PACE1-4→duty,dirty.2
†襲来†
師匠が、恐かった。
眼鏡のお兄さん相手に、師匠は語る。
「君は神だ。」
悪魔は人間をだます。そんなの知っていた。
だけど、あの時の師匠はとても楽しそうで…。
僕もああになるのだろうか。ああやって、人間をだますのだろうか。
それが、恐くなった。
「言っておくが。」
隣の師匠が口をひらく。
「この仕事をやるには、高位悪魔にならないといけない。お前の頭じゃ到底無理だ、安心しろ。」
師匠なりに気を遣ってくれたらしい。
高位悪魔がどれだけ地位が高いか知らないけど…なるのは大変みたいだし、僕は下っぱでいいや。
「さて、と。仕事も終わったんだ。帰る。」
「あれ、もうですか?」
「あまり地上には居たくないんだ、天使共に見つかる。」
天使…。そういえば僕は本物の天使を見たことがなかった。
「天使がくるとダメなんですが?」
「喧嘩売られるんだ、高位悪魔一匹仕留めるだけで一生遊んで暮らせるからな。」
「…なんでですか?」
「なぜだろうな。遠い昔から、天使は悪魔を恨んでいて、高位の悪魔には賞金がかけられている。…もっとも、ほとんどが帰り打ちにあっているが。」
「師匠もですか?」
「一応だ。さて、と。考えてみればお前初めて人間界に降りたんだな…。折角だし、見ていくか?」
意外な言葉。
見上げてみると師匠はめずらしく優しい顔をしていた。
道行く人が師匠を振り返っていく。銀の髪をした人は、確かに見なかった。
「いいんですか?」
「まぁな。何事も経験と言うし、たまには自由にしてやってもいいだろう。」
「でも、天使…。」
「あったら遭った時だ。」
「で、でも。」
「俺を馬鹿にするな。」
「え。」
「俺だって、高位になって間もない訳ではない。狙われるのには、それなりになれている。」
「師匠って何才なんですか?」
そういえば聞いていなかった。そう思って呟くと、彼は眉根を寄せた。
「…今年で492だな。」
はぃ?
や、もう、長い生きとか言うレベルじゃないんですけど…っていうか、突っ込みどころ満載?
僕が唖然としていると、師匠が哀れみの視線を向けてきた。
ぽむぽむ頭を撫でられたかと思ったら、にこりとほほえむ。
「お前の製造者は偉そうなわりに、無能だな。」
「はぃ?!」
「お前この前の200年には疑問を抱かなかったのに、なぜ俺の年齢が不思議なんだ…。」
「だって…。」
「…寿命は約1000年だ。お前とも長い付き合いになるんだろうよ。」
初めて知った…。呆れたように師匠は続ける。
「ついでに。このことは創られて八年の間に、製造者が教えなくてはならない項目に入っている。なんだ、自分の義務も果たさないで…あなたになんか任せられないわ!とか、道の真ん中で怒鳴りやがって。」
後半は師匠の私的な恨みがふんだんに詰め込まれていた。
確かに僕の製造者は頭が弱かったみたいだ。
めんつゆ薄めなかったし。
だけど、カルピスを原液で飲んで感動した、カルピスマニアには言われたくない。
師匠は子供体質だと思う、いろんな意味で。
「まぁ、あの女のことはどうでもいいとして……っ、無駄話が過ぎたようだな、地球見物はまた今度。お預けだ。」
「え。」
師匠が、急に手を掴んで走りだした。
半ば引きずられるようにして走る。胸ポケットから携帯を出すと一気に話しはじめた。
「本部か?2030B鈴、地球日本東京座標5925で、天使複数と交戦中応援を要請する。」
『お前自分で処置出来るだろうが!』
「っ馬鹿言うな!こっちには足手纏いが一匹ついてるんだ。」
『んなの知らない。何人だよ、天使。』
「1…2、8だな。八人。」
『だそうですよ、司令官。…どんまい鈴欠当たり前だけど、却下。じゃ、ま、頑張れや。』
通話終了。師匠の頬がぴくぴく引きつっていた。
「…弥、俺から離れるな。色々と危険だ。」
「え?」
「あ、眼鏡忘れてきた。まぁいい。…あと20分か。大変な賭けだ。さて弥。お前に頼みがある。」
