2011年“空”誕生日記念【暁に流れる桜色の涙】
日向side
「ついに……たどり着いたな日向?」
「あぁ…俺達の勝利がな」
真備の言葉に俺は確信を持ってそう答える。
そして俺達の目の前には春の暖かさより冬の寒さの方が断然強い風と舞い上がるグラウンドの砂。
それと――未だに真新しさに輝いているように見える大きな校舎。
そう。俺達は今俺達が通っている学校。“桜時学園”だ。
「ゲイル先生に感謝しなくちゃな」
「だな。俺達がここにいるのはゲイル先生のおかげだし――それにこいつのこともあるしな」
俺はそう言うと肩に担いだ竹刀袋を落ちないように少しだけ自らのほうに引き寄せる。
真備のほうも背中に背負ったリュックに一瞬だけ目をやり再び前をむき直す。
そこには俺達が最も得意とする殺傷能力の低い武器が入っていた。
話は少し前――昼飯時の話に戻る……。
〜1時間前〜
「ゲイル先生が!?」
俺の言葉。そしてそれを肯定したゲイル先生の言葉を聞いた真備は一気に起き上がり驚きの声をあげた。
「なんだ起きたのか真備?」
「――死にかけた。――殺しかけた人間に言う言葉かよ……それが!!」
「えっ!?記憶あんのか!?」
「それどういうことだ!?」
「マッタク―ダメジャナイデスカヒナタ?」
「さすがはゲイル先生……今の俺にはあなたが神にすら見え――」
「――ヤルカラニハシッカリキオクヲケサナイト!!」
「――ません!!ってかあんたが教えたのかー!!!!??」
ゲイル先生にも裏切られ四面楚歌の真備がついに我慢しきれずに叫んだ。
そんな真備を見ながら俺とゲイル先生は肩を大きく震わせながら大声で笑った。
『ハハハハハハハッ!!!!』
「笑うな!!極悪コンビ!!」
「ははは……いやごめんごめん。あまりにお前が哀れすぎて……」
「哀れって何だよ!?哀れって!?」
「アナタガカワイソウ――トイウコトデスネ!!」
「わかりやすいうえにこれ以上にないほど俺の心を貫くものはないくらいの言葉をありがとう!!ドンチクショー!!!!!!」
そして真備はついに泣きながら桜時クリニックから飛び出していった。
車には気をつけろよー。
お前なんかがぶつかったら車のほうが大変なことになっちまう――。
俺は最後に心の中でそう毒づくとさっきまで一緒になって真備をいじっていたゲイル先生のほうを向いた。
「――さて。真備をいじるのはこれくらいにして」
「ワカッテマス。ワタシノジョウホウヲアナタニオオシエシマショウ」
「ご協力感謝します。つかこんな企画に参加してくれてありがとうございます先生」
「――タトエキュウカンガ(急患)ガハイッテモワスレハシマセンヨ――」
「え?ゲイル先生何か言いました?」
「イエ……ナンデモアリマセン……」
「?そうですか……」
少しだけ寂しげな表情をしてゲイル先生は何かを呟くもそれは日向には届かなかった。
――いや。ゲイル先生の声はまるで誰かの意図のよう大気にかき消されたのだ。
澄んだ“青空”のように何も残らないように……。
「サテ。ドコカラオハナシシマショウカ?」
「とりあえず腹へったんで飯下さい!!!!!!」
「1分帰ってきたと思ったらに第一声はそれか!!??」
ドグシッ!!!!!!
「ぐへっ……」
「死に腐れ――」
「ハハハ……」
午後の休憩時間。患者一人いない桜時クリニックの待合室に真備のうねり声とゲイル先生の苦笑いそして日向の冷酷な声が響き渡るのだった――。
――――――――
―――――
―――
―
「べ?ばぶべぼぼびびばんばよ?」
「真備とりあえず口の中のものを飲み込んでからしゃべれ。さっきから何言ってんのかさっぱりわからん」
口いっぱいに食べ物を突っ込んだまましゃべろうとする真備。日向はそんな真備の行儀悪さにため息をつきながら真備に注意した。
「(ゴックン)――で?何でここに来たんだよ?」
口に含んだ食べ物を飲み込むと真備は改めて日向にそう問いかける。
するとそれに応えたのは日向ではなくこの場にいるもう1人の人物。
――ゲイル・ハルトマンだった。
「(日本語訳)真備は不思議に思わなかったですか?なぜ私があそこにいたか?」
「あそこ?――あそこってどこだ――!!」
「(日本語訳)――どうやら気付いたみたいですね」
ゲイル先生の言葉に息をのむ真備。そして真備の確信は日向によって断固たるものとなる。
「俺達が今日最初にゲイル先生に会った場所。つまり俺の家の前はここ桜時クリニックとは真反対にある。普通に考えればゲイル先生があんなところを歩いているのはおかしいってことだよ」
「フゥ…サスガハヒナタデスネ。アレダケデソコマデワカルトハ……」
日向の言葉にゲイル先生は少しだけ声を潜めながら言う。
そして真備は日向の頭の良さに改めて驚きを見せるのだった。
「――というわけで。ゲイル先生。知恵理達はどこにいるんですか?」
ここにきた経緯を話した日向は手に持った箸を机に置くとゲイル先生に少し真剣な顔で問いかける。
その様子に真備も箸を置いてゲイル先生を見つめた。
だがそんな日向と真備にゲイル先生は予想外な返答をするのだった。
「(日本語訳)――その前に日向。あなたに1つ問いかけます」
「問いかけ――?」
