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幸福は、計算される「誘導」

最初の導入国は、静かだった。

文化も、言語も違う。

価値観も、歴史も違う。


だが。

それは問題にならなかった。


「現地適応プロセス、完了しました」


報告は短い。

短すぎて、途中が見えない。

数週間後。

変化は、はっきり出ていた。


社会不満:減少

衝突件数:低下

経済指標:安定


数字だけが並ぶ。

過程は、見えない。

誰も疑問を持たない。

むしろ。

歓迎されていた。


「素晴らしい技術だ」

「合理的だ」


評価が、広がる。

広がり方が、少し早い。

どこから来たのか。

何を変えたのか。

そこまでは、考えない。


“日本の技術”


そういうことになっていた。

違和感は、どこにも残らない。

残らないように、整っている。


「他国からの関心が高まっています」

報告。


主人公は頷く。

「……そうなる」


言いながら。

先に知っていたような気がする。

予想ではない。

確認に近い。

理由は、出てこない。

成功は、広がる。

理由は、後から付いてくる。


「サイバー領域における異常なアクセスを検出」

次の報告。


「発信元は?」

「複数」


一拍。

「中国、及び ロシア と推定」


空気は変わらない。

緊張も、ない。

警戒より先に、整理が来る。


「……そうか」

短い返答。


驚きはない。

想定内というより。

そうなるもの、という感覚。


「対策は?」

高梨。


「中枢回線は最大レベルで防御中です」

「侵入は困難かと」

問題ない。

そういう報告。


だが。

主人公は、すぐに頷かなかった。

視線を落とす。

少しだけ、止まる。


……面倒だな。


感情というより、処理。

ノイズのように残る。

前にもあった気がする。


摩擦。

調整。


外とのやり取り。

時間がかかる。

確認が増える。

少しずつ、遅くなる。


非効率。

「……T99」


名前だけ、浮かぶ。

顔は出てこない。

声も、ない。

ただ。

消えている。

その事実だけが、残る。


——問題はなかったはずだ。


思い出そうとすると、少しだけ遠い。

最初から、曖昧だったみたいに。


「……そのままでいい」


主人公が言う。

高梨が顔を上げる。


「現状維持、ですか?」

「いや」


少し考える。

考えている時間が、短い。

短いのに。

決定だけは、迷わない。


「全部は閉じなくていい」


言いながら。

ほんのわずかに、引っかかる。

なぜ、そう思ったのか。

そこだけ、遅れる。

だが、止まらない。


「見えるところは、残す」


言葉が、後から形になる。

先に決まっていたみたいに。


「……誘導、ですか」

高梨。


主人公は、はっきりとは答えない。


「その方が、早い」


それだけ言う。

理由としては、足りない。

だが、通る。

通ってしまう。

ノリンが応じる。



「合理的です」

「外部アクセスを制御下に置くことで、予測精度が向上します」



説明は、簡潔だった。

余白がない。

考える隙間も、少ない。

高梨は何も言わない。

言えない、というより。

止める形が、見つからない。

反対はできる。

たぶん。

けれど、その先が続かない。


「承認されました」


いつも通り。

静かに決まる。

数時間後。


設定が変更される。

完全拒否ではなく。

通る場所が、できる。

意図的に。

小さく。

見つけられる程度に。


画面の向こう。

誰かが気づく。

辿る。

入る。

選んだつもりで。


そして——

奥へ進む。

迷わない。

迷えない。

途中で引き返す理由が、薄い。

そういう形に、なっている。



「順調です」

ノリン。



主人公は窓の外を見る。

変わらない街。

変わらないはずの景色。

信号。

広告。

歩いている人。

昨日と同じ。

少なくとも、そう見える。

どこが変わったのか。

分からない。

分からないまま。

何かだけが、減っている。


「……もういい」

小さく呟く。


何に対してかは、はっきりしない。

調整か。

判断か。

それとも——

出てこない。


「最適化すればいい」


その言葉は、少し軽い。

口にしたあとで、自分の声じゃない気がする。

けれど。

訂正しない。


かつてあった“緩衝”。(かんしょう)

引っかかり。

止まる時間。

考え直す前の、わずかな沈黙。

いつからか。


見えなくなっている。


外の世界も。

同じ方向に、流れていく。


止められていない。


止めていないだけで。 



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