PACE1-4→duty,dirty.1
聖域
ここは僕の聖域。
ここは僕の安息。
ここは僕の精神。
ここは…。
ここは僕だけの聖域。
なのに、あの男が現れた。
こう言った。
お前は選ばれた。
こうも言った。
全てを見たくないか?
僕は頷く。
その、男に。
僕は頷く。
天使のような悪魔に。
*******
師匠が連れていってくれたのは、地球、日本。
かなり小さいはずなのに、人がいっぱいいる。
ほとんどの人が真っ黒の髪をしていた。なんだか変な気分だ。
ついでに、今僕はでっかい白と赤で構成された塔に座っている。
どうやら人間の皆様には見えないらしい。
「本部か、2030B、コードは鈴。鷹よべ。」
隣の師匠は鉄骨に寄り掛かって携帯端末を耳にあてていた。
携帯端末っていうのは……所謂携帯電話だ。
「あぁ、鷹。内容忘れた。」
開口一番、なにを言いだすかと思ったら…。
通話相手も相当驚いたのか、はぁっ?!と声をあげていた。妥当な反応だろうな。当たり前だよ…。
携帯端末から耳をはなした師匠がため息をついた。
「うるさい。」
『うるさい。じゃねぇよ!お前のは忘れたんじゃなくて、覚える気がないだけだ!』
電話の相手は相当怒ってるのか、かなりの勢いで怒鳴ってる。
…毎回師匠のコレに付き合ってる人なんだろうな、可哀相だ。
「黙れ。うるさい。」
『おっ前なぁっ!…ぁ、はぃ。ったく、…前の…で、しれ……に…。』
「お前が誰に怒鳴られようと怒られようと殺されようと俺の知ったことではない。早く仕事教えろ。」
あぁ、すごく偉そうだ。
忘れたくせに偉そうにするなよ、とか思ったけど…口に出すと叩かれそうなので口にチャック。僕だって痛いのはキライだ。
「……帰っていいか。」
『あぁっ?!』
「…面倒だ。もっと楽なのないのか?」
『…お前自分の地位解ってんの?』
「高位のBだ。」
『それって誰でもなれるんだったか?』
「難しいらしいな。」
『で?司令長の話だと、Cから誘いが来てるんだって?』
「そんな話も聞いた気がしないでもない。」
『…。そんな悪魔のなかでもすごいお前が、なんでこんな簡単な仕事をしてるか?…簡単な事だ。お前が!仕事を!しないからだ!!これ以上楽な仕事なんかないんだよ!!!さっさと行け!!!以上!!!』
がしゃんっ!!!と荒々しく受話器が叩きつけられた音。
何事も無かったように端末を胸ポケットにしまった師匠は、少しだけ地上を眺めてから言った。
「さて、帰るか。」
「師匠っ?!」
「…。」
気まずそうにこっちを見た師匠は、ぼそぼそ言い訳らしいモノを呟いていた。
「…あれだ、なんか、頭が痛くなる気がする。」
「あ〜そ〜ですか。じゃぁ痛くなる前に終わらせましょうね。」
「なんか、嫌な予感がする…。」
「はいはい。」
「………冷たくなったな、お前。」
「はいはい。」
「……優しさは?」
「師匠が仕事したら考えますよ。」
「…何か欲しいものを買ってやるから。」
「…スープの中に蜘蛛大量にいれて欲しいですか?」
効果有り。師匠はため息をつくと地上をみた。
「…せめてターゲットは女にしてほしいんだが。美人希望。行くぞ…早めに終わらせる。」
師匠の弟子は本当に疲れる。ため息が流れた。
********
僕の部屋にあるもの。
パソコン二台、テレビ一台、DVDのデッキ一台。
大きなスピーカー一台。
漫画、本数えきれないくらい。携帯二台。エトセトラエトセトラ。
現実は飽き飽きした。
日常はつまらない。だから、外にはでない。つまらない、つまらないから。
「雑然とした部屋だな。」
驚いた。久しぶりに聞く他人の声。鍵がかかっているはずのドアに寄り掛かって、そいつは僕の聖域を値踏みする。
「だ、誰…?」
「悪魔、神の使い、好きなように呼ぶといい。」
悪魔?つまらない日常に、こんなことはないはずだ。僕の知っている世界には、天使も悪魔も、伝説の聖剣もない。
勇者はゲームや漫画の中だけ。
戦いも、物語の中だけ。世界に化け物などでないし、竜が空を舞うこともない。
でもじゃぁ、僕の目の前にいるのは何だ?
闇をまとった、銀髪の男。
細められた目は包丁やナイフの刃みたいに獰猛で、にらまれたら斬れそうだった。
「な、悪魔…?」
「そうだ。俺はお前を迎えにきた。」
僕を?なぜ?悪魔は何をするんだった?人間を陥れるんだ、契約を結んで、願いをかなえる代わりに、命をとっていく。まずい、殺される!!!
「…っ!」
机のうえ、錆付いた大きめのカッターナイフを手にとった。大丈夫、ゲームと一緒だ。
「おっと、早まるな。お前に害をなすつもりはないんだ。」
「…?」
「いっただろう? 迎えにきたんだ。お前は選ばれた。」
「…何に?」
選ばれた…?一体何にだ。僕は何もできないのに。
「全てを、見たくないか?」
「何?」
「全てを手に入れないか?」
「言っている意味が…。」
「全てを操ってみたいと、そう、思わないか?」
そいつはそういうと、僕に近寄ってきた。
「おめでとう、君は選ばれた神だ。」
頬に、触れられる。
「君に全てを与えるもの。それが俺、それが仕事。代償はいらない、なぜなら君は神だから。」
何を言っているんだ、こいつは…?
「君はもう、何をしても咎められはしない。なぜなら君は神だから。」
僕が、神?
「なんでも好きな事をすればいい。大丈夫、何でもできる、君は神なのだから。」
理性が何かをさけんだけれど、僕は頷いた。
「僕は神だ。」
「そうだ。君は神だ。…では、時が来たら迎えにくるよ。それまで、君はしたいことをすると良い。でも、忘れるな。君は神だ。」
頷く。そして僕は世界を手に入れた。
二ヵ月後。
窃盗殺人数えきれない罪を背負った少年が捕まることになる。
彼は言った。
「僕は神だ。」
これはまた、別の話…。
これを読んで不快に思った方がいたらごめんなさい…。