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PACE5.5-1→生意気な迷い猫1

1−1=0 または 1×0=0の思想

   

   

   

   

   

   

彼女がいない

その生活は

安全で

平穏で

平静で

緩慢で

そして

静寂

一人は静か?

いやそうじゃない

億劫なんだ

食事も

仕事も

呼吸も

睡眠も

生きることさえも


   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

「誰だ!」

   

いや、お前が誰だよ。

どうしたものか、この状況。まさか五百年近く生きていてこんなことが起きるなんて、考えもしなかった。

人のベッドに侵入し、絶叫をあげ、挙げ句の果てに『誰だ!』発言をした少年は今度はひどく慌てていた。

   

「ここはあの本の世界ってことか……」

   

少年の独り言に少しばかり引く。そうか、こいつ頭の中がカワイソウなのか。納得して観察してみると、コレはコレでなかなか愉快。しかし何分こちらは薬が入っていて眠い。しかたなくこちらから口を開いた。

   

「大丈夫か、主に頭。大丈夫ならお前がどこの何方様なのかぜひ聞きたいのだが。」

   

「俺は……えーと、ゼロっていいます。てかここは……。」

   

きょろきょろ。ゼロと名乗った少年は不安げに部屋の中を見渡す。これがもう少し小さければさぞかし可愛いだろうに、などと静鳴が考えそうなことを考えつつ、少年……もといゼロの疑問を解くべく口を開いた。

   

「……奇抜な名前だな。ここは俺の家だ考えればわかるだろ低能。俺は……鈴欠という。」

    

「しずか?」

    

かかっと刻みのいい音がして、壁に鋏が刺さる。投げた手に残る、金属の冷たい余韻。

    

「すずか、だ。」

    

「…………すいません。」

    

つうっと頬から血を流したゼロは怯えてそう言った。……おもしろい。なんとも言えない快感を覚えて、わからない程度に笑みを浮かべる。もっともこちらが全開で感情表現をしていても気付かれないのがほとんどなのだが。

    

「俺は覚えの悪いガキは好かん。す・ず・か。だ。今度間違えてみろ。今度はその中身の入ってない頭がお空の旅にでるぞ」

    

途端に少年(名前を忘れた)は青ざめて慌てて言う。

    

「すいませんごめんなさいもうぜったいまちがえません」

    

なんだこの快感。

怯える子供を見ておもしろいなんて、我ながらひどく悪趣味だ。違う趣味じゃない天性だ天性。悪魔なんだから仕方ないだろう。これが世にいうサディスティック精神ではないことを祈りたい。必死の自己肯定の末、俺はさっきから何を考えているんだろうという馬鹿らしい疑問にぶちあたってしまった。本当に、変な時間に起きるとろくなことがない。

ふと顔をあげるとショックから立ち直ったらしい少年の視線は俺の後ろ、弥に定まっている。

    

「……もしかして、おやすみ中でしたか」

    

「もしかしなくてもおやすみ中だ。どうしてくれるんだ俺のいとしの睡眠時間。」

   

ずいっと午前三時半を差す時計を押しつけてそう言ってやる。

ふと子供の後ろの仕事机に積み上がる書類が目に入り、思い出した。

そうだ。そうだった。明日には書類の期限で、しかもそれを出しにいけば、また締め切りぎりぎりのいじめとしか思えない仕事をだされる。当然また寝る暇なんかなくなるわけで、嗚呼なんでそんな俺の前に見知らぬ子供が転がってるんだ。

    

「ったって俺もいきなりとばされたからなぁ……どうしてくれる、って言われても」

    

困る。と子供の顔にはそう書いてあった。罪悪感。なんだか居たたまれない。

    

「……困るな!俺がいじめてるみたいじゃないか。まぁいい……お前は何しに来たんだ。」

    

何しにきた。と言うより何処から来た。の方が疑問なのだが、それはこの少年もわかっていなそうなのでそう問う。少年はすっと眉を寄せた。

    

「何しに……何しに来たんだろ。不可抗力?てか俺だって来たくて来たわけじゃないんですよ!」

    

