PACE2-3→記憶。
†罠†
「だから、なんでそんなコトしなきゃいけないんだ?説明しろ、俺を納得できるように。できないと、殺す。」
「殺す?おまえにできるのか?」
「馬鹿にするな、やるか?泣かせるぞ。」
もう一回、寝ようかなぁ。
師匠と司令官さんと戦い。
もう、ありえないくらい空気が冷たい。
…師匠が僕より早く起きたと思ったらこれだ。ため息がでる。
「あの…。」
「あ、起きたのか。寝起きで悪いがお茶いれろ。」
「こんな馬鹿の話きかなくていいよ。」
「あ?」
「なんでもないですょ〜クリフ神父。」
「なんですか?その変な名前。」
「変…。」
なぜか師匠が落ち込んで俺だってこんな名前いやだ、とつぶやいた。クリフってなんか栗みたいで美味しそうだなぁ、と呑気に考えた僕の耳に、信じられない言葉が…。
「ヒロくんの地球名はどうするか…。」
「地球名って、なんですか…?」
「…おまえ、言ってないのか?」
「…あ〜。明日から地球にいく。一月。」
「はい?」
「おまえも来い。」
「いきなりですか?!」
もうちょっと、前置きとかないんですか。と引いた僕に師匠はこくりと頷く。
そういえば、何でこんなに早く起きてるんだろう。ありえない、ちょっとした快挙だ。
「師匠。できれば説明してほしいんですけど。」
「面倒だから、そのえらそうな馬鹿に聞け。」
「偉そうにって俺か?地位的には俺のほうが偉いんだ。お前上司に向かって偉そうな口きいてんじゃねぇよ。」
「俺のほうが階級が高いだろう?」
「階級なんか関係ないさ。用は実力だね。」
「お前より俺が弱いわけはないだろう?試してみるか?」
「なんていうか、外でやってくれません?」
もう何だか面倒くさくなって呟く。
あくびをした師匠が、いい加減眠い、とため息をついた。
「眠いって何してたんですか。」
「大学のレポート採点。一ヶ月下おりるならやっていけだと。ありえないな。なんであんな馬鹿のために俺が苦しまなくちゃならないんだ。」
要するに、早く起きたんじゃなくて徹夜ですか。凄いと感動した僕が馬鹿でした。
そういえば、服も昨日のまんまだしなぁ、となんとなく損した気分になる。
「で?俺はクリフォードさんで?ドジで?階段からおちるんだったっけか?」
「そうそう、駄目神父。」
「やっぱ一回死んどけ。」
「栗?甘栗?」
「違う!栗じゃない、人名だ。クリフォード・カーラー。」
「……。」
頭の中に思い浮かんだのは栗をかぶった某音楽家。
にやにやしていると、ぱしっと頭を叩かれた。
「馬鹿な想像をするな。」
「解るんですか。」
「馬鹿の考えることくらいわかる。…あ〜…眠い…。司令官。とりあえず仮眠取らせてくれ。頭痛い。」
「ダメ。むしろいじめだ。で、サポートする奴だが…。」
「……。誰だ。」
「実は静鳴の部下だが…。呼んであるんだ。」
「…やだ、あいつの部下なんか。」
「お前のこと知ってたぞ。」
そんなの知るか。とつぶやいた師匠は、ため息をついて机につっぷした。
「眠い。」
「ざまぁみろ。」
「消滅しろ。」
「大丈夫だ、神に嫌われてはない。」
「頼んでおこう…。お前本名なんだっけか。」
すっぱり師匠は上司さんの名前を忘れているようで、悪気なく質問する。
「いい加減覚えろ。」
「必要ないだろ。」
「どんなけ失礼なんだ、お前は。」
「気のせいだ。…お前の名前はどうでもいいし。で、しずの部下とやらはなんなんだ?」
「久方ぶりにお目にかかる。鈴欠様、お元気だったか。」
後ろから響いた低い深い声。振り向くと、ごついでっかいお兄さんがいた。
「もとい…。おまえか。」
師匠がふりむく。
ソファーの背もたれに肘をかけて、ゆったりとほほえんだ。
「久しぶりだな。暇だったか。」
そんな挨拶ってないと思う。師匠はごついお兄さんと知り合いのようで、何か軽く言葉をかわしていた。
気になるのはお兄さんが師匠を“鈴欠様”って呼んでたこと。
なんで、様?そんなに師匠は偉いんだろうか。ありえない。
師匠は偉いんじゃなくて偉そうなんだ。
「鈴欠様が記憶者になられたのは聞いていたが…。」
「静鳴に気を付けないといけないような外見だな。まぁ黒髪だから、コールボーイにはむいてないが。あれか、某魔法使いにそっくりか?」
「…僕は魔法使いじゃありませんよ。ってゆうか、どこからでてきたんです、コールボーイ。」
「金髪グリーンアイズってのが良くうれるらしいな。俺には関係ないが。」
「どっからそんなネタ仕入れるんですか。」
「暇だからな、いろいろなところから。」
暇じゃない…。ため息をつくと、お兄さんが口を開いた。
「自分は基と申す。以後基と呼んでいただきたい。」
「もとい…さん、ですか。あ、僕弥です。」
ぺこりと頭をさげる。少し笑った基さんは、慣れるとやさしそうに見えた。
にしても、でっかいなぁ。師匠が小さく見える。そこまで考えて、ふと気付いた。
師匠って、実は小さい?
