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―二幕 魔女の行く道と来る人―

 魔女であることを隠し、人里を探し始めた東の魔女。


 何日か東の方向へ歩き続け、やがて一つの小さな集落を見つけました。


 そこにはたくさん人がいました。


 人がたくさんいる場所というのは、風の(ガチ)でしか聞いた事のなかった東の魔女にとっては信じられない光景であった。


 里の入り口付近に佇んでいた東の魔女を不思議に思わないはずがありません。


 入り口近くにいた一人の女性がこう言いました。


―その恰好、あんた旅人なのかい?


 東の魔女の恰好は店で買いそろえたものではなく、十数年期続けている黒のローブはぼろぼろでした。


 それでもなお、着るものがあるわけでもないので気にせず着続けていたのです。


 東の魔女は「旅人なのかい?」という単語のみに対し反応を見せ、こう答えました。


―ええ、私はお金もなくさまよい続ける旅人ですよ。


 その言葉には、自分の恰好をどう感じているかなど微塵も考えていない答えでした。



 一方で、魔女であることを隠さずに、人里を探し続けた東の魔女。


 空を飛ぶ箒、ではなく使い魔として使役した動物を利用し、空を飛んでいました。


 使い魔として使役し、何倍にも体を大きくした漆黒の色をした(カラス)の背中に乗り、その方にはこれも使い魔として存在している黒猫を方に載せていました。


 (使い魔として使役している動物は魔女の魔力を体の内に蓄積し、所持しない魔力を持つことができる。

 いわば魔力の適合動物、それでも動物自身が魔力を自身で使い、何かができるわけではないが、魔法を使うことの出来る者が使い魔の体を大きくしたり出来る。

 空を飛ぶことの出来る動物の眼を使い遠距離からでもその視界に移るものを見ることもできる。)


 上空からある一つの集落を見つけました。


 烏を少し離したところに着陸させ、西の魔女は烏から降りると、集落へ向け、歩き始めました。


 西の魔女はそっと烏の体を撫でてやると、烏はくちばしを空に向け、大きく突き上げると一鳴きしました。


 その一鳴きは咆哮にも似たものでした。


 辺りに響き渡き渡り音が消失すると烏の姿はたちまち小さくなっていき、元の烏の大きさに戻りました。


 西の魔女は黒猫の首元をちょいちょいと撫でてやると、黒猫は肩から飛び降り、先導するように歩き始めました。


 猫の歩いた道先には、一つの集落、空中から見つけた里がありました。


 里に入ろうとした時、里の者たちはどうにも慌てていて、不安に駆られた様子でいた。


 そんな時、ある一人の男が近くにいることに気が付きました。


 その青年に近い少年は一人落ち着いていました。


 おそらく里の者たちは先ほどの烏の一鳴き(咆哮)に驚き、怯えているのだろうということを理解しました。


 そんな中で一人だけ、とても落ち着き、何もなかったかのように移動しているその青年に西の魔女は興味が湧きました。


 西の魔女は青年に対し、


―なあ、そこの。魔法を使ってみたくはないか?


 それを聞いた青年の反応は、―何を言っているんだこいつは……、といったような唖然とした様子で振り向きました。


 そして一言、


 ―使える物なら使ってみたいと思うのが当然だろう。それともあんたは自分が魔法を使える魔女だとでも言うのか?


 魔女は返答に対し、驚いて思わず目を見開きました。


 まだ自ら魔女だと名乗っていないにも関わらず、青年が自分を魔女だと判断したことに感心し、


―そうだぞ、よく分かったな。


― …………は?


 どうだ、と言わんばかりに腰に手をあてて言い放った西の魔女に対し、青年は先ほどよりも呆然とした表情で言い捨てました。



 こうして、東の魔女は魔女であることを隠し、悟られず、旅人として。


 西の魔女は魔女であることを隠さず、魔女として、しかし信じてもらえず。


 二人の人里での暮らしが始まったのでした。


 そして二人は同じタイミングで、おそらく同じ聞かれ方をしただろう。


―あんた、名前はなんていうんだい?


 離れていてもきっと二人に通じ合うものがあったのでしょうう。


 それぞれのやり方で、それぞれの感覚で、最高の第一村人を選び話しかけたに違いありません。


 だが、どこで道を違えたのでしょう。


 いいえ、初めから同じ道など辿ってはいませんでした。


 二人は東と西の魔女。


 進む先の道がたとえ同じに見えたとしても、似て非なる、同じで違う道を歩んでいる。


 名前の無かった、いいえ、覚えていなかった二人の名前。


 いづれ人里で過ごすときの名前を決めておこうとかつて話したことがありました。


 互いで互いに、東の魔女はイスト、西の魔女はエスト。


 名乗る時に際し、姓を魔女からウィッチとするという取り決めをしていました。


 しかし、


―私はイスト、生まれは知らず、辺境の地で育ちましたので、姓はありません。


―私の名はエスト。姓はウィッチである。私は紛れもなく魔女であるぞ!


 瞬間、二人の道は完全に違えたのでしょう。


 魔女は西と東、右と左、虚と実、生と死。

 交わりあったかのように見えていた二人の道はここで完全な決別、決裂を得る。


 そして、対称の二人が初めて交差を果たしのは最悪の始まりと終わりとなったのです。

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