第一話 旅立ち
第一話 旅立ち
此処はエデン。
大陸の中央より少し東にいったところにある国、エルドライド王国。
その王宮の一室では今日も王と数人の高官による会議がなされている。
「王様、このままでは、この国だけでなくエデンまで滅びてしまいますぞ。」
宰相が王に言い、
「その様な事は解っておる。だが、満足に戦える戦士の数はすでに百人を切っておるのだぞ。これだけの戦士達で何が出来ると言うのだ。」
王はそう答えた。それに対し戦士長が、
「確かに、我ら戦士達だけでは魔王軍を相手にできませぬ。ですが、二人の姫様のお力をお借りできれば魔王を退ける事もできましょう。」
その提案に王は狼狽しながら、
「な、ならん、ならんぞ、それだけは。その様な事を認めることなぞできぬ。」
と言い、宰相はすかさず、
「では、このまま滅びを待つのですかな。」
と王に問いかける。
「ぐうう、し、しかし、この国の守りにも姫は必要なのだ。」
王は苦虫を噛み潰した様な顔で必死に弁明する
「ええ、でしたら、どちらか一人、姫様を魔王討伐部隊に入て頂ければ宜しいのでは。」
国務大臣が言い。その言葉に「な!」と驚く王、
「ええ、そうですね。そうすればこの国も守れ、魔王も討つ事ができる。なんと素晴らしい案でしょうか。」
と魔法師長が賛同し、
「そうと決まれば、早速姫様達をお呼びし、この件をお伝えしなければ。」
宰相は結論が出たといわんばかりに話を進め様とする。
「ま、まて、わ、我はまだ許可を出しておらぬぞ。」
王は慌て、止めようとするが、
「これ、誰か居らぬか。」
宰相は、王の言葉を無視し、人を呼ぶ、部屋の前で待機していたメイドが入室してきて、
「はい。お呼びでしょうか。」
メイドがそう聞き、
「ふむ、すまぬがフローラ様とユリーシャ様を此処へ呼んで来てくれぬか。」
宰相がメイドにた頼み、
「はい。かしこまいりました。」
メイドがそう言って部屋から出て行こうとするメイドを王が呼び止めようとしたとき、
「王様、もうこれしかこの世界を救う術が無いのですぞ。」
宰相がそう言って王に釘をさす。王は何も言えずにメイドを見送る。
メイドは同僚の娘に、
「二人の姫様を此処へお連れせよとの仰せです。それで私はユリーシャ様をお呼びしに行きますので、貴女はフローラ様をお呼びに行ってくれませんか。」
メイドがそう頼むと、
「はい。解りました。」
同僚がそう答え、フローラの部屋へと向かう。メイドもユリーシャの部屋へと向かう。
メイドはユリーシャの部屋の扉をノックする。
「はい。」と返事がし、扉が開き中からユリーシャの侍女が出てきて、
「ユリーシャ様に何か御用でしょうか。」
侍女がメイドにそう問いかける。
「はい。王様ががユリーシャ様とフローラ様の両名を会議室へお連れせよとの仰せを承ってまいりました。」
メイドがそう言うと、
「お父様が私と姉様をお呼びになっていらしゃるのですか。」
ユリーシャがそう聞き返し、
「はい。別の娘がフローラ様のお迎えへ行かれていますのでのこまま私と一緒に会議室まで行ってもらえないでしょうか。」
メイドがそう言うと、
「ええ、構いませんわ。」
ユリーシャはそう言い侍女と供に自室を出てメイドに着いて行く。
メイドはユリーシャを連れて会議室の前に来ると、すでにフローラが来ていた。
「遅くなって申し訳ございません。」
メイドはフローラに謝る。
「此処から私の部屋よりユリーシャの部屋のほうが遠いのですから、気にしなくても構いませんよ。」
フローラは微笑みながらそう言った。
「有り難うございます。」
メイドは礼を言い、
「王様達も中でお待ちになっておられますのでへ入りませんか。」
ユリーシャの侍女がそう言い、
「そうですね、少し遅くなってしまいましたから中へ入りましょう。」
フローラはそう言い、メイドを促す。
メイドは扉をノックし、扉を開き、
