第十六話 ラスティハイトへ
第十六話 ラスティハイトへ
朝日が昇り恭夜は朝の鍛錬に汗を流していた。
玄武が人型となり武術で恭夜の小太刀を相手どっていた。
<SIED:ユリーシャ>
私が目を覚まし、馬車の外に出ると、キョウヤさんとゲンブさんの鍛錬の真っ最中でした。
キョウヤさんがカタナで斬りつけるとゲンブさんは腕で剣先を流し、逆の腕でキョウヤさんに殴りかかり
ます。キョウヤさんは咄嗟に後ろに跳びその攻撃をかわします。
ゲンブさんはそのまま大きく踏み込み拳を突き出します。
キョウヤさんはその腕をカタナで斬り落とそうとしますが、ゲンブさんはすうと腕を引き斬げきを空ぶら
せて、キョウヤさんに肩からの体当たりを仕掛けました。
キョウヤさんはかろうじて体をひねり交わそうと試みますが、ゲンブさんの体当たりのほうが早く胸の辺
りに体当たりを食らい吹き飛んでしまいました。
私はあわててキョウヤさんに駆け寄り、
「大丈夫ですか。」
私がそう声を掛けると、
「ああ、大丈夫だよ。玄武も一様手加減してくれているからな。」
キョウヤさんがそう言います。
「主殿は武術はまだまだじゃのう。それにその刀の長さにもなれておらんようじゃしな。」
ゲンブさんがそう言います。
「前使っていた刀は罅が入ったから仕方が無いんだが、この小太刀も前と同じように振ってしまうんだよな、長さも重さも違うから感覚が狂ってしまい、思うように戦えなかったし。まあ実践でいきなり使っていたらそのせいで負けましたなんて事になっただろうな。」
キョウヤさんがそう言います。
「そうじゃな。刀を振るのが早すぎたり、大振りが少し目立っておったしのう。」
ゲンブさんがそう言います。
「ああ、もう少しこれになれないと実践では使えないな。」
キョウヤさんがそう言います。
「そうじゃな、じゃが今はこれぐらいにして、朝食にせぬか、他の者も待っておるようじゃしな。」
ゲンブさんがそう言います。
「ああ、解った。じゃあ、朝食の用意をしないとな。ユリーシャ手伝ってくれるか。」
キョウヤさんがそう言います。
「はい。もちろんです。」
私は笑顔でそう答えました。
馬車に戻り食材を取りに行こうとしたとき、
「キョウヤ、うちは魚が食べたいニャ。」
ミリアさんがそう言います。
「解った。焼き魚でいいか。」
キョウヤさんがそう答えます。
「うニャ。それでいいニャ。」
ミリアさんは嬉しそうにそう言います。
そしてキョウヤさんは馬車から食材を運び出し、私とリーファさんは野菜を切ることになりした。
リーファさんはタンタンとリズミカルな音を立てながら切っています。
私はゆっくりとしか切れず、所どころ切れておらず繋がったままになっているとこまであります。
見かねたリーファさんは優しく手ほどきしてくれるのですが、余り上手に切る事ができませんでした。
私もリーファさんみたいに切れるようになるんでしょうか。
切った野菜をキョウヤさんに渡して、私達はお皿の準備を始めました。
キョウヤさんは魚をフライパンで焼きながら、私達が切った野菜でスープを作っています。
人数分の魚が焼けたところで皆さんの所に料理を運びます。
そして皆さんと一緒に食事をして、今は洗い物をしています。
私はお城にいるときはただ椅子に座ってお料理が来るのを待っているだけでした。
だから、まさかこうして自分でお料理のお手伝いをしたり運んだりするなんて思ってもいませんでした。
これからも私は思いがけない事を体験していくと思うと嬉しくもあり不安もありますがそばにキョウヤさ
んが居てくれると思うとがんばれる気がします。
キョウヤさんはゲンブさんとお話をしています。
「玄武ありがとな、お前のおかげで今日の昼にはラスティハイトに着けそうだ。」
キョウヤさんがそう言います。
「なに主殿の役に立ったのなら構わぬよ。」
ゲンブさんがそう答えます。
「向こうに戻ったら、大陰にちゃんと伝えてくれよ。」
キョウヤさんがそう言いますと、
