メトの迷宮1層
ゼルテの店を出て、しばらく滞在できるような宿に案内してもらう。「ブリジットのオススメ亭」はギルドからは遠いが、迷宮に近く、三食ついたうえに浴場まで完備して一人一泊銀貨一枚という格安宿だ。女将はマリーなので何処のブリジットさんがオススメしているのかはわからない。
前金で三日分の代金を支払い、不要な荷物は部屋に置いていく。陽の傾き加減から2時か3時くらいだと思うが、俺達は迷宮に入る事にした。
準備を終え、宿の入口に集まると、律儀にもラウが待っていてくれた。
「もう行かれるんですか?」
「あぁ。少しでも早く迷宮に慣れておきたいんだ」
それと、金もないからな……。
「そうですか。気をつけて行ってらっしゃいませ。迷宮探索はギルドへの報告は不要ですが、入口でカードの確認があります。そちらにも記録はされますが、たまに北区のギルドにも顔を出してくださいね?」
「わかった。必ず行くよ。じゃぁ、ちょっと行ってくる」
「はい!お気をつけて!」
ラウに別れを告げ、俺達は迷宮入口へと向かう。宿からは歩いて五分程の距離だ。
迷宮への入口には昨日見たように数人の兵士が立っている。入口から出てくる者や入る者をチェックしているようだ。周りには出てきたのかこれから入るのか、かなりの数の冒険者がいる。
兵士に声をかける。
「これから中に入りたいんだが、構わないか?」
兵士はやや驚いたように俺達を見て、
「見ない顔だな。今から入るのか?もうすぐ夕刻だぞ?」
「あぁ。ちょっとした探索だから遅くはならない」
「そうか。じゃぁ、冒険者カードを見せてくれ」
三人それぞれにカードを提示する。
「北区のギルド所属だな。まぁいいだろう。気をつけて行ってくるといい」
兵士はカードをチラっと見ただけで、厳しいチェックはしないようだ。ラウは記録していると言っていたが、役人の仕事なんてこんなものなのだろう。
後ろの神殿も大きいが、迷宮の入口も負けじと大きい。十メートル程先に階段が見える。そこから降りると1層目なのだろう。
俺達は中に入り、階段を降りる。入口からの光は届かないはずなのに中は明るい。出てくる冒険者とすれ違う。すれ違う冒険者は俺達を見て、訝しげな表情をしたり、クスクスと笑ったりする。
『いよいよ中に入りますね!いつでも戦えるように準備してくださいね!』
「中は意外と明るいんだな。どういう仕組みになってるんだ?」
「中については私もあまり詳しくは……」
アーシェが申し訳なさそうに答えるが、ウンチク魔王のリヒトが能力を発揮する。
『迷宮全体が魔力の塊のようになってるんですよ。ファフニールが造った迷宮ですからね。無限とも云われる魔力は魔物を産み出しますし、変化もさせるんです。実はこれに関しては知っている人は少ないんですよ?ほとんどの人達は深く考えずに、ただ作業のように迷宮に潜っているだけなんです』
『お前、随分詳しいな。迷宮に入った事でもあるのか?』
『あ、いえ……。聞いた話ですよ……』
こいつ、何か隠してるな。
『……』
かなり長い階段を降り、俺達はとうとう迷宮の1層目に到着した。
天井は五メートル程あるだろうか。通路は人工的な石畳のようになっており、幅も割と広めだ。
「これが迷宮?随分と歩きやすそうだな」
『油断はしないでください。迷宮と言っても、森や池があったりします。何が起こるのか計り知れないんです』
ゼルテが用意してくれた内部の地図を見ながら進む。地図は十枚綴られていて、十層までの道のりが記載されている。地図をチェックしながら進むが、とにかく広い。一層目は行き止まりなどはなく、どのルートを通っても下の層に行けるようだ。
『誰か来ます。急いでるようですが……』
リヒトに言われ、俺は立ち止まり。アーシェとミーニャも何事かと立ち止まった。
「どうかしたんですか?」
「誰か来るようだ。少し待ってみようか」
前方を注視していると、ガチャガチャと金属がぶつかる音が聞こえて、数名の人影が見えてくる。
「邪魔だ。退け!」
先頭の男が叫び、俺達の横を通り過ぎる。続いて四人の男女も走り去る。最後尾の女性が去り際に「後はお願いね」と言い残す。何を急いでいるんだ?
『やられました!敵が来ます。構えてください!』
先程の冒険者が走って来た方から、カブトムシのようなものが突っ込んでくる。




