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PACE5-2→邂逅

困惑

         

       

       

              

       

         

           

           

           

           

           

          

           

          

           

              

           

          

それは

築き上げられた信頼

もしくは……

           

    

     

     

     

     

      

     

     

     

          

      

          

          

       

          

       

「それで?」

   

師匠の声がさっきからどんどん冷え込んでる。最近暖房の調子が悪いんだからやめてほしい、半ば八つ当たり気味に呟いてみた。

         

「あぁあぁ解かった解かった。俺が代わる。あ?お前らじゃ話にならんだろう。誰か一人連れて行くからそのつもりで選んどけ。お前はだめ。残って反省文書いておけ。どれか使える奴……秋穂でいい。あいつ一月空けろって伝えとけ。いいな?……だいたいお前なに他支部の仕事に首突っ込んでるんだ。俺はそんなこと教えてないし、やって見せたことも……そんなのもう忘れた。知らない。俺は知らない。あぁ?お前口答えすると手助けしてやらないからな。」

    

いらいらしてるように見せる、師匠の口調。妙にやさしくてなんか変な感じだ。

    

「あぁ解った。秋穂は捕まったか?……了解。じゃぁお前、その部屋からでるな。あぁすぐにいくから。よし、イイコだ。じゃぁ。」

     

切られる通話。着ていた上着を僕に押しつけた師匠は、すたすたとバスルームに消える。そう言えば猫はどこに行ったんだろう。師匠より先に見つけないと、捨てられてしまう可能性だってある。慌ててリビングを出ると、バスルームのドアの前で固まってる師匠が目に入った。どうしたんだろう?

        

「弥。」

     

「はい?」

     

「これは、どういうコトだ?」

       

お風呂場には猫。中はぐちゃぐちゃにかき乱されていて……どうやら猫がやったらしい。気付いたときには師匠の怒りはMAXに達していた。

    

「俺が何を言いたいか解るよな?」

     

にっこり。極上の笑顔。堅くなりながら必死で頷くと、よろしい。とやっぱり優しげな微笑み。まずい、本当に怒ってる。

    

「今から十分以内に、こいつを捨ててこい。俺は。この動物が大嫌いだ。」

      

さらににっこり。師匠が猫のコトが嫌いなのは解ったけど……どうやって捨てればいいんだろう……。悩んでいたら師匠は優しく忠告してくれた。

    

「あと、九分だぞ?」

      

師匠は恐い。

久々に再確認した、確認したくない事実だった。

         

         

     

     

    

     

     

   

    

    

   

     

    

    

    

    

    

    

    

    

地球とも宇宙とも、違う次元の、場所。

   

東は清き流水の村。

   

西は美しき散華の村。

   

互いに手を取り合うべきの二つの村は今や……。

    

   

    

    

華の村に幼子一人。

   

散らない梅のすぐ下でぽーんぽーんと鞠をつく。

    

梅模様の、紅い振り袖。

     

    

    

    

     

     

     

     

     

     

     

     

かつーんかつーんと靴底が硝子の床を叩く音。

銀色の髪の高位悪魔と紅い髪の司令官が延々続く螺旋階段を登っていた。司令官の方はすでにバテ始めていたが、銀髪のほうはまだまだ余裕なようで無感動に階段を制覇していく。

世界は淡い紺と深い紺で彩られていて、吹き抜けの下と上は引き込まれるような紺の中に金属色の螺旋階段が吸い込まれているだけ。そこだけはまるでいつもとは違う異空間の様で、偏った色彩の中で燃える赤色は酷く不釣り合いだった。

    

「どうして、エレベーター止まったんだ?」

    

銀髪の高位悪魔、即ち鈴欠が口を開いて遅れている司令官を振り返ると、司令官箪笥は苦々しげに答えた。

   

「お前の部下が例の奴らともめてな。壊したんだよ。」

    

「あぁそれはご愁傷様。大丈夫か?日頃座って書類にハンコ押すだけの仕事で運動不足なんだろう?腹の脂肪、そろそろまずいんじゃないか?」

      

この男特有の“優しげに嫌な笑い”を浮かべた鈴欠に、司令官は何かを言い返そうとして、止まる。勝てないと思ったのか、はたまた面倒になったのか、そのところは定かでない。

