第十四話 キシュウ湖の戦い 前編
第十四話 キシュウ湖の戦い 前編
恭夜達を乗せた玄武は丘を登り、キシュウ湖を一望できるところまで来た。
キシュウ湖の湖面は毒に侵され紫色に変色し、キシュウ湖の周りや小島は茨に覆われ、あちらこちらで蛇が蠢いている。この有様からは、美しかった姿が想像出来ぬ程に変わり果てていた。
<SIDE:玄武>
「そんな美しかったキシュウ湖がこんなに成っているなんて。」
人のお譲ちゃんがそう言う。
「残念じゃが、元凶であるヒュドラを倒しても、元の姿に戻るには数十年はかかるじゃろうな。」
我がそう言うと。
「そんニャ。あんたの力で何とかならニャいのかニャ。」
猫の獣人がそう言う。
「我の力は大地の力、それを用いて植物の成長を早めることはできるが、湖の浄化など出来ぬよ。」
我がそう言うと、
「そうですか、キシュウ湖を浄化するだけのエデンの力などいくらスティーアの力を借りても無理ですね。」
人のお譲ちゃんがそう言う。
「そのエデンの力というものはなんだか知らぬが、もしかしたら何とか成るかも知れんぞ。」
我がそう言う、
「本当ですか。それは如何するのですか。」
人のお譲ちゃんが興奮してそう聞く。
「お譲ちゃんの首に架かっている水の精霊結晶を用い、それに主殿の浄化術を組み合わせれば、もしかすれば浄化が出来るかも知れぬ。」
我がそう言うと、
「え、このペンダントは精霊結晶だったのですか。」
人のお譲ちゃんは驚いたように言う。
「何じゃ、自分の持ち物の事も知らずに持っておったのか。」
我がそう言うと、
「はい、此れは元々母様が持っていたもので、形見として姉様に渡り、旅に出るときに姉様が私に持っていきなさいといって渡して下ったのです。」
人のお譲ちゃんがそう言う。
「ふむ、そうかそれなら知らなくてもしょうがあるまいな。そういえば主殿の声が一度も聞こえぬが何をして居られるのじゃ。」
我がそう言うと、
「キョウヤなら出発してすぐに馬車の中にもぐって行ったよ。」
エルフのお譲ちゃんがそう言う。
「主殿の蛇嫌いはまだ直っておられないようじゃな。」
我がそう言うと、
「何を言いやがる、誰のせいで蛇嫌いになったと思っているんだ。」
主殿がそう言う。
「はて、誰のせいじゃったかのう。」
我がそう言うと、
「そうか、忘れたかなら紫苑にその時の様子を幻術で見せてやろうか、もちろんあれを含めてな。」
主殿がそう言う。
「すいませんでした。我が悪うございました。」
我はそう言い、必死に誤る。あれはもう簡便じゃ。
「最初からそういえばいいものを。」
主殿がそう言われる。
「このような者がここまで取り乱すなんてキョウヤさんはいったい何をしたんでしょうか。」
エルフの男がそう言う。
「そんなの知らないよ。でも聞きたいけど聞いちゃいけないような気がするのよね。」
エルフの嬢ちゃんがそう言う。
「それで、この湖の浄化がどうとか話していたよな。」
主殿がそう言われる。
「はい。水の精霊結晶を用い、それにキョウヤさんの浄化術を組み合わせれば浄化できるかもしれないと玄武さんが教えてくれました。」
人のお譲ちゃんがそう言う。
「精霊結晶って、確か精霊の力が集まりそれが結晶化したものだったよな。それに俺の浄化術を組み合わせて湖の毒の浄化か、ヒュドラの毒って解毒できるのか。」
主殿がそう言われる。
「我も現物を見て初めて理解したのじゃが、主殿にはこういえば解るじゃろう。ヘラクレスはヒュドラの血を鏃に塗ってあつかっていたここから導き出される答えはなんじゃ。」