さすがの日向も予想外の展開に少し不思議そうな顔をしながら復唱する。
そんな日向にゲイルはクスッと少しだけ笑い言葉を続けていった。
「エェ。アナタニシカコタエラレナイコト。アナタダカラコタエラレルコトデース」
おちゃらけた口調のゲイル。だがその瞳にはさっきまでの柔らかさはなくむしろナイフのように鋭く尖っている。
間違えたら視線だけで殺されてしまいそうなほど危ない目つきだった。
「それで……質問の内容はなんですか?」
「――コレハ“シツモン”。トイウヨリハ“カクニン”ニチカイデスガ……」
俺の言葉に黙って頷いたゲイル先生は少しだけ押し殺すような声でそう言う――。
そしてゲイル先生から放たれた言葉はあのときとは違う。だがあのときに聞いた言葉だった――。
「ヒトハナゼナグルコトガデキルノデショウカ――ワカリマスカ?」
それは俺が3年前ゲイルに初めて会ったときに聞いた言葉だった。
俺を救ってくれた。恩人と彼――ゲイル先生を呼ぶ原因のあの言葉。
俺はゲイル先生の言葉に少しだけ戸惑いを見せるも一度大きく息を吸い込むとはっきりと答えた。
「――大切な人を守るためです」
――時が止まる。そんな大それたことはなかった。
だが俺の言葉ははっきりとゲイル先生の耳に届いたらしくゲイル先生はナイフのような鋭い瞳を再び和らげていつもの笑顔き戻っていた。
「――セイカイデス」
その言葉は俺の耳にしっかりと響く。
俺はゲイル先生のその一言に表情を緩めた。
「ありがとうございます」
それは俺とゲイル先生との二回目のやりとりのはずだが俺の気持ちはあのときと同じくどこか落ち着かされていた。
そして俺は真備に声をかけると立ち上がる。
「“オウジガクエン”ソコニチエリタチハイマス」
「Thank you ゲイル先生。じゃあまた後で知恵理の誕生会で会いましょう」
最後にゲイル先生にそう言うと俺達は部屋を立ち去ろうとする。
だけどそんな俺達をゲイル先生は制止した。
「――ワスレモノデスヨ」
『え?』
ブンッ!!ブンッ!!
パシッ!!
突然ゲイル先生から投げられた物体を俺と真備はキャッチする。
見てみればそれは竹刀袋。それに真備には何か小さめなリュックが手の中にあった。
「ヒツヨウデショ?」
「やっぱり先生にはかないませんね……」
苦笑いを浮かべながら俺がそう言うとゲイル先生はゆるりとお茶を啜りながら俺達にウィンクした。
それを見た俺達は最後にゲイル先生に一礼してから桜時クリニックを後にしたのだった――。
ゲイルside
日向と真備が走り去った後。私は重たい腰を上げて彼らが残していった茶碗を持ちキッチンへと歩き出した。
別に礼儀がなってないとかは思わない。むしろ日向達にはここを家と思っても構わないと思っているからだ。
「――シンパイハイリマセンネ」
誰もいなくなったこの部屋で私は皿を洗いながら静かに呟いた。
カチャカチャと皿が音をたてる。私はその音を聞きながら少しだけ感傷に浸ってしまう。
誰もいない寂しさも確かにあるがこれは違う。
私は今日がどんな日なのかを知っているからこそそういう気持ちになったのだ。
「(日本語訳)教会に行ったら報告しないといけませんね――」
いつもより少しだけ多かった茶碗を洗い終わった私は水道の蛇口を閉める。
知恵理の誕生日パーティーは約3時間後くらいに始まるはずだが私はその前に行かなければいけないところがあるので今から家を出なければいけないのだ。
彼に報告するためにはクリスチャンである私は教会へ行くしかない。
そしてそこで彼に彼の弟と妹の成長を長々と報告するのだ。
彼の悔しがる姿が目に浮かんでくれのが私には楽しくて仕方がなかった。
「アナタガナクナッテカラモウヨネンデスネ――」
コートを羽織り外に出た私は最初に“空”を見上げてそう呟いた。
`
――そう。これは本編より僅か3ヶ月前の話。
そこにはまだ金髪の町医者が穏やかな顔で空の向こうに報告する安らかな時間があった――。
“空”の向こうへと――。
日向side
「ななななんでこんなことになるんだー!!??」
「真備!!叫んでないで走れ!!じゃないと撃ち抜かれるぞ!!」
ゲイル先生との回送を終えた俺と真備はずんずんと校舎へ向かって歩き出した。だがそこに待っていたのはまさしく地獄。
校舎へと近付くために校庭へと一歩踏み出した瞬間に俺達は――。
――【狙撃】されたのだ。
「コンチクショー!!誰だよ撃ってきてんの!?」
「アホかお前は!!こんな正確に俺達の急所を狙い撃ちして問題nothingなやつなんて1人しかいないだろ!?」
「――!?あいつかー!!!!」
俺達の頭の中にはそのとき1人の人物が思い浮かんでいた。
その人物は常に右目が見えない状態。尚且つ反射神経がずば抜けて高い俺達の男のもう1人の親友。
そう。その名前は――。
知恵理side
「コウ君……本当にヒナ君とマキ君大丈夫なの?」
「えぇ♪だから何も心配しないでください♪」
ここ屋上から眺めるあまりに非現実的な状況に私がコウ君に問いかけるとコウ君は笑顔でそう言いいました。
だけど目は笑ってない。コウ君の目はどこからどう見てもスナイパーの目でした。
バシュッ!!バシュッ!!