「解っておる。伝え忘れたら後が怖いからのう。」
ゲンブさんはそう言って笑いました。
「ああ、それじゃ送還するな。」
キョウヤさんがそう言い、召喚したときと同じように十二芒星を描き、
「我、汝と契約を結びし者、汝との契約に基づき汝を還さん。汝、北方を守護する者よ我が声に答えここより在るべき処へ還れ玄天上帝。」
キョウヤさんがそう唱えると、十二芒星が輝きその中にゲンブさんが吸い込まれ消えてしまいました。
其処に残ったのは一枚の黒い符だけでした。
「キョウヤさんゲンブさんはお帰りになられたのですか。」
私がそう聞きますと、
「ああ、還った。次ぎ呼ぶのは何時になるかは解らないけどな。」
キョウヤさんがそう言われます。
「そうですか。もう少しおはなしを聞きたかったです。」
私がそう言いますと、
「それは悪かったな。けど、そろそろ出発しないといけないからな。玄武で行くといらない混乱を招きそうだったからな。」
キョウヤさんがそう言います。
「それはそうですね。ゲンブさんは大きいですから。」
私がそう言いますと、
「そうだろあんなのが街の前にきたら騎士団が出てくるぞ。いくらユリーシャが居るといえど他国だしな。どうなるか解らん。」
キョウヤさんがそう言います。
「キョウヤ。ユリーシャとしゃべってないでそろそろ出発しようよ。」
リーファさんがそう言われます。
「ああ、解った。ここでしゃべっていたら到着が遅れてしまうな。」
キョウヤさんがそう言われ、私の手を引いて馬車に向かいます。
私はいきなり手を繋がれた事で、驚き顔が熱くなりました。
きっと私の顔は赤くなっていると思います。
キョウヤさんは私のそんな反応に気づかずに手を引いて馬車に向かいます。
馬車に着いたらキョウヤさんは手を離してくださいました。
私は逃げるように馬車の中に駆け込みました。
キョウヤさんはそんな私を不思議そうに見ていました。
私は馬車の中で顔のほてりが治まるのを待ちました。
こんな状態でキョウヤさんと何を話したらいいのかもまとまりませんし、何より恥ずかしいんです。
私は男の方にほとんど触られた事がありません。
ですからあのように手を繋がれたり、頭を撫でられたりした場合どのように対処していいのかわからないのです。
キョウヤさんに変な娘だと思われていなければいいのですが、たぶん無理でしょうね。
キョウヤさんは私の事をどう思っているのでしょうか。
私はキョウヤさんの事をどう思っているのでしょうか。
キョウヤさんは私に良くして下さいます。
私はキョウヤさんに迷惑しか掛けていません。
キョウヤさんは誰に対しても変わらない態度で接します。
私はキョウヤさんが他の女性と仲良く話していると胸がもやもやします。
キョウヤさんは強いです。
私は弱いです。身も心も。
まだ少ししか旅をしていませんが、心が折れそうになった事も何度かあります。
そんな時、キョウヤさんが居てくれたおかげで何とかいままで持ってきました。
キョウヤさんは私の事本当にどう思っているんでしょうか。
私はキョウヤさんの事が好きなんでしょうか。
今はまだはっきりと自分の気持ちが良くわかりません。
これからこの気持ちがどのように変わっていくのかも解りませんし、キョウヤさんが私を好きになってくれるかも解りませんから。
そんな事を考えていたら突然馬車が止まりました。
「ユリーシャ。魔獣がでたからちょっと狩ってくるな。」
キョウヤさんがそう言われます。
「私も行きます。」
私がそう言い、杖を持って行こうとしたら、
「ユリーシャは馬車で待って居たらいいよ。体調が優れないのだろう。それに魔獣は狼型の者が十数匹だから俺と紫苑で何とかなるしな。」
キョウヤさんがそう言われます。
どうやらキョウヤさんは私が場所の中に引きこもっていた事を体調を崩したせいだと思っているようです。
「キョウヤさんとシオンさんだけで狩るつもりなのですか。」
私がそう言いますと、
