PACE5-4→梅
美夢
――今回の任務について、彼にはお話したんですか?
いや、する必要はないだろう。
――重要なことでしょう?裏切り者とそしられるのは貴方ですよ?
いいさ、慣れている。面倒だろう?
――嘘はいけませんね。
どういう意味だ。
――貴方は昔からそうですよね。
何がだ。
――言っておきますが、自己犠牲はあまり美しくないですよ?もっとも、貴方は一度それに失敗していますが。
相変わらず嫌な性格してるな。天才。
――貴方こそ、女々しさが変わらないですね。まだやってるんですか?あの仕事。
女々しいなんて言うのはお前くらいだ。
――おや、話を逸らされた。あぁそう言えば……。
なんだ。
――まだ行ってるんですか?毎月、彼女の墓参り。
悪いか。
――いいえ?ひどくご執心だなぁと。
何が言いたい。
――愛していたんですか?
……。
――あぁすみません。突っ込みすぎましたね。さて、あれがヒロくんですか?
……そうだ。
――貴方の未練の塊の。
そうだな。
――にてないですよ?ああでも貴方に世話を焼く姿が似てますね。
そう言うように育てたからな。
――へぇ、意外。肯定するんですね。
そうか?
――なんと言うか、貴方も危ない人ですねぇ。
今頃気付いたのか?
――ええ。独占欲は人一倍強そうだとは思いますけどね。なんと言ってもあの方のお気に入りですし。
そうかもな。
――おや?何を笑っているんです?
異常者に心配されるとはな。
――心配はしてませんよ?
俺はそれでも、お前よりは正常だと思うがな。
――へぇ、それまたどうして。
天才。お前のあの、悪趣味な性癖は今も治ってないのか?
――残念ながら。今からとてもわくわくしてるんですよ。
……そうか。お前も豪いマゾヒストだな。
――滅相もない。私はあの顔が好きなんですよ。恐怖とか、怒りとか、恨みとかで歪むあの顔が。
悪趣味だな。
――知ってます。あのぞくぞくする顔がたまらないんですよね。あ、蘭花さんには内密に。
興味ないから話すこともないだろうな。
――あんなにかわいらしいのに。
あぁはいはい。250年以上片思いだっけか?
――気違いよりましですね。
お互い様だ。
「美子にございます。」
思わずぼーっと見とれてしまった。
瑠宇さんの後ろから顔を出したのはミコという綺麗な女の子。紅い着物が映える白い肌と銀と金が混じった不思議な色の髪。金色の瞳は吸い込まれるような感じさえする。
「この子は今年で十二になります。弥君、どうか仲良くしてやって下さいね。」
「え、ぁ、はぁ、よろしくお願いします…?」
恐いくらいに目がそらせない。あぁ魅入るってこういう事をいうのか、と何となく納得。耳が機能を停止したように、外界からの音が止まる。目は彼女の瞳の金しか入ってこない。あ今、何考えてたんだっけ。思考回路が、崩れる。
「弥、惚れたか?」
後ろから現実的な低い声音。驚いて振り向くと、馬鹿にしたような師匠の笑い。風の音が、急に大きく感じられた。世界はこんなに色彩に富んでいるのか、と感心する。顔が熱い。
「お前にはまだ早いんじゃないか?年上の女は恐いぞ?」
師匠の嫌な笑いでからかわれてると直感し頬を膨らませると、さらに笑われた。悔しい。
「やめてください。僕は師匠みたいな人じゃないですよ。」
「ん?それはどういう意味だ?」
にっこり。ちょっとひるんだけど、そのままの意味です、と言ってやる。めずらしく反撃なし。
「……まぁ立ち話もなんですし、私のうちへどうぞ。」
瑠宇さんの提案に師匠が頷いた。そういえば瑠宇さんの髪は漆黒だけど、美子さんは誰ににたんだろう。
「弥。」
歩いていく瑠宇さんと美子さんを横目に師匠が僕を呼ぶ。なんだかそわそわしていて、少し怪しい。
