第三話 聖書物語
第三話 聖書物語
ユリーシャ達がクリシュナ大神殿に到着し皆が眠りに付いた頃。
封印の間にてエデンの力が収束し光と共に一人と一匹をこの世界に呼び込む。
<SIDE:恭夜>
変な力と光に包まれたと思ったら石畳の上に投げ出されていた。
「いっつうーっておい、此処何処だよ。さっきまで山の中に居たのに光が消えたら遺跡の様な処にいましたってどこぞの小説じゃないんだからよ。」
と、こんな馬鹿言ってる場合じゃなくて紫苑は大丈夫か。
おれは紫苑を探そうとしてすぐ見つかった。
「キュウ~。きょうや、きもちわるい。」
紫苑は目を廻しフラフラな状態でいた。
「紫苑、大丈夫か。どこか悪いのか。」
紫苑が心配で駆け寄り抱き上げる。
「キュウ~。おなかへってめがまわる~。」
紫苑はそう言い、お腹がグーと鳴る。
「そっかお腹へったて言ってたもんな。今度こそご飯にしような。」
俺はそう言い、鞄からおにぎりと紙皿を取り出す。
紫苑はちょんと座り大人しく待つ。
俺はおにぎりを袋から三つ取り出し紙皿の上に置いて紫苑に与えた。
紫苑は前足でおにぎりを押さえ齧り付く。
先に服を着替え、袋からおにぎりを取り出し食べようとすると紫苑が、
「きょうや、すっぱい。」
と涙目に成りながらそう言ってきた。
「あー、梅干が入ってたんだな。お茶いるか。」
紫苑にそう尋ねると、
「いる~。うめぼしきらい。」
と紫苑は拗ねる。
俺は鞄からお茶のペットボトルを取り出し紫苑へ渡す。
紫苑はさすがにそのままの姿では飲めないので人型に変化しお茶を飲み、
「おにぎりもういらない。」
と言い子狐の姿に戻りそっぽを向く。
「でもそれだけじゃ足りないだろ。」
俺はそう言いながら鞄を漁る。
うん、何だ此れ俺はこんな袋入れた覚えないんだけどな。
袋を開けてみると稲荷寿司と手紙が入っていた。
「紫苑、お稲荷さんがあったけど食べるか。」
そう聞くと、
「きょうや、はやくはやくちょうだい。」
紫苑は尻尾をふりながら催促する。
俺は先ほどと同じように紙皿の上に稲荷寿司を置き、
「はい紫苑。ゆっくり食べるんだぞ。」
と言いシオンの前に置く。
紫苑は喜んで食べ始めた。
俺はおにぎりを食べながら手紙を見る。
拝啓、御影 恭夜様
いつもお仕事ご苦労様です。怪我等していませんか。
無茶などしていませんか。
わたしはそれが心配で居ても立ってもいられません。
わたしに出来ることは、紫苑さんにお稲荷さんを拵えたり、
恭夜さん達の無事を祈ることぐらいしかできません。
どうか無事に帰ってきてください。
綾月 文乃より かしこ
はあ、相変わらず馬鹿丁寧というか律儀というか、なんて云えばいいんだろうな。
「きょうや、へんなかおしてどうした。」
紫苑がそう尋ねる。
「うん、ああ文乃が無事に帰って来いっていう手紙お貰ったんだけどな、此処何処だろうなって思ってさ。」
と思っていた事とは別のことを言い誤魔化す。
「しょうがないから此処を見て周るか。」
紫苑にそう言いゴミや荷物を片付け鞄を持って、適当な方角に歩き出す。
しばらくと歩くと扉の様なものがあった。
扉の様なものといった理由はそれに取っ手が無いためだ。
試しに扉を押してみるがびくともしない。
「紫苑これどうやって開けるんだろうな。もし此処が出口だったら俺達出られないよな。」
紫苑に聞くと、
「きょうや、これこわせない。」
紫苑がそう言ってきた。
「たぶんあれを召還したら壊せると思うけどそれは最終手段だな。もう少し此処を見て周ろう。」
俺がそう言い、壁伝いに歩きだす。
壁には壁画が描かれている。
一枚目は、二本の大きな樹が描かれている。
二枚目は、全裸の女性が蛇と話をしている様が描かれている。
三枚目は、全裸の女性が蛇の居る樹から果実を採っている様が描かれている。
四枚目は、全裸の男女が果実を食べている様が描かれている。
五枚目は、服を着た男女が炎を宿した剣を持つ天使に追われている様が描かれている。
この壁画は扉から左右どちらに進んでも見ることが出来る。
