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PACE5-4→梅 3

  

   

    

内緒内緒。

    

    

    

薄墨の空の下、二人の大人が内緒話。

    

   

旦那。

   

……。

   

旦那ぁ、そりゃつれねぇや、焦らさないで教えてくだせぇ。

   

問題はない。いや…ないわけではないが。

   

そりゃ困りますぜ旦那。

   

安心しろ、貴様等には無関係だ。

   

はぁそりゃぁ良かった。ん?となると旦那は何か問題で?

   

言っただろ、貴様等には関係ないと。

   

左様で。にしても旦那ぁ。

   

……何だ。

   

何もかも知ってるってぇのは"此処"が痛くねぇですかい?

   

  

何がいいたい?

    

“此処”でござんすよ。此処。

   

別に怪我はしていない。

   

はぁ、はぐらかされちまった。まぁ旦那、旦那も大変でござんすねぇ。

   

お前の相手がな。

   

おや、お気にさわりましたかい?

    

さぁな。

   

旦那ぁ。

  

何だ。

   

声がとげとげしくていけねぇや。神経質になると体に悪いですぜ。

   

……。

   

あれ、怒っとります?

   

かえる。気分が悪い。

   

旦那?

   

“此処”が痛くないかといったな?

   

は?

   

   

ざぁぁ。と、木々が唸る。本物の月が身を隠し、月と呼ばれる男は小さく口の端をつり上げた。

    

    

くだらない。

    

   

        

       

      

       

        

      

        

        

          

          

       

      

    

       

     

        

       

      

      

「弥は俺の荷物で子供であって戦闘員でも部下でもない。弥は選択肢に含まれない。」

   

美子さんの声にきょとんとしていた師匠が、でも我に返ったようにそう言った。瑠宇さんも秋穂さんも詩葉さんも、二人の冷たい空気について行けずかたまったまま。師匠が小さくため息をついてさらに続ける。

   

「お前に何の意図があるのか知らないが、弥はこの仕事には関与しない。」

   

「嫌です。」

   

「嫌でも、だ。」

   

「嫌です。」

    

師匠が額に手を当ててため息をついた。疲れてる、ジェスチャーではないことは表情を見ればわかる。眉間によったしわが、また深くなった。

   

「困らせて何がしたいんだ。世の中には思い通りに行かないことだってある。そのくらい解るだろう?」

   

微笑む、師匠。

   

「しりません。私は弥さんでなければ嫌です。」

   

深い、ため息。師匠は俯いてそれから顔をあげた。

  

「だ、そうだ弥。お前から言え。」

   

「へ?」

   

「できないだろう?お前には戦闘能力もなにもない。」

   

「……あ、はい。」

    

じゃぁ断れ。

師匠は俯いたままため息をつく。ふと、美子さんに視線を向けると、美子さんはとても切なそうな顔をしていた。綺麗な、目。

   

「………やります。」

   

「……?!」

   

師匠が信じられない、と言うように顔をあげた。

  

「やりますよ、僕。」

   

「お前自分が何を言ってるか解ってるのか!?」

   

師匠が取り乱してる。怒ってるんじゃない、きっと、もっと違う感情。でも、この時僕は、師匠が心配してくれてるとか、思いもしなかった。

  

「でも……。」

  

「いいじゃありませんか。ご本人がよろしいとおっしゃってるんでしょう?それとも何か問題が有りますの?」

   

「問題がないとでも?!役に立たない子供を護衛にして何の意味があるっていうんだ!」

   

「私だって、自分の身が守れないわけではありませんから。」

   

「そういう問題じゃないだろう?!なんでも思うことが叶うと思うな!出来ないことは出来ないんだ。そのくらい理解しろ、貴様は無能か!」

    

師匠が怒ってる。美子さんは未だにかたくなだけど、僕には我慢ならなくて、師匠にすがってしまった。

   

「師匠やめて下さい!ほら、女の子怒鳴っちゃ可哀相です!美子さんの言っているように、僕がいいっていってるんだからいいじゃないですか!」

    

