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黄金のファフニール  作者: とっぴんぱらりのぷ〜
第1章 非日常の日常
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メトに向けて。「初めての戦闘」

 まさに地獄絵図だった。無差別に襲ったのか、地面には小さな子供から老人まで容赦なく打ち捨てられた死体が十を超えている。鼻に付く血の臭い、肉が焼ける臭い。人間の子供程の身長の茶色い生物が二十ほど馬車を取り囲んでいる。用心棒なのか、二名の男が剣を振り回しているが多勢に無勢だ。


「ミツハル!ゴブリンの集団です!」


 アーシェが叫ぶ。


 あれがゴブリンか。ゴブリンといえばゲームの中では雑魚モンスターではないのか?どうしてこんな事になっている?


 アーシェの声で数匹のゴブリンがこちらに気付く。奇怪な声を発してアーシェに向かい襲いかかろうとする。


「光は矢となり、邪悪な存在を討ち滅ぼす!ライトアロー!!」


 アーシェは弓を構えるような仕草で呪文を唱えると、構えた手から矢のような白い閃光が飛び出し、こちらに向かってくるゴブリンの顔に命中する。


 魔法の矢を受けたゴブリンは数メートルほど吹っ飛び動かなくなる。


 吹っ飛んだゴブリンを見て、他のゴブリンは足を止めるがアーシェは容赦しない。手に持ったメイスでゴブリンの頭を砕き、振り向きざまに、もう一匹のゴブリンの頭も砕く。


 強っ!


 馬車を取り囲んでいるゴブリンのほとんどがこちらに気付いたようだ。それぞれがナイフ、剣、斧などで武装している。中には鎧を身につけたゴブリンまでいる。


『ミルハル、敵はこちらに気づきましたよ。あなたも剣を抜いてください。彼女は強いですが、敵の数が多すぎます。いくらゴブリンとはいえ囲まれたら終わりですよ』


「お、おぅ!ゴブリンくらい余裕だ」


 リヒトに言われ俺は剣を抜く。


『ゴブリンと侮らないでください。この集団は少し変です』


 ゴブリンはこちらに気付いているが、すぐには向かってこない。ジリジリと横に広がりつつ間合いを詰めようとしている。


 アーシェが動く。先程と同じ魔法の矢を放ち、更に1匹のゴブリンを仕留める。流石にゴブリン共も狙い撃ちにされる前に動き出す。同時に三匹がアーシェに襲いかかる。一匹目が横薙ぎに振るった斧を躱し、メイスで腕を叩き折る

 骨の折れる鈍い音が聞こえゴブリンは斧を落とす。残り二匹がナイフを振り回しアーシェに飛びかかるが、アーシェはこれをバックステップで躱す。


 二匹のゴブリンは急に標的がいなくなった事でお互いにぶつかり転げる。


 仕留めるチャンスだが、アーシェは動かない。よく見るとアーシェの右前腕辺りから血が滴り落ちている。


「アーシェ!」


「大丈夫です!かすっただけです!」


 かすっただけというが、かなりの出血だ。浅くはないだろう。


「リヒト!俺はどうすればいい!?教えてくれ!」


 守らねばならない。神官の少女一人を戦わせ怪我までさせている。ゴブリンなんて雑魚だという思い込みで実際は剣を手にして竦んでいる。自分の不甲斐なさを呪ったところで身体は動いてくれない。


『腰に投げナイフがあります。どのゴブリンでもいいので狙って投げてください』


 リヒトに言われた通りに腰のナイフを抜き、先程転んだゴブリンの一匹に向けて投げる。


 投げナイフは真っ直ぐ飛ばず、狙ったゴブリンからズレてクルクルと飛んでいく。


 俺の事には目もくれていなかったゴブリン達が、一斉に俺を見るが、投げたナイフの軌道を見て、ニヤニヤと不快な表情をつくる。


 その時だった。


 標的からズレたはずのナイフは空中で軌道を変え、物凄い勢いで立ち上がろうとしていたゴブリンの一匹の右眼に突き刺さった。鍔まで刺さったナイフはその一撃でニヤけた顔のままのゴブリンを声も発する時間もなく絶命させる。


「ギィィィヤァァー」


 アーシェに襲いかかったもう一匹のゴブリンが奇声を上げ今度は俺に飛びかかってくる。俺は咄嗟に剣を構えるがリヒトに止められる。


『受けないでください!ナイフを持った敵は懐に入れてはいけない!ナイフを持っている手の方向に避けてください!』


 剣を構えるのを止め、俺は左へとステップする。


 ナイフを突き出したままのゴブリンはそのままバランスを崩し地面に転がる。


『今です!剣を突き刺してください!』


 命を奪う事に一瞬だけ躊躇するが、言われるままゴブリンの背中から肋骨の間を通すように剣を突き刺す。


 骨に当たったが気にせずに突き入れる。肉を断つ感触と貫通して地面に刺さる感触があった。そのまま勢いよく剣を引き抜くと刺されたゴブリンからドス黒い血が噴き出す。


 少しの間叫び声を上げ転げ回るが、すぐに動かなくなる。失血死したのだろう。


 俺は初めてゲームではなく現実の世界で人型の生き物を殺した。









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