PACE2-4→わになみだ9
†おわりに†
わにになれればよかったのだと
いまさらにため息を。
*+*+*+*+*+*+*
「おきたか?」
師匠が僕を覗きこんだ。
違和感…。師匠が僕を覗き込んでる…ということは、師匠のが先に起きたと言うことで。
「!おはようございます、すみません寝過ごしました?!」
「しっ。」
「むごっ。」
口を押えられ、自分の唇に人差し指を当てた師匠はいう。
「静かに、これから立つ。用意しろ。」
「え。」
「俺はもう一つ仕事を片づけてくる。お前は基と先に行ってろ。いいな。」
「え?」
「返事。」
「あ、はい。」
まだ起き抜けの頭をフルに使って、この状況を理解しようとするけど何々頭が回らない。
「あの……。師匠?」
「いいから早くしろ。基!」
「む、鈴欠様しかし……!」
「いいか!俺は今気が立ってるんだ!……殺されたくなかったら言うことを聞け。」
師匠の機嫌、最高にわるい。基さんの襟首を掴んだ師匠はにっこりと笑う。
「……わかったな?」
「…は。」
頷いた基さんが、小さくため息をついた。
「…あの、平気ですか?」
「自分なら問題ない。」
「…そうですか…。」
「基、荷物たのんだ。」
師匠はひらりと窓枠を飛び越えて行ってしまう。最後に見えたのは銀の髪。久々にスーツを着た師匠は何だか冷たそうだった。
「随分……機嫌が悪いですね…。」
「お疲れなのだろう。」
「……はぁ、子供じゃないんだから。」
ため息をついた僕を攻める人は、たぶんいない。
「……そのような格好でどこにいらっしゃるんですぅ?」
決心をして呟く。教会の門を押し開けようとしていた男は、ゆったりと振り返った。
「……あぁモニカさん。」
白々しい言葉。
男は門から手を離し、こちらへと近づいてくる。私が攻撃を仕掛けるなど、きっと思っていない。
「お散歩行こうと思いまして、何かよ……。」
「嘘吐きっ!!」
遮ってでたのは、悲痛な声。
「…何を言うのかと思えば…。」
ため息。ぞっとするくらいの。男はひどく冷たい目で私をみると、笑った。冷たく。
「嘘など言っていませんよ?」
「嘘です!あなたいったじゃないですか!私たちの未来のタメにって!」
「未来のためです。ただし100年も200年ももっと遠い未来…。」
「…っ…そんなの…。」
そんなの解らない、解るわけないと言おうとして、顔に影が落ちた。
口の中に入ってくる異物に眉をひそめる。拒絶しようと両手で胸を押しても、男は離れなかった。
頭の芯がぼうっとしてきた頃、異物は私の体から抜けて、代わりに深い満足感と何か物足りなさが体を満たす。
「…ぁ…。」
「ん?なんだ物足りないのか?リーザもサラもこうやってだましたんだ。」
笑いを含んだ声は、私の鼓膜を不快に震わせる。
「……所詮は弱い彼女等が悪い、強かならば神に見捨てられるなどなかったのに。愚かだな、出会って間もない男を簡単に信じてしまうとは……信じがたい。」
男は楽しそうに笑う、とても、楽しそうに。
「あ、あなたはっ!人を導くために生まれたんじゃないの?!」
「…きみは何か勘違いしていないか。」
「貴方は天使様なんでしょうっ?!」
「あぁ、大いなる勘違いだ。肯定などしていないのに、きみはどうしてそう思う?俺にはまったくもって疑問だ。固定観念を捨てることをお薦めしよう、確かに俺の羽は黒くないな…俺はあの色があまり好きでなくてね…。」
楽しそうに、彼の笑みは深くなっていく。
ききたくない聞きたくない。まさかあそこから間違っていたなんて、私の勘違いで司教様が死んでしまったなんて考えたくない。
「君が決めたんだろう?俺が天使だと………、だが残念だな…俺は悪魔、そして…この前教会を襲ったのが、天使だよ。」
「…いやっ…。」
「事実を聞くのが嫌か?だが安心しろ、奴らの死は無駄ではない。」
笑う、笑う、いつも見てきた柔らかい笑みとは違う、冷たい笑い。
「………のせいで…!!!」
胸に掛かっていた鋭い銀のロザリオの先を悪魔の胸に振り下ろす。肉をえぐる音がして、ずぶりと先が埋まった。
悪魔を、見上げた。
悪魔は、笑っていた。
「あぁ、服に穴があいてしまったな、結構気に入ってたのに。」
ぽたぽたと血が地面にしみ込む。
男のワイシャツから、私の手から、ロザリオから。
「気はすんだか?」
頭を捕まれて、逃げられなかった。男は嘲笑を浮かべてつぶやく。
「忘却せよ。」
光が満ちて、闇が来た。
*
絶望の淵に、男が現れた。
めずらしい銀の髪、同色の冷たい瞳。薄く微笑むその男は、すっと左手を上げて聞いてきた。
「クルス・リタリアード?」
何故、名前を知っているのだろう。頭がぼうっとしてよく考えられない。
「クルス・リタリアードさん、貴方の奥さん、面白かったですよ。」
「……何?」
「私、楽しんで殺させていただきました。」
嘲笑
嘲笑嘲笑嘲笑
男は嘲笑っていう。
「さようなら」
闇が弾けて紅が広がる。
それは恨みを晴らすことも出来ない永遠の悪夢。
*.・+.゜・.
