表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/54

PACE5-9→Pure Ark Cool Each

開かずの間

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

君が居たことを忘れぬように

   

君を殺したことを忘れぬように

   

君を愛したことを忘れぬように

   

ただ一つの真実だけ。なくさぬように

   

   

   

   

   

   

   

その男は法廷に立った時、一言だけ呟いた。最初から最後まで弁護も何もしなかったのに一言だけ。

   

「嘘じゃなかった」

   

それが何についての言葉だったのか、誰も解らなかった。

そして永い時がたち。

男は再び法廷に現われる。


   

「何故遅れた。」

   

問い掛けるとその男はさらりと言った。

   

「朝は弱いんだ。」

   

ざわっと、場内がわいた。隣に座っている男が喚く。

   

「裁判官を侮辱する気か!」

   

「侮辱はしていない。何でもいいから早くしてくれないか。眠いんだ。」

   

その態度にまたもや場内がわく。ため息をついて罪人を眺めると過去と同じように目があった。逸らされると思った視線は、外されずに繋がったまま。罪人の声が耳元でした気がした。

   

「久しぶりだな、戒問。」

   

くすくす、罪人は笑う。あの男は知っているのだ、自分が無実であることを。

   

「……静粛に。」

   

静かに呟いて槌をならす。罪人は静かに顔をあげた。

   

さぁさぁ銀の男が行き着く先は

愛しき子供か、羽切り台か。

    

    

    

    

    

    

    

    

    

眠れないのなら昔話を始めましょうか。愛しい記憶の欠片たち。

   

幼い子供は無表情な大人を見上げ、不安げに呟いた。

   

「あの」

   

「あ、あぁなんだ?」

   

物憂げな表情のまま、男が下をむく。玄関につったったままの二人は広い家の中でひどく滑稽だった。

   

「僕……あの、どうしたら……。」

   

「え、あ……あぁ…どうするか。」

   

右手を所在なさそうに組み、男はため息をつく。子供は子供で心配そうに男を見上げた。

   

「あ、あの。」

   

「あ?」

   

それは低い声で、子供は驚いたのかびくりと肩を震わせる。怯えた目をした子供に慌てた男は、早口に謝罪を口走った。

   

「悪い恐かったか?その、別に怒ってるわけではないんだ。な?」

   

「あ、はい……。」

   

子供もあいまいに頷く。再び、二人の間に沈黙が落ちた。

   

「……そう、だ。部屋、何処がいい?」

   

やっと話題を見いだしたとでも言うように男は呟く。この時男の頭には"あの部屋"の存在はなかった、忘れていたのではない、忘れようとしていたのだ。

   

「部屋、ですか?」

   

「ああ、ここに住むからには必要だろう?」

   

「そう、ですね……。」

   

困ったように頷いた子供はそっと奥をのぞく。まるでホテルか何かのようにドアが続くこの広い家の中で、ただ一つ部屋を決めるのはひどく困難なように思えた。

   

「えっと……じゃあそこ。」

   

子供がさしたのは廊下の向こう、玄関の正面の部屋だった。男は頷いて子供をやっと家にあげる。

   

「あまり片付いてないが……。」

   

呟いた男はドアを開こうと手を持ち上げ、そして止まった。動揺したように目を足元にやり、そしてまた、自分が伸ばした手にと視線を戻す。男はひどく混乱していた。思い出したくない記憶を思い出し、怯えた声をあげる。

   

「………。」

   

声は音にならなかった。不安げな子供の視線に気付かぬまま、記憶に怯える男は荒い呼吸を繰り返す。

ドアノブから頭へ。持ち上がった両の手が男の頭を抱える。がくりと細い膝を折った男はついに俯いたまま動かなくなってしまった。

   

「……っ。」

    

「あ、あの……。」

    

子供は何か、男に声をかけようとして止まる。八つにしては大人びていた子供だったが、それでもこの男になんと声をかければいいのか、子供にはわからなかった。不安げに、座り込んでしまった男を見つめる。

   

「……駄目…だ……。」

   

やがて口を開いた男はそう呟いた。見る者が苦しくなるような淋しそうな笑みを浮かべ顔をあげる。

   

「悪い……この部屋は駄目なんだ。」

   

平静を装うには時間がたちすぎていたが、男の中の時計は違う時の刻み方をしているのかどうにか笑おうとする。元来自分は笑わない性格だと言うことを男はすっかり忘れていた。

   

「わかりました。じゃあ貴方の部屋はどこですか?」

   

男は困惑したように子供をみた。座り込んでいる男と、ちょうど同じ目線の子供は愛らしくほほえむ。

    

「ああ……ここだ。」

    

指差されたのは玄関から二つ目のドアだった。すると子供は、迷わずその隣の3番目のドアを選んだ。

   

「僕この部屋にします。いいですか?」

   

「あ、ああ……。」

   

「じゃあ今日からよろしくお願いしますね。」

   

「ああ……解った。」

   

ぺらぺらと子供が喋る。男は困惑したように頷いた。ぼうっとした目をした男は、押されたように子供を見ていた。

   

「……無理しないでくださいね。まだ、具合悪いんでしょう?」

   

「は……?」

   

「さっきも立ってられなかったじゃないですか。今日はもう休んだほうがいいです。ほらほら。」

   

「は……?お、おい?」

   

子供は見たくなかったのだ男が悲しそうにする顔を。

こうして出会った男と子供。ふたりの行く先は誰にもわからない。

   

   

さあさあこれでおしまい。おやすみなさい。

え?あの部屋は何かって?

それはまた、別のはなし。

   

   

   

   

   

PACE5.5→fin...

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