第十七話 ラスティハイトの姫君
第十七話 ラスティハイトの姫君
恭夜達がラスティハイトに向けて出発するごろまで時はさかのぼる。
ここはラスティハイト、その日の朝から城内は慌ただしく動いていた。
<SIDE:ルビーア>
今、城内は騒然としておるのじゃ。
それは昨日の昼ごろ起こった、キシュウ湖で起こったと思われるの大発光のせいじゃ。
この国からキシュウ湖まで馬車で二日という距離じゃ。そのせいでその怪異がこちらまで飛び火をするのではないかという事で急きょ会議を開く事になったのじゃが。
やれ、神の奇跡じゃという者も居れば、やれ、悪魔の進行じゃという者まで居る始末じゃ。
先の魔王討伐隊にわが国の騎士や魔法師の大半を派遣したせいでわが国の騎士の残りはたった三百名しか居ないのじゃ、しかもそのほとんどが新兵という有様じゃ。そのせいで兵を派遣し確認に行けと言えばじゃ、国の防衛に穴が開くと言い兵の派遣を渋りよる。
それならばどうするのじゃと言う話し合いで昨日の会議は終わってしまったのじゃ。
そのせいで今日も朝からまた会議じゃ。
わらわは仕方なく会議室へ向かうのじゃ。
わらわが会議室に到着すると、他の者は全員集まって居ったのじゃ。
集まって居るのは、宰相に宰相補佐官、右大臣に左大臣、内務大臣に財務大臣それに近衛騎士長、魔法師団長、騎士団長じゃ。父である王は病に臥せっているため欠席じゃ。母である王妃はその看護でこれも欠席じゃ。
「姫様。おはようございます。」
宰相であるガーフェスがそう言い、わらわに席を勧めてきたのじゃ。
「うむ。おはようなのじゃ。」
わらわも挨拶を返し、席に着くのじゃ。
ガーフェスが隣に居る者に目配せするとじゃ、
「それではこれより会議を始めたいと思います。」
進行役である、ガーフェスの補佐役の、アルージェがそう言うのじゃ。
「まず、最初にこの会議が開かれた経緯は皆さんご存知のとうり、昨日の昼過ぎに起きたキシュウ湖でおきたと思われる謎の発光現象に有ります。この国からキシュウ湖までは馬車で二日、早馬なら一日あれば着ける距離にあります。詳細を確認するために兵の派遣を考えたのですが、いくつか問題があるとのことで昨日の会議は終わってしまいました。」
アルージュがそう言うのじゃ。
「そのようなことは解っておる。その問題点を解決しさっさと兵を派遣するのじゃ。」
わらわがそう言うとじゃ、
「解りました。それでは次は問題点ですが、それは三つあります。
一つ目は、兵を騎士団から派遣した場合、王国の防衛に穴が開くことになること。
二つ目は、探索期間をどれほどにするかといかこと。
三つ目は、キシュウ湖の毒がどれほどの範囲に影響があるかわからないため、派遣した兵がその毒にやられて帰還ができなくなること。
この三つが問題点として上がっています。」
アルージュがそう言うのじゃ。
「そこまではいいのじゃ。その問題点の解決方は何があるのじゃ。」
わらわがそう言うとじゃ、
「一つ目の解決策は、騎士団からだけでなく魔法師隊とこ近衛騎士隊からも兵を出す事です。」
アルージュがそう言うとじゃ、
「その内訳はどうするのじゃ。」
わらわがそう聞くとじゃ、
「そうですね。騎士団から二十名、魔法師隊から十五名、近衛騎士隊から五名といったところでしょうか。」
アルージュがそう言うのじゃ。
「その混成部隊を纏める者は誰にするおつもりですかな。」
騎士団長がそう言うのじゃ。
「わらわの守護騎士であるカイトにその役をやらせればいいのじゃ。」
わらわがそう言うとじゃ、
「確かにそれならば隊を纏める事もできましょう。」
アルージュがそう言うのじゃ。
「なぜそこで姫様の守護騎士が出てくるのですか。」
騎士団長がそう言うのじゃ。
「あなたは知らなかったのですね。カイト殿は姫様の異母兄に当たるかたです。それゆえに神聖魔法を扱うことができるのですよ。」
アルージュがそう言うのじゃ。
「な、そのような話聞いていませんぞ。」
右大臣がそう言うのじゃ。
「妾腹とはいえ王の血を引くものだそれを政治の道具にしようと考える者が居るかも知れんので黙っていたのだ。」
