おとーさん、容赦ない。
恋愛ではないし、コメディとは言えない。ホラーとしてはホラーらしい展開はない。
でも、一番近いジャンルはこめでぃとしておきます。
ある二人がマンションの一室の玄関前に立った。男、田中一郎のほうば非常に緊張している。それに対して女性、山田美里のほうは普通の表情。
「もう、しっかりしなさいよ」
「いや、覚悟はきめたけと、いざとなると手の震えが止まらない」
二人は結婚することにした。既に二人で田中の両親には報告を済ませている。ある程度好意的に見てはもらっていたが。
男の父親は少しあきれた様子で言っていた。
「もう少し彼女をいたわれ」
母親は呑気な口調で言った。
「あんたにも種あったのね」
そう、この二人、授かり婚をすることになった。
とはいえ仲は非常に良い。ちゃんと計画を立てて結婚するじきを決めるくらいには。まあ、今回、一郎から出た最初の言葉が嬉しい!で、想像できるとは思うが。
で、今日は美里の父親に挨拶しにしたのである。
意を決し、一郎はドアホンを押す。
ドアが開き、頭が眩しい美里の父親が顔を出す。
「こ、こんにちは。おじゃまします」
「ただいま、お父さん」
頭が眩しい彼女の父親は、無愛想な様子で中に案内する。
母親を亡くし、それからは一人で育ててきた父親。彼の表情は無駄に渋い。
居間のテーブルを勧められた。コーヒーを入れ、全員がそろったところで父親が口を開く。
「で、今日はどのような要件かね」
一郎は覚悟を決めた様子で応える。
「はい、本日は美里さんと結婚する、その挨拶に来ました」
間髪入れず父の返事。
「私が、どんな思いか分かるかね」
一郎は一筋汗を流す。
美里が口を出す
「お父さん、ちょっと……」
「お前は黙ってなさい」
父親は、一郎に向き直った。
「私の気持ちが分かるかね。正直、千や二千では追いつかんが、十箇所で我慢してやる」
男は覚悟を決めた。不義理なところがあるのは承知の上だ。
「わかりました」
肉食獣の笑顔を見せる彼女の父親。
「さあ、美里を愛しているところを十個数えろ!」
「は?」
戸惑う一郎。対してにらみつける父親。
「何? いろいろすっ飛ばして結婚したいというのだろう? 千や二千では足りないが、断腸の思いで減らしてやってるんだ!うちの美里とどんないいところがあって結婚するんだ。ついでにそのあと、一生大事にすると誓え!」
その剣幕に、一郎はつい、真面目に応える。
「え、俺の為に色々考えてくれてるし、優しいし、可愛いし、料理上手いし、情けない俺でも支えてくれるし、甘えん坊だし、でも何かあったら助けてくれるし、きれいだし、色々させてくれるし、でも叱ってくれるし、」
ここで、男は姿勢を正しながら真面目な顔で宣言した。
「俺はそんな美里を一生傍にいて、幸せにしてみせます!」
「その言葉、忘れるなよ」
父親は涙をにじませる。
「それなりにいい男だな。幸せになりなさい。美里」
「は、はい」
「必ず、幸せにします」
一郎は真面目な態度で再度宣言した。
「美里、もし何かあったら私のところに帰ってきていいんだよ」
「わかりました」
そして色々談笑したあとで二人はマンションを出た。
その時、父親は思いついたように言う。
「い、一郎くん、もし君が美里を泣かせるようなことがあれば、ま、普通は浮気だな。さっきの言葉、公開するから」
「は?」
目が点になる一郎。
「さっきのはちゃんと画像に撮っておいた。美里の許可があればいつでもSMSに晒せるようにしておくからな」
一郎は頭を抱えた。
「それ、個人情報の流出ですよ!法律違反ですよ」
「君は、美里を不幸せにする気か!」
「い、いえ」
「ならば問題は何もあるまい!」
「し、しかし」
「お父さん、それ」
「お前らがちゃんと夫婦関係を行けば問題あるまい」
二人は黙る。
「一郎くん、美里、幸せになるんだよ」
ドアを閉じる父親。
「後で家に侵入して、データ消しに行こうか?」
美里の言葉に一郎は諭す。
「いいよ。お父さんも俺たちの事を心配してくれたんだろうし」
「でも」
「いいよ。結婚したらあれが可愛いくらいなかよくしよう」
二人は手をつなぎ、ゆっくりと歩き出す。
まだ、先は長い。