消音装置がついているからかゴルフバックから取り出したそのスナイパーライフルからはほとんど音がしません。
でも確かにコウ君の持ったそれからは大量の弾が発射されヒナ君達を狙い撃ちしてました。
「やっぱり一筋縄じゃいけませんね――」
それからさらに数弾撃った後コウ君はそう呟きました。
「?コウ君どうするの?」
「ちょっと思考を変えてみようかと――」
するとコウ君は再びゴルフバックから何かを取り出してライフルに装着しはじめました。
黒いそれは何かは私にはわかりません。だけど1つだけ言えること――。
それはスナイパーライフルの原型はいっさい留めていないということです。
「思考を変えるってなーにコウ君?」
「――昔の格言にこんな言葉があるじゃないですか」
ガチャッ!!!!!!
重くずっしりとした音が私をたじろかせます。
「“下手な鉄砲――」
コウ君はそこまで呟くと銃の引き金を引きました。
そしてそこから――。
ズガガガガガガガッ!!!!!!
けたたましい音とともに何百もの弾丸が放たれるのでした――。
「――数撃ちゃ当たる」
最後にはいつもとは違う少しだけ冷酷なコウ君の声が聞こえてきました。
日向side
「――危なかった」
俺はそう呟くと目の前にあった“盾”を投げ捨てる。
ていうかあれはもはや犯罪の領域がする。銃刀法違反で懲役3年は間違いなくくらうだろ。
あれに当たってたら命がいくらあっても――。
「俺は死ぬほど当たったけどな!!??」
そのとき突然俺が投げ捨てた“盾”が起き上がる。
――生きてたんだ。
「よぉ真備!!元気かー?」
「全身にゴム弾を受けて死にかけたんですけど!?つか何だよ!?お前何やってんの!?何やっちゃってくれてんの!?」
「“真備バリアー”」
「さも当然のように真顔でそんなこと言うなー!!!!」
顔がどこかの愛と勇気だけが友達の寂しいあんパンヒーローのそっくりさんになった盾こと真備が悲壮に暮れながら叫び散らす中俺はさっきの攻撃で舞い上がった砂煙を眺める。
それは俺達にとって喜ばしい誤算だった。
「さてそんなことはどうでもいいから――真備」
「何か俺の人権を全て否定された気がする……」
悲壮感漂う真備の雰囲気に押されることなく俺は真備の手を引いて駆け出す。
それは端から見ればまるで同性愛者のようにも――。
「見えないからな!?」
「な…なぜお前が俺の心の中を…まさか読心術か!?」
「声に出てたんだよ!!??」
「なら問題nothing」
「よくないわ!!!!!!」
そんなこんなで俺達はなんとか校舎へとたどり着いたのだった。
――――――――
――――――
―――
―
「日向!!いったいどこに向かってんだよ!?」
校舎に入った俺達はまず正面玄関から入ってすぐ目の前にある中央階段を駆け上がっていく。
そんな中ふと疑問に思ったのか先に階段を駆け上がる俺についてきている真備が問いかけてきた。
「真備!!まず最初に学校入ってからここに来るまでに何があった!?」
残り時間は僅か。だから俺は駆け足を止めることなく走りながら真備の問いに問いかけで応じた。
「え!!えっと――学校に入って校庭を歩いていたらたぶん輝喜に狙撃されて――」
「それだ!!」
「は?」
真備が輝喜の狙撃したといったあたりで俺は真備の言葉を断ち切る形で叫ぶ。
まだ少し頭が追いついてきてないだろうが時間がないから俺はさらに話を進めた。
「だから輝喜の狙撃だ真備。普通狙撃する場所は目標よりも上にいるのが当たり前なんだ。しかも俺達を狙うためにはグラウンド全てを見渡せなければいけない――。その条件が揃っている場所なんてこの学校の中じゃ一カ所しかないだろ?」
「――そうか!!屋上か!!」
「ご明察」
伊達に何年も通ってない。この学校の構造なんて頭にすぐ思い浮かんでくる。
それで狙撃するのに一番適した場所を突き止めるなんて造作もなかった。
「だけど日向?そこに知恵理がいるとは限らないんじゃないか?」
「――確かにな。だが少なくとも輝喜はいるんだそこに知恵理がいなかった場合は――」
「輝喜に聞き出す――ってか?お主も悪だな!!」
「輝喜にはさっきの借りもあるしな。借りた仮には3倍返し!!!!」
「そして恩も恨みも決して忘れない!!!!」
『それが人間の美徳!!!!』
お互いにニヒルな笑みを浮かべながら同時にそう言う。
気付けば俺達は屋上前の階である4階へと出ていた。屋上へと続く階段はこの中央階段にはない。つまりこの4階の別な所にある屋上へ続く階段へと行くために4階の廊下に出なければいけないのだ。
だが4階の廊下へと出た俺達の前に2つ目の障害が現れたのだった。
「げ…姉貴……」
「ここで凪の登場か」
そう。そこには不動明王の如くなぜか学ランを肩に掛け“断罪”と書かれた腕章を付けた凪が仁王立ちしていたのだ。
そして俺達はその姿に見覚えがあった。
それは某週刊誌のマフィア漫画にて最強のマフィアの雲の守護者であるとある中学校の風紀委員長。そしてそんな彼の口癖は――。
「――噛み殺すわよ?」
『雲雀○弥!!??』
それは間違いなく現在俺達の中で密かなミニブームとなっている漫画での凪お気にいるのキャラだった。
「まさか姉貴がコスプレにて登場とはな……」
「あら?あたしがコスプレしたのがそんなに意外だったかしら?」
「問題nothingだとおもうぜ……たぶん」
正直意外なんてもんじゃない。意外を通り越して最早絶句の段階だ。
そんな俺達に凪はくすくすと笑いながら俺達の反応を楽しんでいる。ある意味今までで一番厄介な凪だった。
「――で?そこは通してくれるのか凪?」
「馬鹿じゃないのそこの小動物ども」
「――俺はどうしたらいいんだ?」
ついには完全なる最強の風紀委員長ver女になるんじゃないか?