現実的でない空間に、妙に現実味のある話。

    

「で、お前どうするんだ?部下の後始末は。」 

    

「面倒だが俺が行くしかないだろ?他の奴らに手に負えるような仕事じゃない。」

    

「だろうな。妥当な判断だ。向こうからも一人出してくれるそうだからそんなに大変ではないだろう。相手はほとんど人間と変わらないからな。」

    

「了解。」

    

司令官の言葉に頷いた鈴欠が、また早足で硝子の螺旋階段を登り始める。実はこの男、高い所があまり得意でない、というのはここだけの話。手すりは金属であるものの、床は淡いブルーの硝子であるこの階段は普通の悪魔でもなかなか恐怖を誘うものではあった。見た目は確かに美しいが。

ふと想い出したように司令官は言う。

    

「そう言えば、この件は報酬でないからな。」

    

「そうだと思った……また俺はわざわざ他支部まで苦労をしに行くわけか……。」

    

前回の任務を想い出し、軽く司令官をにらんだ鈴欠はため息をつく。さっと視線をそらした司令官に、一瞬回し蹴りをするべく左足を持ち上げ掛けた鈴欠が、登ってきた螺旋階段の高さを考え、寸でのところで止まる。ここからの落ちっぷりはさぞ見事だろうに、と呟いて、彼は素知らぬ顔で階段を上り始めた。

       

「鈴欠。良く大丈夫だな。」

    

「お前と違って鍛えてる。仕事もお前の倍こなしてる。おかしくないか?俺、休暇中なんだが。」

    

鈴欠の声に司令官は確かにな、と頷く。

   

「それはお前の日頃の行いが悪いからじゃないか?だから仕事は増えて休暇が取れないんだ。ざまあみろ。ばーかばーか。」

    

まるで子供の喧嘩。この子供の喧嘩に乗ってしまうのが、この男の男たるところだった。

    

「俺の日頃の行いが悪かったらお前の行いなんか誰の役にも立たないだろうな。俺は少なくとも他人の役に立ってるんだよ。」

    

「へぇ初めて知った、人の女を横恋慕しといて人の役に立ってるのか?」

   

「女により良い愛情を与えてやってるし、男には生きる厳しさってのを教えてやってるだろう?」

     

「はっ、屁理屈が上手いな。流石天才。あぁ凄い。」

    

「貴様階段から落としてやろうか。」

    

「落とせるもんならやってみろよ。」

    

「……言ったな貴様。」

    

ふわりと鈴欠の左足が持ち上がる。慌ててしゃがみ込んだ司令官は直後繰り出された回し蹴りは避けられたものの、バランスを崩し、哀れ螺旋階段から転げ落ちる運命に。

深い紺色に落ちていく紅い点。

      

「あ。」

       

落ちていく司令官に自分がやったことの重大さに気付いたらしく呟く。

    

「階段……大丈夫か?」

     

天下の高位悪魔。論点はそこらしい。少し考えた鈴欠は、ふぅとため息。そしてまた、何事も無かったかの様に階段を上りだした。

    

「箪笥。呪わずに逝ってくれ。遺産は全て俺がもらっといてやるから。」

       

こう言い残した鈴欠は、有る意味悪魔として正しいのか、正しくないのか。とにかく下から司令官の呪いの声が聞こえたとき、けらけら笑ったこの男の顔はいつもより数段悪魔らしかったと言えよう。

    

「司令官!三途の川はあっちのほうだぞ?迷わず成仏しろよ。」

    

さてさて、階段を上った先には一体何が有るのか……?

   

 残ったのは深い深い紺色の世界と輝く螺旋階段だけ。

 

   

   

    

   

    

    

    

    

    

    

    

    

   

    

   

    

   

   

   

   

あぁやっと扉が見えた。

三十二階まで階段で上がるのはなかなかきついものを感じたが、成せば成るというのはどうやら本当の様で、螺旋階段の上に両開きの妙に重々しい扉が見えてきた。あぁあの勇敢だったかも知れない司令官にも見せてやりたい。と口の中で呟いて数段残っていた階段を上りきる。

大体この螺旋階段はどうかしてる。足場が硝子っというのは予想以上に危うい物で、今夜の夢は絶対階段から落ちる悪夢に違いないと不覚にも思ってしまった。

    