この部屋の一番奥そこには一体の天使像があった。
その天使像の右手には炎を宿した剣が握られている。
又、その左手には紅い鞘が握られている。
「紫苑、此処はほんとに遺跡みたいだわ。それも、イスラム教やキリスト教の遺跡だと思う。」
それに対し紫苑はクーと鳴き解らないといった様に首を傾げている。
はあ~、何でこんなところに来たんだろうな、何者かに召還された訳でもなさそうだしな。
漫画や小説なら貴方は選ばれた者です。その剣を持って世界を救うのです。なんて設定になるんだろうけどあの剣を持った瞬間に焼き尽くされて終うは。ほんとどうなってるんだろうな。
「きょうや、ねむい~。」
紫苑はそう言い、うつらうつらしている。
「そっか、此処から出るのは明日にして今日はもう寝るか。」
俺はそう言い、紫苑を抱き上げこの部屋の中央へ行き、鞄からタオルケットと毛布を取り出す。
タオルケットを地面にひき其処に横になり毛布を体に掛け紫苑を抱いて眠る。
そして翌朝。
起きた俺とシオンは昨日の残りのおにぎりを食べ、(おにぎりを半分に割って仲の具を確認してから紫苑にあげた。)扉の前に来ている。
「この扉は地属性だから木属性を水属性で強化すれば何とかなるかな。」
俺はそう言い、扉から距離ヲ取り、鞄から二枚の符を取り出し両手に一枚ずつ符を持ち術の詠唱に入る。
「木精木術 水精水術 合成術 暴竜樹葉水破弾」
樹が東洋竜の姿を形作り水を取り込み巨大化する。巨大な木竜が扉に向かい突進する。
「木行をを持って土行を克す。木克土。」
更に呪禁を用い木竜を強化する。
木竜が扉に当たる直前に膜の様なものが扉を守ったため扉には傷一つ付いていない。
「な、此れでも駄目か。その膜の様なものを何とかしないと扉は壊せないみたいだな。」
しょうがないあれを召還するしかないか。
「紫苑やっぱりあれを召還しないと駄目みたいだ。でもあれの召還はすごく疲れるんだよな。」
俺は紫苑にそう言うと、
「きょうや、がんばる。」
と俺を励ます。
「は~、しゃない。いっちょやりますか。」
俺は扉から更に距離を取り、鞄から桔梗紋の入った十二枚で一括りの召還符を取り出す。
その中から黒色の符を取り出し、右手に持つ。
左手で剣印を作り魔力を指先に込め、空間に六芒星を描き更に九十°反転させた六芒星を描く。
描かれた十二芒星の中心に符を宛がい、
「我、汝と契約を結びし者、汝との契約に基づき汝を此処に呼び賜わん。」
俺は自身の限界近くまで符に魔力を送り続ける。
「きょうや、とびらがひらく。」
紫苑のその言葉で集中力が途切れる。
そして扉が完全に開く、其処に三人の者がいた。
一人目はは、白いローブを身に纏い蒼く澄んだ宝石のペンダントをした、身長百五十cm有るか無いかの蒼い眼に青く長い髪をポニーテールにした華奢な可愛らしい女の子。
二人目は、白銀に輝くプレーとメイルとガントレットとグリーヴを身に付け、額には金のサークレットをし、腰には長剣を挿している。身長百八十cmぐらいのほっそりとした美男子で翠の眼に黄緑色の腰まである長い髪をそのままにした青年。
三人目は、顔立ちや瞳の色、髪の色は二人目に良く似ているが此方は女性でやはり美女である。身長百七十cmぐらいで恭夜より少し低いぐらいで、薄い緑色の服にスカートで白銀に輝く胸当てをし、額には二人目と同じ金のサークレットをしており、背中に弓と矢筒を背負っている。髪は三つ網にしている女性。
此方にやって来て俺達の姿を確認した三人は、
「な。」「え。」「うそ。」
と三者三様の驚きの声を上げる。
「はあ、人の顔を見ていきなり驚かれるとさすがにへこむぞ。」
と俺が言うと、
「あ、すいません。まさか人が此処に居るとは思わなかったものですから。」
白いローブの娘がそう言う。
「ああ、まあいいがあんた等の目的はこの奥にある剣か。」
俺はそう尋ねる。
「ええ。そうです。」
ローブの娘が答える。
「諦めるんだな。あの剣は触れた者を焼き尽くすぞ。」
俺はそう忠告する。