そんな疑問が凪との会話の中で浮かんできてしまう。
だが凪なら十二分にありえるから始末が悪い。そのうち俺の喧嘩の強い奴ランキング1位の座もあいつの手に――。
「日向」
俺が本気で――本当は誰にだってくれてやりたい――学園最強の名前を奪われるのを考えていたとき不意に真備から声がかけられた。
「――真備?」
そして振り返る間もなく俺の目の前に俺よりも数センチだけ高い真備の大きさ背中が現れた。
その両拳にはあの某マフィア漫画の最強マフィアの晴の守護者こと中学校のボクシング部首相のようなボクシンググローブがあり上半身をさらけ出した真備がいた。
「ここは俺に任せてもらおうか――極限に」
「ワォ。まさかあんたもコスプレで来るなんて……」
ちなみにボクシンググローブをつけて上半身を脱いだだけの人間をコスプレとは呼ばない。
そして凪!!本当に風紀委員長になりきるつもりか!?
「――先に行け日向!!時間がない!!」
「――行かせると思ってんの?2人とも?」
シャキッ!!シャキッ!!
そして凪が取り出したのはまさしく最強風紀委員長の武器“トンファー”
つかいったいどこから持ってきた&どこから取り出した!?
「あたしんち!!!!!」
「こんにちは〜♪ありがとう〜♪さよなら〜♪また会いましょう〜♪――ってお前たちの家はいったいどうなってんだよ!?」
『陰陽師にきまってんじゃない(だろ)?』
「――すまん。お前たちの常識の基準を改めて知った気がする」
この2人に常識を求めた俺が馬鹿だったってことだな――。
「ていうか日向早く行け!!時間がない!!!!!」
「!?あぁ分かった恩に着るぜ真備!!」
真備の叫びに俺は我を取り戻し走り出した。
「行かせると思ってんの!?」
だが走り出した俺の前にはトンファーを構えた女最強風紀委員長候補の凪が立ちふさがる。
それでも俺は立ち止まらない。なぜなら――。
ガキンッ!!
「おっと。こっから先は立入禁止だぜ姉貴」
「っ!?この小動物が!!」
俺の背中を任せられる相棒がいるからだ。
凪のトンファーを受け止めている真備はこちらを向くことはない。
だがそんな状態でも俺達は忘れることはなかった。
「日向。俺達がしなければいけないことは?」
「決まってんだろ!!」
屋上へ向かうための階段に向かうために俺は廊下を走りながら人差し指を立てた状態の右手を天高く掲げた。
『天誅!!!!!』
「んじゃ行ってこい日向!!」
「足止め頼んだぞ真備!!」
そして最後にお互いを駆り立てるための声かけをして俺は長い長い廊下を駆けだしたのだった。
“PM1;12”真備VS凪勃発。
――――――――
―――――
―――
―
ガチャッ!!!!!!