「ちょっ師匠?!」
合流した師匠は胸からボタボタ血を垂らしていた。
びっくりして声をなくしていると、大丈夫か?と聞いてくる。あんたが大丈夫なんですか。と聞きたくなったけど一応辞めておいた。叩かれたら痛い。
「その傷は…」
「あぁ、ちょっとな。刺された。」
「いや、そうだろうが……そのどなたに。」
「ん〜と……ぇぇと…名前何だったかな…あのくるくるしてる髪の…。」
基さんのことばに師匠は眉をひそめる。また名前を忘れたらしい、絶対歳だ、この人。
「…モニカさんですか?」
「あぁそうだ、良く覚えてるなお前。」
「普通覚えてますよ。師匠頭弱いんじゃないですか。」
「あ?貴様今何ていった。」
「あれ、耳までとおくなったんですか?」
べ、と舌を出すと師匠が氷点下の目で見下してきた。軽く睨み合ってると、基さんが慌てて間に入ってくる。
「す、鈴欠様っ!その、手当てを…」
「弟子とのスキンシップだ、あとにしろ。」
頭を掴まれた。普通に痛い。
と、急に力がゆるむ。師匠の首筋に基さんの手刀がクリティカルヒット。一瞬意識を飛ばしかけた師匠がなんとか踏みとどまった。
「……痛っ……もっ基何しやがる。」
「あぁ、落ち着いて下さったか?」
「落ち着いてるはじめっから。痛いだろうが。」
「痛いようにやった。」
「ありがとうございます基さん。」
にこりと基さんにお礼を言って師匠の足に蹴りを入れる。舌打ちをした師匠はでも、何もしてこなかった。
「帰るぞ…疲れた。」
疲れたのはたぶん師匠だけじゃない。そう思ったけど口には出さなかった。めずらしく、師匠が疲れているように見えたから。
*.゜・.
司令官室のクローゼットがギィ、と開いた。
はじめに出てきたのは銀髪の男。後ろから伸びた小さな手に押され、派手に転倒する。
「痛?!」
その背中に着地をしたのは黒髪の少年。痛い痛いと言う男に対し、ばかですねぇと笑う。いや嘲笑う。
「鈴欠様?!」
最後にでてきたのは灰色短髪の男。鈴欠と呼ばれた男を踏まないようにしながら優雅に降り立ち、丁寧に扉を閉める。
そしてそれを傍観する、赤茶色の髪の司令官。
「……弥…重い…。」
「ぇ?なんですか?」
「せっ背骨を踏むな!折れる折れるっ!」
「介護はしませんよ?」
「頼んでいない!そうじゃない!退け馬鹿!」
「馬鹿じゃないから退きません。」
師弟がくだらない会話を繰り広げている間、灰色短髪の男基が司令官に深々と頭を下げる。
「任務は完了した。」
「ああご苦労………鈴欠助けなくて平気か?」
司令官の言葉に、基が振り向く。
「退け馬鹿弟子っ!」
「いーやーでーすー。退けてみればいいでしょう?あ、歳でできませんか?」
「お前が重いんだよ!」
「そんなことありませんよぉ?…って。え、血?!」
鈴欠の胸の辺りから、床に伸びる血のあとに少年は小さく悲鳴をあげた。
「弥殿。」
基がひょいっと少年を抱き上げて地面におろす。解放された鈴欠はため息をついて体を起こした。胸からぱたぱたと血がたれる。
「しれ…箪笥、怪我の治療費と高位天使を倒した報酬、ちゃんと出せ。」
「わざわざ名前にいいかえるな!まぁ…考えとくよ。弥君、基君、鳴鈴君を連れてきてくれ。元気ではあるが、怪我人がいるんでな。」
二人が出ていった後、司令官は小さくため息をついた。
「自業自得だろう、その怪我も。」
「いい誤魔化し方だったう?タメになったんだから自業自得ではない。」
「そうか。」
沈黙の後、鈴欠は軽く机を叩いて言う。
「金髪のターゲットはやめてくれと言ったはずだが。」
「………お前の要望はきかない。」
「何?」
がたりと立ち上がった司令官が、鈴欠のシャツを掴んで低くつぶやいた。
「忘れるな。俺はお前を許してなどいない。」
一瞬きょとんとした鈴欠は目を伏せ、それから張りつけたような苦笑を浮かべた。
「……わかってるよ。」
許されようとは思っていない。
そう呟いて、ふらりとソファに腰掛けた彼はおもむろに呟いた。
「あれから、何年だ。」
月は昇ってまた沈む。
荒れた大地を見下ろしながら。
PACE2→fin...
NEXT→PACE3 TO BE CONTINUD...
や、やっとおわりましたね、PACE2。途中えらい残虐でえらいしんどかったです。 これって忠告入れたほうがいいのかしら?とかも思ったのですが、入れませんでした。何でいれねぇんだよ、馬鹿野郎!とか思った方はどうぞ、思う存分おっしゃってください…。 それと…立津は22日から数日間通信網と無縁の世界へ旅立つので、もしかすると連載の間が開いてしまうかもです。あしからず。 では長々と失礼しました…。