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PACE2-4→わになみだ1

    †偶像†

 

 

あぁ、

こんな俺をみたら君はなんと思うだろう。

 

 

 

 

 

 

 

僕らは愕然としていた。

見渡すかぎり、荒れ地と化した大地。

遥か彼方に見える街らしきもの。風がやたら強くて寒いし、本当に殺風景…。

その中に…

ホラー映画みたいな無駄にでかい教会がたっていた。

蔦がぐるぐる巻き付いてるし、教会をかこってる柵は妙にとんがってる…アレに刺さらないように気を付けよう。僕が軽く決意していると、立ち直ったらしい師匠が、小さくつぶやいた。

 

「まぁ、現実はこんなものだろう。」

 

そういう師匠の顔は最大限に引きつっていて。

これじゃぁやさしそうに見せるためにかけた伊達眼鏡も、ちょっとかえた髪型も、神父服も全然意味をなしてなかった。

基さんが取り成すようにいう。

 

「が、外見はこれだが、もしかしたら中は綺麗かも知れない。」

 

「ありえないな…。綺麗だったら、俺はお前を尊敬するね。」

 

投げやりな師匠はそうつぶやいて荘厳な扉に手を掛けた。 

 

「なんていうか、凶しかないおみくじを引く気分だな…。」

 

扉を開いた師匠がため息をついて、コロッと表情をかえた。やさしそう…優しくないのに。

 

「すみませ〜ん。どなたかいらっしゃりますか?」

 

恐い。師匠が優しいなんて恐い。軽く夢に出そうな師匠が、教会の中を覗き込む。

中は微妙に薄暗かった、天気がよくないせいかもしれない。

 

「神父カーター?」

 

左側からの声。

顔を巡らすと、やさしい笑みを浮かべた金髪の女の人がこちらに歩いてきていた。

 

「お待ちしておりましたわ。私はこの教会を預からせて頂いている、リーザと申しますわ。

遠いところからはるばるようこそ、歓迎しますわ、クリフォード・カーター神父」

 

金髪のリーザさんが、にこりと笑ってお辞儀をする。

少したったあと、師匠ゎ我に返ったように頭を下げた。

 

「歓迎ありがとうございます。」

 

「いぇいぇ。連絡をくだされば、街まで迎えにいきましたのに。」

 

「いえ、そこまでご迷惑をおかけする訳には。それにしても、この教会はずいぶん町外れにありますね。正直驚いてしまいました。」

 

師匠はやさしい笑顔のまま失礼な事を口走る。まったくもって、遠慮がない。

 

「えぇ…。昔はここまで、町があったのですよ。ですけど、天災がつづいて…。」

 

「そうですか…。でも、きれいな教会ですね。」

 

心にも思ってないのは、師匠がリーザさんの顔しか見ていないのでわかる。あれは品定めしてるときの目だ。

 

「あら、そうかしら。」

 

頬に手を添えたリーザさんは小首を傾げる。仕草が子供っぽくて可愛い人だ。

 

「えぇ、まぁ、装飾よりも、シスターさんがきれいなのかもしれませんが。」

 

「あら、お上手ですわね。」

 

そういうリーザさんも万更じゃなさそうで…。

僕は思わず、だまされちゃ駄目だ!とか言いそうになってしまった。

 

「あぁ、連れの者を紹介しておきましょう。彼はオスカー・ユリスモール。修道士です。こちらには勉強させるつもりで連れてきたのでこきつかってやってください。」

 

にこにこ笑った師匠は、基さんを差していた手を僕に向けた。

 

「で、こちらがアラン・カーター。名前を聞いてもわかるとおりこの子は私の息子です。

一人にしておくわけにも行かないので連れてきたんです。」

 

口元に手をやったリーザさんはまぁまぁ、と呟いた。

 

「神父様はご結婚なさってるのですか?」

 

「まさか!そんな暇はあいにく…。ただこの子はわけ有りでして。まぁ養子のような者です。」

 

にこりと笑った師匠は、ね?と僕を振り返った。

にっこりがかなりぎこちないのが近くでみると良く解る。こくり、と頷くと彼女は、可愛らしい息子さんですね、と言ってくれた。

 

「さぁ、今日は長旅で疲れたでしょう?お食事はお部屋へお持ちします。僧坊へ案内いたしますわ。シスターモニカ、いますね。この方達を例のお部屋へ案内して。」

 

ぱん、とリーザさんが手をたたくと、栗色巻き毛の小柄なひとが現れた。

ぺこりと頭を下げると、にこりと笑う。白い僧衣の肩に髪がゆれた。

 

「モニカです。こちらへどうぞ。」


「…っ。」

 

急に頭に鋭い痛みが走った。

目をつむってやりすごすと、痛みは引いていく。なんなんだろう?