廊下を駆け抜けて屋上へと続く階段を駆け上がった俺は屋上のドアを全力で開け放った。
現在の時刻はPM1;22宝探しの終了まであと38分。俺達は宝にたどり着いたのだ。
「ヒナ君!!」
校内を全力疾走してきた俺は少し息をあらげながら目の前の光景を目の当たりにする。
午後の一番暖かい時間の屋上。そこには最初に俺の名前を呼んだいつもとは違いリングでポニーテールに髪を纏めた知恵理。それともう1人――。
「やっと来ましたか〜待ってましたよヒナタン♪」
宝を守る最後の砦。俺のもう1人の男の親友美濃輝喜がそこにいた。
「やっぱりここにいたんだな知恵理。輝喜」
「うんそうだよー」
「そうですね♪ところでヒナタンここに来たということはもちろん?」
俺の問いかけに知恵理と輝喜はニコニコと笑顔を見せながら応える。
そして輝喜は確認も含めて俺にそう問いかけてきた。そしてその質問の意図とはもちろん――。
「あぁ。もちろんあの暗号の意味――解けたぜ」
最初に同封されていた暗号を解いたからだ。
最初はあの暗号の意味はさっぱり分からなかった。孔明が妻に贈った贈り物は確かにあった。だがそれは今回とは何の関係があるのかまったく分からなかったのだ――。
ここ屋上に来るまでは――。
「俺は今この瞬間。全ての謎が解けた」
そして俺はさっき真備と誓い合ったときのように人差し指を立てた状態の右手を今度は上ではなく目の前にいる人物。
――“知恵理”――に突きつけて――。
「暗号の答えは今日の知恵理の髪型にある!!」
そう言い放つのだった。
「ほおぅ…その言葉の真意はなんですか?」
おそらく知恵理は動揺を見せながらおろおろとした顔をしていると思う。
だが目の前にいる最後の砦は知恵理の前に立ち俺に知恵理の表情を見せないようにしながらそう問いかけてきた。
しかし輝喜は気付いてない。実はポーカーフェイスだと思っている輝喜の表情も固まっていることに――。
「あぁ。それを今からおまえ達に説明するよ」
少しだけ瞳がつり上がる輝喜。そんな輝喜に俺は突きつけた右手の親指。中指それに最初から立てていた人差し指を見えるように突き立てた。
「まず第一に孔明が最も愛した女性。さしあたっては孔明の妻に贈ったもの――それは“九連環”だ」
「九連環?」
謎の言葉に知恵理が少しだけ頭を捻る。どうやら暗号を作った本人も分かりやすい本名はともかく分かりにくいこっちの方は知らなかったみたいだ。
俺はさらに言葉を続ける。
「2つ目はこの“九連環”についてだ。九連環と言われても確かにちょっとピンとしないかもしれないけど……こっちの呼び名は聞き覚えあるはず。その名前は――」
俺はそこまで言うと目をつむり深く深呼吸し2人に目を向け言い放った。
「“知恵の輪”だ」
俺がそう言った瞬間。知恵理の頭でゆらゆらと揺れるポニーテールの付け根にあったリングがキランと光った。
そしてそれこそが俺がたどり着いた答え。3つ目の事柄だ。
「――最後に。屋上に来て。今日初めて知恵理の髪型を見て俺は閃いた」
輝喜なのか知恵理なのかはたまた2人なのかは分からないがゴクリと唾を飲み込む音が俺の耳に届いた。
「落ち葉を隠すなら森の中。人を隠すなら人混みの中。――そして今回の宝は桜の髪留めだ。それはつまり――」
タンッ!!キンッ!!
俺が地面を蹴り上げ知恵理に一気に詰め寄り竹刀袋から取り出した模造刀を居合い切りの割合で抜刀する。
ガンッ!!!!!
だが俺の攻撃は知恵理の髪に光るリングに当たることなく輝喜の取り出した漆黒の物体に塞がれてしまった。
そんな輝喜。それに知恵理にニヒルな笑みを見せた俺は最後の一言を呟いた。
「髪留めを隠すんなら――髪の毛の中ってことだ」
そう呟き輝喜に攻撃を塞がれた俺は後ろ飛びをして輝喜から距離を取る。
そして顔を上げた俺に見えてきたのは輝喜の両手に漆黒に輝く二丁のモデルガンだった。
「そこまで分かってしまいましたか♪」
「あぁ。全ての謎は知恵の輪――つまり知恵理の髪を纏めめあげる輪っかにあるってことさ」
そう言いながら俺はゲイル先生の真似をして輝喜にウィンクする。
それを見た知恵理が少し顔を赤らめているが今は気にしている場合ではない。なぜなら俺のウィンクを見た輝喜がニコニコと笑顔のままモデルガンを構えたからだ。
「そうですか。でも確かに今回の宝は知恵理の髪の毛のあります」
「おいおい。そんなこと教えちゃって問題nothingなのかよ?」
「えぇ。別にいいんですよ。だって――」
輝喜の言葉をちゃんと聞けたのはそこまでだった。なぜなら何かを感じた俺はその場から全力疾走で駆け離れていったからだ。
ダンッ!!ダンッ!!
その刹那。さっきまで俺がいた場所に二発の弾丸が通り過ぎていく。
場所的に一発目は溝うちあたり二発目は眉間のあたりだろうか。
その攻撃は明らかなる急所狙いの一撃必殺を狙った攻撃だった。「――チエリンには指一本触れさせませんから」
そしてやけに落ち着いた輝喜の声が俺に届いてきたのだった。
「あ…危なかった……」
片膝をついた俺は背中に冷や汗が流れ落ちるのを感じる。
いくら1日のうちで一番暖かい時間帯と言えど1月のこの時期。背中の冷や汗はかなり冷たかった。
「はぁ…はぁ…」
「あはは♪限界ですか♪」
しかもまずいのはそこだけではない。今日一日中ここにいた輝喜とは違い階段を駆け上がってきた俺には行きが極限まで上がっていた。
「はぁ…はぁ…」
息を整えながら俺は右手に持つ模造刀を握りしめる。
「そう簡単にはここを通させるわけにはいきません」
そして俺は俺の前に立ちはだかる親友という名前の壁を乗り越えて知恵理のもとへいかなければいけない。
「はぁ…はぁ…。お前を超えて…俺は必ず知恵理のもとへ……行く!!」
「ヒナ君……」
時間がないと悟った俺は息を整えるのを諦めてその掛け声とともに刀を握りなおした。
知恵理の顔の赤みが増したがそれは――まぁ――置いといて――。
俺は右手の模造刀を輝喜。それに知恵理に突きつけて俺は宣言した。
「俺は必ず知恵理のポニーテールをといてみせる!!」
“PM1;28”日向VS輝喜勃発
「させると思ってるんですか♪」
ダンッ!!ダンッ!!