「ええ、存じていますよ。ですが私なら扱えるのでその心配は無用です。」
長身の剣士がそう言う。
「そうか、なら俺が言うことはもう何も無いな。」
俺がそう言うと、
「貴方は何者ですか。そしてどうやって此処に入ったのですか。」
と剣士が聞いてくる。
「何者と聞かれてもな、ただの人間で退魔師だ。で此処に居る理由はまあ信じてもらえないだろうが、変な力と光に包まれたと思ったら此処に居た。」
俺がそう答えると、
「それを信じろというのですか。」
剣士はそう言い、警戒を強くする。
「あの、退魔師とは何ですか。」
ローブの娘が聞いてくる。
「人に仇名すものを狩る者かな。」
俺がそう言うと、
「人に仇名す者ってどんなの。」
長身の女性が聞いてくる。
「人を食らう妖や悪魔とかだな。まあ偶に犯罪に手を染めた術者を狩る事もあるけどな。」
俺がそう答えると、
「あの、貴方は悪魔を倒せるのですか。」
ローブの娘がそう聞く。
「五度ほど狩った事があるがそれがどうかしたのか。」
俺がそう言うと、
「お願いです。私たちに貴方の力を貸して下さい。」
ローブの娘は頭を深々と下げそう頼んできた。
「ちょと待て、行き成りそう言われても訳が解らんからちゃんと説明してくれ。」
俺は慌ててそう言った。
「あ、はい。解りました。」
ローブの娘はそう言い自分達の名や目的などを説明してくれた。
「ああ、大体解った。此処がエデンと呼ばれる世界で俺は異世界に来たと言う事がようく解ったよ。」
俺がそう言うと、
「異世界ですか。」
ユリーシャはそう言い目を丸くする。
「ああ、それでこの世界ではありえない黒髪や白毛なんかも説明が付くだろう。」
俺はサイファに向かいそう言った。
「ええそうですね。それなら確かに説明も付きましょう。ですが貴方は何によって召喚されたのでしょうか。」
サイファはそう俺に問う。
「それは解らん、何者かに呼ばれたのならば召喚主が目の前に居る筈なんだがな。」
俺はそう答え、更に、
「それにあの剣に呼ばれたなんてことも考えられないしな。」
そう言うと、
「キョウヤさんはあの剣が何なのかご存知なのですか。」
サイファは俺にそう問う。
「ああ、あの剣が何なのかは周りの壁画を見れば解った。」
俺がそう答えると、
「キョウヤさんはあの壁画の内容が解ったのですか。」
サイファは驚いたかの様に聞いてくる。
「俺の世界にもその物語は存在するからな。何ならその壁画の内容を説明しようか。」
俺がそう言うと、
「ほんとですか、ぜひお願いします。」
ユリーシャは嬉しそうにそういってきた。
「ユリーシャはこう言うものに興味があるのか。」
俺がそう尋ねると、
「はい。物語とか大好きです。それに此れは実際に有った事なのですよね。」
ユリーシャはそう言いサイファに確認する。
「ええ、遥か昔、始まりの人が禁断の果実を食べエデンを追放された時の物語です。」
サイファはそう言い、壁画を見る。
「ではこの一枚目の壁画に描かれている二本の樹が禁断の樹なのですか。」
ユリーシャは壁画に描かれた樹について聞いてくる。
「その樹は、命の樹と善悪の知識の樹と呼ばれるものだ。禁断の樹と言うのは善悪の知識の樹の事だ。」
俺がそう言うと、
「なぜ、善悪の知識の樹が禁断の樹なのでしょうか。」
ユリーシャはそう俺に尋ねる。
「俺は神ではないから理由までは解らないが、その実を食べたことによって二人は変わってしまったのは確実だな。」
俺がそう言うと、
「その実は食べちゃ駄目って神様に言われてたんだよね。何で食べちゃたのかな。」
リーファがそう聞いてきた。
「それは二枚目の壁画にある様に蛇に唆されたからだ。」
俺がそう言うと、
「蛇はどの様な事を言われたのでしょうか。」
ユリーシャがそう聞く、
「私はこの実を食べたことにより人の言葉を話せる様になりました。この実をあなた方が食べれば神の様になり神と同じ事が出来るようになりますよ。そう言って唆したそうだ。」
俺がそう言うと、
