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PACE2-4→わになみだ8

†Crocodile tears†

 

 

ねぇ、りん。

 

そう、あの人は決まってそう自分を読んだ。

 

りん、あなたにもこんな気持ちになる時がくるのかしら。

 

りん、がどんな字でかかれるか知らない。ただ、漠然と鈴であるといいと思っていた。

 

あのね、今日、人間の言葉をきいたのよ。

 

なんていうことば?

幼い仕草で首を傾げて。

 

わにの涙はそら涙。意味、わからないでしょう?

 

わかんないよ。わにさんは泣くの?なんで?

 

ご飯を食べるためにね、わにさんは他の動物を殺してしまうの。

 

…しかたないんでしょう?

 

そうね、その時わにさんは涙を流しながら動物を食べるんですって。

 

うん…だけどそれが…?

 

人間はそれを嘘の涙だというのよ。獲物を引き付けるための、美しい道具なんですって。

 

ちょうど、私たちがやっている仕事みたいに。

 

その人はそういって薄く笑い、頭を撫でてくれる。

 

あなたに、そんな仕事が来ないことを祈るわ。

 

 

 

 

 

 

あぁ、ごめんなさい。

俺はまた、白々しい涙をながしながら

人間を殺しています。

 

いつかのあなたの様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

*++++++++*

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「師匠…大丈夫ですか?」

 

さっきからそれしか言ってない。リーザさんをかばって頭から大量出血中の師匠は生返事をかえしてきた。

 

「あー……。ここ堅いな…やわらかい所ないのか…。」

 

師匠が横になってるのは礼拝堂の長椅子の一つ、当たり前だけど、やわらかくない。

 

「無理ですよ、師匠歩けないんだから…。血とまりました?」

 

頭に押しあてていたタオルを師匠が外す、すぐに血がにじんできた。痛そうだ。

 

「…もうちょっと頭高くします?」

 

枕にしていた基さんの上着の上に重ねるべく僕が上着を脱ごうとすると、弱い制止が入った。

 

「……いい、その内止まるだろ…。」

 

「だいぶつらそうですけど。」

 

「…そりゃな…無理に動いたから裁判日が…少しひどい。」

 

きれいな冷たい濡れタオルを渡すとめずらしくお礼が帰ってきた。

 

「悪いな。」

 

天変地異がおきたらどうしよう。僕の心配をよそに、師匠は何かを考えて難しい顔をしていた。

 

「鈴欠様、お加減はいかがか。」

 

「…あぁ…片付けすんだのか…?」

 

「あらかたは。」

 

「………そうか…。」

 

割れたステンドグラスやらなんやらを片付けていた基さんが、心配そうに師匠をみる。師匠はため息を付いた後、おもむろに体をおこした。

 

「まだ横になられていたほうが…。」

 

「平気だ。もともと少しふらつくだけだしな。」

 

「だが…。」

 

「早く寝たいんだ、だるい。」

 

立ち上がった師匠は、僕の髪をかきまぜて歩きだす。とてもつらそうには見えなくて、何だか不思議な気分だった。

 

「弥殿は鈴欠様を頼む。自分は司令官殿に連絡を。」

 

「あ、はい。」

 

行ってしまった師匠を追って部屋に入ると、彼は洗面台の鏡で前髪を持ち上げていた。

 

「…結構浅いな。脳震盪起こしただけか。」

 

「平気ですか?」

 

「怪我自体はな、…一応帰ったら鳴鈴に世話にならないとだが。」

 

「寝てたほうが…。」

 

僕がつぶやくと師匠はにやっと笑った、でた、嫌な笑い。

 

「おー、やけに心配してんな。何が目的だ?ほしいものでもあるのか。」

 

……心配した僕が馬鹿だった。ため息をついて、もう勝手にしてください。と言う。

 

「あぁ、師匠、気になってたんですけど…。あの。」

 

口籠もる、師匠は鏡の中の僕に向かって小さく笑った。

 

「なんだ?」

 

「師匠が…あの、男の人倒したとき、一瞬ぴかって光ったんですけど…あれが、師匠の能力ですか?」

 