ガーフェスがそう言うとじゃ、周りのものは何も言えなくなったのじゃ。
「では一つ目の問題点はこれで解決と言う事で、次は二つ目の問題点ですね。」
アルージュがそう言うのじゃ。
「二つ目は探索期間をどれほどにするかといかことじゃったな。」
わらわがそう言うとじゃ、
「ええ、そうです。その探索期間は一日ないし二日ほどで構わないと考えています。」
アルージュがそう言うのじゃ。
「なぜそんな短期間なのじゃ。」
わらわがそう聞くとじゃ、
「あれほどの大発光です。それならば一目見て判断できるほどの異変が起きているでしょう。もしその異変が確認できなかった場合はそれは湖の中でそれが有ったと考えられるためです。」
アルージュがそう言うのじゃ。
「なるほどなのじゃ。調査範囲はキシュウ湖とその周辺ということでいいのじゃな。」
わらわがそう言うとじゃ、
「はい。そうなります。これで二つ目の問題点波解決という事でかまいませんね。」
アルージュがそう言い周りを見るのじゃ。
周囲の者たちも反対意見や質問もなかったため、
「それでは三つ目の問題点に移りたいと思います。」
アルージュがそう言うのじゃ。
「三つ目は、キシュウ湖の毒がどれほどの範囲に影響があるかわからないため、派遣した兵がその毒にやられて帰還ができなくなることじゃったな。」
わらわがそう言うとじゃ、
「はい。そうです。これは湖に多頭の蛇が住み着き、その者が毒を撒き散らしているようです。それゆえ
キシュウ湖の確認は高台からのみ行うというほうがいいと思われます。」
アルージュがそう言うのじゃ。
「うむ。そうじゃな。それとその毒がどれほど広がっているかの調査も加えたほうがいいのじゃ。」
わらわがそう言うとじゃ、
「そうですね。解りまりた。ではキシュウ湖の調査は高台からの確認と毒の範囲の調査という事で構いませんね。」
アルージュがそう言うのじゃ。
「うむ。問題点はそれでいいのじゃ。次は出発は何時にするかじゃ。」
わらわがそう言うとじゃ、
「そうですね。出発は早いほうがいいと思いますので、午後から兵の選出をしてもらい、物資の調達も同時に行って、明日の朝には出発させたいですね。それで構いませんか。」
アルージュがそう言うのじゃ。
「わらわはそれで構わぬが、ガーフェスはどうじゃ。」
わらわがそう聞くとじゃ、
「ええ、それで構いませぬ。」
ガーフェスがそう言うのじゃ。
「それでは次は、兵の選出ですね。」
アルージュが言ったところでじゃ、会議室の扉が荒々しく開かれ伝令兵が飛び込んできたのじゃ。
「火急の用のため会議中失礼いたします。」
伝令兵がそう言うのじゃ。
「そんなに慌てて何事ですか。」
アルージュがそう言うのじゃ。
「はい。先ほど、エルドライド王国から速文が届きました。その内容は、悪魔の襲撃を受け国王様が死去、第一姫であらせられるフローラル様が悪魔に攫われたとの事でございます。」
伝令兵がそう言うのじゃ。
「何じゃと。ユリーシャは無事なのか。」
わらわがそう聞くとじゃ、
「解りませぬ。文には第二姫であらせられるユリーシア様については何も書かれていませんでした。」
伝令兵がそう言うのじゃ。
「なぜ何も書かれておらんのじゃ。それで、エルドライドはどうなったのじゃ。」
わらわがそう言うとじゃ、
「なぜ書かれて居ないのかは解りませんが、エルドライドは悪魔の襲撃で甚大な被害を受けたと書かれておりました。」
伝令兵はそう言うのじゃ。
「えーい。今すぐに支援隊を準備するのじゃ。」
わらわがそう言うとじゃ、
「姫様。それは無理というものです。」
アルージュがそう言うのじゃ。
「なぜ無理なのじゃ。」
わらわがそう言うとじゃ、
「キシュウ湖が通れないのですから迂回しなければなりません。その場合一月は掛かってしまいます。
そうなれば多数の兵を派遣しなければならなくなりますが、そうなればわが国の防衛がおろそかになります。もしその問題がなくても、迂回路に有る町が無事だとは限りませんその場合の食料の問題などもでてきます。」
アルージュはそう言うのじゃ。
「物理的に無理なのじゃな。」
わらわがそう言うとじゃ、