 

「どうした。」

 

上から降ってきた声。

深く落ち着いた声に、顔を上げた。

全然心配そうではないけど、少し落ち着くから不思議だ。

 

「あ、そうだモニカさん。」

 

「はい?なんですかぁ?」

 

のほほんとした返答。髪を押さえた師匠が、そっと、モニカさんの耳元で囁いた。

 

「リーザさん、恋人とかいるんですか?」

 

「…え?…ぁ、もしかして…。」

 

栗色の髪を指にからめた彼女は楽しそうに振り替える。

きょろきょろと白い廊下を見回すと、唇に指を当てた。

 

「神父様。司教様が…?」

 

「内緒、ですよ?いや、私は女の人は皆愛すべき対象だと思いますが…彼女はタイプなんですよね。」

 

「ふふ。一目惚れですかぁ?」

 

楽しそうなモニカさんに、師匠はゆったり笑う。

 

「知り合いにね、とても似てるんですよ。」

 

その笑顔がとても悲しそうに見えたのは僕の見間違いだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

じゃぁ、ごゆっくり。

そう、モニカさんが言った部屋は…、まぁ簡単に言うとかなり趣味が悪かった。

 

「…この絵…なんだ?奇怪画か?」

 

「……よくみれば目にみえなくもないが。」

 

壁にかかった絵を凝視していた基さんがつぶやく。師匠が相当いやそうな顔をした。

 

「やめろよ…。俺、オカルト系は好きじゃない。」

 

「おばけとかですか?」

 

「はっ、人間じゃあるまいし。」

 

素直じゃないな。絶対師匠は恐がりだと思う。

 

「なんだ。おまえその目は。」

 

「べぇつにぃ?師匠こそ、被害妄想じゃないですか?」

 

「……元気だな。お前。」

 

「は?」

 

話がつながらない。

首を傾げると、手をだせと命令された。左手をだすと、そっと指を重ねられる。

外が夕焼けのせいか、なんかいたくロマンチックで寒気がして、僕は思わず手を引いてしまった。

 

「逃げるなバカ。」

 

「なんで師匠と手なんかあわせなくちゃならないんですか。」

 

「お前の力が落ちてるからだろうが…。頭痛かったんだろう?」

 

「ぇ?」

 

話が見えない。困っていると、基さんが説明してくれた。

 

「悪魔には、低位、中位、高位とあるが、その中の低位は、ひどく純粋に弱い。」

 

意味がわからない。首を傾げていると、師匠がため息をついた。

 

「純粋なものというのはいわゆる汚れを知らない人間などのことだ。補足をすると純粋なモノに弱いのは何も低位だけではない。高位は多大な力を得て、純粋を汚すことが出来るかわり、純粋には弱くなる。」

 

「ぇ?それが何か関係あるんですか?」

 

「…なぁ基、なんで俺の息子はこんなに察しが悪いんだ?」

 

「…鈴欠様、あまりにそれはひどいのでは?」

 

師匠は基さんを一瞥すると、ため息をついた。

 

「…いいか、バカよく聞け。ここまで話せば大体わかるだろうが、お前は純粋なモニカにあてられたんだ。だから頭が痛くなったりする。まぁ、あてられた、というより、力を奪われる、に近いんだが。だから、俺の力を送ってやる。子供は危険だからな。わかったか。」

 

「……ぇ?でも、高位もあてられるんでしょう?」

 

そういったら、師匠は軽く馬鹿にするような笑いをした。

 

「子供と違うからな。わかったら手を出せ。」

 

「ぇ〜。もっと違うのないんですか?」

 

男同士が手を握り合うなんて気持ち悪いと思ってそういうと、師匠はわりとあっさり頷いた。

 

「ある、じゃぁそっちでいいんだな?」

 

「ぁ、はい。」

 

頷く。基さんが何かを言いかけてとまった。

 

「じゃぁ、目閉じろ。」

 

頬に冷たいものが当たる。それが師匠の手だとわかった時はもう遅かった。

口じゃなかったのがせめてもの救い。額、目蓋、順々に触れたのが…考えたくない。

 

「そんな嫌そうな顔をするな。お前が違うのがいいって言ったんだろう?」

 

「だっ!説明なしだったじゃないですか!」

 

「聞かないのが悪いだろう?」

 

余裕綽々。なんだか悔しくて足を踏もうとしたら顔を捕まれた。悔しさ倍増。

 

「口じゃなかっただけ有り難いと思え。」

 

「……顔洗ってきますっ!」

 

なんか悔しくて、そう宣言する。

洗面所そこにあるぞ?という師匠の声は無視。

あけると不気味な音がするドアを開けて廊下を走った。

断言できる。

師匠はきっと度を越した変態か、そういう趣味なんだ。

 

 

 

 

 

 

     

 

 

 

 

「可愛いもんだな。あれくらいでうろたえると思わなかった。」

 

ギシギシきしむベッドに腰掛けた鈴欠が、楽しそうに笑った。

 

「…なぁ、基、聞いていいか。」

 

天井のしみを眺めるように、つまらなそうに、鈴欠はつぶやく。

 

「なにか。」

 

「……俺の、見間違いか。」

 

「鈴欠様。」

 

「あいつに似てないか。」

 

「…咲弥様は、もっと美しかったと記憶している。」

 

「…そうか?」

 

基が静かにため息をついた。

 

「鈴欠様、つらいなら自分が…。」

 

「いや、悪い、大丈夫なんだ。そうだな、似てない。似てるわけがないんだ、たかが人間と。」

 

たかが人間と。

そう思っていないのは顔をみればすぐに解る。

一つ、ため息を落とした鈴欠は、指先でカーテンを捲った。

 

「駄目だな。久々にこんな任務だと、つい昔のような気がしてしまう。」

 

つぶやきに、基は瞳を閉じて答えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

キッチン

リビング

ダブルベッド

 

どこを捜しても君はいない。

 


今回、遅くてごめんなさい!!!数少ない読者様にもご迷惑が…。次からもとのペースでいきますので! 最後にPちゃん様、師匠の名前を考えてくれてありがとうございました…

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