「ああ、これを使うにはちょうどいい相手だしな。」
キョウヤさんはそう言い、あの短いカタナを私に見せます。
「実践でそれを使うのですか。」
私は心配そうにそう聞きますと、
「大丈夫だよ、いざとなれば術も使うから、心配要らないよ。余りしゃべっているまがないからそろそろ行くな。」
キョウヤさんがそう言われ、行ってしまいました。
私は心配でキョウヤさんの後を追いました。
キョウヤさんはカタナを構え、魔獣との距離を一息でつめ切り倒します。
魔獣が一斉にキョウヤさんに襲い掛かりますが、体捌きだけでその猛攻をかわします。
そしてかわしざまにカタナで一匹又一匹と確実に切り倒します。
危なげもなくキョウヤさんは魔獣を狩っていきます。
そうこうしている内に魔獣はもう三匹にまで数を減らしていました。
残った魔獣はキョウヤさんに時間差で襲い掛かりますが、あっさりとそれに対処し、カウンターで切り倒してしまいました。
やっぱりキョウヤさんは凄いです。
扱いなれていないカタナで十数匹も居た魔獣を危なげもなく狩ってしまいました。
「お疲れ様です。キョウヤさん。」
私がそう声を掛けますと、
「うん。見ていたのか、ユリーシャ。」
キョウヤさんはそう言い、私に優しく笑い掛けて下さいます。
私はまた顔が熱くなってしまいました。
「ここで話すのもなんだから馬車に戻ろうか。」
キョウヤさんはそう言い、又私の手を引いて馬車に向かいます。
今の私は顔を真っ赤になっていると思います。
うう、キョウヤさんは自然にこういうことをされるから困ります。
馬車に戻り、キョウヤさんは私の隣に腰掛けてその膝の上にシオンさんが乗かっています。
シオンさんはキョウヤさんに撫でられてご機嫌なようです。
私は未だに頬を赤く染めたままになっています。
そのためキョウヤさんと顔を合わせずらく私は下を向いています。
しばらくすると顔のほてりも収まってきました。
馬車に戻ってきてからずっと黙ったままでしたから、話しかけにくいのですが頑張ってキョウヤさんに話しかけてみます。
「キョウヤさん。後どれ位の時間でラスティハイトに着きますか。」
私がそう聞きますと、
「うん。そうだな道のりで言うならば半分ほど進んだくらいかな、後もう半分ほどだからこのペースで行くと昼を少し回ったくらいには着けると思うぞ。」
キョウヤさんがそう言います。
「そうですか。解りました。」
私がそう言いますと、
「そういえば、ユリーシャはラスティハイトの姫さんと知り合いなんだよな。」
キョウヤさんがそう聞きます。
「はいそうですがどうかしたのですか。」
私がそう返事をしますと、
「どうやって知り合ったのか気になったものだからな。」
キョウヤさんがそう言います。
「元々私のエルドライドとルビーアのラスティハイトとは友好国で六代ほど前から続いているそうなんです。私がルビーアと初めて会ったのは六歳のときでした。キシュウ湖に有る別荘に私と父様と姉様の三人が招待されて行ったときに出会いました。それから毎年、交互に別荘に招待する事になったのです。」
私がそう話しますと、
「ユリーシャは最初からルビーアと仲良くできたのか。」
キョウヤさんがそう聞きます。
「う、それはですね。実は初めて会ったときから三年ほど姉様の後ろに隠れるだけでルビーアとは一言も話した事がなかったんです。」
私がそう答えますと、
「どうやって仲良くなったんだ。」
キョウヤさんがそう聞きます。
「私が姉様の大事な物を勝手に持ち出してしまい、それを無くしてしまったのです。そんな時泣いている私を見かねてルビーアが一緒に探してくださり、私と一緒に姉様に謝ってくれたのです。それからルビーアとは普通に話せるようになりました。」
私がそう言いますと、
「そうか。そう聞くとルビーアはいい人なんだな。」
キョウヤさんがそう言います。
「そうですね。ルビーアは裏表のない人で、まっすぐな人ですよ。」
私がそう言います。