「はい、そうです。せめてキシュウ湖が通れれば何とかなったのですが。」
アルージュはそう言って言葉尻を濁すのじゃ。
「ならば明日からの調査しだいという事じゃな。」
わらわがそう言うとじゃ、
「ええ、そうなりますね。」
アルージュがそう言うのじゃ。
「わらわはもう疲れたので、部屋に戻るのじゃ。」
わらわがそう言い、会議室を出ようとしたとき、
パリーンという音と共にラスティハイト覆っていた結界が壊れたのじゃ。
「今度は何事じゃ。」
わらわがそう言うとじゃ。
騎士団長がバルコニーから外を見て、
「あ、悪魔、悪魔のしゅ、襲撃です。」
騎士団長が取り乱しながらそう言うのじゃ。
「何じゃと。数はどれほど居るのじゃ。」
わらわがそう言うとじゃ、
「わ、わかりません。か、かなりの数としか。」
騎士団長が腰を抜かしながらそう言うのじゃ。
「えーい、情けないのじゃ。早く騎士団で民の避難誘導をするのじゃ。」
わらわがそう言うとじゃ、
「は、はい。ただいま。」
騎士団長は四つん這いで這いながら会議室を後にするのじゃ。
「魔法師団は悪魔達の牽制に勤めさせていただきます。」
魔法師団長がそう言い、会議室を後にするのじゃ。
「近衛騎士達は父様と母様の護衛に向かうのじゃ。後、わらわの守護騎士であるカイトにはわらわの代わりに民の救出に行くように伝えてほしいのじゃ。」
わらわが近衛騎士長にそう言ったのじゃ。
「解りました。カイトにはそのように伝えます。」
近衛騎士長はそう言い、会議室を後にしたのじゃ。
外からは炎が弾け爆発しているようなドーンやドカーンなどの音と共に民たちの悲鳴がひびきわたっているのじゃ。
本来ならわらわも民の救出に向かいたいのじゃが、ガーフェスが許してはくれんじゃろうな。
そんな事を考えているとじゃ、
「このようなところにいたのですね。」
醜悪な顔をした小さな馬がバルコニーから入ってきてそう言ったのじゃ。
「な、貴様も悪魔なのか。」
わらわがそう言うとじゃ。
「いかにも。我が名はサミジナ。侯爵の位を持つ悪魔よ。」
悪魔がしわがれた声でそう言うのじゃ。
「顔だけでなく声まで醜悪じゃな。」
わらわはそう言い、いつでも神聖魔法を詠唱できる様に準備するのじゃ。
「ふん、言いよるわ。まあいい、我が目的は、この国にある神器とこの国の姫君の二つだ、素直に差し出せばこれ以上の進行はせぬし、すぐにでも軍勢を下がれせてやろう。」
サミジナがそう言うのじゃ。
「お断りいたします。悪魔なぞに神器や姫様を渡すわけには参りません。」
アルージュがそう言うのじゃ。
「そうか、ならば交渉は決裂だな。」
サミジナはそう言い、空に魔方陣を描き悪魔どもを呼び寄せる。
魔方陣から大柄な悪魔が四体、小柄な悪魔が二十体ほど現れたのじゃ。
「あさ、デーモンたちよ、其処の娘以外を殺しつくすがよい。」
サミジナがそう言うのじゃ。
「みんなわらわの後ろに来るのじゃ。」
わらわはそう言い、その後すぐに詠唱を始めるのじゃ。
「エデンよその力をわらわに貸し与え悪しき者より守る力となせ シェル。」
みながわらわの後ろに来たのを見計らって、術を唱えると、薄い光の膜がわらわ達を包む。
「かっかっかっ。その程度の結界で身を守った積もりか誰がこの国の結界を破壊したと思っておる。」
サミジナがそう言い黒い球状の物を飛ばしてきたのじゃ。
其れがわらわの張った結界に当たると、パリーンという音と共に結界が破壊されたのじゃ。
「な。わらわの張った結界がこうもたやすく破られるじゃと。」
わらわは驚きの声を上げたのじゃ。
「さてデーモン達よ蹂躙せよ。」
サミジナがそう命じると悪魔達が襲い掛かってきたのじゃ。
「ひいぃぃ。」
右大臣が悲鳴を上げ、逃げ出したのじゃ。
じゃが悪魔のほうが早く右大臣の頭を殴り、ぐしゃりという音がし右大臣の頭は弾け跳び辺りに血をと肉
片を撒き散らしたのじゃ。
更にほかの悪魔が左大臣に迫り左大臣も同じ運命をたどったのじゃ。
人の殺されるさまなど始めて見て、わらわはそれを見て、吐き気に襲われたのじゃ。
「大丈夫ですか姫様。」
アルージュがそう言うのじゃ
「人の心配な度している暇があるのですかな。」
