PACE2-1→序章2
君を愛してる。
君を愛している。
気が狂う程、目が廻る程
君を愛してしまった。
「…はぁ?」
連れ込まれたのは司令室。
後頭部には未だ銃が突き付けられた状態で、鈴欠はため息をついた。
余裕なのは撃たれるわけがないとたかをくくっている訳ではなく、ただ単に眠いからだ。
「まぁ簡単にいえばな、お前、仕事しないから。ノルマをかそう。そう言うわけだ。」
「いや、だからそれはわかった。で、なんで…その服がでてくるんだ?」
司令官がもっているのは、長い黒衣。
白い線と、銀の十字架が装飾されている…神父のような服だ。
「お前にはこれから、19世紀あたりのイギリスに行ってもらう。」
「それ違法だろう?」
「上がいいって言ってんだ。いいんだよ、たぶん。」
「多分で行かされるのか?たまったもんじゃないな。で?その服は?」
「そこらの人間の記憶操作しとくから、人間のフリして一月過ごせ。その間に、指名する人間を、三人…。」
「生け贄に捧げろ。か?無茶を言うな。…安易に歴史をかえていいのか?」
司令官は困ったようにため息をついた。
「新人が殺す奴間違えてな…。現代じゃ処理不可能な事態になってるんだ。ってことで、よろしく。」
「…帰っていいか?」
正直に、鈴欠はつぶやいていた。銃口が強く押しつけられる。
「いや、無理だろう?俺は子持ちだし。」
「問題ないさ。つれていけばいいんだ。」
「…。失敗した場合は?」
「あぁ、大丈夫だ。サポートを付ける。」
どの辺が大丈夫なんだ。
ため息をついて、彼はあきらめた。たまには従ってみるのも悪くない。
「わかった、やる。」
「悪いな。それなりに報酬は出す。頑張ってやってくれ。」
「期待しないで待ってるさ。っていうか、そろそろ銃退けてくれないか。肩がこる。」
後頭部の威圧が消えて、鈴欠はため息をついた。
「ここはいつから味方に銃を向けるようになったんだ?」
「安心しろ。お前だけだから。」
「VIP歓迎はいらないんだが?」
「まぁそういうなよ。力があるんだから真面目にやってくれ。」
「もう少し給料あげてくれるなら考えてもいい。」
「馬鹿いえ。」
「…やっぱダメか。」
期待していない口調でそう言った鈴欠はソファーから立ち上がった。
黒衣を受け取るとにこりと笑う。
この男が好意をうけて笑うところを、司令官はみたことがなかった。
「で、何に化ければいいんだ?」
「神父。人間様に教えを説くんだよ。」
「…悪魔が神父に化けるのか?大した度胸だな。」
呆れたように肩をすくめた彼は、まぁ、と笑みを深める。
「楽しませてもらうさ。ターゲット、今回は女もいてほしいんだが。」
「だろうと思ってな。」
司令官から渡された写真をみて、彼は心底楽しそうな顔をしていた。
「喰っていいんだな?」
「どうぞご自由に。」
本気になればこのくらいの任務など彼には造作もないものなのだろう。
そう、司令官に思わせる笑みを、彼は浮かべていた。
「……。」
ふと、鈴欠が顔をあげた。少しの間宙に目を泳がせてため息を吐く。
「どうした?」
「……いや。じゃぁ、とりあえず任務は受けた。座標はあとで…そうだな。あんたが家に来てくれないか。悪いがこれから行かなくてはならないところができたんでな。」
悪怯れもせずにそう言った鈴欠に司令官は苦笑した。
この男の中に人の迷惑を考えるなどという高尚な考えはないらしい。
「わかった。」
「悪いな。…あぁそうだ。大事な物を忘れていた。」
ドアノブにかけていた左手を、す、と司令官に差し出した鈴欠は、この上ない美貌でほほえんだ。
「俺ひいた慰謝料。治療費。それと、向こうでの生活費。払え。」
「…いくらだ?」
「そうだな。100万くらいか?」
「はぁっ?!」
「あ、やはり安いか。じゃぁ200万。」
「ち、ちが、高っ!」
「何?もっと出してくれるのか?めずらしく気前がいいな。じゃぁ500万で。いや、悪いな。」
ちっとも悪く思っていない口調で鈴欠は言った。
司令官は不意打ちにことばが出ないようで、口をぱくぱくしている。
酸欠の鯉みたいだと、鈴欠は思っていた。なかなか可愛らしい。
「じゃ、500万頼んだからな♪」
にっこり笑って黒衣を振った鈴欠はさっさと逃げてしまった。
…のちにショックから解放された司令官の手にはしっかり請求書が握らされていた。らしい。
*
僕は今一生懸命戦っている。…誰と?それは、さっきの金髪お兄さん、瑛さんとだ。
何故か知らないけど、瑛さんと師匠はとてつもなく仲が悪いらしくて…。
師匠への恨みが僕にも降り掛かってきた。
「へえ、鈴欠が君の記憶者?…君もさぞ、有能なんだろうねぇ。」
「僕はまだ創られたばかりの未熟者ですから。」
「君はいったい何ができるんだ?」
「何、とは?」
「下級の天使くらいは倒せるんだろう?その歳ならば。」
滅相もない。僕は本物の天使さえ、みたことがなかった。