「……。」

    

もう一本、壁に奴の髪をぬいつけてため息。鋏の振動する音が響いた。

わかった。こいつは本当の馬鹿だ。そうじゃなかったら、ただの間抜け。きっとそうだ。

   

「うるさい。弥がおきるだろう。仕方ない……茶でもいれてやるか。」

   

未だ押し寄せてくる睡魔に対抗しようと欠伸を噛み殺し、ベッドからおりる。目の前の子供はみるなり目を手で覆ってうなりだした。

ああそういえば風呂からでたまんまだったな、とその時やっと気付いたのだから、俺も相当間抜けだ。

   

「……男の裸みてうなるな。」

   

軽く頭をたたいて、ベッドの後ろのクローゼットを開ける。ジーンズを引っ張りだして履くと、いつの間にか立ち上がった少年は弥を覗き込んでいた。

   

「可愛い子ですね。何て名前なんです?」

   

そうだろう可愛いだろう。思わず言いかけて口をつむぐ。まずいこれじゃ只の親馬鹿だ。

   

「弥だ。弥生のやで弥。手をだしたら殺すからな。」

   

ワイシャツを羽織る。まずい、本気で眠い。ふとちらりと横をみると、子供は俺と弥を交互に見比べ何やら悩んでいるようだった。本人は気付かれていないつもりなんだろうがしっかり見えている。まあ、大方俺と弥の関係が気になっているのだろうが。


「おい、ぼけっとつっ立ってないでついてこい。」


欠伸を噛み殺し、振り返ってそう言う。少年は不思議そうに首を傾げた。


「俺?何でですか?」


すぐには答えずに、眠っている弥の額に口付けを落とす。いつもの習慣は忘れない、父親のふり、がしたいだけなのだ。


「……俺は昨日完全徹夜でしかも今日は一時間も寝てない上に明日明後日眠れる予定がないのにいきなりあらわれたお前を、丁重にもてなすためだ。」


言いながらドアを開け、部屋を出る。少年は何だかんだいって聞き分けがいいのか、俺のあとをおとなしくついてきた。リビングのドアを開けると、後ろから微かな驚き。


「もしかして鈴……欠さん、かなりの金持ちだったりします?」


なんとも庶民らしい質問だと思ってしまったのは、やはり俺が金持ちだからなのだろうか。キッチンと繋がるリビングには二人がけの黒革のソファーとまたテイストの違う花柄のソファー。

適当なテレビは二つのソファーとまたテイストが違う。まあ要するに、リビングには統一感というものが全くなかった。俺にとっては何ともない事なのだが初めて来た者にとって軽く驚くかも知れない。……もっともこの少年が驚いたのは、地球では最新と言ってもいいプラズマテレビ42型のものなのかもしれないが。


「なんだ、鈴……欠さんってのは。……金持ち。ねぇ。それなりじゃないか?そこらへん座っとけ。」


ソファーをどちらともなく指し示すと、子供は花柄の方にちょこんと腰をおろした。確か花柄は28人目の恋人優奈からの貢ぎ物で、あの上でそういうことをやりたいわ!という下心のもと送られたものだった。そんなことを知ったらこの子供はどんな反応をするだろう。なかなかおもしろい反応が見られそうだと一人想像に思いをめぐらす。妄想じゃない、断じて。


「ここ、あの弥って子と二人で暮らしてんですか?」


唐突に、子供はつぶやく。それにしては広い、とでも思ったのだろうか。


「ああ…そうだ。二年目だな。」


さらりと答えて煙草をくわえる。そうか、二年目か、などと感慨深く思いながらキッチンの戸棚を開ける。綺麗に整頓されている戸棚に入っているものを目で確かめ、座っている少年に聞く。


「何を飲む?酒、紅茶、コーヒー。」


「え、あぁ。有難うございます。俺見た目通り未成年なんで、一応紅茶を」


ああそうか、子供だからアルコールは駄目なのか。

相当寝呆けているらしい。戸棚からだしたウイスキーのグラスを一つ戻し、ティーカップを取り出す。そういえば処分に困る苺があったなと思い立ち、再び子供に問い掛けてみた。


