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「小林緑は、結局『謎』の存在であると僕は思います。たまに居ます、あぁいうタイプの人間。人を振り回すタイプの人間ってことですね。僕を突き放したかと思えば次にはあけすけな態度で求めてくる。「僕」には分からない。それは小林緑が自由という存在だということだと思うんです。反対に、僕はあらゆることで縛られている。」
「それは読み込み過ぎだし、解釈違いだと思うけどな。彼女は決して自由なんかではない。あるいは、自由であるという役割を与えられて、すんでのところでそこから漏れている。村重くんのいう『謎』」は、かっこつきの謎。つまり、男性の「僕」としての「謎」にすぎないのよ。」
ここで村重くんは急に話に乗り気になった。「もっと続きを聞かせてください!」
麻里も少し熱くなってそれに応えた。
「というのは、たぶん村上春樹は直子や緑を遠いところ―つまり「僕」から離れたところという設定でしか描いていない。さっき私が『ノルウェイの森』は2面関係だって言ったけど、もっと突き詰めて言えば、「僕」の内心しかない。実在者としての直子や、小林緑は、このブラックホール的な、独我的な「僕」の心に吸収されている、と言えるかもしれないわ。そういう意味では、私がこの小説に何となく違和感を感じたのも分かるかも。「僕」が大きすぎるのよ。肥大化した自我。しかも男性の。それは私からしたら気味が悪いわ。」
「ふーむなるほど・・・。」
「小林緑は遠い彼岸の存在としてしか描かれていない―。単純なフェミニズム理論の話とつなぎあわせると、男性の思い描く女性像ってことね。結局それは男性の支配にさらされたまま、女性の実存を捉えきれてない、ってことでもあると思う。そしてそれは直子も同じ。」
「なるほど。最後のところはまだ反論できる余地もある気がしますけどね。」
「ま、私の問題提起はそんなところね。」
「やっぱ先輩はすごいなー。話がこんなに広がりました。問題点も見えたきがする。すごくいい感じです。」
「ほめすぎだよ・・・。」
麻里は苦笑いした。
(続く)