「……。」

    

ため息をついて重苦しい紅い扉をあけると、長い廊下にでる。その先は階段と対照的に色彩にあふれていて、まぶしい。目が慣れてくると見えてくる正面の小さなドア。懐かしい自分の職場だ。

とそのドアが勢いよく開いた。

    

「課長来ねぇじゃん!俺みてく……あ。課長……。」

   

褐色の肌に薄い茶色の髪。二年前と全く変わらない自分の部下、秋穂はドアに体を挟んだまま呆けたように口を開けていた。

   

「口。」

   

仕方ないので指摘してやると、慌てて口を閉じる秋穂。それからこちらに駆け寄ってくる。そして、一言。

   

「課長。いつからショタコンになったんですか?」

  

あぁこいつ、本当にかわらない。腹が立ったので頭を壁に叩きつけてやった。

   

「ついてこい。後始末するぞ。」

   

「痛って……はぁ〜い。」

   

小さいドアに向かって歩きながら、気になるコトを秋穂に訪ねていく。見た目より優秀なのがこの男の唯一の長所で、その思考能力に関しては俺も一目置いている。……思考能力の高さだけ、だが。

   

「どうしてこうなったんだ?」

  

「あぁ、ウチの新人が例の支部の下っ端と中が良くて、始めは軽い賭事の代償で向こうの支部の仕事を手伝ってたらしいんですけどね。なんかそこで偉い失敗したらしくて始まらないハズの戦争が始まっちゃったらしいんですよ。んで、戦争は今更止められないし、勝つ予定の方の手助けしろってことらしいです。」

    

「なるほどな……それ、滅茶苦茶だな……。」

   

「鈴欠さんがいないからこういうコトになるんですよ。早く休暇終えません?」

   

「絶対に嫌だな。」

   

吐き捨ててドアを乱暴に開ける。集まる視線。27のワークデスクに座った人間課執行員たちは、そろって嬉しそうな顔をしていた。

   

「……。場所かえよう。」

   

思わずドアを閉めてしまった。奴ら、絶対何かたくらんでる。

   

「え〜。とりあえず何か旨いもんでもみんなで食いましょうよ!」

  

「いやだ。全部俺におごらせる気だろ。俺の財布はそんなに暖かくない。」

   

「河豚くらいにしときますよ!」

   

「全員で一皿、俺一皿。大体なんで河豚だよ。お前等なんざカップ麺で十分だ。」

   

「ケチ。」

  

「馬鹿いうなよ。大体俺はお前等の後始末に来てるんだろうが。俺におごれ。」

  

「あ、カップ麺ですか?」

   

いつもの調子。なんだか柄にもなく楽しくなってきて思わず札を数枚渡してしまった。俺も呆れたお人好しだ。

   

「どうも。鈴欠さんは来ないんですか?」

  

「阿呆か。子供連れで飲みになんかいけないだろ?」

   

「鈴欠さんならそのくらいしそうな気がしてたんですけど。わりとモラルあるんですね。」

   

「はっ飛ばされたいか貴様。」

   

とかいいつつ、声が笑ってしまっていて。笑ってますよ、という指摘にさらに笑ってしまう。

   

「鈴欠さん、大丈夫ですか?………頭が。」

   

「秋穂。覚悟しろよ。」

   

「うわぁ、今俺殺すとあれですよあれ!明日から困りますよ!他支部の仕事の人員が足りなくなるでしょう?」

   

「あぁ大丈夫だ。優秀な奴ならまだ他にもいるからな。」

  

「俺切り捨てるんですか!」

    

反応が楽しい。秋穂の反応はどことなく弥に似ていて、不覚にも少し可愛いとか思ってしまった。……別に可愛いなんて思っちゃいない。

   

「鈴欠さん。なんか丸くなりましたね。」

  

「急になんだ。」

   

「いやぁ、何となくですけどね。……出来るんですか、仕事。」

   

「馬鹿にするなよ?」

   

笑って言う。少しだけ、驚いたのは此処だけの話。

できるだろうか。

  

どうだろう。

   

   

   

   

    

    

    

   

    

    

   

    

頭の中で答えたのは別の声。

   


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