サミジナがそう言うとじゃ、
「はあ。本来なら使うつもりはなかったんですが状況がそれを許してはくれないようですね。」
アルージュがそう言い、詠唱を始めたのじゃ。
「エデンよ私にその力貸し与え悪しき者屠る槍となせ エナジーランス。」
アルージュがそう唱えると、エデンの力で出来た一本の半透明な槍が生まれ、迫ってきた悪魔に向かいその槍を飛ばす。
槍は悪魔を貫通しその後ろに居た者まで同時に屠る。
「アルージュ。お前は・・・。」
ガーフェスが何かつぶやいていたのじゃが、
「貴様、王族でない者がなぜその力を使える。」
サミジナがそう言ったせいでガーフェスのその後が聞き取れなかったのじゃ。
「答える義理はありませんね。」
アルージュはそう言い、再び詠唱に入る。
「エデンよ私に力を貸し与え悪しき者を屠る剣となせ シャインセイバー。」
アルージュがそう唱えると、エデンの力で出来た五振りの光の剣が生まれ、サミジナに向かい飛ばす。
三本の剣は悪魔が体を張って止め、二本の剣はサミジナに届いたのじゃが、身に纏う闇に阻まれかすり傷
程度のダメージしか与えられなかったのじゃ。
「まさか我の闇の衣を越えて我に傷を追わせられる者が居ようとはな。」
サミジナがそう言うのじゃ。
「やはり私では侯爵は倒せませんか。」
アルージュがそう言うのじゃ。
「仕方ありませんね。姫様達はお逃げください。この者は私の命と引き換えにしてでも何とかしてみましょう。」
アルージュがそう言うのじゃ。
「な、ならん。ならんぞ、アルージュ。おぬしはこの国にとって必要な人間じゃ。それがこんな所で死んではいかんのじゃ。」
わらわがそう言うとじゃ。
「そう言っていただけるのは嬉しいのですが、今この場でサミジナをどうこう出来るのは私だけでしょう
から。」
アルージュがそう言うのじゃ。
「話し合いは終わったか。我に傷を負わせたのだから、たやすく死ねるとは思わぬことだ。」
サミジナがそう言い、黒い球体を五つ作り出す。
「く、エデンよ私に力を貸し与え悪しき力より守る楯となせ エナジーシールド。」
アルージュがそう唱えると、エデンの力で出来た体を隠すほどの大きさの半透明な楯が現れ、五つの黒い球体を防ぐ。
「ほう。これを防ぐか、じゃがそろそろ肉体が限界を迎えていたようだな。」
サミジナがそう言うとじゃ、アルージュは咳き込み血を吐く。
「アルージュ。おぬし、エデンの力を限界まで使ったのか。」
わらわがそう聞くとじゃ、
「ええ、そうでもしないと、あれは防げませんでしたから。」
アルージュは血を拭いながらそう言うのじゃ。
「次はもう防げまい。」
サミジナはそう言い、再び五つの黒い球体を生み出す。
「これで死ねい。」
サミジナはそう言い、黒い球体を飛ばす。
万事休すじゃ。
わらわはそう思い目を閉じたのじゃ。
じゃが聞こえてきた悲鳴はアルージュのものではなく、悪魔達が悲鳴を上げていたのじゃ。
目を開けると、炎に焼かれた悪魔たちがいたのじゃ。
そして、バルコニーから何者かが入ってきたのじゃ。
その何者かは、会議室の中央部に降り立ち、抱えていた者を降ろし、サミジナに向かい、
「さてどうにか間に合ったか。はあ、また侯爵かよ。面倒だな。」
何者かはそう言い、更に、
「ユリーシャはルビーア達を守ってやってくれ。」
何者かはそう言ったのじゃ。
何、ユリーシャじゃと。後姿で、何者か解らぬ者のせいで見えぬではないか。
「解りました。気をつけてくださいね。」
ユリーシャと呼ばれた者が、そう言ってこちらに走ってきたのじゃ。
「久しぶりですねルビーア。」
ユリーシャがそう言うのじゃ。
「本当にユリーシャか。無事だったのじゃな。」
わらわがそう聞くとじゃ、
「ええ、無事ですよ、後はキョウヤさんに任せてください。」
ユリーシャがそう言うのじゃ。
わらわはユリーシャに話を聞こうと思ったのじゃが、目の前で繰り広げられている、戦いに息を呑んで見入ってしまったのじゃ。
ようやく書き上げる事ができました。
次の投稿もまた同じぐらい空くとおもいます。
はあ。早く仕事が落ち着いてほしいものです。
では又次回。