生徒会庶務 01
「増田、あのバカを呼んできてくれないか」
「……」
今日の天正高校はいつになく熱気に包まれている。まぁ当然だろう。三日間に渡る天正高校文化祭、その3日目なのだから。
売り切ってしまいたい出店組の値下げラッシュ。
各部活動は出し物の宣伝。
校内は歓声やら喚声やらが混じって大騒ぎだ。ここまで盛り上がってくれると生徒会庶務の僕としては感慨深い。
「聞こえてるか?」
ボーッと外を眺める僕に先輩がもう一度声をかけた。右腕に付いた「副会長」の腕章。石田先輩だ。常に笑顔を浮かべていて腹の底が全然読めない。
そしてその先輩が言う「バカ」とは我が校の生徒会会長、木下先輩。こっちは別の意味で読めない。自由奔放。あぁ、またどっか行っちゃったんだろうな……って
「え? 僕が探すんですか? 今日は休んでていいんじゃ?」
「ハハハ、面白い冗談だな、増田。庶務が休めるとでも?」
えぇ……何それ……。庶務差別?
「てか、昨日も同じ理由で理不尽な仕事押しつけられたんですけど……。他の人に頼んでくださいよ!」
「バカ。書記の浅野と会計の長束は忙しいんだ。お前みたいな庶務と違って、な」
そう言われて二人を見る。
書類に埋もれた浅野はぐったりとした目が助けを求めている。無視した。
長束はその端整な顔をピクリとも動かさずに電卓を操作している。無視された。
そんなわけで……と芝居がかったような口調で石田先輩は告げる。
「本当なら俺自らが探したいんだが、トラブル対応やら落とし物預かりやらで動けないんだよ。お前しかいない」
「そう言われても……あれ? 前田は?」
生徒会にはもう一人、広報担当の女子、前田がいるはずだが……。
「アイツは広報の仕事だ。出店商品の試食したり、各部活の出し物の写真を撮ったりするとか。ニコニコして出ていったぞ。お前と違って仕事熱心なんだよ」
「それ遊んでますよね!? てか、昨日も同じ理由で外回りだっただろアイツ!」
「煩い」
長束の黒髪が揺れる。怒ってらっしゃるよ……これは諦めるしかないか。
「……わかりました。行ってきます」
「タイムリミットは後夜祭だ。何としても連れてこいよ」
副会長はニヤっとして手を振った。イラっと来たので振り返さずに扉を閉める。強めに閉めて音をたてようかと思ったが、長束が本気でキレそうなので止めた。
これが僕の物語。長い長い1日のはじまりだった。
「暑い……」