「姫様達をお連れ致しました。」
メイドはそう言い、二人の姫を中に招き入れる。
「おお、姫様がたお待ちして居りましたぞ。立ち話も何なのでどうぞお座りになって下され。」
宰相はそう言い、姫達に椅子を勧める。
「ええ、そうですね。では、そうさせて頂ます。」
フローラはそうして椅子へ座る。
それにならい、ユリーシャも椅子へ座る。
「それで、私達を此処へ呼んだ訳を話していただけませんか。」
フローラは話の先を促す。
「ええ、姫様達にご協力願いたい事が二つありまして、此処にお呼びいたしました。」
内務大臣が本題をきり出す。
「その二つの事柄とはどのようなことなのでしょうか。」
フローラがそう聞くと、
「まず一つ目は、いつ魔王の襲撃が在るか解らないので、王都の結界を神聖魔法で強化をして頂たいのです。」
宰相はそう答え、
「二つ目は、魔王討伐部隊を再編する事になりましたので、そちらにどちらかの姫様には加わって頂たいのです。」
更に戦士長がそう続けた。
「一つ目は解りましたが、二つ目はなぜ私達が加わらなければならないのでしょうか。」
フローラがそう疑問を投げ掛ける。
「はい姫様、魔王軍が使う魔法は我らの使う精霊魔法を掻き消してしまいますので、姫様には戦士達を魔王軍の魔法から神聖魔法で守って頂たいのです。」
戦士長がフローラの疑問に答える。
「そういう事なら解りました。では。私が討伐部隊に加わりましょう。」
フローラがそう言い話を纏め様とした時、
「待って下さい。討伐部隊には私が加わります。姉様は、こちらに残り王都の結界の強化に当たって下さい。」
ユリーシャが突然そう言いだした。
「ユリーシャ、貴女は解っているのですか。討伐部隊に加わるということは、命の危険が在ると言う事ですよ。」
フローラはユリーシャに嗜める様に言った。
「解っています。それに私が、こちらに残っても王都を覆う様な結界を張れるとは思いませんので討伐部隊に加わったほうが役に立てると考えたからです。」
ユリーシャは振るえながらもそう言いきった。
「ユリーシャ。その覚悟があるのならば私はもうなにも言いません。ですが必ず此処へ帰って来るのですよ。それまで私はこの地を守り通しましょう。」
フローラはユリーシャにそう言い、笑顔を向けた。
「はい姉様。私は必ず此処へ帰ってきます。」
ユリーシャはフローラに笑顔を向けそう約束した。
「すまぬ。娘達よ。余が神聖魔法を使えぬばかりにお前達に苦労をかける。」
王は泣きそうな顔でそう言った。
「お気になさらないで下さい。お父様は此れからもこの国を治めていかなければ成らないのですから。」
フローラはそう言い、
「そうですよ父様。私達は、いずれ王家の役目を果さなければならないのですから。ただそれが少し早まっただけのことなのですから。」
続いてユリーシャがそういった。
「ええ、その通りで御座いますユリーシャ様。」
宰相はそう言い、戦士長に目配せし、
「此れから、討伐部隊について説明いたします。まず、今、この国でまともに戦える戦士の数は八十七人しか居らず、王都の治安維持や警護のため。それほど多くの者を討伐部隊に廻す事ができません。ですが、我が弟を始め腕利きの者で討伐部隊を編成しようと考えています。」
と戦士長は、話をきり出す。
「実際の部隊数は何人程になるのだ。また、部隊の編成にどれ程の時が必要だ。」
王が尋ねる。
「人数は戦士が二十人で後、魔法師を十人程加えて計三十人前後でと考えています。宜しいですかな魔法師長殿。」
戦士長はそう言い、魔法師長へ話を振った。
「ええ、此方から魔法師を十五人出しましょう。編成にはさほど時は掛かりませんが、食料や荷馬車の手配などに幾許か時が掛かりましょう。」
と魔法師長はそう言った。
「ふむ、人数は少し心許無いが現状を見れば致し方あるまい。それでは、内務大臣物品の準備にどれ程の時間が必要か答えよ。」