師匠は驚いたような顔をしたあと、小さく、ため息を落とす。

 

「………見えたのか。」

 

「は?」

 

「光が見えたのか?」

 

「え…?なん、みえないんですか?」

 

「質問に答えろ。見えたのか。」

 

そう聞く師匠の目はひどく冷たくて、恐い。

恐くなって慌てて頷いた。

 

「はい…!」

 

舌打ち。髪をかきあげた師匠は何かをつぶやいて壁をたたいた。

 

「…あ、あの師匠?」

 

「あれは、」

 

言葉を途中で切って師匠がいう。

 

「あれは、光の粒子だ。俺の通称は光使い。光るモノなら…いや光りに関係するものなら全て操れる能力。」

 

…難しくてよくわからなかい。首を傾げると、馬鹿と言われた。笑われたらしい。

 

「………みえちゃいけなかったんですか…?」

 

師匠を見上げていうと、困ったような顔をした彼は軽く僕の頭を撫でて苦笑した。

 

「いや、そんなことはない。」

 

「…よかった。」

 

なんだ、不安だったのか?

そう聞いた師匠はもう一度僕の頭をくしゃくしゃにするとベッドに倒れこむ。

 

「…師匠?」

 

「そろそろ薬がきいてきた…俺は寝るから、基にでも遊んでもらえ…。」

 

「ぇ、ちょ、師匠?!」

 

慌てて呼び掛けてはみたけど、返事はない。俯せに寝た顔が妙に子供っぽくて笑えた。意外に童顔なのかもしれない。

 

「おやすみなさい、師匠。」

 

目が覚める頃にはきっと、きれいな月が上ってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しゃりしゃりと、林檎をむく音が響く。

 

「…ぁっ…切れちゃった…。」

 

長くつづいていた赤いリボンはぷつりと切れて床に落ちる。少年は小さく舌打ちをして、またしゃりしゃりとナイフを動かす。

 

「基さん。」

 

「何か。手元が危ない。」

 

「大丈夫、慣れてますから。師匠に聞けなかったこと聞いていいですか。」

 

「何か。」

 

小さく頷いて、少し警戒した。この少年はひどく鋭いのだ。

しゃりしゃりと、リボンが折り重なる。

 

「サキって…誰ですか?」

 

あぁまた、答えられない質問を…。

なんと答えればいいのか、師をかばえばいいのか。自分には判断がつかない。

 

「サキ様は…おそらく咲弥という御方だ。…鈴欠様との関係は…存じ上げない。」

 

「サクヤ…?男のひとですか?」

 

「…いゃ…。」

 

「…ふぅん。」

 

しゃりしゃりしゃり。

林檎は赤から白に変わり、少年はその実に切り込みを入れた。

 

「どうでも…いいですけど。」

 

さくさくと、林檎を櫛形に切りながら、少年は語る。

 

「昔、師匠うわごとで、僕のことサキって呼んだんですよね。…ほら、あの人いきなり高い熱とか出すじゃないですか。僕、引き取られたばかりでよく解らなくて。」

 

それで声をかけたら、と、少年は苦笑する。

 

「それからずっと、聞けないままで。いや、たぶん聞いてもよかったんですけど……なんだか、聞き辛くて。」

 

その声が、あまりに淋しそうだったから。と。

少年は苦笑する。林檎はやせて細くなっていた。

 

「……ま、いいんですけどね。」

 

僕には関係ない、そう言ってナイフをおいた。

 

ひどく切なそうに笑う。

 

「そろそろ起きますかね。何か食べてもらわないと。二日間ろくに食べてないんですから、まいっちゃいますよね。」

 

あぁ、そのための林檎だったのか。

少年は小さく笑って林檎を眺める。

 

「何故、林檎だ。」

 

他にパンでもなんでもあったろうに、何故。そう聞くと、少年はほほえんだ。

 

「師匠、林檎好きなんですよ。」

 

「…何。」

 

「果物だけは、どんなに具合が悪くても出せば食べてくれるんです。」


 

そこまで知っているのか。少年は小さくほほえんで

 