宣言と同時に輝喜の両手のモデルガンが火を噴いた。
だがそんなことは関係なかった。なぜならモデルガンを使う輝喜に俺は一気に詰め寄ったからだ。
ガンッ!!!!!
「さすがだねヒナタン♪」
振り降ろした模造刀を輝喜が右手のモデルガンで塞ぐ。
だがここまで詰め寄ればモデルガンはその長所の大部分を失い逆に模造刀はその長所の大部分が引き出される。
それが俺の狙いだった。
だが俺の考えたこの作戦。この作戦こそが俺にとっての命取りだったのだ。追い詰めたかに見えた輝喜だがこれこそが輝喜の狙いだったのだ。
輝喜は模造刀を防いだのとは反対の左手のモデルガンを捨て去り――。
「まさか僕が皆さん達の中で何が強いかを忘れてないよね♪」
「ぐっ…がっ……!!!!」
カランカラン……
俺の模造刀を握る右手を思いっきり握りしめたのだ。
それは俺達の中で“握力”がずば抜けて高い輝喜だからこそできる技。
あの華奢な体のどこから力が出てるのかと不思議に思うほどの威力に俺は模造刀を落としてしまうのだった。
「どうですか?」
「問題nothing……俺はまだまだいける」
刀を落とした瞬間少しだけ力が緩まったのを確認した俺はとっさの判断でその場を急いで離れる。
しかし状況は最悪だった。輝喜から距離を取った俺だが武器になるものは模造刀を納めていた鞘くらいしかない。
対して輝喜は一丁は捨てたといえ右手にはもう一丁まだ弾が入っているらしいモデルガンがある。
――最悪の状況だ。
「どうしましたヒナタン♪模造刀拾わないんですか♪」
「問題nothing。それと少なくともそれは拾わせてくれる人が言うセリフだな」
「あはは♪そうですね♪」
楽しそうに――本当に楽しそうに笑う輝喜に俺はゴクリと唾を飲み込む。
カチャ
そして一時の間笑い続けた輝喜はいきなり鋭い目つきに戻ると右手のモデルガンを俺に向けた。
「じゃあ遠慮なく撃たせてもらいます――果てろ!!」
ダンッ!!ダンッ!!ダンッ!!
最後に輝喜が言ったそのセリフには聞き覚えがあった。
それは凪や真備同様に某週刊誌のマフィア漫画の登場人物で最強マフィアの嵐の守護者にして自称右腕の輝喜お気に入りのキャラの決めゼリフ。
だがもしかしたら俺はラッキーだったのかもしれない。そのセリフを聞いた俺は思いついた。
――俺もあれをやればいいじゃん!!と……。
「ははは〜そういうことなのな♪」
だから俺はなりきることにした。自分のお気に入りのキャラ――最強マフィアの雨の守護者にしてとある中学校の野球部員そして戦国時代から続く最強流派の九代目継承者。
彼が使う剣術の名前――それは“時雨蒼燕流”
弾が流れている中俺はその流派の三の型を思い浮かべていた。
「攻式三の型――」
俺はヒュンヒュンと三発の弾丸を流れるように避けると唯一俺が武器として使えるものとして持つ鞘を手から離した。
「なっ…!?」
驚愕を露わにする輝喜。だけどすでに手遅れだ。
俺は離した鞘をまるでサッカーボールを蹴飛ばすように輝喜に向かって蹴りつける。
ガンッ!!!!!
「――“遣らずの雨”」
俺がそう呟いたときには輝喜の右手にあったモデルガンは俺が蹴り放った鞘により弾かれていた。
「くっ!!」
痛みで少しだけ顔を歪める輝喜は鞘が当たった右手を眺める。だがそれこそが輝喜の命取りだった。
輝喜のときとは逆パターン。さっきの輝喜は自分がずばぬけて一番強い握力で勝負してきた。
だったら俺も自分のずばぬけて一番高い身体能力を駆使するまで。
ヒュンッ!!!!!
