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風と共に

 先程の冒険者が走って来た方から、大きなカブトムシのようなものが突っ込んでくる。


「敵が来るぞ!気をつけろ!」


 俺は叫びながら剣を抜く。アーシェとミーニャも身構える。


『突っ込んで来ますよ!魔法で牽制してください!』


「アーシェ!光の矢だ!」


 言うと同時にアーシェの詠唱が始まる。


「光は矢となり、邪悪な存在を討ち滅ぼす!ライトアロー!!」


 弓のように構えたアーシェの手から光の矢が飛び出し、突っ込んで来るカブトムシに突き刺さる。魔法の矢がぶつかったカブトムシは吹っ飛び、周りのカブトムシを巻き添えにして地面を転がる。全部で五匹いる。


「ダメです!硬くで貫けません!」


『いえ、よく出来ました。見てください。ケーファーの足が止まったでしょう?あのままだったら皆さん弾き飛ばされていましたよ?』


 ケーファーというのがカブトムシの名前のようだ。


「いや、よくやった。ケーファーの動きが止まったぞ!落ち着いて倒していこう」


『ミーニャちゃんには後方で弓を撃ってもらいましょう。アーシェさんのメイスはケーファーに有効なので前で戦ってもらいましょうか。ミツハル……あれは硬いですから通常の斬撃が効きにくいです。お腹の部分は柔らかいので飛んできた時に突き刺すか斬りつけて下さい。素早いですが、真っ直ぐにしか動きませんので落ち着いて』


「ミーニャは後ろで矢を撃ってくれ!アーシェはメイスで接近戦を頼む」


 ケーファーはギチギチと嫌な音を立てて威嚇している。一斉に飛ばれると厄介だ。


『こちらから仕掛けて下さい。多少当てられてもダメージは受けません』


 リヒトに言われ、俺は剣を構え突っ込む。一番手前にいたケーファーが俺に向かって飛んでくるが、勢いが足りない。角を左手で掴み、地面に叩きつける。叩きつけられたケーファーはひっくり返り脚をカサカサと激しく動かしているが、俺は腹に剣を突き刺し引き抜く。緑色の体液を撒き散らしながら激しく動くが、とても元には戻れそうにもないためそのままにして次の獲物を定める。


 今度は二匹同時に飛びかかってくる。一匹目は低い体勢で躱しつつ腹を切り裂くが、二匹目は後方に向かって飛んでいく。アーシェが飛んできたカブトムシをメイスで叩き落とすとすかさず頭を叩き割る。


 残りは二匹となったところでリヒトが言う。


『ミツハルの魔法とミーニャちゃんの弓の練習をしましょうか』


 ケーファーは仲間がやられても逃げることはなく、ギチギチと羽を鳴らして威嚇し続けている。


「ミーニャ。こっちに」


「はい!」


 ミーニャは元気よく返事をして俺の側まで歩み寄る。間近で魔物を見ているためか表情は強張って見える。


『まずは、弓を構えさせてください。それから、普通に矢を放つのではなく、矢が風を纏い鋭く飛んでいくことをイメージして集中します。矢に魔力を付与するんです。手を取って手伝ってあげてください』


「ミーニャ。弓を構えて」


 覚束ない手でミーニャが弓を構える。その手に自分の手を重ねる。わずかに震えているのがわかる。


「いいか?集中して右手に魔力を集めて、矢が風を纏って鋭く飛んでいく事をイメージするんだ」


 ミーニャは一度目をつむり深呼吸をする。矢が飛んでいくのをイメージしているのだろう。今も威嚇を続けるケーファーをじっと見据えて集中している。ミーニャの右手に緑色の風のようなものが纏わりつく。狙っていたケーファーが動き出そうとする。


『今です!」


「今だ!」


 ミーニャの放った矢はまるでジャイロ回転のような風を纏い、物凄い勢いで正面からケーファーに突き刺さって、貫通して……、地面を破壊して……、見えなくなった。


 矢が突き抜けたケーファーには大穴が空いて、昆虫の割に即死したようだ。


 アーシェも撃ったミーニャも呆然と大穴を見つめている。


『これが魔力の正しい使い方です!次はミツハルですね!』


 リヒトが嬉しそうに言う。





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