「ごめんなさい、僕天使をみたことがないんです。一度師匠と地球に行った時に襲撃にあったんですが、師匠に庇われたので姿は見てないんです。期待にそえなくてごめんなさい。」
にっこり笑ってみる。向こうは何故か、してやったりという顔をしていた。
「なんだ、有能かと思えば無能か…。あぁ自慢じゃないが、わが息子佑聖はとても有能でね。一人で天使を倒せるのだよ。」
「…それって自慢ですよね。まぁ、僕には関係ないことですが。あの、出すぎたことですけど、瑛さんは忙しいんですよね?なら、僕なんかにかまってないでさっさと仕事したほうが、よっぽと時間を有効に使えると思うんですけど。まぁ、これも僕には関係ないんですけどね。」
「っ…!い、いや、君が一人で淋しいと思ったんだよ。」
「あぁ、そうだったんですか?ならご心配なく。よく留守番してるんで平気です。なんだ、僕てっきり、口で忙しいっていってるだけの、無能な人かと思ってました♪」
「な……っ!」
「てめぇ、師匠にむかって何失礼なことほざいてんだ!!!」
第三者の声にびっくりした僕は、目を見開いた。
真っ赤な髪に、緑の目をした同い年くらいの少年が、僕の服をつかんでいる。…印象はクリスマスカラーだ。
「……えーと。君誰?僕は弥。よろしくね。」
「なめてんのか?!さっさと謝れ!」
「え?謝るって何を?僕、何かした?」
「てめぇ、ふざけんな!」
クリスマスカラー君は気が短いみたいだ。
迫りくる鉄拳、あたったらそれなりに痛そうだなぁと、僕はため息をついた。
「廊下で騒ぐな。」
ふと、体が宙に浮く。
クリスマスカラー君の顔面に、見覚えのあるカタチのいい指が、あてられていた。
「師匠?!」
「なんだ。」
片手で僕を摘み上げ、片手でクリスマスカラー君を止めている師匠は、なぜかうれしそうだった。
「よかったですね、無傷で帰ってこれて。」
「当たり前だ…。さっさと帰るぞ。面倒だ。」
さらりといった師匠は、僕をおろすとさっさと歩いていってしまう。
が、途中で何かに気付いて、くるっと振り返った。
「弟子に粗相がないように、もう一度仕付けなおす必要があるんじゃないか?廊下のど真ん中で他人の…それも何の罪もない少年を殴ったらそれはもう、大変なスキャンダルだ。いくら力があっても…まぁ、それは俺が言うまでもなくわかっているとは思うが。ま、精々可愛がるんだな、忙しい瑛サマ。」
皮肉100%の言葉を吐いた師匠は、そのまま歩いていく。
あわてて後を追うと、彼は必死で笑いを噛み殺していた。
「師匠…?」
「ん?おまえ、無邪気にかなりひどいことを言ってたな。素か?」
「…?なんか、いけないこと言いましたか?」
「いや…無意識か。あぁそうだ、かえって着替えたらもう一度でかける。お前は連れていけそうにないから留守番をたのんだ。」
そう言った師匠が車のキーを出した。
自動ドアを守っているガードマンにひらひら手を振ると、外にでる。
ガードマンはえらく畏まって何度も頭を下げていた。…師匠ってそんなに偉いんだろうか。
「…なんだ?難しい顔して。腹でも痛いか。」
「は?いや、師匠って意外と知り合い多いんですね。家にいるときが多いから知り合いあんまりいないのかと思ってました。」
「500年近く生きてるんだ。知り合いだって増えるだろ。」
「あ、そういえばあの白衣のお兄さん、何ていう方なんですか?誰かに似てる気がするんですが…。」
「白衣のお兄さん……?あぁ、鳴鈴か?そうだな、あいつは静鳴の弟だ。」
「弟?!」
悪魔に兄弟はいない。
同じ製造者から創られたとしても、それは兄弟とは呼べないからだ。
「あぁ、双子。ただし100年の時差があるが。」
「へ?」
「神の遊びさ。にしても、あの二人は似てない兄弟だが。」
「ですか?」
「鳴鈴はまともだ。」
「それって静鳴さんがまともじゃないって言ってるように聞こえるんですけど…。」
「まったくもってそう言う意味だ。」
友達にそういうこと言って良いんだろうか。
さらりと言った師匠は、さっさと車に乗り込んだ。
「にしても、お前使えるな。」
「はい?」
「瑛があんな顔をしたのは久しぶりだ。…今なら高笑いができる気がする。」
「怪しいからしないでください。」
「するか馬鹿。あ〜も、気分いい。司令官から金巻き上げたし。」
「は?!あ、あの、ちょっと?!」
この人は何言ってるんだか。
めずらしく喜びでにやにや笑っている師匠の運転はかなり荒い。
「安全運転、してくださいよ。」
師匠は笑って答えなかった。
PACE2→序章...fin...
to be continued.
何だか長くなってしまいました。ごめんなさい(>_<。)えぇと、鳴鈴さんの名前はなりすずと読みます…念のため。 今回の詩みたいな部分は、本文とあまり関係なくなってしまいました…構成がうまく行っていませんごめんなさい(>_<。)……夏休みは終わり、宿題おわらず、かなりピンチなんですが、なぜかこちらをやっております。生暖かく見守ってくださいませ。では。