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PACE1-1

秘密

 

『鍵閉め忘れないでね〜。うんとぉ、玄関でて右方向、とりあえず街に出て〜。しぃちゃんの気配はずっと止まったままだしネ。』

  

「ちゃんと仕事してるかなぁ…。」

  

『…しなぃでしょぉ〜。家に持って帰ってきてもひぃ君に強制されなきゃやらなぃじゃなぃ。』

  

「だよね」

 

師匠は基本的に面倒なことが嫌い。

仕事はぎりぎりまでため込むし、家事全般は僕に任せっきり。何の仕事をしてるか定かじゃないけど、この点について師匠は尊敬できない。

500年程前から変わらないという街の景色。

石畳に、煉瓦の家。

立ち並ぶお店や家に目を向けながら僕はマリエスと会話していた。

考えてみたら人形相手に話してるんだから、人がみればかなり奇妙に映ったかもしれない。

  

『…あ〜。これは、ひぃくんにとって衝撃的かもだねぇ〜。』

 

「え?」

 

『はぃ、右むけー右っ!目の前の喫茶店をごらんなさい〜。』

 

…ぇ?

頭が真っ白になって状況が理解できない。

花壇と道路を挟んで向かい側。

オープンカフェに師匠を発見。

まぁ、そこまでは100歩譲ってよしとしよう。

問題は向かい側に座っている人物。

白いワンピースを着こなした、綺麗な女の人…。

果たしてこれが仕事相手だろうか。ついでに数十秒前二人は口付けをかわしていたが。

 

「…。」

 

これは連れていってくれないわけだ。

まさかデートに子連れじゃ行けないだろうなぁ…。いや、問題はそっちじゃなくて…。 

 

「…仕事、じゃないよね。」

 

『そぉねぇ〜…さすがしぃちゃん…。』

 

「…もしかしてさ、いつもこの為に出掛けてる、とか?」

 

多いにありえる。優しく微笑んでいる師匠が、ふとこっちをみた。

 

「やばっ!?」

 

慌ててしゃがみこむ、花壇に隠れてそっと顔をあげると、師匠は女の人と話していた。気付かれなかったみたいだ。

 

「帰ろうか…。」

  

『そぉねぇ…。』

  

驚いたのと幻滅したので、僕らのテンションは下がりに下がっていた。

 

「帰り道、わかる?」

 

「おぅ、送っていってやろう。この、馬鹿弟子が。」

 

死刑宣告。

後ろから聞こえたのは、たぶん笑っているであろう怒り狂った師匠の声。

振り向こうとすると、後頭部に足が添えられた。  


「し、師匠…。あの、こんにちは。」

  

「こんにちは。さて、ききたいことが山程あるんだが? お前、ここで、いったい、何を、している?なぁ、マリエス。」

  

丁寧に一言一言区切っていってくれた師匠は、ぐいっと足に力を入れてくれる。その内、折れるって…。

  

「し、師匠こそ、な、何をしていらっしゃるんですか?」

  

「仕事の最中だった。」

  

「真顔で嘘つかないでくれます?」  


「失敬な、嘘ではない。」

  

「どのへんが?」

  

「正しくは、仕事に見せ掛けて女と遊んでいる最中、だ。」

  

「長っ!」

  

「そうだ、だから短縮してやったんじゃないか。わからん奴だな。」

 

「だからっていいように短縮しないでください。それじゃまるで、師匠が仕事してるみたいな…痛っ!師匠、イタイ!痛いですって!」

  

「失敬な奴だな、俺はイタくない。」

  

「ち、違います!そっち方面のイタいじゃなくて! っつーか折れる!死にます!」

 

「ん。心置きなく死んでくれ。お前の保険金がおりれば、借金返済も幾分か楽になるからな。」

 

「しゃ、借金?!きいてませんよ?!」

  

「あぁ、言ってない。」

  

「さらっと言わないでくれます?馬鹿師匠。」

  

「…。ほう。死にたいか。」

 

「あ、いぇ、助けてください。」

 

「…そうだな、金が必要なんだ。保険金もかなり魅力的だが、そうすると濡れ衣着せられて裁判にかけられそうだし…。あの男は人の話をろくに聞かないから嫌いなんだ。」

 

「師匠みたいですね。」

 

「あ?」

 

「な、なんでもないです!」

 

このままだと、しっかりきっかり首はありえない角度まで曲げられて、僕はたった10年あまりの短い生を終えるわけで…あぁ神様、これが調子にのった罰ですか? 