「え――?」
「しまった――」
輝喜のすぐ横を風のように駆け抜けた俺は少し状況が呑み込めていない知恵理の後ろに回る。
輝喜も目を向けたがそのときはすでに手遅れだ。
なぜなら輝喜が握力がずばぬけて強いように俺は――。
シュルシュル――
――俺達5人の中でずばぬけて脚が速いのだ。
知恵理のポニーテールを留めるリング“知恵の輪”を取ると手入れいらずの知恵理の綺麗な銀髪はまるでカーテンのように靡く。
それと同時に俺は知恵理の髪の毛に引っかかったピンク色の髪留めを発見する。
そして俺はそれを――。
――――――――
――――――
―――
―
カチャカチャ――
「ちっ!!なんで俺が皿洗いやらなきゃいけねーんだよ!?」
時刻は変わって午後8時。そこで真備は1人で誕生日パーティーで出た大量の皿洗いをしていた。
その真備の横には3人の人物――真備を手伝わずどしっと座りこんだ輝喜。凪。それにゲイル先生がいた。
「ほらほら〜頑張ってくださいマキビン♪」
「あんたも災難よね〜あたしに怪我させたばっかりにね〜」
「(日本語訳)すみません真備。私も2人の治療がなかったら手伝うんですけど――」
と三者三様にそう返す3人。だがよくよく見てみれば輝喜の右手には包帯そして凪の方も肩にゲイル先生の手によって包帯を巻かれていた。
ちなみに俺はその様子を知恵理と一緒に少し離れた場所から見ている。
「あははは。マキ君も災難だよね〜」
「だからと言って今日の主役のお前が手伝うことはないからな」
知恵理は今日の主役にも関わらずあまりに可哀想な真備を手伝おうとしていた。
だが真備が可哀想なのはある意味賛成だ。
だけどそれと同時に俺は自業自得だと思う。なぜなら――。
――結論から言うと俺達は勝った。
輝喜が鞘に気を取られたうちに俺が知恵理の髪の毛から髪留めを奪ったのだ。
その時点でPM1;40こういうのは時間ギリギリに取るのが相場だけど俺達にはそんなの関係ない。
余裕を持って俺達は勝利したのだ。だけど――。
「あ〜もう!!なんで勝った俺が罰ゲームの皿洗いしなきゃいけねーんだよ!!!!」
「あ〜らそれが実の姉の肩を外しちゃった馬鹿弟が言うセリフか・し・ら?」
「ぐっ…!!な…なら日向はどうなんだよ!?日向だって輝喜の右手に大きな痣を作ったじゃねーか!?」
「ヒナタンは今回それなりに活躍しましたからね〜そんな人に罰ゲームをさせるなんてそれこそですよ〜」
という感じで本来罰ゲームでパーティーの後片付けをするはずだった2人が怪我でできなくなったから仕方なく真備が後片付けしているのだ。
「不幸だ――」
「マキビン♪ちなみにこれは幻想じゃなくて現実だから壊せませんよ♪」
「あとあんたには恋愛フラグ乱立どころか1本立つかも危ないわよ?」
「(日本語訳)双子の姉がいる時点で一本立っている気がするのですが?」
「ゲイル先生――あたしがこいつに靡くなんてあると思います?」
「オモイマセーン」
「そういうことよ。それに自分の弟がカミジョー属性なんてお断りだわ」
「確かに――嫌ですね♪マキビンが不幸の避雷針なのは否定しませんけど♪」
「てめーらさっきから何の話だ!!!!????」
『真備の外見上条さんにしたらどうかって話』
「本の中に持ち込むな!?」
ちなみに本当に真備の外見的特徴はとある魔術の主人公上条さんを思い浮かべていたみてください。
あと凪と輝喜もあとがきに書きますんで悪しからず。
では本編に戻ります――。
「――賑やかだな知恵理」
「――賑やかだねヒナ君」
みんなから少し離れた場所から真備。凪。輝喜。ゲイル先生の様子を眺める俺と知恵理はそう呟く。
実際には真備達を招いてのパーティーは今年で4回目なのだが俺達はその雰囲気に毎年押されっぱなしだった。
だけどそれがいい――。
賑やかなほど俺と知恵理の今日この日の少しブルーな気持ちは落ち着かされていた。
「ヒナ君……」
「ん?なんだもうそんな時間かよ……」
ブルーな気持ちの俺の袖を知恵理がちょんちょんと引っ張る。
それを感じた俺は知恵理の銀色の髪の毛を撫でながらそう言い立ち上がった。
「さて。挨拶に行きますか」
「うん。行こうヒナ君」
未だにやんややんやと賑わいを見せる真備達。それを眺めながら俺と知恵理は部屋を後にするのだった。
ゲイルside
「今年も行ったわね……」
さきほどまで賑やかに騒いでいた私達4人は日向と知恵理が知恵理の部屋に入っていったのを確認すると一気に静かになりました。
「毎年毎年知恵理の部屋で何やってんだろうな?」
「それを言うのは野暮というやつですよマキビン♪」
凪の言葉に続いて真備と輝喜も呟いた。
言葉こそあれだが2人の表情を見ると日向と知恵理を心配しているのが分かる。
本当にあの2人はいい友達を持ったと思いました。
「ミナサンモマイトシゴクロウサマデスネ」
私はこのすばらしい3人に尊敬の念を込めてそう言いました。毎年あの2人を元気づけるために必要以上に賑やかにするこの3人に。
すると真備。凪。輝喜の3人は一斉に顔を見合わせるとニッコリと私に笑顔を見せ――。
「当たり前じゃない。あたしはあの2人にはいつでも笑っていてほしいんだから」
「俺はあの2人にいつも笑顔でいてほしいんだ」
「ヒナタンとチエリンは笑顔が一番似合いますから♪」
それぞれがほぼ同時にそう言いました。