舗装されていない道で遊んでいた子供達が、珍しそうに僕らを見ている。
「どうかしましたか?」
「お前本当の所惚れたのか?」
「はい?!」
予想外の問いかけに声を上げる。からかっているのかと思って睨みあげると、そうでは無いらしく真剣な師匠な顔があった。何か言いづらそうな顔。
「……何か問題でもあるんですか?」
「……いや、得に……。」
歯切れの悪い返事。小さくため息をついた師匠は、話題をすり替えるように歩き出した。
「師匠?」
「……。」
「師匠?どうかしたんですか?」
「……弥。」
師匠の声はやけに真剣で、僕は少しひるんでしまった。
「何、ですか?」
「何があっても、あまり驚くなよ。」
「あ、はぁ。」
そんなに真面目に宣告しなくても、師匠は昔から破天荒な事をしてきたしいまさら何をされても驚かないと思うけど。師匠の顔があまりにも真剣なので(と言ってもいつもと一緒の無表情)なんとなく頷いてしまった。何故かわき上がる、不安。
と、師匠の足が急に止まった。視界が明るくなっている事に気付く。
空の青から、世界は白へ。
「あぁ、皆さんは初めてですね。こちらはこの村に昔からある珍しい梅の木でございます。いつから此処にあるのか、いつから咲いているのか、そしていつまで散らないのか。全くの謎のこの梅の木は、散り知らずの梅と呼ばれています。」
美子さんの説明に、視界がはっきりとしたように感じた。霞がかった白い世界に梅の花が大量に咲いている。
「美しいでしょう?」
美子さんの声に、ぼうっと頷く。視界と一緒に、頭の中が霞んでいく様な気がした。
「これ、ホントに散らないんっすか?」
秋穂さんが口を開く。ええ、と頷く美子さんに、彼はくすりと笑った。からかっている様な笑いで、なんだか変だ。
「ですって、課長。」
「そうか。」
意味深な言葉の応酬に美子さんが不思議そうに問いかける。
「どうかしましたでしょうか?」
「あぁいや、別になんでもない。」
即答。いぶかしげに首をかしげた美子さんはしかし、それ以上問いつめる事はなかった。
「家はこちらです。どうぞ。」
美子さんが歩き出す。師匠が誰に言うでもなく呟いた。
「散らない花の何処が美しいんだ。」
「全くですね。」
同意する秋穂さん。視線を感じたらしい師匠が僕を振り返り、そして困ったような顔をした。
「綺麗じゃないんですか?」
「忘れろ。」
「ねぇ師匠!」
「……儚いものの方が美しいと、俺は思うが。完璧には興味がない。」
「そんなことないですよ。さっきのお花だって綺麗じゃないですか。」
半分ムキになって言うと、師匠は苦笑した。
お前にはそう見えるんだな。
その言葉は何故かとても切なかった。
ねぇ鈴欠さん。
――なんだ。
何年ぶりでしたっけ。
――さあな、300年ちかくたってるだろうが。
覚えてます?
――何をだ。
最初の仕事。
――忘れた。
顔に覚えてるって書いてありますよ。貴方は苦しそうだったけど、私はとても楽しかった。
――お前と俺じゃ根本的にちがう。
そうですねぇ。
――……。
……最近思い出したんですけどね。
――昔話がおおいな。
そうですか?……何か気に障りました?
――別に。
貴方私の顔を見て、開口一番変なこと言いましたよね?
――…さぁ覚えてないな…。
お前が本当の天才か。って。
――別におかしくないだろう。当たり前だ。
何が本当の天才、なんだか。貴方こそ天才と呼ばれていたのに。
――俺を天才と呼ぶには頭脳があまりに貧相だろう。もともと努力は好きではないし。
私も嫌いですよ?
――お前は別格だ。
それって誉めてます?
――いやまったく。
……。
――…。
ねぇ、鈴欠さん。
――なんだ。
今度のお仕事は、どう正当化なさるおつもりですか?




