなる前に、その集落に到着してしまった。


「いるいる。蛮族どもがっ!皆殺しにしてやるぜ!」


 オーリス卿が息巻き右手にロングソード、左手にハンドアクスを手にする。騎士にあるまじきスタイルだが、実戦的であり、乱戦となった場合は彼の猛攻は凄まじく今までもいくつもの戦場で大きな功績をあげている。


 オーリス卿が動き出す前に二人の魔術士が走り出す。


「あ!?てめぇら、抜け駆けかよ!俺が一番だ……な…んだ……」


 全てを話し終える前にドスッと鈍い音がしてオーリス卿が雪の上に倒れ込む。彼の後ろで剣を構えていたヴェルドレット卿が後頭部を柄で殴ったのだ。


「お前は寝ていろ」


「ヴェルドレット卿……」


「これはどういう事ですかね。ヴェルドレット卿。説明次第ではあなたを討たなければなりませんが?」


「彼らも我々と同じ人間……。話し合いで解決できるはずですぞ。血を流さずにファフニールの居場所を聞き出せばよいこと……」


「ロンデリオン卿といいあなたといい甘いですねぇ。まぁ、いいでしょう。口を割らなければ殺せばいいだけの話ですしね。ですが、フォルカスとイースが先走ってしまいましたねぇ」


「我々も行こう」


 ヴェルドレット卿に促され私達は集落へと向かう。





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