第二章 1
第二章
4月の終わりの日には雨がしとしとと降った。土の残っているところを歩くと、生温かい匂いがした。気候は決して寒くない。雨が降ることで、周り全体の視界がぼやけ、それだけ世界の空間は狭くなった気がした。
麻里は雨が降りしきる街の中、待ち合わせをしていた。人ごみの中傘をさして押し合いへしあいここまでくるのは大変だったが、それでも彼女は雨が好きだった。街頭路が濡れたコンクリートをつややかに照らすのを見ると和む気持ちさえおぼえた。
待ち合わせ人は遅れている。仕事が遅れているのだろう。別に何時間というほどの遅れでもなかったので、麻里は携帯からSNSをひらいて返事を送った。
ややもして、健康的な男の声がした。
「ごめん、待った?」
三島健吾という、麻里のかつてのクラスメートだった。
「それじゃあ、乾杯―。」
「乾杯。」
ビールが注がれたジョッキを交わすと、三島はまるで一気に飲み干さんばかりかの勢いでぐびぐび飲んだ。麻里も三島ほど豪快ではないにせよ、ほどよく冷えたビールの最初の一口をよく味わった。
「あーうまい!」三島は上機嫌だ。スーツも脱いで、清潔なカッターシャツを腕までめくっている。麻里は三島のそんな姿を、ほっと懐かしい気持ちがするような、それでいて心の奥のどこかが微かな冷たさにさらされるかのような、分かりの悪い心情を感じていた。
「それでさ、」と麻里はつきだしの枝豆を手にとった。
「元気してる?」
麻里がそう聞くと、三島は待ってましたと言わんばかりに嬉しそうに話す。
「うん、元気だよ。麻里は?」
「そうだなー、あたしはまぁまぁってとこかな。」
「まぁまぁって何だよ。はは」三島も麻里も笑った、二人が居るよくあるチェーンの居酒屋はそんな浮いた人たちの活気ある声で溢れかえっていた。