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EARTH 

薄暮。低く垂れ込め、行く当てもなく漂う雲は、西に傾いた夕日によって朱に染められている。週末であるためかいつもより人通りの多い繁華街。有象無象の雑多な人ごみの中、俺は獲物を物色する。


「……あいつでいいな」


数歩先を歩くスーツを着こなした中年の男、そいつを今回の標的と見なした。男には少々泣きを見てもらうとしよう。俺は高ぶる感情を顔に出さぬよう意識しつつ、男とすれ違った。


特技その一、掏摸すり


「……四万と二千……か。あんまり多くねぇな」


生活費稼ぎのため、月に一度か二度、財布を盗る。俺の生活がかかっているため、罪悪感は無きに等しい。掏られる方がアホなんだ。


「これじゃあ足りないな」


さて、次の獲物でも引っ掛けにいくか。掏った黒財布を懐にしまい、俺は道を逸れた。薄暗く、人気のない路地裏に足を踏み入れる。


特技その二、変装


変装といっても、特殊メイクで顔立ちを変えるといった技ではなく、相手に与える印象を異なるものとする。掏摸すりを行う場合ならば、万が一のことを考慮し、縁の広い黒眼鏡をかけ、前髪を目にかける。はっきりと顔を覚えられないようにするためだ。あくまでもその程度。しかし俺みたいな方法で生計をたてている者には必要な技だ。


次の狙いのために、両手の指で髪をぼさぼさにかき回した。そして、若干背筋を丸め、必要以上に辺りを見回しつつ路地裏を歩き行く。傍から見れば、俺の姿は路地に迷い込んだ根暗な男と写るだろう。


それこそ“恐喝”にはもってこいの。


それが俺の目的、カツアゲをしてきた奴らから逆に身ぐるみ全部を剥ぎ取る。帽子から靴下、時計など売れる物は奪い去る。これがまたおもしろい。病み付きになってしまう。俺から金を奪おうとした奴らが地面を無様に転がり、後悔で瞳を染め、見上げてくる時など背徳感で背筋が震える。その感覚が大好きだ。角を曲がると、壁にもたれかかり、煙草をふかす三人の男が俺の視界に入った。視線を足元に落とし、顔を見ぬように通り過ぎようとする。


「おい、ちょっと待てよ」


ビンゴ。俺の行き先を立ち上がった男が塞いだ。内心でほくそ笑みながら、来た道を戻ろうとする。しかし、その先にも他の男が立ち塞がった。


「ここを通りたかったら持ってる金を全部置いていけ。いいか、全部だぞ?」


「ひっ……も、持ってないです」


いかにも怯えています、と絞り出したような声で応対する。我ながらよくやるよ、そう思ってしまうほどだ。


「いいからさっさとだせっ! 痛い目にあいたいのか?」


「は、ははははいぃ」


俺は懐から繁華街で掏った黒財布を取り出す。満足そうに頷く男にそれを手渡す直前、いかにも手が滑っちゃいました、と財布を下に落とした。男は自分の股下に転がったその財布を手にするために、舌打ちをしつつも身を屈めた。俺に向かって頭を突き出している状態である。そんな好機をみすみす逃す馬鹿はいないだろう。


特技その三、戦闘


「―――この俺から金を奪おうなんて100年早ぇんだよ、ド三流共が」


これからこの玩具で気が済むまで遊べる。笑みが、歓喜が止まらない。ストッ、と男の項に手刀を叩き落とした。力を失ったその体は、地面に這いつくばる。


最高だ。


日はすでに西に姿を消した。夜の帳が降りた細い路地裏。闇が支配するその場で、俺は黒笑を顔に貼り付ける。久しぶりの獲物、存分に楽しませて貰うとしよう。俺は後ろに立つ男の股間を思い切り蹴り上げた。





   △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼





闇より濃い漆黒。禍々しいまでの黒。


コンクリートで塗り固められた地の上、漆黒はただその場に存在する。


異質な闇。光を飲み込みし小さき穴。


世界と世界の摩擦によって生じたそれは扉。通りし者を拒むことはない。


ただ在るだけ。


世界を跨ぐ扉が(ウツツ)と現を繋げるはほんの一瞬。通過するのもまた一瞬。


楽園か地獄か。はたまた夢か現実か。漆黒の扉をくぐってみなければわからない。



―――そして今宵、一人の男が闇なる扉を押し開けた―――





おおよそ2000~3000字を一ページの目安とします。読んでくださった皆さん、ありがとうございます。

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