薄暗い裏路地、振り向いた師匠は言う。
「いいか?今から俺が本部に連絡をいれて、お前に通話を託す。だからこう言え。2030B鈴欠のお荷物なんですけど、師匠が死んじゃいます!今日が何日だかわかってるんですか?!…わかるか?言えるな?言え。」
かなり強引なんですけど…。
まぁ言えないこともないかな。
僕は頷いた。
道の先。女のヒトと男の人が五人走ってくる、呼び出しをしていた師匠が端末を投げてきた。
「とりあえず、怪我するなよ。」
「あ、はぃ。」
端末から声が聞こえてきた。
『もぅ、うるさいっ、何だよ。何度も何度も!』
「あ、あの、その、師匠がなんか、その…。」
どうしようすごく怒ってる。
僕がしどろもどろになっていると、声の主がアレ?と呟いた。
『お弟子さん?』
「は、はぃ。あの……」
『何?鈴欠に脅されたの?大丈夫?』
「や、その…。」
何を言っていいかわからなくて吃る。ふと、師匠が気になって顔をあげた。
『おーい?』
血の気がひくのを感じた。
「だ、誰か呼んで下さい!」
『あ?や、ちょっと?』
師匠が、負けてるわけではない。
むしろ師匠は有利に立っていて。
ただ、一つ心配なことがあって。
師匠は顔色を無くしていた。
表情は余裕。
唇には微笑。
眼光は鋭利。
だけど…。師匠は…。
『おい?』
「お願いします!師匠の様子おかしい!」
『…司令官今日って17…?っ!なんだじゃないっスよ!“裁判日”です!おい、あと2、3分で二人行くからそれまで持ちこたえろって言え。いいな!』
叩き切られる通話。僕はやっと師匠が自分を呼んでいることに気付いた。
「師匠?」
「何だって?」
「二三分で来るって…」
「…持たないな。」
「は?」
「…弥、しゃがめ。」
ぐ、と頭を押される。続いて銃声。師匠の手は、微妙に熱を帯びていた。
「師匠?」
「っっ。何だ。」
痛みに耐えるような声、呼吸が早くなっていた。
師匠の体に邪魔されて、視界に天使が入ってこない。状況が、まったく解らなかった。
「師匠…?」
びくっ!と師匠の体が動いた。見上げようとしたら、力で押さえられた。
「し…ししょ…。」
「鈴欠?無事ですか?」
第三者の声。知らない声は、師匠をよんだ。
「やっほーしずかちゃん☆元気してるかい?僕はばっちりサ☆★」
妙にテンションの高い声。二つの声に、師匠の力がゆるんだ。
「さてさて、僕らが来たからには大丈夫さ♪奴らは何処だい?」
「あの、なつき。非常に心苦しいのですけれど、私たちは少しばかり遅かったようですよ?」
「うっそ!それってまぢ?…ぅ、鈴欠なんだよその目。」
そっと顔を上げてみた。
妙にテンションが高い、脱色した琥珀の髪に赤い目をした男の人と、鈍く光る銀の髪をした紳士が立っていた。
テンションが高い方は知ってる。
忘れるはずもない、僕を迎えにきてくれた、捺姫さんだ。
でも、じゃぁ…もう一人は?
「あぁ、この子が噂の…。」
銀髪紳士のエメラルドの瞳が僕を射た。
一瞬みを固めてしまった僕は、次の瞬間後悔することになる。
「か。可愛い!」
はい?
その人は、すごい勢いで師匠を突き飛ばすと、僕の肩をしっかりつかんだ。
「はじめてお目にかります。鈴欠の友人で静鳴と申します。」
「はぁ。僕は弥ですが。」
「鈴欠っ!この子私が持ち帰ります!」
…返事なし。
師匠をみて、僕は合掌したくなった。
静鳴さんにふっとばされた師匠は、捺姫さんに抱えられて昏倒していたからだ。
ふと思った。
この人達、師匠を助けに来たんじゃないの?
fin...
PACE1-4→duty,dirty.
Please to be continued..
読んでくれた方、ありがとうございます!!!それにしても、やっと主要人物がでてきました…、ろりこん紳士と、痛い奴です。やっと、話の本題に近づくかな…みたいな…。あらすじに書いておいて、おきにいりの説明もないし…。穴だらけですがお付き合いください(;¬_¬)