「なんだかんだいって、僕には師匠しかいませんから。」

 

とつぶやいた。

 

「…鈴欠様は…。」

 

これはきっと、いうべき事ではない。しかし、いわなければならないことだった。

 

「咲弥様と、契りを結んでいた。」

 

「……師匠も、好きな人がいたんだ…。」

 

よかった。少年はそうほほえむ。とても、うれしそうに。

 

「…よかった。師匠の中に、本当があって。」

 

 

あの人の中に真実はないから、と、少年はほほえんで。

次は僕が真実になれたらいいと、そうつぶやいた。

 

ちょうど、彼が恋人を亡くした時の自分のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*+++* *+++*

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は月がきれいだな。

…そうね。

なんだ、まだ怒ってるのか。堅い奴だな。

………死ね。

ぁっ?!いや、悪かったとは思ってるさ。

嘘吐き。

はいはい。

………ばれないようにしなさいよ。

ん、考えておく。

 

小さく口付けをかわして。

 

君だけを愛してる。それだけが、真実。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は、満月。きっと彼は来ない。私を庇ったせいで怪我を負ってしまったし、随分と辛そうだった。

だから

来ない。

淋しい。

 

「どうしたのリーザ。」

 

「…!」

 

「俺がこないと思ったか?」

 

銀の髪をゆらして彼はほほえむ。

 

「…っ、来ないと思った…。」

 

「…。それは心外だな。俺は君を……愛してるのに。」

 

…その言葉は嫌いよ。

あなたの愛してるは薄い。

あなたの言葉に真実はない。

 

「ねぇ」

 

「ん?」

 

「キスして。」

 

顔に影が落ちて、私達はつながった。

あぁ、平気だわ。彼がいれば私は…。

 

どんっ。

 

なにか、鈍い音がして。

お腹に、熱が走って。

何、何これ?

下をみて。

あぁ、嘘、これってどういうこと?

 

「…な、んで…?」

 

血のついた刃を舐めて彼は笑う。

 

「なんででも。」

 

「なんで、なぜ?!何故よ!!!私のこと愛してるって言ったじゃないっ!」

 

すがっていうと、冷たい嘲笑が私を見下ろしていた。

 

「…本気にしてたのか?つくづく馬鹿な女だな。」

 

「いっいやいやいや嫌嫌いやよ!!!いやだわ!貴方と離れないいやいやいやぁっ!!!」

 

どんっ

今度はどこ?

右の肩に激痛。痛い痛い嘘だわ、こんなのありえない。

 

「愚かだなリーザ、君が馬鹿な所為でサラも死んでしまった…彼女は…。」

 

彼は私の耳元でささやく。

 

「彼女は何も悪くないのに。」

 

「い、いやぁやめてやめて!!!」

 

「やだね。あぁそれと…触るな、汚れる。」

 

手を払われて。

 

「そろそろ死ね。」

 

ナイフをかざされて。

 

嫌だわ。

嫌嫌嫌嫌嫌。

 

貴方の中に残るタメに

貴方に後悔させるように

貴方が忘れられないように

 

降ろされる刃に飛び込んでいった。

正しくは、彼の胸に。

 

「愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる!貴方をあ……ぃ…。」

 

あぁいやだわ、声がでない。背中に回した腕に力をいれて、囁いた。

 

「……ねぇなぜ…許さないわ…ど…して……。」

 

 

私ハ貴方ヲ愛シテタノニ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月光の下、銀髪の男と、もう生きていない女が一人。

 

「許さないわ…ど…して…。」

 

女は男にすがったまま息耐えて、動かない。

男の手から、するりと凶器がすべり落ちた。

 

「………。」

 

無言で、息耐えた女を強く抱き締めて、何かをつぶやく。

繰り返し繰り返し呪いのように。

 

「……ぁ…。」

 

男が、金の光をとらえてひどく淋しそうな目をした。

 

「……。」

 

血塗れの頬に透明な雫が一すじ。

  

 

 

わにの涙はそらなみだ。

 

 

男の頬につたったのは…? 

 

 

 

 


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