「ホントウニ――イイトモダチヲモチマシタネ」
そして私は誰にも聞こえないようにそっとそう呟くのでした。
日向side
「よぉ“兄貴”元気してたか――は聞かなくてもいいよな?」
「もうヒナ君たら“お兄ちゃん”に失礼だよ?」
「仕方ねーだろ知恵理。俺にはあの兄貴が穏やかに天国で過ごしてるなんて思えねーんだよ!!下手すりゃ閻魔に喧嘩売ってるかもしれねーぞ?」
「あははは。否定できない」
知恵理の部屋へと入った俺と知恵理は知恵理の机の上に飾ってある写真の前に腰を降ろし話しかける。
そしてその写真の中には人が良さそうに笑う俺達と同年代らしい1人の少年が写っていた。
「あ。そう言えば知ってると思うけど今日は知恵理の誕生日だぜ」
「うん。ついにお兄ちゃんに追いついちゃったね」
俺達2人の表情には寂しさと虚しさそれに悲しさが入り混じる。
だけど俺達はそんな表情を隠すことなく目の前の写真の中の人物“姫ノ城空”に向けていた。
なぜならこの部屋には今俺達“3人”しかいないからだ。
「それと兄貴が死んでから今日でぴったし4年だな」
「うん。お兄ちゃんがいなくてもやっと寂しくなくなってきたよ……」
それから話はどんどん悲しい方向へと傾いていく。
そんな中俺は4年前の出来事を思い出していった。
`
4年前の今日。俺が兄貴と慕った知恵理の兄。姫ノ城空は亡くなった。
それは真備と凪を招いて初めて誕生パーティーを開いたときの話だ。
その日俺と知恵理は真備と凪に兄貴を紹介するつもりだったのだがそれは叶うことはなかった。
―――【交通事故】―――
俺と知恵理の兄をこの世から消したのはそのたった四文字の言葉だった。
俺は悲しんだ。だけど涙は流さなかった。なぜなら隣で泣く知恵理を俺が守らなくちゃと思ったからだ。
それが俺と知恵理の記憶にある兄貴との別れ。
「兄貴――俺強くなったかな?俺に知恵理を守れるかな?」
俺の問いかけに写真の中で笑う兄貴が応えるはずはなかった。
だが俺はそう問いかける。ゲイル先生の教えに従い知恵理を守るために拳を振るってきた俺を確かめるために――。
「――大丈夫だよ。ヒナ君」
不意に俺の左手が何か暖かいものに包まれる。
それは言わずもがな俺の左手を包むように重ねられた知恵理の右手だった。
それはとても暖かくて暖かくて――とても強かった。
そして知恵理は俺に微笑みを見せる。この部屋に入ってから初めての微笑みだった。
「知恵理?」
「ヒナ君。お兄ちゃんはきっとヒナ君を守ってくれるよ?それに私だってヒナ君のこと守るから――だから私のことこれからもずっと守ってくれる?」
――その瞬間俺は何かが弾け飛んだような気がした。
俺はどうやら問いかけた相手を間違えたらしい。
別に兄貴のために俺は知恵理を守るんじゃない。
`
俺が守りたいから知恵理を守るんだ。
それに気付いた俺は少し苦笑いをしてしまう。
そして兄貴の前だから――知恵理の願いに応えるからこそ俺はその言葉を使うのだった。
兄貴の口癖。それと俺の口癖であるその言葉を――。
「問題nothing。そんなの当たり前だ」
それは俺の誓いであり定め。知恵理の誕生日であり兄貴の命日であるこの日俺は兄貴の前で誓った。
そしてこの日から3ヶ月後俺達の“運命”は大きく動き出す。
日向の過去と知恵理の運命とともに――。
`
作「てなわけでやっと知恵理の誕生日記念終了しました〜」
凪「そういえば作者。あたしと輝喜の外見を紹介するんじゃなかったかしら?」
作「そうですね。じゃあさっそく紹介していきたいと思います」
輝「イエーイ!!!!!!」
作「じゃあまず輝喜のほうから……輝喜の外見をキャラで表すとしたら……」
ダララララララ――。
凪&輝『ゴクリ……』
――デンッ!!!!!!
作「――11eyesの主人公“皐月駆”!!」
凪&輝『エロゲー!!??』
作「いやー眼帯のキャラを探したんですけどどうもこの方が一番合っちゃいまして〜」
輝「う〜ん。でも確かに眼帯の若いキャラってあまりいませんからね〜」
作「そういうことです。てなわけで次はナギナギのほうでーす」
凪「変なあだ名付けんな!!」
作「まーまー落ち着いて。てなわけでナギナギのほうですが――」
輝「呼び方は変えないんですね……」
作「――弟の真備がとある魔術の主人公上条さんなんで姉の凪もそれに合わせたいと思います。ということでドラムロール!!」
ダララララララ――。
凪&輝『ゴクリ……』
――デンッ!!!!!!
作「とある魔術の禁書目録の“御坂美琴”(むしろ“ラストオーダー”?)でーす!!!!!!」
凪「ちょっと待った!!何か今変な()ついてなかった!?」
輝「うーんだけど御坂美琴なら少し身長高すぎますしラストオーダーなら低すぎるっていうか幼女じゃないですか?いくら凪でも言い過ぎですよ」
凪「なんか激しく失礼なこと言われた気がするわ」
作「じゃあそれを足して2で割ればいいんじゃないか?」
輝「あぁいいですね」
凪「あぁ〜なんか見えない力に流されてる気がするわ」
作&輝『最終決定!!!ナギナギは“御坂美琴”と“ラストオーダー”を足して2で割った感じで!!』
凪「……もうそれでいいわよ」
作&輝『じゃあサイナラー』
ナギナギ「さよおなら…ってなんであたしの表情がナギナギになってんのよ!?」
作&輝『サイナラー』
ナギナギ「無視すんな!!」
次回に続く