我がそう言うと、
「なるほど。血に毒が混じる生物など存在しないわけだから、ヒュドラの毒とは呪いの類というわけか。精霊結晶で水を浄化し、俺の浄化術で呪いを解呪すると言うわけか。」
主殿がそう言われる。
「その通りじゃ。蛇以外の者に永遠に続く苦痛を与えるという毒呪というやつじゃな。主殿には蠱毒といったほうが判り易いかのう。」
我がそう言うと、
「蠱毒か、それはかなりやっかいだな。」
主殿がそう言われる。
「何そう難しい事でもあるまい。我がここに居るのじゃぞ。我の血を主殿の浄化術に組み込めばよいのじゃ。」
我がそう言うと、
「それが呪いの抗体になるというわけか。」
主殿がそう言われる。
「そうじゃ。話はここまでじゃな。そろそそ、湖に入るぞ。このまま南下すれば良いのか。」
我がそう聞くと、
「え、はいそうです。こなまま南に進んでください。」
人のお譲ちゃんがそう言う。
「解ったぞ。」
我がそう言い、このまま進む。
湖に入り、しばらくは蛇どもは様子を見ていたようじゃが、我が進むのを良しとせずに、襲い掛かってくるようになった。
この程度の蛇の噛み付きなんかでは我の皮膚は傷ひとつつかんが、こそばゆくてしょうがない。
「ちと鬱陶しいのう。」
我はそう言い、片方の前足を上げそのまま振り下ろし、水面を叩く。
バシャンと大きな音を立て、高さ十数㍍にも及ぶ水柱が上がり、水面を叩いた余波により高さ数㍍の波が立ち周囲いったいを飲み込み流し去る。
「玄武お前はいったい何をしやがった。」
主殿の怒りの声が飛ぶ。
「フォ、いやちょと蛇共が鬱陶しいので水面を軽く叩いて追い払っただけなんじゃが。」
我がそう言うと、
「お前の蛇が睨みを聞かせればここらの蛇ぐらいなら逃げ出すだろうが。ユリーシャこの湖の周りに町は無いんだったよな。」
主殿がそう言われる。
「はい、キシュウ湖の周りに船着場があるくらいで町はありません。毒のせいで船着場もまともに機能していないと思います。」
人の嬢ちゃんがそう言う。
「そうか、良かった。玄武、もし周りに被害が出ていたらあれをお見舞いするところだったんだが、周りに被害が無かったという事で、今回は勘弁してやろう。」
主殿がそう言う。
「フォ、すいませんでした。次からは気をつけますじゃ。」
我はそう言う。
「次は無いからな。」
主殿がそう言われる。
「はい。解りました。」
我がそう答える。
蛇共を一掃した我はどんどん湖を進む。
湖のちょうど中間地点にそれはいた。
ヒュドラじゃ。首の数は十二本、ヘラクレスと戦った時より増えておるようじゃ。
全長は三十㍍ほどで首周りの太さは約一㍍ほど胴回りに至っては三㍍ほど有ろうかというほどの巨大な蛇じゃ。
ヒュドラは我に対し敵意をむき出しにし、全ての首が鎌首を持ち上げ、いつでも襲いかかれる体制をとっ
ておる。
「主殿、我はどう戦えばよいのかのう。」
我は主殿にそう問う。
「今から俺が紫苑を連れて空を飛ぶ。玄武は俺が上空に出たのを確認してから斥力で辺りの水をゆっくり除けてくれ、その後俺が結界を張る。その後はヒュドラの真ん中の首以外を一つずつ潰してくれ、俺と紫苑で潰した首を焼いていく。」
主殿がそう答え、紫苑殿を頭の上に乗せ、風の結界に狗法の風刃を用い人一人通れるほどの穴を開け其処から上空へと飛び立つのを我の蛇で確認し、我はゆっくりと斥力を発生させ、辺りの水を除ける。
主殿は、鏢を五角形の形になるように五本投げ、
「結界術 五芒封鎖陣。」
主殿がそう唱えると、鏢と鏢を魔力の線が結び五芒星を描き、水が戻るのを防ぐ不可視の壁が現れた。