「それで三枚目の壁画にある様に実を採ってしまうのですか、少し信じられないのですが。」
ユリーシャがそう言う。
「そうだろうな。だがこのときのイヴは人を疑うということを知らないのだからしょうがないとも思うがな。」
俺がそう言うと
「人を疑うことを知らないとはどう言う事ですか、それと貴方はイヴと言いましたよね、始まりの人の名を知っているのですか。」
サイファは興奮しながら聞いてきた。
「名は知っているがそれはとりあえず後な。まず人を疑うことを知らないというのはこの時点では人はまだ善も悪も理解していない子供と同じだ。善悪の知識の実を食べて初めて善悪を理解したのだからな。それに全裸で居るのに全く恥ずかしそうにしている様子も無いだろ。」
俺がそう言うと、
「そうですね。その実を食べたら神様の様に何でも出来ると思ったのかもしれませんね。」
ユリーシャはそう言いった。
「始まりの人の名は女性はイヴやエヴァと云われているな。それで男性はアダムと云われているが此方ではその名は伝わっていないのか。」
俺がそう言い、更にそう聞くと、
「ええ、エデンでは禁忌を犯したものとして名を消されているのです。」
サイファが落ち着きを取り戻しそう答える。
「そうか。次の壁画は実を食べるだけだからいいとして、最後の壁画だな。此れは善悪の知識の実を食べたことが神にばれて天使に追われエデンを追放される様を描いているものだ。」
俺がそう言うと、
「あの、神様はどの様にして実を食べたことを知ったのですか。」
ユリーシャはそう尋ねる。
「本来なら、四枚目と五枚目の間にもう一枚加えるべきだったんだろうがどう書いていいか解らなかったんだろうな。」
俺がそう言うと、
「それはどういう事でしょうか。」
サイファがそう聞く。
「ああ、神が現れアダムとイヴを呼ぶのだが姿を見せずに藪から神に返答するという絵が本来なら入るのだが、その様な絵かけるか。」
俺がそう尋ねると、
「書いた場合、神様と藪しかない絵になりますね。それではなにか解りませんね。」
サイファがそう答える。
「ああ、だからこの五枚に落ち着いたのだろうな。それとユリーシャへの返答だけど神がアダム達になぜ姿を見せないのかを問い、アダム達は自分達が全裸で恥ずかしいからだと答えたんだ、そうしたら神は善悪の知識の実を食べたのかを問い、アダムは食べたと答えた。その事により神は怒りミカエルに命じアダム達をエデンから追放したんだ。そのときミカエルが持っていた剣が此処に安置されているというわけだ。」
俺がそう言い壁画の話を閉め括る。
「ミカエルとはこの天使の名ですか。」
サイファがそう尋ねる。
「ああ、四大天使の一柱で火を司る者だ。他にも水、土、風を司る者もいるが今はかつあいさせて貰うな。」
俺がそう答える。
「ええ解りました。そろそろ地上へ戻らないと皆さんが心配してしまいますね。」
サイファはそう言い天使像の前まで行き、剣を天使像から抜き取り鞘へ収める。
「それではこの剣<罪焼き尽くす断罪の焔剣>持って地上へ戻りましょうか。」
そして俺達は地上へと歩みだした。
長い階段を抜け、地下礼拝堂に出、更に其処を抜け漸く地上に出た俺達が見たものは、正に地獄絵図そのものの様な有様だった。
悪魔達に蹂躙され四肢を引き裂かれ絶命している者や体の至る所に穴が開き死んでいるものなど多種多様な死体が転がっている。
まだ微かに生きている者がいる事に気づき、ユリーシャはその者の元に行き、魔法で癒そうとした時、その者が話し出す。
「もうし・・・ざいま・・・ユリ・・・さま・・・ごま・・つき・・でき」
グシャっと頭が悪魔によって踏み潰される。ユリーシャの顔や服に血や肉片が飛び掛かり赤く染める。
「いやーーーーーーー。」
ユリーシャは悲鳴をあげその場にへたり込む。
其処に悪魔の手が振り降ろされようとしていた。
作者の桔梗です。
ここまで読んでいただいてありがとう御座います。
作者の実力不足で話が全然進んでいませんが見捨てずにこれからも読んで戴ければいいなと思っております。