「ああ、わかった。いちご食うか?」


「え……じゃあ遠慮なく」


少しだけ戸惑った様子をみせる子供に首を傾げつつ、やかんに火をかける。適当に熟れた苺を洗って硝子の皿に入れていると、子供はまた遠慮がちに口を開いた。


「弥君、でしたっけ。あの子と鈴欠さんって、親子か何かですか?」


親子、親子か。

親子と呼ぶのにはあまりに不安定な関係だった。まだ二年しか同居していない子供を果たして子供と呼んでいいものか、判断に迷う。はじめの一年間の記憶など、ほぼ記憶にないに等しいし。


「あぁ一応…親子、親子と言えるのか疑問だが。」


苦し紛れ。解らない程度の苦笑を浮かべ、いちごをテーブルへ置く。


「まあ食え少年。」


「ども」


いちごに手をのばす子供の手つきは恐る恐ると言って良かった。どうせくだらないことでも考えているのだろう。鼻で笑うことにして、一向にくわえたままの煙草を箱に戻す。火を付けるのさえ面倒になってきた。

丁度いい温度になった湯で紅茶をいれていると何となく感動した声が聞こえてくる。


「あ、普通に美味い」


「……毒などいれるわけないだろう。」


そう言って半ば呆れながら紅茶を子供の前に置く。眠気がピークに来ているのか、視界が微妙にゆれていた。


「うまっ!これ美味しいですね!」


突然聞こえた感動の声に背中がびくりと跳ね上がる。本気で驚いたのは何時ぶりだろう。心臓が変なリズムで拍動を刻む。けれど。

少しの沈黙の後、小さく呟いた。


「少年は只のガキなんだな」


本当は少年も、と言うつもりだったのだが。これがどうやら失言だったらしく、子供は声をあげる。


「ガキっ!?ガキって……いや、俺これでも精神年齢は高いとおもうんですけど。てか少年少年、名乗ったでしょう、ゼロって」

  

「……ああ、ゼロっていうのか。人間風情の名前なんざどうだっていいが。名前覚えるの苦手なんだ。」


欠伸をしてそう答える。嘘じゃない。ただ名前を覚えられないのは人間も何も一緒だが。子供は一瞬きょとんとしたあと笑みを浮かべた。


「人間風情って、鈴欠さん自分は人間じゃないっていうんですか?」


冗談でしょ?とでも言いたそうに子供は笑う。やはりこれは人間のようだ。それも、本当に何も知らない。

ふと質の悪い悪戯を思いついてグラスをテーブルに置く。ゼロと名乗った子供の頬に手をあて、ほほえんだ。


「俺か?……目を瞑れ。」



左手で子供の目をおおう。悪戯を実行。

背中に意識を持っていくとそこに微かな痛みが走る。骨格が肉を突き破る耳障りな音と新たに通達される隠された意識。

ああよかった、眠気が覚めてきた、などと呑気に思いながら左手を外す。

子供の目は俺の背中の“それ”に持っていかれ、そして大きく見開かれた。


「あんた、一体………」


予想通りの答え。悪戯成功。驚愕を顔に張りつけた子供にほほ笑みかけ、静かに口を開いた。

  

「神の御使い。悪魔だ。」



そう、世にも珍しい神様の愛玩人形。











彼女は綺麗

彼女は鮮麗

彼女は清潔

彼女は新鮮

だから

だからお前は

触れてはならない

汚してはならない

愛してはならない

そんなこと

そんなこと解っていた

 

    

だからさ

彼女を壊したのはやっぱり君の浅はかな思考のせいだよ




運命に勝てると思い上がっているのなら君はとんでもない無能だよ




そんなこと




前回に引き続きコラボです。前回どじなことに、私は麻生先生の作品名書きませんでした。ごめんなさい。『名前泥棒』です。すごくおもしろいので是非に是非に。

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