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MAGIC Ⅰ

薄く揺らめく緑色の魔力を全身に纏ったマナが、自身の大剣を振り上げた。二メートル近くに及ぶその剣は横幅もでかく、重量もかなりのものとなるのだろう。


「はぁぁっ!」


鋭い呼気と共に、彼は大剣を上段から斬り下ろした。大気を切り裂く音が間近に迫る。


「くっ!!」


両手を添えた刀に、マナの大剣が激突した。緑の魔力と赤の魔力がせめぎ合い、周囲に閃光が散る。刹那の衝撃に足を屈しそうになったが、歯を食いしばりそれに耐えた。そして、お互いの力が拮抗する。ギリギリと、剣と刀の狭間からお互いの顔を睨み合うこと数秒。埒があかぬと判断したのか、マナは大剣を有しているとは思えない俊敏さで後ろへと飛び退いた。


相対する敵がいなくなった俺は、振り向きざまに刀を一閃する。キキンッ、と二振りの短剣が弾き飛ばされ、地に突き刺さった。その奇襲に気を取られた瞬間、言いようのない悪寒が背筋を駆け巡り、俺は全力で跳躍した。


宙を跳んだ俺の靴底スレスレを通過した大剣。後少しでも回避が遅れていたら、と最悪のビジョンが脳裏に浮かんだが、ひとまず危険を逃れたことに安堵を覚える。しかし、それも束の間。眼下でほくそ笑むクレイアの表情から、俺は敗北を悟った。


「もちろん、このテストは魔法なしだなんて言ってないからね?」


この危機を乗り切るために、“記憶”を漁るが、とてもじゃないがクレイアとマナの魔法を受け止める術はない。最早、詰みだ。だったら、と少しでもダメージを軽減するために思考を巡らせる。スッ、とクレイアが腕を持ち上げ、人差し指を俺に向かって突きつけた。その白磁のような指の先に、空気を焦がす高電圧の雷が集中する。マナはただ俺を無表情で見つめるだけ。何を意図しているのか、全く読み取ることができない。まだ表情があったほうが、何かしらの安心感を覚えられる。


「じゃあ、頑張って死なないようにね? 《voltage type laser lance》」


「《百式 緑ノ鷹 七番ノ術》」


―――意識が暗転した。





   ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲





「戦闘センス、能力、技のどれをとっても、言うことなしだったね。魔法が少し微妙だったかな?」


「座学は中の上といったところでした」


「咄嗟の機転も利く」


「最後のアレなんて凄かったね。自分のすぐ近くで魔力を爆発させて、その爆風で逃げるなんて。まぁ、結局はそのせいで気絶してたけど」


重い瞼を持ち上げた先には、雲一つない清々しいまでの青空を背景とした三つの顔。


「おや、ようやくお目覚めですね」


未だに夢心地から冷めぬ頭を無理やり動かし、記憶を辿る。クレイアが持ってきた制服に袖を通し、キアの作成したテストを受け、闘技場でマナとクレイアを相手取った。そして―――


「―――そうか、気絶したのか」


「うん、クレイアとマナの魔法は避けたけど、自分のでね。魔法軽減の制服のおかげで外傷はないから安心して?」


そうか、と生返事を返しつつ、戦闘を振り返る。魔法無しならば、あいつらに負ける気は一切しなかった。問題は魔法だ。長年のブランクは然り、発動スピード、威力、全てにおいて修練が足りない。誰かを師事すれば話しは早いと思うのだが。


「誰か炎系統の魔法を得意とする奴はいねぇか?」


「残念ながらここにはいませんね」


「紹介ならしてあげれるけど? 仲間が強くなるに越したことはないからね?」


「いや、そんならいい。刀術修行の時間を少し魔法に当てる」


問題点は魔法発動後の“魔力精製”だった。


魔法における三つの重要点。空気中に浮かぶ魔粒子を体内に取り込み、魔力へと変換する“魔力精製”。その魔力を己の想像した形に固定し、性質を付与する“概念固定”。最後に、魔法発動後の動きを決定する“運動示唆”。この三つの流れの内の、魔力精製が思っていたよりも上手くいかなかった。


魔粒子を魔力へと変換する際、何かに吸い取られるような感覚を覚えたのだ。事実、魔法に込められた魔力が少なく、密度の低いスカスカの炎しか放てなかった。あいつらの扱う魔法が石だとしたら、こっちはスポンジ。勝てるわけがない。それに加え、何がその問題を引き起こしているのか、皆目見当がつかない。


「まぁ、寝ていたいのも山々だと思うけどさ、そろそろ授業が始まるから教室に案内するよ」


「そうだな。オレ達も久しぶりに授業に出るか」


「一か月ぶりですか? 前回のテスト以来、ずっと屋上かクレイア商店に居座っていましたからね。本当に久しぶりです」


「俺も学校をサボっていた身としてはなんにも言えねぇけど、単位とかは大丈夫なんか?」


「ええ、この学園には学園クエストというものがありましてね、学園が王国直轄業務委託所ギルドから学生向けのクエストをいくつか受注しといてあります。掲示板に張り出されたそれをこなせば、報酬とともに単位が貰え、留年の心配はなくなる、というわけです」


学園クエスト、か。授業が退屈だったら行ってみるか。


「そんなことよりあと数分で鐘が鳴っちゃうよ? 早く行かなきゃ」


「キア、また後で学園の説明を頼む」


「ええ、わかりました。それでは一限目の途中に、屋上で」


「サボるのは決定事項かよ」


―――闘技場に重々しい鐘の音が鳴り渡った。





   

七月二十九日、第九話投稿時、回覧数1624

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