告白
コンコンと誰かが部屋の扉をノックする。
『おい、リヒト。おい!起きろ!』
リヒトから返事がない。ぐっすり眠っているのだろう。試してみたが俺は眠れずに一人で悶々としていた。
しょーがねぇなと俺は起き上がり、扉へ向かう。
起き上がった?俺が?
身体を確認してみるが、俺の思った通りに動く。また意識が入れ替わったのか?
「おい、リヒト。返事をしろ」
やはり、リヒトからの返事はない。
こいつは寝れるのかもしれないな……。
俺はノックの続く扉を開ける。
扉の向こうにはアーシェが立っていた。
「どうしたんだ?もうギルドに行くような時間なのか?」
アーシェは幾分困惑した表情で話し出す。
「ミツハルですね?少し話があるのですが、よろしいですか?」
おそらくはリヒトと俺の事についてだろう。あれだけリヒトが前面に出ていれば気付かないはずがない。
「あぁ。わかってる」
「中に入っても?」
中に入っても?美少女と二人きり……。
「も、もちろん」
致命的に声が裏返る。リヒト助けて!
頭に?マークを浮かべたアーシェが俺の部屋に入る。俺は扉を閉め、カギを……かけたら犯罪なので、カギはかけないでおく。
部屋に入るなりアーシェが尋ねてくる。
「ミツハルはミツハルではありませんね?……いえ……そうではなくて……。ミツハルの中にはミツハル以外の人がいるのではないですか?リヒトさんという人が」
もう隠しようもないので否定はしない。
「そうだ。俺の中にはこの身体の持ち主だったリヒトという奴がいる。いつから気付いてたんだ?」
「やはりそうでしたか……。おかしいと思ったのはメトに向かっていた時のゴブリンとの戦闘です。確信したのは昨日の二層目でしたが」
あの時は完全に入れ替わってたからな……。物真似下手くそだったし……。
「あぁ。あの時は完全にリヒトだったんだ。それまでは、リヒトは頭の中で喋るだけだったけど、今は寝てるみたいだ」
「そうなんですか……。どういった方なんです?」
「一人でフォーリアの迷宮を攻略した強者だ。真面目な良いやつだよ」
「フォーリアにも迷宮が!?しかも一人で!?」
「そうらしい。自分で最強の魔導剣士って言ってるくらいだからな」
「最強ですか。確かに……凄い発想だと思いました。どれだけ研究すればあんな事ができるのでしょうか……」
「まぁ、本人に聞かないとわからないしな。寝てるみたいだしギルドに素材と魔石を持って行こうか。ミーニャも気付いてるのか?」
「はい。ミーニャも気付いてますよ。話し方が全然違いましたから」
リヒト下手すぎ!
それだけ話すと俺達は三人でギルドへと向かった。日中寝ていたため、もう日が暮れる頃だ。
相変わらずのボロギルドに足を踏み入れると、中も相変わらずの開店休業中だ。今日も呑んだくれの冒険者が数人いるのみだ。
「「いらっしゃいませ!!あ、おかえりなさい!!」」
ラウとマウが見事なシンクロをみせる。
「今日も魔石と素材を持ってきたんだが、買い取ってくれるか?」
「もちろんです!」
ラウが答え、カウンターに置いたカバンの中の物をマウが鑑定をし始める。
「これは!?シュティーアの角じゃないですか!エーバーの牙まで!二回目でもう十層まで行ったんですか!?」
マウが素材を見て驚く。シュティーアは牛のような魔物でエーバーは猪のような魔物だ。どれも六層から十層にいた魔物でリヒトが倒していた。
「あぁ。十層まで行ってみたんだ。帰ってきたら丸一日かかってたよ」
「いきなりハードな事をしてますねぇ。だいぶレベルも上がったのではないですか?」
そういえばカードは確認していないな。マウに言われカードを確認してみる。アーシェとミーニャもまだ見ていなかったようだ。
名前:ミツハル・ヒカゲ
種族:人
出身地:ニホン
年齢:24
所属:北
適性:魔導剣士
属性:光闇土風水火雷
ランク:1
Lv:12
体力:350/350
魔力:1560/1560
腕力:280/280
敏捷:388/388
知力:245/245
名前:アシェル・アレクシス・ファルシュ・ロンデリオン
種族:人
出身地:ニール
年齢:16
所属:北
適性:神官
属性:光水
ランク:1
Lv:8
体力:96/96
魔力:285/285
腕力:72/72
敏捷:68/68
知力:180/180
名前:ミーニャ・トルバ
種族:獣人ネコ科
出身地:トーレス
年齢:11
所属:北
適性:狩人
属性:風
ランク:1
Lv:10
体力:89/89
魔力:243/243
腕力:70/70
敏捷:90/90
知力:86/86
数字だけは理解できるようになってきたが、未だ文字は読めないため、アーシェに説明してもらいながら確認する。
三人ともレベルが上がっていたが、アーシェよりも高威力で敵を倒せるミーニャのほうがレベルが上がっている。
大きく変わった箇所としては、適性がなかったミーニャに狩人の適性が表れた事と、何故か俺の知力が半分以下にまで落ちていた事だ。
「みなさん凄いですね!二回目でこんなにレベルが上がる人は見た事がありませんよ!」
ラウが興奮して話す。
「ランクは上がらないんだな。ランクが低いとレベルも上がりにくくなるんだろ?」
「定かではないんですが、そう言われています。ランクはケッツァーと呼ばれる特殊な個体を倒したり、強力な魔物を倒した時に上がる可能性があるようですよ」
なるほど。リヒトもケッツァーとかなんとか言ってたな。
「鑑定終わりました。全部で金貨二枚と銀貨十五枚になりました。それと、シュティーアやエーバーの肉はとても美味しいので余裕があれば回収したほうがいいですよ!」
見た目が牛と猪だからな。今度凍らせて持ってきてみよう。マウから売却代金をもらう。
「あ、そうだ。これを何処かに置いておいてもらえないか?」
俺は魔石を一つ取り出すとラウに渡す。
リヒトが言ってた事ができるならここにも魔石で転移できるはずだ。あらかじめ三人の血は吸収させてある。
「はい。大丈夫ですよ。でも、紋様は描かれていないようですが、これは?」
「転移の魔石の一種だよ。ちょっとした実験みたいなもんだ。置いておくだけでいい」
「わかりました。では、次からも気をつけて!」
ラウとマウに別れを告げ俺達三人は宿へ戻る。