こんな、大声を上げるつもりは無かったんだけど。一瞬、師匠の表情が止まった。

    

「あ、あの、弥、くん。」

    

詩葉さんの声を師匠は遮る。怒っていると思ったのに師匠は笑顔だった。

   

「あぁそうか。じゃぁそうすればいい。」

   

そういうと、師匠はふわりと立ち上がる。

   

「何処へ?」

   

「頭が痛い、少し歩いてくる。」

   

出て行ってしまった師匠を目で追うと、美子さんに無理矢理立ち上がらされた。

   

「お父様、御夕飯まで外を見てきていいかしら。弥さんに景色をお見せしたいの。」

   

「あぁ、行っておいで。」

   

「さ、行きましょう弥さん。」

    

美子さんに引張られて歩き出して初めて気付いた。

師匠とこんなふうに別れたのは初めてだ。

        

      

      

          

        

        

       

       

       

      

      

        

         

          

     

     

       

      

    

     

美子さんと別れて、さっきの部屋に行くと師匠がいなかった。

   

「あれ、師匠は……?」

   

「あぁお帰りなさい。鈴欠さんなら、気分が悪いって寝てますよ。調子が悪いみたいです。」

    

「そうなんですか?」

   

「隣の部屋ですから、お見舞いでもしてあげて下さい。」

   

ぴったりと閉じられた襖を見て、小さく頷く。開けるのには抵抗があったけど、何となく師匠が心配で、そっと襖を開けてみた。

   

「……師匠……?」

   

「……。」

   

反応はない。お布団に潜り込んでいる師匠に、そっと近づいてみる。

   

「師匠?」

   

「……。」

   

布団の横に膝をつく。僕に背をむけていた師匠が、ちらりとこちらを見た。

   

「具合、どこが悪いんですか?」

   

「……。」

   

無視。こほこほと軽く咳き込んだ師匠は毛布を引き上げて丸くなる。

   

「あの……。」

   

「恩知らず。」

   

「は?」

   

「……。」

   

会話が成り立たない。咳き込んだ師匠は再びちらっとこっちを見た。

    

「……えっと…。」

    

「できるもんならやってみろ。俺等の仕事はそんなに甘くない。」

    

「でも……。」

    

「悪いことは言わないから断れ。今ならまだ間に合う。」

   

「ぇ……。」

    

師匠がため息をついて体を起こした。額に手をあててため息をつく。

    

「ったく、誰かさんのおかげでだいぶ幸せが減ったな。……といっても、もともと幸せなわけではないが。」

   

「師匠、あの……。」

   

「知らん。」

   

「は…?」

   

立ち上がり僕の横を擦り抜けた師匠は小さくため息をつく。やっぱり怒ってるんだ。再認識したときには遅くて、ぱたんと襖が閉まった。

   

「怒らせちゃった……。」

   

ため息。僕の幸せも、一体あといくつだろう。












いいんですか?コレで。

   

駄目だとして他にどんなやり方があるって言うんだ。

   

あるでしょう?色々と、ね。

   

そんなこと出来るか。

   

見栄っ張りですねぇ。顔を合わせるのが気まずくて仮病まで使った癖に。

   

それとコレとは関係ないだろう。だからお前は嫌いなんだ。

   

みぃんな嫌いなんでしょう?貴方の口から好き、とかって類の言葉を聞いたのは五本の指に入るか入らないかくらいですよ。

   

同姓相手に好きなんざ言えるわけ無いだろう。

   

本当に?

   

どういう意味だ。

  

そのままの意味ですよ。疑り深いですねぇ。

   

お前を疑わずして誰を疑えというんだ。

  

あぁ確かに。

   

……。

   

どうしました?

   

親子ごっこもそろそろ終わりか。

   

……それがどうか?

  

変な、むなしさを感じるな。

  

そうですか?

   

あぁ。これでも可愛がってきたつもりだったんだが。

   

歪んだ愛情ですか?

  

……全くだ。

   

   

淋しそうですね。お一人で大丈夫ですか?うさぎさん。

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