「アイラ」ルグの本性
「それは魔石か?」
村おさがアレックスに尋ねる。
「これはファフニールの一部です。世界中にある迷宮にこれと同じ物があります」
ファフニールって龍じゃないの?あの魔石がファフニールなの?
「ファフニールは死んでしまったという事か?」
「いえ、龍としての肉体を失っても魔石がある限り、ファフニールは何度でも姿形を替えて蘇ります。ウムガルナが誕生してから何十回、何百回と転生を繰り返してきたのです。私の中にいるのもファフニールであるし、この魔石もまたファフニールなのです」
アレックスの話にみんな困惑している。
「そんな話信じられるか!」
村人の誰かが叫ぶと堰を切ったようにみんなも続く。
「ファフニールは龍だ!俺達の神様なんだ!」
そうだそうだと村人が一斉に抗議する。
「アレックスよ。みなが言う事ももっともなのじゃ。その魔石がファフニールであるという根拠を示さぬ限り納得はせぬぞ?無論、ワシもじゃ」
村おさの言葉にアレックスは頷き、金色に輝く魔石を自分の胸に押し当てる。何をする気なんだろう?と思っていると、金色の魔石が少しずつアレックスの胸の中に吸い込まれていく。
「魔石が身体の中に!?」
みんなが驚いて声をあげる。
「外へ」
それだけ言葉にするとアレックスは未だ激しく雪が降る外へと出ていく。
集まったみんなも「何をする気なんだ」と首を傾げながら後に続いた。
外に出たアレックスは目を閉じ大きく深呼吸をするとアレックスの身体を金色の光が包みだす。
「私がファフニールから与えられた力は、本来の力のほんの一部にしか過ぎません。しかし、迷宮を維持しているファフニールの欠片は一部とはいえ強大です。ただ、依代がないだけなのです。こうして身体に取り込めば私は龍にもなれる事ができます」
金色に輝くアレックスの姿が少しずつ大きくなって形を変えていく。
あっという間に村おさの家程の大きさになったアレックスは金色に輝く翼が生えた龍へと姿を変えていた。
「なんと!?ファフニールに変化するというのか!?」
『そうだよ』
頭の中に声が響く。アレックスではない子供のような声だ。みんなにも聞こえたみたいでキョロキョロと周りを見たりする人もいる。
『初めまして。小さい人達。ボクがファフニールだ!』
これにはみんなが驚いた。まるで子供のような口調で語りかけてくる。
『とりあえず、お礼を言わなきゃね!ルグじゃなくてボクを信じてくれてありがとう!今までボクの力を守っててきてくれた事にもありがとう!』
「あぁ……。ワシらのファフニールよ。ワシらはどうすればよいのじゃ?教えてくれ……」
懇願するように村おさが言う。
『さっきアレクシスも言ってたと思うけど、ボクは記憶の一部にしか過ぎないんだ。もちろんキミ達を守ってあげたいんだけど、ボクがここから動いたらフォーリアは崩壊しちゃうし……。だからアレクシスに助けてもらおうと思ってるんだけど、どうやら今回攻めてくる人間にルグが力を貸してるみたいなんだ。ホントあのおばさんしつこくてさ……』
ルグっておばさんなんだ!?
「ルグが力を貸す?」
『そう。神様だよ?一応ね。ボクの力を狙ってるんだ。だけど、ボクと同じで実体がないからさ、人間を誑かして迷宮に潜らせてる。ま、ボクの迷宮は攻略不能のクソゲーだからルグごときにクリアなんてできないだろうけど、今回は誘き出すためにボクを信仰するフォーリアの人達を人質に取った形だよ。全く……、考えてくれるよね』
ホントに子供みたいな口調だなぁ。クソゲーってなんだろ?
「ワシらが人質……?」
『そうさ。恐らく迷宮を奪いあって戦争するなんてのはフェイクで、実際は力を与えた人間達を送り込んでくるんだろう。戦争なんかじゃなくて虐殺するために』
集まったみんなの顔が青ざめる。神様がアタシ達を殺すの?
「ワシらを殺すのが目的なのか!?なんという卑劣な!」
『そこでアレクシスの登場だ!ボクはアレクシスの身体がないと話す事もできないし動く事もできない。だからボクの代わりにアレクシスに戦ってもらおうと思ってる。アレクシスにはそれだけの力を与えたからね。きっと、彼ならキミ達を護ってくれるよ!』
「アレックスがアタシ達を護ってくれる!」
なんだか嬉しくてつい声を出してしまった。
『そうだよお嬢さん。アレックスが護ってくれる。彼を信じるんだ!じゃぁ、ボクはそろそろ小さくて硬い物になるからね。またね!』
まるで友達にでも話すような軽い別れを告げると金色の龍は元のアレックスの姿へと変化する。
「アレックス。非礼をお詫びする。ワシらを……、フォーリアを救ってくれ!お願いじゃ!」
「お願いします!」
「救けてくれ!」
みんなが村おさにつづいて雪の上に膝を折り頭を下げる。そんな人達を見てアレックスは少し困ったような顔をして話す。
「もちろんです。私に任せてください。さぁ、顔を上げて……」
アタシ達だけが知っている戦いが始まるのだ。




