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黄金のファフニール  作者: とっぴんぱらりのぷ〜
第3章 光を追って
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逃亡

 血の臭いがする。鉄のような臭いは鼻に付いてなかなか取れないのを知っている。嫌な臭いだ。

 星明りに照らされて佇むミーニャの周りには十数人の人々が横たわっていて星明りに光る武器や防具などから冒険者であることがわかる。呻き声を出す者、啜り泣く者、命乞いをする者など様々だ。


「ミーニャ……。これは?」


 何があったは容易く想像ができるが、恐る恐る声をかける。

 ミーニャは振り向く。返り血で赤く染まっているがいつもと同じ無邪気な笑顔のままだ。


「あ、お兄ちゃん」


「これはミーニャがやったのか?」


「そうだよー。でも大丈夫。誰も殺してないから」


 確かにミーニャの言う通り死んでいる者はいないようだが、全員半殺しのような状態だ。


「何でこうなったんだ?宿にいたんじゃなかったのか?」


「この人達がね。ミーニャ達を殺すって言うんだよー。復讐だって」


 だから返り討ちにしたというのか。確かに今のミーニャにはこの程度の人数では太刀打ちができないだろうが……、それにしても


「やり過ぎだ……」


「あーーそうなのかな?。ごめんなさい」


 猫耳をしょんぼりと曲げ謝る。俺は短く嘆息する。


「ミーニャは宿に戻ってろ。帰ったらアーシェとクリスにここに来るように伝えるんだ。いいな?」


「うん。わかった」


 あまり反省の色は見られないミーニャは軽い足取りで宿の方へと歩いていく。

 俺は近くに倒れている冒険者に治癒魔法をかけ、話を聞こうとする。


「ひ、ひぃぃぃぃ。ば、化け物!」


 よほど手痛くやられたのか取り乱す。俺はそいつの顔を軽く平手打ちし正気に戻す。


「落ち着け。何があったんだ?」


「あ、あのガキを攫ってあんたらを脅かそうとしただけなんだ!傷つけるつもりなんてなかったんだ!それをあのガキがっ!」


「お前ら中央ギルドの冒険者だろう?黄金伝説の件で俺達に嫌がらせしようとしたのか?」


「もうしねぇ!頼む!許してくれ!」


 目に恐怖を浮かべて懇願する。


「あぁ。別にお前らの事なんかどうともおもっちゃいない。ちゃんと治療もしてやるからもう二度と俺達に関わるな」


「これは!?」


「うわぁ。凄いですね……」


 アーシェとクリスがやってくる。


「ミーニャがやったんだ……。詳しい話は後にして全員の治療をしよう。死なれたら面倒くさい」


「「はい」」


 治療が終わった者は「人殺し!」「許してくれ!」などと叫びすぐにこの場を離れていく。治療は数時間にも及び、全て終わった頃には明け方になっていた。


「一体なぜこんな事を……」


「黄金伝説の件の腹いせにミーニャを攫って俺達を脅かすつもりが返り討ちにあったらしいんだ」


 ミーニャは十二歳になったばかりだが、人との関わりが少ないためか生活や思いやりの面で欠如している感がある。コミュ障のようになっているのかもしれない。迷宮にばかり潜らせている俺にも責任がある。


「俺のせいだ。ミーニャは純粋に俺達を守ろうとしたのかもしれないが、少し加減を覚えさせないと」


「そうですね……。戦闘以外にも学習が必要なようですね……」


 宿に戻るとミーニャが待っていた。風呂に入って返り血は落としている。


「おかえりなさい。勝手なことしてごめんなさい!」


 開口一番ミーニャが謝ってくる。いきなりキツく叱ってもダメだろう。しかし褒められたことでもない。


「ミーニャ。私達のことを守ろうとしたのかもしれないけど、自分より弱い人を傷つけてはダメですよ。強くなるってことは他人を守るということなの」


 アーシェが優しく諭すように語りかける。


「はい。ごめんなさい……」


「わかってくれれば、それでいいんです。疲れたでしょう?少し休みましょう」


 アーシェの言葉にしょんぼりして反省しているようだ。俺達はそれぞれの部屋に戻り仮眠を取る。


『ミーニャちゃんがそんなことを……皆さん強くなりましたからね』


 部屋に置いたままだったリヒトにことの顛末を話す。


「間違った使い方さえしなければな……。いいさ、少しずつ教えていくしかない。まだ十二歳だしな」


『そうですね……。彼女の過去もありますからね。ゆっくり教えていくしかないのかもしれないですね」


 今日の出来事はすぐに噂になるだろう。そうなれば色々と動きづらくなるかもしれない。ミーニャの様子も気になるが攻略を急がないとならないな。

 酔いは醒めているが、疲労のためか考えごとをする間もなく眠りの世界に落ちていく。


 目が醒めるとすでに陽は昇っており、昼間になっていた。俺達は朝食兼昼食を摂り、いつものように迷宮に転移する。ミーニャはケロっとしていていつもと変わらない様子であり、俺達も今は言及しないようにした。


 取り敢えずはメトを攻略してユリウスの破壊行為を阻止しなければならない。

 未だ何のアクションも起こさないとはどういう事なのか。

 あれから一度だけアイラの様子を見に行ったが、結界に阻まれたままで、アイラに触れる事はできなかった。おそらくはこの迷宮の最深部に封印を解くヒントがあるのだろう。あるいはファフニールがいるのかもしれない。


 八十一層に転移した俺達はすぐに攻略を始める。敵はだいぶ強くなっているが、攻略範囲が狭いためすぐに階段が見えてくる。この調子で進めれば三日後には百層くらいまで行けるはずだ。リヒトの攻略したフォーリアは九十五層だったようなのでもっと早いかもしれない。


 この日も五層進み八十六層の階段まで来ることが出来た。ここまで来ると迷宮というよりは、ただ敵がいる空間を通っているだけで、造ったヤツがよほどいい加減なのかと思えるほど簡単に進める。


 宿に転移するとシルト達が待っていた。すでに陽は落ちて外は暗い。


「アニキ!まずい事になってるっス!」


「まずい事?」


「メトの領主と中央区のギルド長がアニキ達を捕まえにくるっス!早く逃げてください!」


 夜の一件が問題になったのだろう。予想はできていたが、まさか逮捕される事態になるとは……。


「わかった。わざわざ知らせてくれてありがとう。俺達は迷宮に潜るから、お前らは知らないフリをしてろ。荷物を持ったらすぐに出発だ」


 各自荷物を取りに部屋に戻る。俺も荷物を取り一階に戻ると金貨が入った袋を女将のマリーさんに渡す。


「なんだい?これは」


「今までの礼とこれから迷惑をかけるかもしれないから先に慰謝料だ。もらってくれ」


「あんたからは十分に貰ってるんだけどねぇ。まぁ迷宮に行くのに邪魔になるってんなら預かっておくよ。それとこれは弁当と日持ちする食べ物だ。持って行きな!女の子泣かせるんじゃないよ!」


「あぁ。今までありがとう」


「アニキ早く!大勢来ました!」


「お前らも元気でな!じゃぁ、行くぞ」


 大勢の足音が聞こえてくる中、俺達は迷宮八十六層へと転移した。


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