エピローグ
あれから幾つも季節は巡り、ミリアは十八歳になった。暫らくはぎこちなかった父親との関係も、今は戻った。他の村人のことも、あれは村を護る為に必死だったのだと思うことができるようになった。
しかし、それでも、時々眠れぬ夜がある。
独りで旅立たせてしまったあのヒトは、どうしているだろうか、と。
白いベールに白い花束。
今日、ミリアは花嫁になる。相手は、一年半ほど前にこの村にやってきた若者だ。
大事な人ができて、ミリアはあの時の事をより一層、悔やむようになった。
あの事件の事を、彼にはミリアから話した。身を賭して戦ってくれた、一人の少女のことも。
「皆、それぞれ護ろうとしたんだね」
若者は、全てを聞いた後、ポツリとそう呟いた。
ミリアと村人たちとの間にあった壁にひびが入ったのは、その一言のお陰だった。
できたばかりだった小さな村は、ほんのわずかな異物の侵入も、赦すわけにはいかなかったのだろう。そして、あの存在は到底『わずか』とは言えないものだった。
――ああ、それでも。
最上の幸せを手に入れた自分を、見て欲しい。
幸福の為に浮かんでいた涙に、違う色が混じる。
「?」
柔らかな日差しの中、不意に誰かに呼ばれたような気がして、ミリアは空を見上げた。
少し、目を細めて。
「あ……」
ミリアが漏らした小さな声に、花婿が振り向く。
「どうしたの?」
「あれ……」
ミリアの指が指した先には、白銀に輝くものが、優美な舞いを見せていた。ゆらりゆらりと、まるで手を振っているようだ。
「まさか、あれは、龍……?」
花婿の呟きがミリアに届く。
――あれは、きっと……
何故、そう感じたのかはミリアにも解らない。
しかし、確信があった。
「会いにきてくれて、ありがとう」
囁きは、きっと、彼女に届いているだろう。
きっと――。
長いお話を、最後まで付き合ってくださってありがとうございました。
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