司令官さんとは、まぁ同じくらい。
だけど、静鳴さんとか、捺姫さんとかよりは少し小さかった気がするし。
女の人と並ぶと気にならないけど…、どうなんだろう。
「?なんだ?」
視線を感じたらしい師匠がそう聞いてくる。
あわててくびを横に振ると、変な奴、と言われた。余計なお世話だ。
「基、じゃぁ俺の代わりに話聞いといてくれ。俺はちょっと寝てくる。」
「それでよろしいか、司令官殿。」
「はいはい。じゃぁ弥君、基くん、聞いてくれ。」
ひらひら師匠が手を振ってでていく。司令官さんが不敵に笑った。
「さてさて、地球のイギリスを知ってるかい?」
*
銀の髪が風にゆれる。邪魔そうに髪をかきあげて、彼は物憂そうにため息をついた。
ピンクローズの花束が風にあおられる。彼は酷くつまらなそうな顔をした。
「…久しぶりだな。10年か…もっとか。」
形のいい指が、墓石をなぞる。何度も何度も、ちょうど愛しい人を撫でるように。
「長いものだな、もう100年か。」
花束を放り出して、彼は苦笑する。
「100年…か。」
物憂そうに、つまらなそうに、墓石に語りかける。
「…まだ、忘れられそうにないな。…忘れたいわけではないが。」
彼は、つぶやく。
「あと、何年だ…?」
顔も、姿も思い出せない。
ただ声が、
永遠に、
壊れたテープのように流れるだけ。
呼んだら届くだろうか。きみの名前。
*
司令官さんの話をまとめて、口にだして整理してみる。
師匠直伝の人と混乱しそうな話をするときの対処法だ。
「えーと。僕らはイギリスにいって、師匠は、クリフォード・カーター神父として、潜入、任務をこなすんですね。…基さんは、もしものときのサポートで…。あれ?僕は…。」
僕は何のために行くんだろう。特に役にたたないし、邪魔じゃないんだろうか。
「あぁ教会の朝って早いんだよ。」
「は?」
「任務は主に夜になるだろうから、生活の管理頼もうと思って。弥君は、年齢以上にしっかりしてるから、頼りになるよ。」
なんとなくうれしくなって、はい!と頷く。ふと気になって、基さんを見上げた。
「基さんも神父ですか。」
「いや、自分は修道士としてお供させていただく。」
「名前は…?」
「オスカー・ユリスモール。向こうではオスカーとよんでいただきたい。」
グレーの短髪に、アイスブルーの瞳の基さんには、とても似合う名前だった。
「…で、僕の名前は…?」
さっ、と司令官さんが目をそらした。
なんとなく、師匠がこの人に文句を言う意味がわかった気がする。
「…アラン・カーター。」
ふいに後ろから声がした。
僕の真後ろ。いつのまにかあらわれた師匠が、もう一度呟く。
「アラン。不満は?」
「あ、い、いいえ。アラン、ですか。」
「そうだ。アラン・カーター。俺の息子ってことでつれていくからな。」
…師匠の、息子?
「え、やだ。」
「俺だっていやだ。我慢しろ。」
「子持ち神父って不信心そうじゃないですか!人を導くんでしょ?!」
「違う、だますんだ。」
「……そりゃお前の任務だろう?」
「…まぁいい。で、ターゲットは?」
ため息をついた司令官さんが、す、と写真を三枚だした。
「シスター・リーザ。それと、信者のサラ。その夫のクルス。……なんだその不満そうな顔は。」「不満だ。男は虚しいからいやだ。」
「…師匠、わがまま言わないで下さい。」
「やだ。俺は男がキライなんだ。なぁ、司令官殿。」
「…いつまで気にしてるつもりだ。」
「十分トラウマだ。お前もやってもらえ。」
「…遠慮しとく。」
よくわからない会話。師匠はため息をついて僕の横、ソファーの肘掛に腰掛けた。
「女は食うとして、男は俺の専門外だろう。」
「何いってるんだ、お前はオールマイティーで何でもこなすだろうが。」
「…何でも屋じゃない。」
「はいはい。」
「鈴欠様。出掛けていたのか?」
基さんが、急にそういう。司令官さんと僕の視線を避けるように、師匠が目をそらした。
「…師匠?」
「…あ〜いや…。」
「鈴欠?」
「……何しようと俺の勝手だろうが。」
「仮眠は嘘ですか?」
きっ、とにらむと、師匠はひどく困った顔をした。
「色々あるんだ。」
「師匠っ!」
「いいか弥。お前には関係ない。お前の知る必要のない事は、俺は教えない。文句は聞かない。お前の知る必要はない。」
「…言いたくないんですか?」
「踏み込んでくるな。そう言うことだ。解らないか?」
師匠の目が冷たくなる。拒絶に怯えたとき、師匠が、あ〜…。と呟いた。
「悪い、悪かった。恐かったか?」
「ぇ?」
「悪かったな。」
「は?」
僕の髪を乱暴に掻き混ぜた師匠が、ため息をつく。
「調子、狂うな…。寝てないと…。」
やっぱり寝てなかったんだ。ため息をついた師匠は、本当に寝ると呟いた。
「起こしましょうか?」
「いや…いい。明日の用意してあるし、朝まで寝る。じゃぁ基、あとは頼んだ。」
「は?何故自分が?」
「弥。何分ガキだからな。」
僕を指さした師匠が部屋からでていく。
「さてと…。明日からたのんだよ。」
司令官さんが呟いて立ち上がる。基さんが頷いた。
おやすみなさい明日まで。
なんだか今回長いですね……。見捨てないで読んでいただきありがとうございます…。これからもよろしくお願いします♪