王がそう言い、更に内務大臣に尋ねる。
「そうですね、食料の方は、すぐにでも用意出来ましょうが、荷馬車などの用意が手間取りそうなので、明日より三日程時をいただきとうございます。」
と内務大臣が王に答えた。
「合い、解った。では、準備期間として明日より三日、猶予期間を含め討伐部隊の出立つは五日後とする。何か他に意見のある者はいるか。」
王はそう言い一同を見渡した。
「踏む。意見も無い様なので会議を此れにて閉廷する。皆の者、持ち場へ戻るとよい。」
王はそう言い会議を締めくくる。
皆は思い思いに会議室を後にする。
ユリーシャは部屋へ戻り出立つの準備に追われる。
「姫様、ローブの新調のために採寸させて頂きます。」
とか、
「ユリーシャ様、此方のドレスもお持ちになってください。」
や、
「姫様。」「ユリーシャ様。」
と言って、侍女やメイドに着せ替え人形の様に揉みくちゃにされるユリーシャであった。
感傷に浸る間も無く、何や間やであっという間に出立つの日へとなった。
そして、此処は王都の城壁前で今まさに討伐部隊は出立つしようとしていた。
「ユリーシャよ。必ず無事に、この国に帰って来るのだぞ。」
王はユリーシャの肩を手を置きそう言った。
「ええ。お姉様との約束でも在りますので、必ず帰ってきます。」
ユリーシャは決意を新たにそう言った。
「戦士達に魔法師達よ、ユリーシャの事を宜しく頼む。」
王は討伐部隊の皆に頼む。
「は。お任せ下さい。姫様は我らの命を懸けてお守り致しましましょう。」
と戦士長の弟である。副戦士長が代表して答える。
「うむ。名残惜しいがこれ以上は未練となる。ユリーシャよもう行くがよい。」
王はそう言い、自らの未練を断ち切ろうとする。
「はい。父様。それでは行ってまいります。」
ユリーシャはそう言い馬車に乗ろうとする。
「待って、待って下さい。ユリーシャ。」
フローラが慌ただしく城からやって来る。
「姉様。来て下さったのですね。」
嬉しそうに微笑むユリーシャ。
「ハア、ハア、あなたに、ハア、ハア、如何してもハア、渡したい物があるの。」
フローラは息も絶え絶えにそう言いユリーシャに杖とペンダントを差し出した。
「姉様、このペンダントは母様の形見の品でとても大切にしている物ではありませんか。その様な物を受け取る訳にはいきません。」
ユリーシャは驚き受け取りを拒否する。
「いいえ。ユリーシャ。私はあなたに付いて行く事が出来ないから、このペンダントを私だと思って持っていって欲しいの。」
フローラは悲しそうに微笑みながら再びペンダントを差し出した。
「解りました。このペンダントを姉様だと思い肌身離さず身に着けていきます。」
ユリーシャはペンダントを受け取り首に掛けながらそう答えた。
「あと、此方の杖は遥か昔に枯れてしまったという命の樹の枝を杖にしたの。 此れを作るのに時間が掛かり、あなたに会いに来るのが今になってしまったの。ごめんなさいね。」
フローラはそう言い、今度は優しく微笑む。
「姉様。こんな希少な物まで頂いて本当にありがとうございます。」
ユリーシャは深々と頭を下げる。」
「いいのよ。私に出来る事はこれ位しかないのですから。ユリーシャ、名残惜しいけどもうおい来なさい。」
フローラはそう言い、ユリーシャの出立つを促す。
「はい。姉様。」
ユリーシャはそう言い馬車に乗り込む。
「ユリーシャと討伐部隊の皆様にエデンの神のご加護が在ります様に。」
フローラは声を高らかに祈りを上げる。
こうしてユリーシャ達討伐部隊は、王都を出立つし魔王を討つという壮大な旅が始まった。
この先ユリーシャ達に何が待ち受けているのだろうか。
作者の桔梗です。
駄文ですが此処まで読んで頂きありがとう御座います。
ようやくの更新となりました。






