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カフェ『アルストロメリア』——午前9時オープン。
開店と同時に、朝早くからモーニングメニューを求めるお客様がいらっしゃいます。
今日のモーニングは、甘さ控えめのしっとりもちもちチーズマフィンと、野菜がごろごろ入って食べ応え満点のポトフ、そしてお砂糖は微量なので果物の甘さをそのまま味わえるフルーツヨーグルト。ジャムは粗めにつぶした苺の食感も楽しめます。
モーニングは日替わりメニューなので、毎日の変化を楽しみにして下さるお客様は多いです。気の抜けないところ。
モーニングメニューは11時に終了します。それが終わると一時、気の休まる時間が訪れますが、またすぐにデザートを求めるお客様が足を運んで下さいます。
当店ではケーキは材料と要相談なので、メニューは日替わりで4、5種類並べられます。
その中でも今日のイチオシは、新鮮卵を使った濃厚な味わいのプリンアラモード。
カスタードプディング自体が濃厚なしっかりした味なので、添えるクリームは甘さ控えめの軽い口当たり。
プリンを彩るフルーツは、ほどよい酸味のきいたストロベリーに、ブルーベリー、ラズベリー。どれも採れたて新鮮で瑞々しく、つやつやと輝いています。
最後にベリーのソースをたっぷりとかければ、カップの中はキラキラと輝き、まるで魅惑の宝石箱のよう。
そしてお昼過ぎから夕方までは、カフェのかき入れ時です。特に休日は、お店は満員に近い状態になります。
しかし平日の客足は穏やかなもの。それでも、従業員を雇っていないので、休む暇はないくらいですが。
夕方になって、ようやく一息つけるようになります。そろそろ店じまいの時間。
——そんな折、よくお店を訪れて下さる常連さんがいました。
西日が店内を真っ赤に染め上げる頃。
そのお客様は、決まって、閉店間際の店内に客足が途絶えた時にいらっしゃいます。
彼はいつも、足元まで届く真っ黒いマントに身をくるんでいました。長めの髪は、光を吸い込んでいるかのような、色の濃い黒色。同じく長めの前髪の隙間から覗くのは、血のように赤く、鋭い瞳。不健康に見える青白い肌。威圧感さえ感じるくらいの、高い背丈。
そんなお得意様の名前は——
魔王さん。
……ずいぶん変わったお名前ですよね。