「仕方ないな、おい、立て。」

 

「は?」

 

「いいわけ手伝え、まさかお前をこのまま野放しにはできない。」

 

師匠に無理矢理たたされた。

ぱたぱた埃を払われ、さらに手を引かれる。喫茶店に入ると師匠の表情が優しくなった。

そのとき僕はというと、借金の話が気になって仕方がなかったのだけど。

バイトすべきかな、っていうか、師匠もしかして、女の人に貢いでるんじゃ…。見栄っぱりだからなぁ…。

 

「おかえりなさい。…あら、視線の原因はその子?可愛いわね。どなた?」

 

「俺の弟子で弥というんだ。杏、悪いんだが今日はこれで。こいつを家に帰さないと。」

 

「仕様がないわ、また誘ってくれるかしら?」

 

「君を誘わないで誰を誘うと?また連絡するから待っていてくれ。」

 

「えぇ、待ってるわ。私はいつでも平気だから。」

 

美人さんが手を振る。

あのワンピースも師匠が買ったのかな、高そうだな。と僕は考えていた。

 

「で?」

 

「は?」

 

「お前は、いったい、何がしたい?……だから餓鬼は嫌いなんだ。」

 

深い、深いため息。

 

「あ、あの、師匠そのぉ…」

 

「仕方ないな。これじゃ平穏が危ない…。おい、マリエス。お前、何してくれるんだ。」

 

『何もしてなぃよ〜。扱き使われてるひぃ君が可哀想だったのぉ。』

 

「そりゃ良かったな。俺は使ったつもりないが。」 


「使ってるでしょ?」

 

「お前に発言権はない、生かしてもらってるだけで感謝しろ。」

 

『当たり前じゃなぁい』

 

「…まぁいい。お前に何か教えるのは面倒そうだったからいやなんだ。物覚え悪そうだし。」

 

「失礼じゃないですか。それ。」

 

「いや、仕方ないだろう?」

 

「…いいですけどね。で?なんですか?やる気になりました?」

 

「なんだ、その言い方。まぁ、そぅだな。このままだと女つれて歩けそうにないし。…監禁すべきだったか。」

 

監禁…。師匠ってどこまで犯罪チックなんだろう。いつか僕のことをあの世に送ってくれそうで本当に恐い。人間とちがって、悪魔は輪廻がないのに。

 

「…まぁ、神にはあらがえない。か。」

 

「?」

 

 

「そうだな。一番の基本を教えてやろう。神は絶対だ。なによりも、だれよりも、我々は神を優先しなくてはならない。」

 

意外な言葉。悪魔と言えば神様に反逆を企てる者ではないのだろうか。

 

「神様に敵対してるんじゃ、ないんですか?」

 

「勝手に俺の部屋に入るな馬鹿者。それは、地球の人間の宗教的見解。人間、わかるか。」

 

「えぇ、大体なら。」

 

「よかった、あの説明は苦手なんだ。あ〜何故俺がこんなことをしなくちゃならないんだ。っんとに面倒だな。何で弟子なんかとったんだか。」

 

なぜか後悔しだした師匠を、呆れた目で見つめてみる。その表情は、どこまでも無表情。彼は表情に乏しいのだ。

 

「そぅ、だ。やることが無かったから、だったな。」

 

「は?」

 

「お前がくる前は、やることがなかったのさ。」

 

どこか懐かしげに師匠は笑った。

他の人ではわからないだろう、笑ったかどうかも定かではない笑み。

 

「退屈は苦痛で恐怖だ。確か俺はそれを抜け出したくて……それでお前を引き取った。随分待たせたらしいな、後で挨拶にいったら水かけられた。殺されるかと思ったな。女は恐い。」

