PACE1-5→記念日1
†お告げ†
神はこう仰った
私だけを愛しなさい
私だけを敬いなさい
私だけを見つめなさい
*****
「あの、師匠…大丈夫ですか?」
人間界から帰ってきた僕は、さっきからコレしか言っていない。
「別に平気だ。問題ない。」
いや、問題ないわけない。
何があったのか判らないけど、師匠は真っ青で、時折凄く痛そうな顔をしてる。怪我をしてる訳ではないし、何があったんだろう。
「それにしても、裁判日に出掛けるなんて珍しいですね。」
リビングの一番高価なソファーを占拠した、静鳴さんがいう。隣の捺姫さんも頷いた。
「だね。ってゆうか、副業の方はいいの?今日授業日じゃなかったっけ?」
「休暇とった。司令官に脅されたらこうするしかないだろう。」
「…むちゃするなぁ…。」
「あの男が無茶なのは昔からだろう?人より地位が低い割に偉そうなんだ。」
「ぇ、あの人高位Aでしたっけ?」
「いや?高位Baだ。俺より低い。俺のほうが偉い。…まぁ司令官なんて面倒なものなりたくはないが。」
「…あのぅ、それ、遠回しに私を馬鹿にしてますね?」
「…僕もされてるから安心して。」
「あのっ!師匠質問っ!」
会話に置いていかれた僕はあわてて手を挙げる。
面倒そうに僕を見た師匠はため息をついた。
「なんだ。」
「高位とかって何ですか?地位の名称っぽいですけど。」
「地位だな。」
さらりと、師匠は肯定する。
「弥、覚醒をしっているか?」
急の問い掛けに戸惑いながら首を横にふる。
「初代の悪魔は、体の変化神に捧げ、死を神に預けた。神は大変喜び、悪魔に長い永い寿命と多大な力を与えた。神はいう。
さぁ、私を愛しなさい。
私だけを敬いなさい。
あなたは私のもの。
何人たりとも、私に逆らうものは許しません。さぁ、私を讃えなさい。」
「…それは。」
「これは事実だ。ただし、気が遠くなるくらい、昔の。」
「…。」
「それから悪魔に、覚醒という通過点ができた。創られてから数十年、ある日ぴたりと、体の変化が留まる。ついでに俺は18だった。留まった年齢から10年、すきな様に容姿を変えることができるのが唯一の救いだな。」
「鈴欠は童顔でしたものね。」
「可愛かったもんね〜。」
ぴく、と師匠の眉があがった。
「その話はするな。」
「…でそれが階級と何か関係があるんですか?」
「言っただろう。神は大変喜び、長い永い寿命と多大な力を与えた。」
「えっと…。」
「その“多大な力”が我々の階級を決める。多大な力というのは…まぁようするに特殊能力だな。」
「…そんなのあるんですか?」
「ある。…まぁ一般の奴らは低位で、最悪天使との戦争で駆り出されるくらいだ。中位はまだ年数を重ねていない者。それくらいか。」
「…?覚醒の時得た力で、将来が決まるんですか?」
「すごいね、弥君。賢いよ。ま、低位のが安全でいいよ。ここで、普通の仕事してればいいんだからさ。そりゃ失業すりゃ苦しいけどね。」
捺姫さんが肩をすくめた。
「…Bとかっていうのは…?」
「何となくわからないか?まぁ…、大まかな地位は、判ると思うが低、中、高と分けられている。ただこれだけだと、あまりに漠然としすぎているからな。中に細かい地位を入れたのさ。まず一つの階級を三当分して、ABCにわけた。Aが一番低い。コレを第一階級って呼ぶ、わかったか?