「姫様やもうそろそろラスティハイトが見えてくるぞい。」
シェロさんがそう言います。
「本当ですか。」
私はそう言い馬車の中から顔を出して確認しに行きました。
「この丘を越えたらラスティハイトまで目と鼻の先じゃ。」
シェロさんがそう言われます。
丘の上に到着したのでその先に目を向けると、ラスティハイトの城下町が見えましたが、あちらこちらから煙が上がり火事が起きている事が容易に想像できました。
「悪魔の襲撃か。シェロ悪いがここで止まってサイファ達が乗っている馬車をこっちに呼んでくれ。」
キョウヤさんがそう言います。
「どうしてここで止まるのですか。早く行かないと町が、ルビーアが死んじゃいます。」
私が取り乱しながらそう言いますと、
「落ち着けユリーシャ。無策でこのまま突っ込めばこちらも被害を受ける事になる。」
キョウヤさんがそう言います。
「ですが。速くしないと。」
私がそう話している途中で、
「キョウヤさん、悪魔の襲撃ですか。」
サイファさんがそう言い、私の話をさえぎります。
「ああそうだ、それでサイファ達はこのまま城下町に行って悪魔を倒してほしい、俺と紫苑とユリーシャは城に向かう。これ以上話しているまがないから先に行くな。紫苑、俺の頭の上に乗れ。」
キョウヤさんはそう言い、シオンさんは言われたとおりキョウヤさんの頭に飛び乗ります。
そしてキョウヤさんは私を抱き上げて(お姫様抱っこってはずかしすぎます。)空に飛び上がります。
「ひゃん。キョウヤさん降ろしてください。この格好は恥ずかしいです。」
私がそう言いますが、
「悪いがこのままで行くぞ、余り暴れないでくれよ、落としたら大変だからな。できれば俺の首につかまっていてほしいんだがな。」
キョウヤさんがそう言い、更に上空へと進んでいきます。
私は恥ずかしいのを堪え言われたとおりキョウヤさんの首にしがみつきます。
キョウヤさんは速度を上げて、お城を目指して飛んでいきます。
「紫苑、一番強い悪魔がどこに居るか解るか。」
キョウヤさんがシオンさんにそう聞きますと、
「クゥ。わかる。そのばしゃにむかってひ、とばす。」
シオンさんはそう言い、小さな火の玉を飛ばしました。
キョウヤさんはその火の玉を追いかけます。
窓ガラスの割れたバルコニーが見えてきました。
キョウヤさんは其処に急ぎ向かいます。
あそこは確か会議室だったと思うのです。
其処には小さな馬のような悪魔と二体のグレーターデーモンと六体のブラスデーモンが居ました。その奥にルビーアを始めこの国の重鎮たちの姿がうかがえます。
「紫苑、狐火で悪魔共を攻撃してくれ、その間にバルコニーからあそこに突っ込む。」
キョウヤさんがそう言われますと、
「わかった。」
シオンさんがそう答え、尾にそれぞれ火を灯し、それを悪魔達の頭上に飛ばします。
三つの火の玉がぶつかり弾け炎の雨となり悪魔にのみ降り注ぎます。
小さな馬の姿をした悪魔は無傷ですが、グレーターデーモンとブラスデーモンは炎に焼かれて倒れました。
その炎に気を取られている隙にキョウヤさんはバルコニーから会議室に入り着地し私を降ろしてくださいました。
「さてどうにか間に合ったか。はあ、また侯爵かよ。面倒だな。」
キョウヤさんはそう言い、両手に符を持って構えます。
「ユリーシャはルビーア達を守ってやってくれ。」
キョウヤさんはそう言います。
「解りました。気をつけてくださいね。」
私はそう言い、ルビーアの元に向かいます。
「久しぶりですねルビーア。」
私はそう言います。
「本当にユリーシャか。無事だったのじゃな。」
ルビーアがそう言います。
「ええ、無事ですよ、後はキョウヤさんに任せてください。」
わたしがそういいます。
ルビーアは何か言いたそうでしたが、目の前で行われている戦いに目が行ってしまいました。
大変遅くなってしまい申し訳ありません。
しばらくはこの状態が続きそうです。
そのせいで次の投稿が何時になるか解りません。
では又いつか。