ヒュドラは我目掛けて三つの首から毒液を飛ばす、我は目の前に斥力を発生させ毒液を跳ね返す。
さらにヒュドラは二つの首で我を挟み撃ちにするように噛み付いてくる。
我は一つの首を殴り飛ばし、もう一つの首を我の蛇が逆に噛み付いて防ぐ。
(頭を潰すつもりで殴ったのじゃがほとんど堪えておらぬようじゃのう。)
我がそう考えていると、ヒュドラが飛び上がり、上空から十二の首全てで襲い掛かってきた。
我は斥力を放ちヒュドラを吹き飛ばす。
(余り派手に動けば我の背に乗っている者が危ういし、全力で殴ればこの周囲にも被害が出る。本当にどうしたものかのう。)
我が又そう考えていると、
「コーン。コーン。」
紫苑殿がそう二度鳴くと、地面から石の槍が無数に飛び出しヒュドラを串刺しにし身動きが取れないようにする。
(さすがは紫苑殿じゃな、たった、二鳴きで八卦の坤の力をあれほど自在に操れるのじゃからな。)
我はそう思いながら、ヒュドラの頭を引力を纏った前足で踏み潰す。
ヒュドラの頭は我の前足に自ら当たりに来、そのまま我の前足と地面に挟まれ、ぐしゃっと頭が潰れた。
我はその後すぐに後ろの下がる。
「火精炎術 火竜鏢。」
主殿が縄鏢に符を貼り付け、そう唱えると、符が弾け縄鏢に火炎が纏わり竜の姿他をかたどり一直線に我
が潰した首に向かい首に食らいつき焼く。その後縄を引く事により鏢は主殿の手に戻る。
ヒュドラは一つの首を潰された事により怒り、とぐろを巻く事により、石の槍から抜け出し、二本の首がこちらを向き、高速に舌を打ち出し我の体を拘束し、三本の首が襲い掛かって来る。
我は、体を回転させ、ヒュドラを振り飛ばす。
(紫苑殿が付けた傷はすでに治っておるようじゃのう、どうやら一撃で頭を潰す必要があるか。ちと辛いのう。)
我はそう考えていると、
「火精炎術 爆炎破。」
主殿がそう唱え、符を飛ばす、符が弾け高温の爆炎がヒュドラを焼くが頭を潰すまでいかずすぐに回復する。
「チッ、火で焼けば回復しないかと思ったんだがそうでもないらしいな。」
主殿がそう言われる。
ヒュドラの二本の首が主殿目掛け毒液を飛ばすが主殿は余裕を持って回避する。
残りの首は我を警戒している。
(本当にどうしたものかのう。本気を出せれば、楽に倒せるのじゃがそんな事をすればこの湖が消し飛ぶのは目に見えておるしのう。)
我はそう考えていると、ヒュドラが体を反転させ尻尾でなぎ払ってきた。
我は尻尾を踏みつけ止める。
「火精炎術 炎撃刃。」
ヒュドラにできた隙を逃さず主殿がそう唱え、符が炎の剣となり、それを構えてヒュドラの首目掛けて急降下し首を跳ね飛ばすし、その後上昇し元の場所に戻られる。
首の切り口は見事に焼け爛れ、癒える気配はない。
一気に畳み掛けようと我は自身の蛇を使い、ヒュドラの頭を攻撃する。
我の蛇の口の間にに重力を纏わせ、ヒュドラの頭に噛み付き、顎を引っ張り噛み付きの威力を上げ、ヒュドラの頭を引きちぎる。
其処に久遠殿の八卦の離の力を用いて作られた狐火が首に当たり傷口を焼く。
我は続けて、足元に斥力を発生させ、宙に舞いヒュドラの頭目掛けて落ちる。
足に引力を纏わせ、頭に圧し掛かる。両の前足でヒュドラの頭を一つずつ踏み潰した後、斥力でヒュドラを吹き飛ばす。
「火精炎術 火竜鏢。」
主殿がそう唱え、潰した二本の首に炎で竜を模した縄鏢が食らいつき焼く。
「コーン。」
さらに紫苑殿が八卦の震を用い、雷をヒュドラに落とす。
ヒュドラは感電し、動きが止まる。