あぁ、みるからにわかってなさそうだが、まぁいい。
で、第一階級の中をまたabcで区切る。
コレを第二階級と言う。
まぁこんなもんだな。
ついでに俺は、判るかもしれないが、高位Bc。静鳴は…何だったか。」
さすが師匠。僕的には師匠が階級を忘れていなかったことに驚きです。
「私は高位Bbですよ。名誉のために言わせていただきますけど、高位になれるのは極少人数。その、Bcとまでいけば、ただの化け物ですから。」
「だね。僕は静と一緒のBbだけど…。僕らは職務怠慢が甚だしいからね。なかなか地位上げてもらえなくて。参っちゃうよね。ま、化け物の仲間入りは後免だけどさ。」
「…やってる仕事はおまえらより楽だぞ?」
「でしょうね。司令官泣きたいって言ってましたよ?」
「は、勝手に泣いてろ。」
「ダメだよ弥君こうなっちゃ…。ダメな奴の見本驀進中だからさ。」
「おまえなんか、素で痛い奴驀進してるだろ。」
ため息をついた師匠が、額に手をあてた。
「つらそうですね。いつもよりは良さそうですが。」
「いつもって何年前だ…。」
「4年前ですかね。」
「はずれ、二年前だ。」
「解っているなら言わせないでくれますか?」
「ぼけ防止だ。…ぁ〜駄目だ。弥。お客様の相手頼む。適当に茶だして、さっさと追い出せ。俺は寝る。」
まさにお客様の目の前でそう言った師匠がリビングからでていく。すると、二人はいやな笑いを浮かべた。
「写真みませんか?」
「は?写真、ですか?」
「えぇ、可愛い人間の写真です。」
「別にみるだけなら構わないですけど。」
「よっし♪」
捺姫さんがうれしそうに言って、ぱんぱんと手を叩いた。
きゅぽんという音がどこらから響いて、小さいひかりがふわっと鼻先をかすめる。
「?」
『ご主人様、私を呼ぶときはなるべく一人の時っていったでしょ!』
可愛らしい声。小さな光の球の中には不思議な生物が浮いていた。
基本的には、ヒト型。
だけど耳が尖っていて、背中にはとんぼみたいな羽が生えていた。
からだに軽そうな白い布を巻き付けていて、髪は金髪。なんだかとっても可愛らしい。
「おや、クラシュさん。」
『あ、静鳴さん。お久しぶりです。…ご用件は?』
「クラシュ、聞くのは静鳴じゃなくて僕でしょ!」
『で、用件は何ですか。ご主人様様様。』
「クラシュ?」
何だか親近感を覚えてしまった。
クラシュと呼ばれたそれは、細い腕を組むとため息を吐く。
『で?ご用件は?』
「例のもってきて。」
『OK。』
しゅん、と光が消える。捺姫さんがため息をついた。
「あの子は僕の使い魔。あんななりだけど小鬼でクラシュって言うんだ。」
「可愛かったですね。」
「まぁね…。生意気だけど。かなり。」
『何かおっしゃいました?ご主人サマ?』
耳元で声がした。あわててそっちを向くと小鬼さんがひらひら手を振る。
『はじめまして♪クラシュです☆…あれ?鈴欠さんは?ここ、鈴欠さんの家ですよね?』
「鈴欠は今日裁判日ですから。」
そういえば、“裁判日”ってなんだろう。
ぽむっと手を打ったクラシュさんは、だからですか。と捺姫さんをにらんだ。
『悪巧みは結構だけどボクにまで火の粉飛ばさないでくださいね!鈴欠さんは怒ると恐いんだから。』
「はいはい。あれ。クラシュは怒られたことあったっけ?」
『あるわけないでしょ?ご主人様のどぢな場面あれだけみてりゃ回避くらいできますよ。』
「師匠恐いですよね。」
「キレると見境なくなりますからね〜。誰かがメデューサって言ってましたし。そんな可愛いもんじゃないでしょうに。」
「言っとくけど、メデューサは可愛くないよ。」
「そうですか?」
『とにかく!ボクは関わりたくないですから!じゃっ!』
ぱちん、と光が弾けて消える。テーブルの上にアルバムが二札落ちてきた。
「あの…裁判日って何ですか?」
ずっと気になっていた事だった。静鳴さんが小さくため息をつく。
「…まぁ、率直に言えば…。刑罰、ですね。」
「…え。」
「極刑の一つ。あとは当事者に聞いたほうが早いよ。弥君になら教えると思うしさ。」
「え、でもだって、どういう事ですか?!」
今の話をそのまま信じるとすれば、師匠は犯罪者って事になる。
信じられなくて静鳴さんにすがると、彼はふと、笑った。
「大丈夫、あれについては鈴欠が悪いわけじゃないですから。」
「あれは仕方なかったんだ…。僕らからじゃ話せない。鈴欠に聞いてくれるかな。」
「はい…。」
師匠の秘密。アルバムから開かれたのを横目に、師匠の昔を考えていた。
ただ、その思考はすぐに打ち切られてしまったけれど。
「じゃぁーん。この子が見せたかったんだ。」
「…ぇ。」
「かっわいいでしょう?この子は…神様のお気に入りです。」
写真の中の女の子は、この世のものとは思えないほど可愛かった。
アイスブルーの瞳に、銀の髪。
白いドレスをまとった彼女はぺたりと座り空を見上げている。
「この子の名前はシュリアシェリア。この世界の頂点に立つ御方のお気に入りの一人です。」
どうして静鳴さんはこの写真を僕に見せたんだろう。わからなかった。
「いつか必要になる知識です。ただ、鈴欠には言ってはいけませんよ。」
わからない、だけど僕は頷く。
「わかりました。」
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神は仰った。
世界の総てはモノ。
世界は私のモノ。
世界の総ては玩具。
貴方は私の玩具。
さぁ
愛しているといいなさい
気付いたらいつもより長めになりました。…ぶっちゃけ説明だらけです(;¬_¬)すみません(>_<。)