 

珍しくおどけてみせた師匠は、静かにため息をついた。

たまに、本当にたまになのだけど、師匠はこんな顔をする。何かとても淋しそうな…そんな顔。

 

「…あぁそうか、製造者の話をしておくべきなのか?」

 

「製造…母と呼ばれる人のことですか?」

 

「そうだ、…っていうか、俺の部屋に入るな。」 


そっぽをむいて知らないふりをしたら、頬をつねられた。

僕は痛かったけど師匠はおもしろかったようだ。

二回、三回。変なことにはまらないでほしい。

 

「製造者、200年以上生きた女悪魔がなることを許される役職だ。言葉どおり悪魔を創るのが仕事。といっても本当にカタチをつくると言うことではなく、神との卵を体内にいれて産み落とすのが仕事、と言うわけだが。それが人間の生殖に酷似しているため、我々は製造者のことを母と呼ぶ。いいか?」

 

「ぇ、えと。」

 

「わかってないな。…まぁお前は男だから詳しく解らなくても支障はないだろうが。」

 

「…?ぁ、じゃぁ男の人が記憶者ですか?」

 

「そうだな。こっちについては年齢が関係ない。引き取る子供の数もみな違う。まぁ、すべて神の気分でかわるっていうことだ。記憶者になった、という証はコレといってないな。製造物の声が聞こえるくらいだ。」

 

「…へぇ。」

 

実をいうと、僕は師匠に迎えにきてもらっていない。

規定の時間から一月、師匠の友人の捺姫っていう人が代役でやってきた。

別に気にしてはいない、その時師匠に何があったか知らないけど、とりあえず大変だったみたいだし…。

だけど、師匠の性格を考えて僕は小さくつぶやいた。

 

「師匠、あんまり迎えに来るつもりなかったでしょう?」

 

「何言いだすんだ、そんなわけないだろ。」

 

「棒読みですね。いいですけど。で?記憶者の仕事は?」

 

「…製造物に教育を施し、覚醒(めざめ)させること。ま、ほっといても覚醒るからな。そのつもりで働いて俺に奉仕しろ。」

 

「師匠?」

 

「お前本当いい性格してるな。前はあんなに素直だったのに。覚えちゃいないが。」

 

…覚えてないなら言うなよ。そう思った僕は、ある反撃を思いついた。

 

「ねぇ、師匠。昨日の夕飯覚えてます?僕、力作だったんだけどなぁ。」

 

「あ?なんだ、いきなり。」

 

「あっれ、師匠覚えてないんですか?!も、もしかして老化が?!」

 

「お前、本気で口きけなくして欲しいか?」

 

「答えないのが何よりの証拠ですよ?」

 

師匠は、黙り込んだ。

 

「覚えてない。」

 

「……。」

 

「覚えてない覚えてない。」

 

「……………。」

 

「覚えてない覚えてない覚えてない。」

  

「…………………。」

 

「覚えてない覚えてない覚えてない覚えてない覚えてな……。」

 

「暗示をかけるな!今喉元まででかかったんだ馬鹿っ!…いやいや待て待て待て、そんなわけがない。忘れてない。…っていうか考えてる時点でお前のペースだろうが!!お前なんだ無駄なことばっか覚えるな!」

 

おこった師匠に、にっこりする。

 

「大丈夫ですか?おじいちゃん。」

 

「覚悟しろよ、糞餓鬼」

 

「あの、殺すのは構わないんですけど、師匠困りません?」

 

ぴくっと師匠のまゆがあがった。

 

「洗剤の場所、わかります?」

 

「…?何が…。」

 

「じゃぁ、掃除機の場所は?」

 

「…。」

 

「僕は構わないですけど虫、どうするんです?」

 

「あぁもう勝手にしろ!!」

 

こうして僕は師匠に勝った。

仕返しは…もっと恐ろしかった、けど。 

 

 

PACE1-1→追跡追撃特効部隊→fin...to be continued.

嘘じゃない、あの時、お前に言った言葉。

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