我は引力を纏った前足でヒュドラの頭を殴り潰す。
其処に紫苑殿が又、狐火で首を焼く。
(これでようやく半分の首を潰したんじゃが、まだ六本も残っておる。)
我がそう考えていると、ヒュドラが残った首全てから毒霧を吐き出す。
「く、まずいな。木精風術 護風陣。」
主殿がそう言われ、その後に術を唱え、風を纏い毒を防ぐ。
(毒霧で視界がふさがれヒュドラの姿が微かにしか見えん。)
我がそう思っていると、ヒュドラの首が一斉に襲い掛かってきた。
(斥力を生み出す間がない。それならば仕方あるまい。)
われはそう考え、
我は、一つ目の首を右前足で弾き、二つ目の首を頭突きでいなし、三つ目の首を左前足を楯にし防ぎ、
四つ目の首を我の蛇が逆に噛み付き、五つ目の首が我の首筋に噛み付き、六つ目の首は我の顔に噛み付く。
我に噛み付いたヒュドラの首は我の皮膚を裂き、肉に牙を突き立てる。
「火精炎術 炎撃刃。」
主殿がそう唱え、符が炎の剣となり、それを構えて我に噛み付いているヒュドラの首目掛けて急降下し首を跳ね飛ばし、別の首へとすぐさま移動しさらに首を刎ねる。
ヒュドラは主殿に向かい毒霧を吹きかける。
主殿は急上昇しそれを回避する。
主殿が攻撃した事により噛み付いている力が弱まる。
我は、斥力を体から発生させヒュドラを弾き飛ばす。その後、足元にも斥力を生み出し宙に舞い、引力を前足に纏わせヒュドラの頭を踏み潰す。
「馬鹿、それは真ん中の頭だ。」
主殿がそう叫ぶ。
ヒュドラの頭を我が踏み潰してからわずか数十秒で全ての首が再生する。
「グウゥゥ。すまぬ主殿。」
我は首や顔から血を流しながらそう言う。
「やってしまった事は仕方が無い。そんな事より大丈夫か。」
主殿がそう言われる。
「何のこれしき、主殿のあれの方が何倍も堪えましたぞ。」
われがそう言うと、
「それだけ軽口が言えれば大丈夫だな。」
主殿がそう言われ、
「火精炎術 炎撃刃。」
主殿はそう唱え、地をすべるように移動し、ヒュドラの首目掛け炎の剣を振り下ろすがその身に刃が通らず弾かれる。
主殿は、すばやく後ろに大きく跳び、ヒュドラの反撃から逃れる。
「ヒュドラの鱗が硬くなっていやがる。どうやら真ん中の首を潰して再生すると、一度食らった攻撃は通用しなくなるようだな。」
主殿がそう言われる。
「では、ますます厄介になったという事じゃな。」
我がそう言う。
「ああ、この後はどうするかな。」
主殿がそう言われると、ヒュドラは首を竦めたと思った後十二本の首全てが放物線を描くように我と主殿に向かい襲いかかって来た。
「チィ。木精風術 爆風障壁。」
主殿がそう唱えると、符が弾け、竜巻が生まれそれが壁となり全てのヒュドラの首を弾く。
「クゥゥ、きついな。」
主殿がそう言われ、一度空に退避する。
我は引力を纏わせた前足でヒュドラの頭を殴るが、全く堪えておらん。
(これはほんとにきついぞ。このままでは我等はじり貧じゃわい。)
我がそう考えていると、ヒュドラが又襲い掛かってきた。
我は、先ほどより強めた斥力を生み出し、ヒュドラを弾き飛ばす。
「主殿、何か対策を考えねばかなりまずい状況になりそうじゃ。」
我がそう言うと、
「ああ、それは解っているんだが、ヒュドラの速度や耐久力なんかも上がっているみたいでな、生半可な攻撃じゃ頭が潰せなくなってやがる。」
主殿がそう言われる。
我等はこれといった対策も思い浮かばず、ヒュドラの様子を伺う事しかできぬ。
今回は此処までです。
次回でキシュウ湖編は終了する予定です。
それでは又次週。